“東京生まれ”だから音楽を始めたのかもしれない 瀧川ありさインタビュー&動画コメント
今注目のシンガーソングライター・瀧川ありさが自身初のコンセプトミニアルバム『東京』を6月27日にリリース! 同作には、東京生まれ東京育ちの彼女だからこそ描けた“東京”をテーマにした6曲を収録している。いわゆる“「東京」という曲”の概念を覆してくれるこの作品について、さらに彼女の持つ“東京観”についても、たっぷりと話を聞いた。
――では早速、前作から1年4か月ぶりのリリースとなる今作が、“なぜ東京をテーマとしたコンセプトミニアルバムになったのか?”から教えてください。
「前回のリリース後から、もともとシングルを出そうと思って制作をしていたんです。それまでアニメのタイアップ曲などをやらせてもらって、その作品に沿うものを書いていたので、次はより、瀧川ありさがどんな人間かっていうのを知ってもらうようにしようって考えて、いろいろ自分と向き合って……。それで、東京生まれ東京育ちというのが、自分のアイデンティティに深く絡んでくることに気がついたんですね。あと、東京出身の人が東京っていうタイトルの曲を意外と作ってないなって思って。そこでそれを逆手に取って、東京出身者の東京はどういうものか?に注目してほしいと思って、こういうコンセプトにしました」
――前作後から書きためていた曲は、自然と東京に関するものが多かったんですか?
「そうですね。ただ東京そのものというより、人との係わり合い方とか距離感とか、そういうものが東京の雰囲気というか……やっぱり東京の街でのことだからかな?っていう曲がすごく多くなって、それが今作につながった感じです」
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――表題曲『東京』から伝わってくるのは、“居場所のなさ”のようなものですね。
「帰省する場所があるのにすごく憧れていて……。(東京は)自分の生まれた場所なのに、自分には帰る場所がないというか、常に変な孤独を感じているというか、言語化するのが難しいんですけど、東京に愛されてない感じがするんですよね。地元がある人は地元に受け入れてもらえる。でも東京は果たして自分を受け入れてくれてるのか?って……。東京で生まれてずっと東京がそばにいるんだけど、ほかの誰かのものになっちゃいそうな時があって嫌だったり、独占できない感じだったり、それが時に寂しいんですよ。例えば、たぶん上京した人たちが街で“ワッ~”て盛り上がってる時、“すみません。道、通してください”みたいな感じになっちゃったり(笑)。そのなんとも言い切れない感じが、『東京』のサビの“東京はそういうんじゃない じゃあなんなんだろう”“東京はヘンテコだ”っていう、どっちつかずな感じですね。でもそれが自分にとって一番しっくりきたんです」
――先程話に出た“人との距離感”は、『東京』だけに限らず、ほかの曲にも感じられますね。人に一歩踏み込めない感じ……。
「人がいるからより孤独というか、本当に誰もいないような所で一人ぼっちの孤独と意味が違うというか……。人がいるから孤独を感じると思うので、それはやっぱり人がたくさんいる東京だからこそだなって思います」
――ちなみに、もし田舎で生まれ育ったら違う性格になっていたと思いますか?
「なってたと思うし、なっててほしいなと思います。東京のせいにするわけじゃないけど、人との関わり方が下手なところがあって……。東京コンプレックスみたいなものを、東京人同士でわかり合うこともないんですよ。東京生まれって、まず関わらないので(笑)。不思議だなとも思うんですけど、もし田舎に生まれていたらもっと人との関わり合いがあると思うから、そこに自然と慣れていけていれば、こんなこじらせてはないだろうなと思います(笑)」
――なるほど(笑)。そして『東京』はカントリー調のナンバーですが、このノスタルジックな感じになったのは、やはり“東京=故郷”という感覚があるからでしょうか?
「そうだと思います。ほかの方が見ている東京と違う東京を見てるんだと思います。これまで作られてきた『東京』という曲を聴いても、実はちょっとわかり合えないなって思う部分があるんですよね。いい曲だなって思うんですけど、ワーッ!とはならない。“なんで東京にここまでフィーチャーするんだろう? どうして東京をここまでブランド化するんだろう?”って不思議に思っちゃう。私にとって東京はすごくナチュラルな存在なので、この曲もポロンって出てきた時から自然な雰囲気で、カントリー調にアレンジにしてもらった時もしっくりきたんですよね。“あ、これこれ”って……。今まで誰も歌ってなかった東京だなって自分でも思います。でもこれを望んでくれる人もいるんじゃないかな」
――地方から上京した人にとって、東京という存在は、情熱ややるせない思いをぶつける対象だと思うんですが、瀧川さんにとってそれは何になるんですか?
