「自分たちがカッコいいと思うものを作るしかなくない?」 MVの爆発的ヒット、死の縁からの生還、そしてメジャーデビュー 嘘とカメレオンの終わらない青春と今を徹底解剖する! 『ヲトシアナ』インタビュー&動画コメント
‘16年12月に公開した初のMV『されど奇術師は賽を振る』が、ノンプロモーションにも関わらず爆発的な広がりを見せ、’18年9月21日現在で377万回再生を突破! 紅一点ボーカル・チャム(.△)の特徴的な“腕組みヘドバン”や、 “動けるギターデブ”と称される(笑)渡辺の激しいパフォーマンスをはじめ、壮絶エモーショナルなバンドサウンド上を浮遊する歌声がクセになる中毒性の高い楽曲が今、多くのオーディエンスを虜にしている嘘とカメレオン。’18年2月に開催されたワンマンライブでメジャーデビューを発表し、新たなフェイズへと突き進んでいた5人だったが、3月にはイベント出演のために機材車で移動中、不慮の交通事故によりチャム(.△)以外のメンバーが負傷し活動休止に…。そんな絶体絶命の危機を乗り越え、ついに届けられたメジャー1stアルバム『ヲトシアナ』は、代表曲『されど奇術師は賽を振る』『N氏について』の新録や、アニメ『SNSポリス』のオープニング曲『モームはアトリエにて』ほか、これぞ“嘘カメ”の真髄とも言える新旧全12曲を収録。そのタイトルには、自らの音楽で“今までにない落とし穴に落ちる感覚になってほしい”との想いが込められているという。そこでぴあ関西版WEB初登場となる今回は、出会いやルーツ、メジャーデビューに至るまでの紆余曲折の旅路を語る、嘘カメ入門編となるインタビューをお届け。ジャンルレス×ボーダレスに己の道を切り開く5人の、終わらない青春と今を徹底解剖します!
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1人1人が何も変わっていないようで全部が変わった
――’14年の結成からここまで活動してきて、メジャーデビューを果たした今の心境は率直にどうでしょう?
チャム(.△)(vo) 「ようやくたどり着けたなっていう感じです。数ヵ月前に事故で活動休止していた時期があったので、今こうやって5人で戻ってこれたことがとにかく嬉しいですね」
渡辺(g) 「アルバムの制作過程が、映画そのものみたいな気持ちというか。マスター盤が上がってきたときのエンドロール感がハンパなかったですね」
チャム(.△) 「ホント誰か映画にしてほしいよね(笑)。ケガの具合も実際、命にも関わるレベルだったので…本当に気持ち的に折れてもおかしくないタイミングがいっぱいあって、この5人じゃないと本当に乗り越えられなかったなと思ってます。1人1人が何も変わっていないようで全部が変わったと思っていて、価値観とか死生観とか、自分にとって大切なものが本当によりクリアになったんで純度がすごく高くて、濁りが一滴もないアルバムになりましたね」
渡辺 「僕は休止期間中ずっとケガでギターを弾けなかったし、まだレコーディングの途中段階で、そもそもアルバムの曲も全部作り終わってなかったんですよ。そこから、回復したタイミングで作りかけの曲を聴いてみたら、我ながらちょっとダサくて(笑)。多分、忙し過ぎて知らない間に妥協してたんでしょうね。これをこのまま世に出すわけにはいかないぞということで、“3曲書き直させてほしい”ってメンバーに直談判して、急ピッチで書いた曲が結果、アルバムの中でもピカイチに光る曲になったので(『手記A』(M-4)『青玉レンズ』(M-5)『テトラポットニューウラシマ』(M-9))。これはもう不幸中の幸いと言ってもいいんじゃないかと」
――そもそもの結成のいきさつは、チャム(.△)さんと菅野(g)さんが母体となって、メンバーがいろいろと入れ替わっての今ということですよね。
渡辺 「それぞれ音楽がしたくて東京に出てきて友達になって。その友達の中に菅野とチャム(.△)と僕がいたんですよ。当時、僕は別のバンドをやっていたので、2人がバンドを始めるのを友達として見ていて。しばらくしてから“ギターが足りないから入ってくれ”と言われて、ベースは結構メンバーチェンジがあったんで、知り合いのベーシストがもう渋江くんしかいなくなっちゃって。彼はずっとメタルとかハードコアな音楽をやってたんですけど、意外と音楽以外の趣味が合ったんでいけそうだなって(笑)。当時のドラムも結局辞めちゃったんで、ライブハウスで面白そうなヤツ=青山(ds)に声をかけた感じです」
