SOILが引き寄せた“大きな愛” 2年ぶりオリジナルフルアルバム『DAPPER』リリース! SOIL&“PIMP” SESSIONSインタビュー&動画コメント
SOIL&“PIMP” SESSIONS(以下ソイル)2年ぶりのオリジナルフルアルバム『DAPPER』がリリースされた。コラボレーションアーティストには三浦大知、EGO-WRAPPIN'、RADWIMPS野田洋次郎といった面々から、Awich、Nao Kawamura、Shun Ikegai(yahyel)、Kiala Ogawa(Kodäma)という若手まで、世代やジャンルを超えた豪華な顔ぶれが揃った。2016年10月にメンバーの脱退、約半年の充電期間を経てTBS系ドラマ『ハロー張りネズミ』のサウンドトラックで活動を再開。その後、丈青(Piano)の手の怪我というトラブルに見舞われつつも続いたアルバム制作。今作は“仲間”や“家族愛”がテーマとなっているが、そこに至った経緯を社長(Agitator)に聞くと、これまで彼らがつないできた縁や、音楽に対する愛情が引き寄せた所以なのだと感じさせられた。また、『Interlude』(M-7)に秘められた“秘密”もインタビューで明かしてくれた。新たなメンバー編成でトラブルを乗り越え、バンドとしても新たな表現方法を得た今作は、まさしく“2回目のデビュー作”。大きな愛に包まれた、濃厚で濃密な1枚だ。6月からはアルバムを携えて全国9箇所を廻るツアーがスタートする。大阪は7月8日(日)味園ユニバースにて開催。
今までのやり方を取り払い、マシンサウンドとライブバンドの融合を研究した
――聴かせていただいて、“絆”という意味の『Bond』(M-6)や、三浦大知さんとのコラボ曲『comrade feat. 三浦大知』(M-4)の歌詞の内容など、全体的にソイルとアーティストの皆さんとの間に愛情を感じる曲が多く、双方の信頼関係が昇華して作品になっているという印象を受けました。
「その通りです! もう全部言っていただけた感じです(笑)」
――もう少し詳しく聞かせてください(笑)。2016年秋にサックスの元晴さんが脱退されてから約半年、充電期間をとられていましたが、その間はどのように過ごされていたんですか?
「充電期間はまさに充電で、5人体制の新しいバンドとして、どういう音を出していくかを探っていました。実際にスタジオで音を出して、“こういうのやりたいね、こういう音はどうかな?”と試行錯誤している半年間でしたね。自分たちの計画としては、充電期間と言ってる間にアルバムを作っちゃおうと思ってたんですよ。なので曲作りもしていたんですれども、そのタイミングで『ハロー張りネズミ』のサウンドトラックのお話をいただきまして。活動再開からの、まずはサウンドトラックという流れになったんだけど、気分的には充電期間中からアルバムを作り始めてましたね」
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――なるほど、そうだったんですね。『ユメマカセfeat. Yojiro Noda』(M-8)での野田洋次郎さんとのコラボレーションは、バンド的にも大きなフィードバックがあったと書いてらっしゃいましたが、具体的にはどんなことがありましたか?
「やっぱり今までと違うリスナー層にちゃんとアプローチできたな、というのはすごく手応えとしてあったんですよね。お茶の間にソイルの音が届くというのも、今まであんまりチャンスがなかったですし。野田くんのおかげですね」
――サウンドトラック『真夜中のハリネズミ Music from and inspired by ハロー張りネズミ』を経た今作『DAPPER』ですが、制作にあたって変化したことや、新しくチャレンジしたことはありましたか?
「ありましたよ。実はもう1つ大きな事案が発生しまして。活動再開後にピアノの丈青が手を怪我して、しばらく弾けない時期があったんです。ライブは入っていたので代理の方を頼んだりしてやっていたんですが、その間もアルバム制作は続いていて、怪我の方も“またピアノ弾けんのかな”みたいな状態だったりして。結果的には今、全然弾いてますけど」
――本当に良かったです。
「ええ。結果的に良かった。なので、彼がピアノを弾きやすい環境を作るというのが1つありました。僕がサイドギター的にキーボードを弾いたり、PCで同期を走らせたり。今までは生バンドということにこだわってきたけど、そこも取り払ったんです。新しい音楽の表現方法ということで、フォーメーションの変化と、打ち込みを導入しました。マシンサウンドとライブバンドの融合を研究したのが、今までとはかなり違うところですね」
――マシンサウンドを入れることに、皆さん抵抗はなかったんですか?