「音楽を始めたのはそういうことかもしれないです。正直、東京生まれという環境で音楽をやる必要ってあまりないというか……東京出身の人が音楽をやることって無意味なことをしているように思われるんですよ、周りから。“そんなにはいつくばる必要なくない?”みたいな(笑)。上京して頑張ってるみなさんは、一つ夢に目がけて上京しているわけだし、ミュージシャンの方だって“何か成し遂げてやる!”っていう思いが乗っかってまぶしく見えるんですけど、私と同じように東京出身でミュージシャンをやってる子たちを見ると、あまりそういう意味(何か成し遂げるという意味)で音楽をやってないんですよね。音楽に対するスタンスが違うというか……。(音楽をやる理由は)ただ東京に居場所がないからとか、やるせないからとかですね。寂しいんですよ、たぶん。うん、みんな寂しい(笑)! 東京出身のミュージシャンは愛に飢えてて、それはまた上京した人の愛の飢え方とちょっと違う気がするんです。東京ってなんでもあるし、人にも気軽に会えるけど、ものすごく寂しい……って、ま、私がそうなだけかもしれないですけど(笑)、でも、例えば東京にいて普通に就職したりせず、そのレールを拒むっていうことは、なじめなかったりうまくやれないわけで、東京にはねつけられてる感じ。でも、逃げ場もないからずっと辛いっていう(笑)。辛いと思うとずっと辛いから、要は自分の気の持ちようでどうにかするしかない。それで音楽を始めたのかなって思います。でも東京だと歌っててもかき消されますしね、物理的にも精神的にも。路上ライブでも人ごみがすごいですし……。そういうピースがはまらない感じのモヤモヤもどうにかしたくて、音楽を始めたんじゃないかなと思います」
――地方出身の人も、社会になじめない感じはあると思いますが、やりたいことをやってやろう!と上京する段階がある分、東京出身の人と違うんですかね?
「そうですね。あと東京の生まれの人は、器用貧乏な気がします。いろんな思いや情熱があるのに、うまく表現できないし表に出ない。私も“飄々としてる”って言われますね。その伝わり難い部分をこの作品で伝えられたらいいなっていうのもあります」
――その飄々としている一面のせいか“100%ハッピー!”というような曲は今回ないですね(笑)。
「なかなかハッピーなミュージシャンにはなれないですね(笑)。でも“暗いですね”とか言われるんですけど、本人はそのつもりはないですね。これがフラットな状態。無理して悲しんでいるわけでもないです」
――でもこの先、年を取ったらいろいろなことが変わって“幸せ!”な曲も生まれるかも(笑)!?
「それも思いますけど、でも幸せになると曲が書けなくなるとか聞きますし……。でもなれるもんなら、なりたいんですよ。だから就職して結婚してって幸せな人たちを見ると、どうしてみんなみたいにできないんだろう?ってコンプレックスがあって、何回か試したというか普通にしてみよう!っていうか……(笑)。でもやっぱりできないから、ムリなんだなって」
――悟ったんですか(笑)?
「いや、まだ今でもあがきますけどね(笑)。でも一人でも幸せなんです。みんなとの幸せの形が違うんですかね。遊園地でも100%楽しめないタイプです。楽しんでいる子たちを見てるのは楽しいけど、自分が楽しめているかっていうと、帰るのが寂しいなとか、いろいろ余計なことを考えちゃったり気づいちゃったりするので、そこは鈍くなりたいなって思うんです。でもそういうことを人に相談すると“鈍かったら曲書けないよ”って言われるし。そうやって気づくから音楽やってるのかもしれないですね。逆に曲を書いてないと“当てどころ”がないので、みんなよく曲を書かずにいられるなって……“みんなこういう気持ちをどうしている?”って聞きたいです(笑)」
――さて、今作の話に戻りますが、曲調がバラエティ豊かなのも印象的。これは東京のいろいろな側面を表しているんですか?
「それもありますね。東京も23区があってそれぞれカラーが違いますよね。例えば新宿なのか練馬なのかとかで、人のキャラも違う。だからそういうのを取り入れたいなって思いました。あと、今まで出した曲とは違う曲調のものを入れたんです。一番新鮮味がある曲を選ぶようしました。せっかくのコンセプトアルバムなんで、シングルとかと違うことができたらいいなって。それに単純に私がいろんなことをやりたいというのもありますね。例えば、ファンクとかを聴くのは好きなんですけど、自分の曲で作ったことはないなって……。ライブの幅を広げたいというのもあったので、ライブを見すえて“バンドの音だけで作り込む”みたいな感じにしました」
――現在までにリリースイベントをたくさんされていますが、そんな今作へのファンの反応はいかがでしたか?
「私のファンの方はその辺り(幅広い楽曲)を楽しんでくれる方が多くて……。私がいろんな曲を好きなことも知っていますし、新しい曲調が増えたのも喜んでくれました。あと、東京出身以外の人たちにも“自分に当てはめて聴いてます”って言ってもらえましたね。すべての人に届いてるんだなって思えてうれしいです」
――そして間もなくワンマンライブが大阪でありますね。
「楽しみですね。『この街で』っていうライブタイトルどおり、それぞれの街に今回の曲が溶け込んだらいいなと思います。曲には敢えて東京の細かい地名とかは入れてないので、聴く人の街の景色を思い浮かべて聴いてほしいですし、それぞれが生きる街のBGMとして聴いて楽しんでもらえればと思います」
――大阪は特に地方色豊か。ライブはどうなるんでしょう?
「大阪ではリリースイベントもやったんですが、みなさん盛り上がってくれたので、アルバムを聴いていてくれてるんだって感じましたね。バンドで作るサウンドはさらに楽しくなると思うので、今度はそれも楽しんでほしいです!」
text by 服田昌子
(2018年7月20日更新)
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