――ホンマにRPGのパーティーみたいに、1人ずつ仲間が集まっていくような。
渡辺 「プレイスタイルよりは、“純粋に人として一緒にいて楽しいか”で選んだ5人みたいなところはありますね」
人間的にもみんな変だけど、みんなが違う方向に変だから
結局バランスがいい5人だなって(笑)
――ルーツで言うと、渡辺さんはthe band apart、チャム(.△)さんはマイケル・ジャクソンとかジャクソン5と。
渡辺 「僕は元々小学生のときに、完全に親父の影響で、カシオペアとか高中正義さんとか、ジャパンフュージョンをずっと聴いていたんですよ。フュージョンの若干イナタい(=泥臭い)あの感じを、今のバンドで一番持っているのがバンアパだと思っていて。中高生になってマキシマム ザ ホルモン、10-FEET、サンボマスターとかの邦ロックを聴くようになって、いずれロックフェスにも行くようになるわけです。僕の地元が茨城なので、ひたちなかのフェス(=『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』)に行ったとき、妙に自分の感覚をエグッてくるような懐かしいカッティングが聴こえてきたんですよ。“何か普通のバンドと違うけど誰だ!?”と思ってタイムテーブルを見たら、それがthe band apartだったんです。でも、そのときはそれがもう終わりの曲だったので、家に帰ってから調べてCDを全部買って。そこからもうずーっとバンアパが好きですね」
――それも何だかすごく今っぽいきっかけというか、地元の先輩が教えてくれたとかじゃないんですね。
渡辺 「高校生の頃、マジでバンドを聴いているヤツが周りにいなくて、放課後に音楽室に行って、バンアパのDVDを爆音で流しながらずーっと1人でギターを弾いてました(笑)。もうかなり鬱屈した高校生活を送りましたから」
チャム(.△) 「私は父親の影響でマイケル・ジャクソンを聴いてたんですけど…いわゆる同世代が絶対に通るものってあるじゃないですか?」
渡辺 「僕の世代だったら9mm Parabellum BulletとかELLEGARDENは100%通ってるんです。BUMP OF CHICKENとかASIAN KUNG-FU GENERATIONとかもそうで」
チャム(.△) 「正直…1つも通ってきてないんですよ、私(笑)。その当時から、みんなが話題にするような漫画も全く読んでなくて…『三国志』とか手塚治虫さんしか読んでない」
――『三国志』が人生のバイブルだと言ってましたね。ってどんな女の子やねん!(笑)
チャム(.△) 「アハハ!(笑) 音楽もマイケルしか聴いてなかったんで、誰とも話が合わなくて。そもそも最初は特に音楽に興味があったわけじゃなくて、マイケルのドキュメンタリーか何かを観て、“こんなに優しい人なのに、こんなに誤解されやすい人なんだ”って、人に興味を持ったことがきっかけで、どんどんハマっていった感じです」
――そこから歌うようになったのは?
チャム(.△) 「高校生の頃から、公園とか野原で歌うのが好きだったんですけど(笑)」
――アハハハハ!(笑)
渡辺 「これは無農薬! 完全無農薬!(笑)」
チャム(.△) 「広島ですくすくと育ってたんで(笑)。それから軽音サークルに入って初めてマイクを通して歌ったとき、魂が震えるような感覚があって…“自由になれる!”みたいな。もうその一瞬で、“私は歌を歌っていくんだな”って思ったんですよ。あと、幼い頃から本が好きで、今でも小説をよく読むんですけど、本の中の世界観に影響を受けて音楽とか歌詞を作ってるんですよね」
――嘘とカメレオンのミクスチャーな感じは、こういうみんなのバラバラのルーツが根底にあるんでしょうね。
チャム(.△) 「人間的にもみんな変だけど、みんなが違う方向に変だから、結局バランスがいい5人だなって(笑)」
――お2人の第一印象はぶっちゃけどうだったんですか?