「全くなかったですね。いかに良い音楽を作るかということを優先させていましたから」
ただのラブソングじゃない、大きな愛で全体がふわっと包まれていた
――今回、インストと歌モノがほぼ半分ずつですが、割合についてはどういうふうに考えていかれたんですか?
「正直、作り始める段階では割合については決めていなくて。数曲ボーカリストをフィーチャーした曲を入れたいな、という程度のところからスタートしたんです。まず先に曲があって、“この曲はこの方に合うんじゃないかな”というストーリーで進んでいったものと、“この人とやりたい”というところから曲に落とし込んでいった両方のパターンがあって。それこそ三浦大知くんは、ここ2年で彼の作品に参加させてもらったり、テレビで一緒に演奏させてもらって、結構密にコラボレーションして、一緒にやると良い化学反応が起きるという手応えがあったので、僕たちのアルバムに参加してもらう事がありきで、曲が後からという感じでしたね」
――『comrade feat. 三浦大知』は作曲が社長さんで、作詞は大知さんですね。
「まずメンバー、スタッフ、大知くんのスタッフ、大知くん本人で、どういう方向性にしようかというミーティングがあって、誰が言ったか覚えてないんだけど、“ちょっと大人なアダルト路線はどうかな”という意見が出て、その方向に振って曲を作り始めまして。で、曲が出来て大知くんに聴いてもらって、テーマである“仲間”や“家族”というキーワードを彼が歌詞に落とし込んでくれて完成に至った感じですかね」
――もともとアルバムのコンセプトとして“仲間”や“家族”があったんですか?
「それがね、実はこのアルバム、作り始めた時点では、言葉でのテーマがなかったんですね。音の耳触りや曲のテイストという部分でのトータビリティは考えていたんですけど、言葉としてのテーマというのはなかった」
――そうだったんですね。
「テーマが決まるキッカケになったのは、Awitchちゃんをフィーチャーしている『Heaven on Earth feat. Awitch』(M-2)ですね。この曲は早い段階でできていたんですけど、彼女がこの歌詞を書いてきてくれた時、僕、何日間か悩んでしまって。というのも、彼女のバックグラウンドを聞いていたので、自分の半生とも言える実体験をリリックにしてくれたことに驚いて。客演でそれをやってくれるんだ、って。でも彼女がこの歌詞を書いてくれたことで、家族愛と恋人への愛を含めた、すごく大きな愛でこのアルバムが包まれていく感じになったんですよね」
――なるほど……。それって、ものすごい信頼ですよね。
「本当にそうなんですよね。嬉しかったです。そして、次に大きかったのがEGO-WRAPPIN'の良恵ちゃんが書いてきてくれた歌詞ですね」
――“あまりにも一途な愛が流れ出している”という言葉が印象的ですね。
「そう。スタジオに来た時に彼女が“地球をな、水槽に見立ててん”って(笑)」
――関西弁で(笑)。
「もうそれだけでキュンときて(笑)。ああ、この人も大きな愛の歌を歌ってくれるんだなっていう」
――本人に伝えているわけではないのに。
「全然伝えてなかったです」
――デュエットのKialaさん(Kodäma)とIkegaiさん(yahyel)や、Nao Kawamuraさんにもテーマを指定されたんですか?
「彼らにも歌詞は自由に書いてもらったんだけど、不思議なもので完全にラブソングなんですよね。それぞれちょっとずつ切り口が違うラブを歌にしてくれている」
――不思議ですね。
「何かただのラブソングじゃない、大きな愛で全体がふわっと包まれていましたね。だから最初の話で言うと、もう大知くんには明確に、“家族愛や、仲間との時間を過ごす楽しさ、というのがテーマではどうかな?”という提案をしたんです」
――なるほど。フィーチャリングしたアーティストさんは、どのような基準で選ばれたんですか?
