ナードマグネットが両A面シングル 『FREAKS & GEEKS / THE GREAT ESCAPE』をリリース! 須田亮太(vo&g)インタビュー&動画コメント
大阪出身パワーポップバンド、ナードマグネット。メンバー全員がサラリーマン&OLをしながら土日全てを音楽活動に捧げるというストイックな活動を続けてきた彼らが、ライブ活動をちょっぴり抑制して制作に向き合い、6月6日に新作をリリースした。バンド史上初の両A面シングルとなる『FREAKS & GEEKS / THE GREAT ESCAPE』。世の中に蔓延する同調圧力に中指を立ててやろうという想いが込められた『FREAKS & GEEKS』、本当の自分を出せない世の中から脱走しようよ、と歌いかけるような『THE GREAT ESCAPE』。没個性で画一的な世相、音楽業界、そしてバンドマンに言いたいことを詰め込んだ快作であり、ナードの新章のスタートの作品となった。須田亮太(vo&g)に、今作への想いを聞いた。
シングルとして強い渾身の一手を出すか、腰を据えて作ったフルアルバムか
―― 『FREAKS & GEEKS / THE GREAT ESCAPE』の制作にあたり、ライブ活動を少し抑制して楽曲と向き合ったということですが、そうしようと思われた理由は?
「気付いたらライブはどんどん増えていってるんで、結局はそんな言うほど抑制できなかったんですけど(笑)。僕自身、バンドとしてというより、個人的に次の一手を考えないといけないなと思ってたのはあって。僕は海外の映画やドラマが好きで、自分自身の経験談もあったりしたので、今までは恋愛の歌が多かったんですよ。情けない青春感のある曲というか。でも去年出たミニアルバム『MISS YOU』くらいで、自分の中で一旦一区切りがついたかなという気持ちがあって、次にどんなものを作ろうかなとずっと考えてたんですよね。で、“アルバムを作ろう。やるからにはフルアルバム出したいな”と思って。やっぱり世代的にフルアルバムの方がしっくりくるというか」
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――1枚でしっかりと聴かせるものを。
「今はサブスクリプション全盛の時代なので、シングルとして強い渾身の一手を出すか、腰を据えて作ったフルアルバムか、どちらかがいいなと思ったんです。あんまり中途半端なものをポンポン出したくないなって。今の日本のインディーズ業界からしたら、そういう流れじゃないんだろうなと思うんですけど。日本のインディーズはやっぱりまだCD主体じゃないですか」
―― そうですね。
「とにかく何かしらリリースをして、リリースツアーを組んで。夏前ぐらいにリリースしといたら、フェスにも出やすいかな、みたいな(笑)。もうみんなそういうサイクルで動いてる。それもちょっとなーって。天邪鬼というか、頑固なところがあるんで(笑)。この時代やからこそ、作品としてまとまったものを作りたいなと思ったんです」
―― なるほど。
「で、そこからアルバムとしてどういうものを作っていこうかと考えて、曲作りを進めていったんですよ。その中で、今までにないテーマというか、一味違った感じの曲が出てきて、アルバムでやりたいテーマを象徴するような2曲ができたので、シングルとして先に1回出してみるかという話になりました」
―― では、アルバムの布石という感じの位置付けなんですね。
「自分的にはそうですね。“こういうモードでいきます”みたいな。宣言というか」
――『FREAKS & GEEKS』は同名の海外ドラマがありますね。
「そうです、タイトルはそこからとりました」
――同調圧力への反発がテーマになっていますが、曲が生まれるキッカケというのはあったんですか?
「強いキッカケみたいなのはないんですけど、日々ほんとに感じてること、モヤモヤし続けてた想いが、1つ1つアルバム用の曲として形になっていって。その中でも『FREAKS & GEEKS』と『THE GREAT ESCAPE』は、より焦点が絞られた2曲という感じですね」
――じゃあ、完成したのは同時期くらいですか?
「そうですね、同時期くらいです。受ける印象は多分2曲それぞれ違うと思うんですけど、歌詞の中で歌ってることはほとんど一緒というか、同じ気持ちで歌っています」
“好きなもん好きって言えばいいんじゃん”
――日々感じていた、モヤモヤとした想いというのは?
「僕ら、ナードマグネットっていうバンド名をつけてやってるじゃないですか。“ナード”という言葉はアメリカの80年代の学園映画からきていて。頂点にジョックスがいて、ナード、ギーク(いずれもアメリカのスクールカーストにおける階級の呼び名)がいて……みたいな、スクールカーストがあると思うんですけど、でも何か今の状況は、スクールカーストとかそんな簡単な問題じゃないんじゃないかというふうに、ここ数年は特に思ってて」
―― どういうことですか?
「スクールカーストというもの自体がステレオタイプ。今はステレオタイプにはまらない人の方が多いんじゃないの?と。うまくやれてるような奴ほど、実は腹に一物を抱えているケースもあるだろうし、状況はもっと複雑になっていってるんじゃないかと思って。結成当初、無邪気にバンド名に“ナード”とつけてしまっただけに、ちょっとそこは意識的にならないといけないなと。ナードであることをブランディングするのは、逆に不誠実な気がして。何て言うか、今まで“モテない俺たち”みたいな感じで捉えられてきたんですけど、それも居心地が悪くて。そこだけじゃないしな~みたいな」
―― それは活動の中で徐々に感じるようになった?
