初の全国流通盤『Still Dreaming, Still Deafening』リリース!
日本へ向けて、世界へ向けて、透明感のある轟音を鳴らす
滋賀発4人組バンド揺らぎのmirai akita(vo&g)インタビュー
8月8日に初の全国流通盤となる『Still Dreaming, Still Deafening』を大阪FLAKE RECORDS主催のレーベル、FLAKE SOUNDSからリリースした揺らぎ。約1年半ぶりのリリースとなった今作は、静かでありつつも沸々とした熱を感じる作品だ。轟音なんだけど、その轟音の中にもサラっとした透明感が残る。アルバム1枚を通して聴くと、34分間のひとつの作品としての完成度の高さに驚く。曲の繋ぎ方や、アートワーク、細部にまでこだわったという今作は、海外からの評判も集めている。バンドが見つめる方向は日本にとどまらず、その先はずっと世界へ向いているのだ。そんな世界への第一歩とも言える今作について、ギターボーカルmirai(以下、みらこ)さんに話を聞いた。みらこさんと話していると、穏やかな表情の中にも真摯に音楽へ向き合う芯の強さ、音楽への確かな愛情を感じ、「透明感のある轟音」という一見かけ離れて見えるこの言葉は、みらこさん自身が体現しているものなんだなと感じた。
シューゲイザーがやりたいんじゃなくて
自分がやりたいことをシューゲイザーっていう
手段を使って表現してるだけなんです。新しいものを作りたい
――2015年に改名ということで、高校で結成されたのかなと思ったのですが…。
「そうですね。高1の時から高校の友達とやってたんですけど、ちょうどメンバーチェンジがあって。音楽性も昔はシナリオアートや宇宙コンビニに影響を受けてて、雰囲気は今と似てるかもしれないけど、サウンドは全然違ってたんです。で、シューゲイザーやりたいなということでバンド名も変えました」
――曲作りはみらこさんがやられてるんですか?
「曲と基本のコードは私が作ってスタジオに持って行って、“は~い、みんな入ってきて~”みたいな感じです(笑)。大体の雰囲気を伝えて、みんなで集まって作る感じ。詞も私が作ってるんですけど、英語の歌詞はピンクくん(browned butter)っていうトラックメイカーの子がいて、その子が帰国子女やから英訳を手伝ってもらってます。これ意味あってる?とか、こういうニュアンスになるように文作ってほしい、とか」
――音楽性が今の音楽シーンに全く媚びてなくてかっこいいんですが、なにか意識されてたりしますか?
「シューゲイザーは好きやけど、模倣したいわけではなくて。どのジャンルに関しても言えるけど、みんな一緒のことやってもおもしろくないよなって。日本のバンドであんまり良いシューゲイザーのバンドっていなくて、シューゲイザーおもんないから自分がおもしろいシューゲイザーをやろうっていう風には思ってます。でもシューゲイザーがやりたいんじゃなくて、自分がやりたいことをシューゲイザーっていう手段を使って表現してるだけなんで、シューゲイザーっていうジャンルがやりたいわけではないんです。どんどん新しいものを作りたいですね」
――なるほど。では、シューゲイザーにはいつ出会ったんですか?