「今回は結構僕が任せてもらってた部分も多くて。全体的に、前段で何か絡みがあって、刺激を受けた人たちをお招きした感じかな」
――ふむふむ。
「たとえばyahyelは、最初の盤をリリースしたのが僕もお世話になってる先輩のレーベルだった縁もあって、デビュー当時からほんとにずーっと大好きで。昔、ラジオをやってた時も曲をかけまくったり、ライブやる度に足を運びまくってたんです。yahyelがフジロックの『ROOKIE A GO-GO』に出た時、もちろん見に行ったんだけど、yahyelの1つ前に出てたのがNao(Kawamura)ちゃんだったのよ」
――へえー!
「NaoちゃんのところでSuchmosのTAIHEIがキーボードを弾くって言ってたから見に行ったら、“わ、すげえなこの子”と思って、ライブ終わってすぐ物販に声掛けに行って。CD買いに行ったんだけど“すごい良かった”って言ったら向こうからCDくれたんで(笑)。そこから付き合いが始まったんです」
――そうなんですね!
「Kodämaもyahyelと同じレーベルだったんですけど、彼女たちもフジロック出たし、Kialaちゃんは声がもう素晴らしすぎるんですよね」
――本当に綺麗な声です。
「Awitchちゃんはトランペットのタブゾンビが彼女の2016年に出たアルバムに1曲参加していて。レコーディング翌日に“Awitchやばい、絶対一緒にやってほしい”みたいなことをずっと言ってて。EGO-WRAPPIN’はデビュー前からずっと仲良しなんで。やっと一緒にできましたね」
――若手の方とのコラボレーションも多いですが、『comrade feat. 三浦大知』のMVを撮られたのも若手の映像作家さんですよね。
「そう。21歳のSpikey Johnという方です」
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――21歳!
「僕の同級生の教え子だったんですよ。あとこれはたまたまなんだけど、Awitchが出てるビデオも撮ってて、アンダーグラウンド・ヒップホップ界隈では既に名前が知れ渡ってる方なんですよね。すっごいおもしろいなと思ってお誘いしました」
――不思議とどこかでつながってらっしゃるんですね。
「何だかんだね」
『Interlude』を入れたわけ
――私、インストの曲で1番好きなのが『Pride Fish Ball』(M-12)なんです。
「おお。ありがとうございます。ジャズなのに、後半はディープハウスになるっていう曲ですね(笑)」
――『Glitch feat. Shun Ikegai from yahyel & Kiala Ogawa from Kodäma』(M-11)からの流れがすごくカッコ良くて。この曲、タイトルが不思議ですよね。
「元は“Fried Fish Ball”ですね。さつま揚げです」
――さつま揚げ! あ、FをPに変えられたんですね。
「これはタブゾンビのアイデアですね」
――へえ~!
「彼が“Pride Fish Ballで!”って言ったので、それ以上は深く聞かなかったです」
――(笑)。インストの曲のタイトルはどんなふうに決められるんですか?
「曲を作った人がイメージでつけますね。この曲は鹿児島のための曲なんです」
――なるほど。今度フェスも出られますもんね。
「そうなんですよ。まあ言葉遊びで、特に意味はないですね(笑)」
――あと、個人的には曲順が最高だなと思いました。もちろんインストの曲だけでもカッコ良いのですが、インストと歌モノが交互に配置されていることで、相互作用が起きてボーカルの曲がより引き立つというか」
「曲順はすごく考えましたね」
――『Interlude』が真ん中にあることで、A面からB面にカセットテープをひっくり返すイメージですね。
「そうそう。よくそこを気付いていただきましたね。ええ、カセットテープの音が入ってるんです」
――『Interlude』を入れようと思われたのはなぜですか?