「そうですね。だんだんそういう捉えられ方をされることに対して違和感が積もってきたり、あとはやっぱり、そんな情けない男たちが連体感持ってるだけじゃダメだろ!みたいな(笑)。問題はもっと違うところにもあるでしょ?という気になってきて。ビジネス童貞的な嘘くささというか。これじゃほんとに届くべき層に届かなくなっちゃうなと思って」
―― なるほど、童貞じゃないぞと。今、スクールカーストってどうなんですかね。
「もちろん“運動部イケてる”みたいなのは今もあると思うんです。でもそれだけじゃないよなって」
―― 今はSNSやアプリで自分のメディアを持つことができる時代だし、表現も多様になっているので、学校とは別の顔を持つ子も多いかもしれませんね。
「多いと思いますね。あと自分がバンドとして活動していく中で、“バンドマンに言いたい!”みたいな気持ちも出てきてしまって(笑)。“もうみんな好きなことやってくれ!”って」
―― 決められたやり方じゃなくて。
「“みんな音楽好きで始めたんやろ? ほな、もう好きなことやろうよ”っていう気持ちですかね。僕は大学出てからずっとサラリーマンとしてやってきて、最初の3年くらいは営業をやってたんですよ。しかも保険会社の営業で、金と本音と建前の世界でボコボコにされてきてたわけで、すごく汚い世界を見てきたんですけど、その経験があったからこそ“バンドって、音楽って、楽しいな”って、社会に出てからバンドをやり始めた頃の気持ちに、ちょっと戻れたんですよね。でもバンドを大きくしようとすると、業界的な大人の事情に絡めとられる。そういうのがどんどん見えてくるんですよね“俺、こういうのが嫌やからバンドやってたはずやのに、何で音楽の世界でもこんな想いせなあかんねん”っていう出来事がほんとに多くて。大人の事情に絡めとられてる若い子たちも多いですし、それを見てて辛いのもあるし、そういう気持ちも曲に入ってるのかなっていう」
―― なるほど、音楽業界に対しても中指を立てたと。
「“バンドマン、もうちょっと戦おうぜ”っていうね(笑)」
――最初は“やったるぞ”と思ってても、やはり徐々に染められてしまうものなんですかね。
「何かそんな気がしてますね。学校ではスクールカーストが象徴的だから“フリークス & ギークス”というふうに表現しましたけど、学校を卒業しても世の中全体がそういうムードで、それは音楽業界も一緒だったというのが何か嫌だな~と思って。ライブハウスでも画一的なノリを求められるみたいな。じゃあ、そこに乗っかれない子たちはどこにいけばいいんだろう、と」
――この2曲ができた時、他のメンバーさんから意見などは出ましたか?
「特に無いですかね(笑)。ただ、僕の仲良いバンドマンで、グッバイフジヤマの中山(卓哉/vo&g)くんに、音源できたから送ったんですよ。で、聴いてもらったら『FREAKS AND GEEKS』は“すげえ痛快で最高”って言われて、『THE GREAT ESCAPE』は“須田さん大丈夫ですか? 俺ちょっと心配になっちゃいました”って言われました(笑)」
―― 心配された(笑)。
「でも“お前わかってんな”って思って(笑)。『THE GREAT ESCAPE』はほんとにモヤモヤが臨界点に達したぐらいにできた歌詞だったりするので、自分の気持ちを保つために生まれたみたいなところがあって。すごくわかってくれたんだなっていう」
―― 中山さんも同じことを考えてたんでしょうか。
「彼も歳近いですからね(笑)。多分悩みは一緒なんやと思います」
―― 『THE GREAT ESCAPE』の歌詞の中で“最高の計画”とありますが、ナードにとっての最高の計画って何ですか?
「何でしょうねえ。でもやっぱり、ほんとにやりたいことやって、それが大成功したら最高なんじゃないかなと思いますけどね」
―― 今、ナードはやりたいことをやれている感覚はありますか?
「あります。曲に関してはほんとに好き勝手できてます。この時代に流行らないであろう音楽で、これだけやれてるんで(笑)」
―― でも『MISS YOU』以降追い風がきているのでは?
「いやー、わかんない(笑)。もう無理矢理ですよ、意地です」
―― 意地。
「はい。だって世の中的にね、こういう歪んだギターで、テンポもそんなに速くない音楽って、日本のインディーズシーンでも流行ってるわけでもなく、世界的に見ても今はギターの音なんて必要とされてない状況だし(笑)。だから、ほんとにそこは意地ですよね。“でも俺はこれが好きやしなー”みたいな。応援してくれる人がいるのは、そこに共感してくれてるのかなと」
――そういう人たちに向けた曲っていう捉え方もできますよね。
「“好きなもん好きって言えばいいんじゃん”って言いたいですね」
CDにもサブスクにも良さはある
――CD版にはシークレットトラックとしてThe Wellingtonsのカバーが入っていますが、ツアーの帯同されたというところもあっての収録ですか?