「高校1年生の終わりくらいかな。いつもみたいにYouTubeで音楽漁ってたら、マイブラ(MY BLOODY VALENTINE)を見つけて。聴いた瞬間、“なんやこれは!私がやりたいのこれや!”ってなって(笑)。そこからはイヤホンでシューゲイザーを爆音で聴く毎日が始まりました。ヤク中みたいなんですよ。どんどん音量のメモリが上がっていくんです、毎日(笑)。うちのドラムなんか、ありえへん音量で音楽聴いてるんですよ。喋りかけても全然聞こえてへんし。ほんま耳悪い(笑)。バンドやってたらほんまに耳おかしくなります。気をつけないといけないんですけど、そこがまた最高みたいなところもありますね(笑)。さっき言ったMY BLOODY VALENTINEっていうシューゲイザーの神様みたいなバンドも、めっちゃ音がでかいんですよ。音デカすぎて失神する人がいるくらいで、ライブ会場で耳栓が配られます。それを目指してるわけではないけど、そういうのは大好きです(笑)」
――私はまだ揺らぎのライブを観たことがないので、観るのが楽しみです。
「揺らぎうるさいですよ。けど、ライブ中寝そうやったっていう人も多いです。もともと、ベッドサイドミュージックっていうコンセプトでやっていて。うるさいけど誰かの眠りに寄り添う音楽。ヒーリング音楽的な要素もあったらいいなと思ってたら、ライブ中ほんまに寝そうな人いました(笑)」
そこまで音楽を掘って聴かない人が
シューゲイザーとかグランジを聴くきっかけになっても面白いなと思います
――1年半ぶりの最新アルバムですが、こだわったところはありますか?
「アルバム全体で、1つの作品になるようにっていうのをすごく意識しました。最後の曲を聴いてたら、直接繋がってるわけではないけど、気付いたら最初の曲にループしてる、みたいな。全体的にシューゲイザーっぽいけど、要素要素、エッセンス的なものはシューゲイザーじゃないものを参考にして作ってます。あとは、新しいギターのかんちゃん(g/kantaro kometani)が入って結構変わりましたね。まず、聴いてる音楽の量がすごいから引き出しも多くて。ギタリストとしてもポテンシャル高いから、そういうところが現れたかなあって思います」
――新しいものを作るにあたってメンバーチェンジの影響が大きかったんですね。
「うん、かなり大きかった。前のギターの子は可愛くてしっかりメロディーが乗ったギターを作る子で面白かったんですけど、かんちゃんはどっちかというとアンビエント系やったり、でもブルージーで沸々としてるギターを弾く子なんで、そういうところが決定的に違いますね」
――少し話が変わりますが、最近よく聴く音楽はありますか?
「最近は、betcover!!めっちゃ聴いてます。歳近い人やったら、羊文学もよく聴いてるかな。ヒップホップとかエレクトロニカがすごく好きなんでそういうのも聴きます。ジェイムスブレイクの新譜も良かったなあ。逆にあんまりシューゲイザーは聴いてないかも。でも基本的に何でも聴きます。もしよかったら、最近聴いてる曲のプレイリストをぴあ用につくるんで、それを載せるのどうですか? 今まで何個かApple Musicに載せてたんですけど、最近急にフォローしてくれる人が増えてきてて」
――それ是非やりましょう! 私も聴きたいです。
「かんちゃんもめっちゃ音楽聴いてるんで、かんちゃんのプレイリストと私のプレイリストつくります!」
――制作中によく聴いた音楽も教えていただければ。
「制作中か…。逆に全然聴かないですね。ずっと聴いてたらそれやりたくなっちゃうっていうのはあります。作ってないときはめちゃくちゃ聴いてます。ほんまに、ほぼ1日音楽聴いてるかもしれへん。自分たちのやつもいっぱい聴いてます(笑)」
――自分の音楽を聴くときは、どういう感じで聴いてるんですか?
「今回思ったのは、“あれ? もう終わって最初に戻ってる?”みたいな。自分が引っかかってる(笑)。ずっと通して聴いてましたね。こういうアレンジにしても面白かったなっていう発見もあるし。でも、すごく良いものができたなと思って聴いてます(笑)」
――作った人がそういう風に言ってるとリスナーとしても嬉しいですね。
「メロディーは取っつきやすいように考えて作ってるから、そんなにシューゲイザー聴いたことない人でも聴いてくれたらなあって。そこまで音楽を掘って聴かない人がメジャーじゃないジャンルを聴くきっかけになっても面白いなと思います。シューゲイザーに限らず、グランジとかでも。そういう入り口になれたら嬉しいですね。かつ、海外の人にも聴いてほしいし、日本の人にも聴いてほしいから、上手にバランス取ってやっていきたいですね」
――日本語詞も日本語っぽさがなくて、言葉の壁が無いからとっつきやすそうですよね。
「歌詞の意味をリスナーに押し付けるっていうスタンスでも無いから。歌も、歌じゃなくて楽器の一部として捉えてて。そこの境界線はすごく曖昧」
――みらこさんの声がバンドサウンドから浮いて透き通ってるから、そういう効果音みたいだなって聴いてても感じます。
「昔は声量ある感じの歌を歌ってたんですけど、絶対自分の声に合ってないなとは思ってて。シューゲイザーに出会ってよかったですね。自分の声の使い道がちゃんと分かった」
1年経ったら全然違う自分になってると思うし、それも楽しみです。
――アルバムのタイトルはどういう意味なんでしょうか?