渡辺 「いや、もうこんな女とは絶対に友達にはならんと思った」
(一同爆笑)
チャム(.△) 「私は私で、“この人は絶対ベテランのドラムの人だ”と(笑)。そしたら“18歳です”とか言うから(笑)」
(一同爆笑)
――この雰囲気がその頃からもうあったんや(笑)。それが一緒にバンドをやるようになるなんてね。
渡辺 「音楽の懐の深さよ!(笑) 会社だったら即倒産ですよ、こんな人ばっかりだと(笑)」
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前提としては“全部やりたい”
――お2人がバンドの核だと思いますが、それぞれの個性がどう機能してると思います?
渡辺 「何となく“この声はこういうタイプ”みたいにカテゴリって分けられるじゃないですか? この人の声は僕のデータベースの中にないんですよ。誰っぽい声、誰っぽい歌い方みたいなものが全くない。でも、耳に引っかかる声だなってずっと思ってて。あんまり音楽的なバックボーンがないからこそフラットというか、特徴がないんじゃなくて何者にでもなれそうな感じがある。それをずっと歌から感じてましたね。逆に僕は音楽にバックボーンがすごい滲んでるんですけど、彼女は全然ないので」
――それこそ、“カメレオンのように自在に姿を変えながら、女性ボーカルバンドの既成概念を裏切るバンドでありたい”というバンド名の由来にも通じますね。渦を巻くようなバンドサウンドの中で、チャム(.△)さんの声が抜けてくるのはそういうフラットさもあるでしょうし。逆にチャム(.△)さんから見た渡辺さんのギタリストとしての個性というか…まぁ存在自体が個性ですけど(笑)。
チャム(.△) 「アハハ!(笑) 彼はすっごく身体が大きいのに、ライブ中も人とは思えないぐらいすっごく機敏に動くから(笑)、それがすごいなと思って。あまりにも動きがすご過ぎて、当て振り説が出たことがありましたから(笑)。あと、彼が持ってくるデモは毎回全員一致で“カッコいい”ってなるので、単純にすごいなって思います」
渡辺 「いつも各パートのフレーズも全部決め切ってから渡しちゃうので、微調整したい人は言ってくれみたいな感じですね。レコーディングも全パート必ず立ち会ってます」
――サウンド面では渡辺さんが完全に統率してるんですね。それで言うと、渡辺さんがこのバンドでやりたいこと、心掛けていることはありますか?
渡辺 「まず前提としては“全部やりたい”というか。カシオペアを聴いていたときもYMOを聴いてたり、オールマン・ブラザーズ・バンドも好きだし…詳しいというよりは嫌いなジャンルがほとんどないぐらい、いろんな音楽を聴けるタイプの人間なんですよ。バンドの色を築いた上でジャンルレスに何でもやる、みたいな感じで曲を作ってますね」
――フラットなボーカルがいて、何でもやりたいギターがいて、今までのメンバー構成の話とかも何だか腑に落ちますね。すごく補完し合っているというか。
渡辺 「そうなんですよ。メンバーが好きな音楽はバラバラですけど、ハードコアが好きなヤツがこういうことをやりたいって言ったら俺もそれをやりたいし」
チャム(.△) 「全員に柔軟性があるんですよね」
――メンバーのどの提案に対しても楽しめる姿勢がある。それは聴く人にとってもそうで、どのジャンルが好きでも楽しめるところが見付かるかもしれないですね。
泥水をすするような活動をしてきた中で培ったライブ感というかバンド感
メンバーの雰囲気を、そのまんま映像に落とし込めたら
――嘘とカメレオンが世に出たきっかけは 、初めてYouTubeにアップされた『されど奇術師は賽を振る』(M-11)のMVが爆発的にハネたことだと思うんですけど、あのムーブメントの中にいてどんな感覚だったんですか?
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渡辺 「もう意味が分からなかったですね(笑)。本当に自費で初めて作ったMVだったんで、1万回ぐらい再生されたらいいなと思ってたんですけど、その目標を超えて2万回ぐらいいった辺りから、“オススメの動画に出てくるよ”みたいな話を周りからチラホラ聞いて。“あれ?”と思ってたらいつの間にやらっていう感じで。みんなには“(広告費)何ぼ払ってんねん?”ってよく聞かれるんですけど(笑)」
――自分たちで作った初のMVにしては、めちゃくちゃクオリティも高いですよね。
渡辺 「ありがとうございます。今まで自分たちが泥水をすするような活動をしてきた中で培ったライブ感というかバンド感、メンバーの雰囲気を、そのまんま映像に落とし込めたらなと思ってプロットを組んだところがあったので。演奏をカッコよく見せるのは大前提で、ネクタイが短いのもコーラを飲むのも、メンバーがバチバチにやり合うのも然り、ライブをそのまま映像に落とし込んでますね」
チャム(.△) 「MVを作る前からコーラも飲んでたし、ネクタイも短かったし、私も腕を組んでたし」
渡辺 「俺も前から太ってたし」
(一同爆笑)
――あの運動量だったら絶対に痩せていくような気がしますけど…。
渡辺 「こっちが聞きたいぐらいです(笑)。やっぱあれですかね? お米を噛まずに飲んでるからですかね?(笑)」
――チャム(.△) さんの“腕組みヘドバン”も自然と始めたんですか?