「これはもう趣味です!(笑)。ただ“好き!”っていう。もともと僕The Wellingtonsは学生の時、ナード組む前ぐらいから知ってて、普通にCD買って大阪の来日公演とか1人で行ってたんですよ。で、でっかいおっさんがむっちゃ客席で騒いでんなと思ったら、それが今のうちのレーベルの社長なんですよ」
―― そうなんですか、すごい!
「それが巡り巡って僕らもそのレーベルに入って一緒にツアー廻って、みたいな経験ができたので、記録としての意味でもちゃんと形に残したいなと思って」
―― あと特典のDVDが、めちゃくちゃ豪華ですよね。これでこのお値段なんて。
「ですよね。80分くらいあるんですよ(笑)。 MCとかも含めて丸々入ってる。改めて見返すと“こんなこと言ってたな”っていう、僕の暴言も入ってます」
―― (笑)。ライブ全編をDVDに収録しようとなったのも、記録的な意味合いが大きいんですか?
「それもありますし、このサブスク時代に対する抵抗というか。 CDの内容は配信もするつもりですし、そこに背を向けるつもりはないんです。僕もばりばりサブスク使ってるんで、むしろサブスクに入ってないアーティストに腹立つくらいですから(笑)。“ケチくせえな~”と思っちゃう(笑)。そこはそういうもんだろうということで。 CDとしてモノを買ってくれた人にとっては、何か付加価値はあった方がいいじゃないかということですね」
―― なるほど。
「だから可愛いジャケットにしたし。今、ほんとに水道の水を出すように音楽やら映画に触れられる時代なので、その中から宝物を見つける作業だなって思うんです。僕は毎週新しい音楽もチェックしてますし、ほんとに欲しいなと思ったら、 LPで買ったりするんですよね。 LPはやっぱり、モノとしての喜びが1番でかいんです。ジャケットも大きいし、そういう楽しみ方をするのが今の時代なのかなって。リスナーとしての自分の実感がそういう感じなんで、見つけてもらえる宝物を作らないといけないなと思いますね」
―― サブスクがキッカケの出会いは増えていますよね。ただ、アルバムの良さは通して聞かないとわからないし、サブスクだと曲単位になっちゃいますが。
「全然バラバラで聴いてくれてもいいんですよ。アルバム通して聴いたなりのおもしろさもあるよ、要はどっちでもいいよっていう選択肢が良いのかなというのは思いますね。それこそネット上の意見とか見てると、バンドマンに多いんですけど、そこの対立みたいになってるじゃないですか。“ post_11 CDを買ってくれ!”みたいな(笑)。 CDを買うことがものすごく美化されてる。“いや、もうどっちも良いんやで”っていう。どっちの良さもあるから、どちらにも対応できるものを作りゃいいだけの話じゃないかなと思いますね」
―― うんうん。
「テーマ的には結構重たい話もしましたけど、今回の曲も3分以内でサクッと聴けるポップソングですし、別に配信でも聴いてくれたらいいんです。で、何か引っかかって手に取ってくれたら、特典DVDの膨大な量のライブ映像なんかを見たりして楽しんでくれたらいいし、ジャケット飾ってくれてもいい。好きに楽しんでほしいなと思いますけどね。“CDが素晴らしいんだ!!”みたいな圧力はかけたくないじゃないですか(笑)。サブスク派の人には“CDなんかいらねえよ”みたいな人もいるし。でもそういう人にとっては、“こっちにも選択肢があるよ”、みたいな」
――6月23日(土)、24 日(日)には東阪でレコ発ライブ「そうきたかツーマン」が行われます。対バンはシナリオアートとSAKANAMONですね。
「どっちも初の顔合わせですね。シナリオアートは昔オーディションで対バンして以来なので6年ぶりですね。僕らだけメジャーデビューしてないんですよね(笑)。SAKANAMONはほんと初です。僕ら結成12年目なので、暦でいうと近いぐらいやと思うんですよ。だからこっちはずっと“良いバンドがいるなあ”と意識をしてたんですけど、交わることもなくずっときてたんで、やっと交わるタイミングがきたなという感じです」
―― どんなライブになりそうですか。
「ほんまに“そうきたか”っていう組み合わせなので、多分僕らのこと初めて見る人も多いんじゃないかなと予想してるし、且つ、僕らの企画の時はお客さんの熱気がすごいことになりがちなので、ホーム感とアウェイ感ががうまいこと混ざったらおもしろいなと思いますけど」
―― そして近々アルバムが出ると期待しても?
「鋭意制作中です。いつ出るかはわからない(笑)。だんだんピースは揃ってきてるんで、あとはレコーディングをどうしていくかとか、最終的にまとめ上げる作業にそろそろかからないとなという。僕的にはほんとに大事なものができそうなので、期待してほしいです」
―― 夏もフェスや忙しくなりそうということですが、活躍を期待しております!
「ありがとうございます! 忙しくなりたい!」
(2018年6月21日更新)
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