「Still~ingっていうのが“ずっと~な状態”っていうニュアンスらしいんですよ。じゃあStill Dreamingが良いんちゃう?ってベースが言い出して。でもDreamingってありがちやなあっていうことでもう一単語つけました。“ずっと夢見がちで、ずっとありえないくらいうるさい”みたいな意味なんですよ」
――今回のCDについて注目してほしいところはありますか?
「かなりアートワークにこだわっていて、中身がめっちゃ可愛いです。写真はPV撮ってくれている人が撮ってくれたものです。それと、タトゥーシールを作っている
opnnerっていうブランドのデザイナーのいわやさんと2年前くらいにコラボグッズを作ったことがあって、今回全国流通するにあたっていわやさんにデザインをお願いしました。歌詞カードも手書きで書いてもらってて、すごく可愛いです。で、2曲目の『Horizon』っていう曲は、opnnerいわやさんの作品集に、いわやさんがタトゥーシールを作る理由を書いてて、それにすごい感銘を受けて。歌詞もそこから影響を受けて作ったし、タイトルもその作品集の『Horizon』っていうタイトルからもらいました。それはいわやさんもすごく喜んでくれて、私も嬉しかったです」
――いいですね。そういうところでリンクしてるんですね。
「今はみんなあんまりCD聞かないと思うけど、これは家に飾って欲しいです。歌詞カードも一枚一枚ばらばらにしてて、壁に貼れるようにポストカードみたいなつくりで作りました。あと、PV撮ってくれてる人が、yogee new wavesとかYeYeのPVの監督をしてる人で、たまたまギターのかんちゃんが友達で同い年の人なんです。PVの監督も同い年、PVに出てくれた女の子も同い年、いわやさんも2個上くらいかな。ほんまに同世代のみんなに協力してもらって作ったから、“若いけど私たちやれます”みたいな意思表示でもあります。今22歳になって、この歳でしか作れないものがあるっていうのがすごい見えるんです。1年経ったら全然違う自分になってると思うし、それも楽しみです」
日本の音楽に物申すぜっていう気持ちがみんなある
――これからのバンドとしての意気込みはありますか?
「今まで3回くらい外タレとやってるんですけど、もっとやりたいです。あとはもう1回海外行きたいですね。中国、韓国、台湾、アジア圏でツアー回るのがバンドの目標です」
――海外でもっとやってほしいですね。それこそフジロックとか出てもめっちゃウケそう。
「フジロック出たいです、5年以内には。5年は長すぎるか、3年!」
――8月26日(日)に東心斎橋COMPASSで開催されるFLAKE RECORDSのレーベルナイトもすごく良いメンツですよね。出るバンドそれぞれジャンルは違うけど、音楽の良いところがぎゅっと詰まった日になりそうですね。
「この日は私もすごく楽しみで、ジャンルも畑も違うけど、目指してるものというか、見てるところが多分みんな同じで。考え方は違っても意気込みというか、心意気というか、そういうものが共通してると思います。日本の音楽に物申すぜっていう気持ちがみんなある。揺らぎが一番目立って帰れるように頑張ります!」
text by ナカムラカホ
(2018年8月17日更新)
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