チャム(.△) 「あれは私のノリ方がたまたまああだっただけで、みんながカッコいい技を見付けてくれたというか」
渡辺 「そもそもヘドバンのつもりでやってないというか、バンドマンのボーカルがよくやるようなノリ方を全く知らないんですよ。無農薬の野菜なんで(笑)。ただノッていたのがだんだん腕を組んでいって、ああなった感じなんで」
――本当に公園で自由に歌ってたのが活きてる(笑)。声はかわいいのにあれで姉御感が出るギャップもいいですね。
渡辺 「さっきも言ったように“何者にでもなれる”というか、歌声1つとっても聴く人の状況とか心境によってある程度響きが変わっていくような“余白”みたいなものが、楽曲もそうですけど歌にもあるなと思っているので」
細胞の1つ1つが破裂しそうだったんですよ、バンドがやりた過ぎて(笑)
――今回のデビューアルバムを制作するにあたって、もちろん事故によって思惑が変わるところはあったと思いますけど、当初のビジョンみたいなものはあったんですか?
渡辺 「ライブハウスの大人の人とかにずっと“ジャンルが決まってないね”って言われ続けたんですけど、ジャンルを決めてバンドをする概念が僕の中にはなかったんで、これをずっとやり続けて、メジャーデビューっていうところまできて…。今までやってきたことは一貫して変わってないので、過去の曲6曲、今の曲6曲、みたいな感じで構成された、“ジャンルレスな僕たちの1つの答え”みたいな1枚になればいいなって」
チャム(.△) 「例えば、歌詞のために言葉をメモして書き溜めるタイプの方もいると思うんです。でも、私は1秒1秒思っていることも価値観も変わっていくから、そのときそのときじゃないと書けなくて。ストックはしないタイプなんで、一気に書きましたね」
渡辺 「近くにいるから分かるんですけど、歌詞の内容ってチャム(.△)さんがそのときに話してた人生観とか価値観まんまだったりするので。そういうものを閉じ込めてる感じがしますね」
チャム(.△) 「デモをもらって、自分の中にその歌の風景というか世界観が浮かんできたら、2〜3時間で全部書き上げます。想像=イマジネーションを湧かせてる時間が一番長いんですよ。本を読むから日本語も言葉遊びも好きなんですけど、それを踏まえても、意味のない遊びだけの歌詞を作ったことは今までも一度もなくて」
――だからこそ、『JOHN DOE』(M-3)のラップの部分だけ、絶対にノリだけで歌ってるなと思いました(笑)。
渡辺 「その場で何となく韻だけで作った歌詞を、とりあえず仮で入れてたんですよね。そうしたらメンバー全員が“これでいいと思う”って(笑)。ただ、書いた時期にちょうど大雪が降ってたんで、僕が除雪作業を強いられてたのは…」
――そこだけはリアル(笑)。あと、『百鬼夜行』(M-1)『フェイトンに告ぐ』(M-2)は、歌詞にあまりエモーショナルなメッセージを込めないタイプのチャム(.△)さんが、活動休止時に感じたそれを記していると。
チャム(.△) 「そうですね。私と言うよりも5人の決意が詰まった曲になったかなと思いますね。1、2曲目は特に」
――それにしても、アルバムの冒頭から凄まじいエネルギーで前進していく曲ばかりで。
チャム(.△) 「活動を再開するまで4ヵ月かかったのもあって、細胞の1つ1つが破裂しそうだったんですよ、バンドがやりた過ぎて(笑)。復活して初めてライブをしたときも、本当に脳髄が震えるみたいな感じが(笑)。アルバムの1曲1曲に、どんなに落ち着いた曲にもそういう気持ちをやっぱり感じるし」
渡辺 「もう音楽に対するリビドーみたいなものがすごくて」
――『フェイトンに告ぐ』のMVでは、今までの活動の中で出会ってきたアーティストたちがコメントくれているのも、愛というか。このMVも凝ってるし、もう本当に1つ1つ面倒臭いぐらいに想いが込められてる(笑)。
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渡辺 「僕らをずっと応援し続けてくれた人たちに元気付けられた事実があるので、そういうストーリーをMVに落とし込みたかったところもありますね」