「野田くんとの『ユメマカセfeat. Yojiro Noda』がいきなり歌から始まるじゃないですか。この曲は皆さん先にもう聴いていただいていることもあって、何か一仕掛けしたいなと思ったんですよね。で、“子供の声のカウントとかで入ったら良いかな”というところから考えて。アルバムの曲順的にも、『ユメマカセ』前にも何かほしいな、というので作った感じですね」
――なるほど。それで自然に聴けるんですね。
「実はこの『Interlude』に関して、まだどこでも言ったことない情報が1つあるんだけど、どうしようかな」
――言っちゃってください!!
「言っちゃいます? 他のとこで触れていただいたことないんで」
――あ、ほんとですか。
「『Interlude』で最後、子供の声が入る前に、ちょっとノイズっぽい、人の声みたいなのが入ってるんですけど、実はあれは、僕らがデビュー前にビクターと契約をするにあたって、今の担当ディレクターが見に来てくれてるライブの音源なんですよ」
――そうなんですか!!
「2002年とかですね。いつもライブの最後にやってる『殺戮のテーマ』で“テレレレレ、ソイル!”って皆に言わせてる、そこだけを切り取ったんです」
――へえー!!!
「たまたまデビューのキッカケになったイベントライブのオーガナイザーの人と仕事をする機会があって、“音源持ってるよ”って言われて」
――すごいミラクル!
「欲しいと言ったら送ってくれて。で、ここ使えるなと思って、適当に切り取ったら、ちょうどハマったんです(笑)」
――全てが引き寄せられてきてる感じですね!
「そうなんです。多分よく聴かないとわかんないと思うんだけど。ヘッドホンで聴いていただけるとわかると思います」
――お話いただいてありがとうございます。
「これ言わないでおこうと思ってたんだけど。1つそういうのがあってもいいじゃないですか。でも『Interlude』に触れていただいたので言っちゃいました」
――ありがとうございます。今のお話を聞いたら、より“2回目のデビュー作”という言葉の意味につながってきますね。
「そうなんですよ」
音楽的に一段階ステップアップできた1枚だと思う
――改めて『DAPPER』、どんな方に届いてほしいですか?
「う~ん、そうですね。今の僕らをサポートしてくれてるファンの皆さんは僕らと同世代で、一緒に年を重ねていってるところもあると思うんだけど、もう1つ下の世代にも届いたらいいなと思ってます」
――うんうん。
「高校生、大学生、20代前半。あと、いわゆる単曲で買われる方やサブスクリプションで聴かれる方に、アルバムというフォーマットを、ちょっとしつこく提案したいところもありますね」
――特にこの作品は、アルバム全部流して聴いて伝わるものが、とても大きいと思います。
「そうなんですよ。通していただけると世界観も感じてもらえるし。A面B面の感覚とかね、そういうのを体験してほしいですよね」
――本当に最高の作品です。6月からはアルバムを引っさげた『TOUR 2018 “DAPPER”』が始まりますね。
「今ライブに向けて準備をしている時に思うのは、表現方法として、これまで人間の力でやってきたものが、いわゆる機械との融合で、今までと一味違ったおもしろいライブができるんじゃないかなと。今まさに試行錯誤しながら作りつつも、しっかりとした手応えを感じているところなので、音楽的に一段階ステップアップできた1枚じゃないかなと思っています」
――ライブがとても楽しみです。大阪は7月8日(日)味園ユニバースですね。
「いやー、不安しかないですよね」
――不安。
「不安ですよすごく」
――手応えを感じつつも、不安を感じてらっしゃるのですか。
「うまくいくのか、うまく演奏できるのかという不安ですよね。機械を入れたことによる不安もあるんですけど。“バグらないでね”みたいなところが」
――機械ならではの不安。
「ほんとドキドキしてますね。ちなみに『Pride Fish Ball』は多分見所だと思いますよ。前半は生演奏で、後半がハウスなんで」
――生バンドとマシンサウンド融合の瞬間が見れるわけですね!
「いやー、不安ですけどね。でも、今また新しいチャレンジをできるというのは幸せなことだと思いますんで」
――素敵なお話をありがとうございました!
「とんでもないです」
text by ERI KUBOTA
(2018年6月 6日更新)
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