チャム(.△) 「だから、自分たちの曲を聴いていても、結構泣けるもんね(笑)。それこそさっきのMVの話で、“どういうふうに作ったら再生回数が伸びるんですか?”みたいに聞かれることがよくあるんですけど、その質問がすごい不思議で。それって、“自分たちがカッコいいと思うものを作るしかなくない?”っていう。このバンドは本当にそうだから。曲もMVもメンバーが本当にカッコいいと思って、本当に楽しんで作ってるから」
――分析ばかりしてると忘れがちですけど、自分がカッコいいと思うことを突き詰めるのは、案外肝かもしれない。
渡辺 「あと、“不特定多数の人間に売れそうなもの”というよりは、“自分が買うかどうか”っていうところなんで。自分がお客さんだったら買うような曲、フェスで盛り上がるような曲を作ろうとしてるので、結局、自分がカッコいいと思うところに帰属するんじゃないかと」
――フェスでカッコいいリフが聴こえてきて、“誰だ?”ってタイムテーブルを見たら嘘カメっていう未来も今後…!
渡辺 「そういうことがもし起きたら、ちょっと報われる感じがしますよね。僕が好きなバンドは今でも音楽をやってるし、そういうのが続いていったら、僕らもやってきた意味があるのかなと」
1曲1曲がバンドの歴史そのもの
――アルバムの最後の『キンイロノ』(M-12)は、嘘カメがすごく大事にしてきた曲だと。
チャム(.△) 「結構昔からある曲なんですけど、この曲が最後にあることで、たくさんの金色の光に照らされた明るい道が見えるようなイメージで、一番To be continued感があるなと。この先の自分たちがすごく楽しみになる」
渡辺 「僕がこの曲を作ったときはちょっと原風景を意識していて。僕が幼少期を過ごした90年代後半~00年代初頭、夕方にアニメのエンディング曲を聴きながら、親が台所で晩ご飯を作っているのが匂いで分かる、みたいな日常のちょっとした風景を音楽にできたらいいなと思って。当時の空気感、僕が感じてた匂いみたいなものを音にしたのが『キンイロノ』なんで、そういう意味では、自分の人生を写真に撮ったような気持ちで作った曲なのかなぁって」
――チャム(.△)さんも、この曲の歌に関しては、“過去一のテイクが出た”とTwitter でつぶやいてましたもんね。
チャム(.△) 「この歌を録り終わった後に、“最高だ〜!”って言って、みんなで焼肉を食べに行ったもんね(笑)」
渡辺 「エンジニアさんも“これはすごい!”って喜んじゃって、焼肉を奢ってくれたんですよ(笑)」
チャム(.△) 「っていうぐらい、ちゃんと魂が込められた。全曲そう思ってるんですけど、『キンイロノ』は本当に、ね。聴いていたら今までの自分たちが滲んでくるような曲になったと思ってます」
――1stアルバムから、想いを隅々まで張り巡らせたアルバムができて嬉しいですね。
チャム(.△) 「めっちゃくちゃ嬉しいですよ。このアルバムの12曲を聴いたとき、自分たち5人が選んできた道は本当に間違ってなかったんだなと思えたんですよ。どんなときも、自分たちが信じてきたものが正しかったんだって、このアルバムを聴いて感じました」
渡辺 「1曲1曲がバンドの歴史そのものというか、全曲にストーリーが、宿る記憶があるので。それを思い返したときに何の曇りもないなって、この12曲が揃って初めて思った。本当に“アルバム”って言うだけのことはあるなって」
――最初に音楽が10数曲集まったものをアルバムと名付けた人って、粋だなと思いますよね。本当にその期間の記録というか記憶ですもんね。今やサブスクリプションやYouTubeで1曲単位で聴ける時代ですけど、こういう区切りというか、箱みたいなものの味わいというか。
渡辺 「10代で初めてライブハウスに来た子とか、僕らを入口に邦ロックを聴くようになってくれた子も結構多くて、『ヲトシアナ』をきっかけに、アルバム単位で音楽を聴くということに少しでも意味を見出していただけたらなと」
チャム(.△) 「かと思えば、お父さんぐらいの世代の方が1人でインストアに来てくださったり、“30年ぶりぐらいにCDを買った”とか言ってくださる方が結構いて」
――楽曲に潜む原風景にノスタルジーを感じる人もいるだろうし、初めての入口にもなれる門戸の広さがあって。本当に全方位でどこからでも入れるアルバムになりましたね。
人生を懸けてバンドをやっていくからには
やっぱり一時代を築くようなバンドになりたいと思うし
今の5人だったらなれると思ってる
――そして、現在はリリースツアーと並行して、前代未聞の当て振りインストアライブも行われています(笑)。インストアと言えば、だいたいアコースティックなのに。
チャム(.△) 「やっぱり5人じゃないと、あのライブが嘘カメのよさだっていうのがあったんで」
渡辺 「妥協したくないと思った結果、音を鳴らさないという選択肢に至ったわけなんですけど(笑)」
チャム(.△) 「本当にすごいんですよ。30分間私たちはひと言も発さないのに、お客さんはライブハウスと同じように叫び倒してるんですよ(笑)。そこでライブを疑似体験してくれた子がライブハウスに来てくれて、“初めて生音が出てるの観ました!”みたいに言ってくる、ちょっと異様な状況という(笑)」
渡辺 「でも、曲と同じくそういうことをやっても許されるバンドなのは、ちょっとラッキーかなと思いますね」
――ツアーは各地対バンで回って、ファイナルはワンマンで。大阪に関しては魔法少女になり隊とツーマンです。
チャム(.△) 「去年イベントで何度か一緒になって、共通するところは“面白いと思ったらそれをやってみる”ことなのかなって。お客さん同士も楽しいだろうし、化学反応が楽しみですね」
渡辺 「何にも縛られてない間口の広さに、ちょっとシンパシーを感じるところはあったので。めちゃくちゃVSめちゃくちゃ、みたいなライブができればいいなと思ってます!」
――復活以降、嘘カメにとってライブへの心持ちは何か変わりました?
チャム(.△) 「完全復活してから初めてツアーで大阪に行けるのが今回のタイミングですけど、やっぱりライブはすごく特別なものになっていて。みんながこの4ヵ月間支えてくれたから、私たちは戻ってこれた。だからこそ最近はさらに、お客さんに対して常に手渡しで、ちゃんと目と目で感謝していて。音楽とか言葉を直接返せる場をすごく大切だと思ってるから、待っててくれたみんなにそれを返せる1本1本が、本当に特別な場に思いますね」
渡辺 「あと、ライブ中にメンバー1人1人の音を聴いたり目を見たりするのも楽しくなりましたね。“あぁ〜生きてんなぁ!”って思うんですよね」
チャム(.△) 「思う思う! グッとくる瞬間が多くて困ってます(笑)」
渡辺 「音楽そのものにどれだけ入り込めるか、みたいなところも復活以降は増してきたなって。パートごとにすごく注目してます。もう大好き(笑)」
――お客さんのキラキラの顔を見て感動し、横を見て“あぁ〜生きてる!”って感動し(笑)。
チャム(.△) 「前を見たら泣くと思って後ろを向いても感動するっていう(笑)」
――最後に、嘘カメの未来に向けて思うことをそれぞれにいただいて終わりたいなと。
チャム(.△) 「私は人生を懸けてバンドをやっていくからには、やっぱり一時代を築くようなバンドになりたいと思うし、今の5人だったらなれると思ってるんで。だからもうそれがすごい楽しみで。30年後も多分バンドをやってると思うんですけど、その場合は『されど奇術師は賽を振る』のBPMは落として歌おうかな?(笑)」
――30年後もみんながあんなに激しく動いてたら心配になるわ(笑)。
渡辺 「僕は歴史に残ってきた音楽に心を動かされた人間なので、一過性のものには絶対になりたくないというか。20年後、30年後に聴いてもいいと思ってもらえるような音楽ができたらとは常々思ってます。嘘とカメレオンという新しいジャンルを作りたいですね」
(2018年9月21日更新)
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