愛加那になって紡いだ奄美の言葉をピアノと三味線に乗せて――
城南海インタビュー&動画コメント
シマ唄の歌い手、そして高い歌唱力で知られる城 南海が、12thシングル『西郷どん紀行~奄美大島・沖永良部島編~』を6月20日(水)にリリース! この作品には、人気大河ドラマ「西郷どん」の放送後に物語の舞台となる地を紹介する「西郷どん紀行」のテーマ曲と、「西郷どん」の劇中歌に新たに詞を付けた楽曲、さらにその三味線での弾き語りが収録されている。今作は全編、奄美の方言で綴られ、奄美の自然や西郷隆盛が活躍した時代を感じさせるのだが、このほかにはない世界観はいったいどのように生まれたのか? ボーカルはもちろん、その詞も三味線も手掛けた本人に話を聞いた。
――ニューシングル『西郷どん紀行~奄美大島・沖永良部島編~』ですが、まず歌詞の方言にびっくりしました! まるで外国語のよう(笑)。
「そういうオーダーをいただきまして(笑)。“理解できる”というより完全に方言に徹してほしいということだったんです」
――これは、城さんの故郷の言葉と同じなんですか?
「違うんですよね。奄美の北の方に龍郷っていう集落があるんですけど、そこが愛加那さんの生まれ育った所で、西郷さんとも暮らした場所なんです。そこの言葉で書いてほしいということで…。少しは(龍郷の方言も)わかるんですけど、ちょっとした言い回しとかは違う部分がありますね」
――では、方言の勉強を?
「そうですね。シマ唄(奄美地方の伝統音楽)の唄者さん(シマ唄の歌い手)がいるんですけど、その方に龍郷の唄者の平さんという方につなげてもらって、電話でお話ししながら書きました。まずは最初に標準語で作詞をして、そこから平さんにFAXをお送りして、その後にお電話して“今からこれを方言にするよ~”(平)って言われて、発音も教えてもらいながら書いていきました」
――発音も違うんですね。
「違います。“え”と“い”の間とか、“んむ”っていう音とか、なかなか言い表せない発音があるんです。そういった細かいところも歌う時に大事にしたかったので、“む?”“も?”“ん?”って電話で聞きながら(笑)、“うむ……あ、んむ?”(城)、“そうそうそう!”(平)とか言いながらでした。たぶん、ファンの方は歌詞を見るまでは何て言ってるかわからないと思います」
――実は歌詞を見ていてもわからなくなる時がありました(笑)。
「本当ですか(笑)? でも、ふりがなをふらないとわからない漢字もありますよね。今、ちょうどふりがなを入れてたんですけど、“む? むえ? んえ? むい? むえ?”って、どう書いていいのかわかんないという……(笑)。ふりがなも難しいです」
――でもそんな外国語のような響きなので、“島妻”という愛加那さん(「西郷どん」の登場人物で、西郷隆盛が奄美大島に潜居した時期の妻)の悲しい運命を描いていても悲壮感は少ないというか。でも多少歌声に“怨念”は感じました(笑)。
「感じました(笑)? 愛加那さんになりきって歌ってくださいっていうお話をいただいたので、アンゴ(島妻)は島の女性の定めでも文化でもあるし、西郷さんと離れなくちゃいけない辛さもあるし…。そういう葛藤もイメージしながら書いて歌いました」
――西郷さんや愛加那さんのことも勉強されたとか。
「そうですね。奄美でお世話になっている方に電話をして、“誰か西郷さんや愛加那さんに詳しい方いませんか?”って聞いて、島の歴史をまとめていらっしゃる麓さんという『あまみエフエム』やライブハウスを経営してらっしゃる方などにつなげてもらって、みなさんにいろんな話をうかがったんです。でも基本的には資料が残ってないんですよ。だからちょっとだけ残っている西郷さんが残した短歌や、愛加那さんが暮らした地域に伝わる話から想像を膨らませて作詞をしました。話をお聞きした方々も“想像で話すしかないんですけど”っていう前置きがあって“こういう風だったんじゃないかな?”って話してくださいました」
――話を聞いてどうでしたか?
「最初は愛加那さんと西郷さんが一緒に暮らしたのが、たった3年っていうのも知らなかったし、生まれたお子さん2人も薩摩に行ってしまったっていうのも知らなくて……。で、お話を聞くうちに、島で暮らした生活はすごく幸せだったかもしれないけど、その後は辛かっただろうなって思いました。また男性と女性では目線も少し違って…。お話は男性1人と女性2人にうかがったんですけど、女性の方は“やっぱり母としても女性としても辛かったと思うよ。お子さんとも別れなきゃいけなかったから、2度の別れがあったからね”って。その話は聞いていて胸が締め付けられましたね」
――ちなみに男性の方はどんな話を?
「男性の方が教えてくださったのは、西郷さんが残した短歌のことなんですけど、“島を離れるけれど、自分は薩摩に帰ることができるというワクワクな気持ちが歌に出てしまっている”っていう……(笑)。でもそれはやっぱり薩摩を、日本を動かしていく者の力強さが出ているっていうことですよね」
――そうですね。当時の文化もありますしね。でも今は不倫がニュースになる時代だからなかなか同じ感覚にはなれないですよね(笑)。
「そうですよね~(笑)。だから、あまり歴史の表側には書かれてないけど、西郷さんも愛加那さんと結婚する前にもいろいろあったとかいう噂も知って、“え、そうだったんですか!”っていう……ま、本当かどうかは定かではないですけどね(笑)」
――では、愛加那さんに対して思うことは?
「まずは、自分の大事な人にやりたいことや、その人が行くべき道があったら、自分だったらどうするかな?って考えました。温かく見送ってあげられるかな?とか。そう思うと、愛加那さんはすごいなって感じますね。子どもが2人もいて、私だったら“一人、置いてかないでよ!”って言いそうだなって(笑)。でも当時は奄美だって薩摩の圧政下にあったわけでもあるし、何も言えないのかな?とも思ったり…。詞は、そういう時代の島のことも考えて、愛加那さんの気持ちになってみたうえで出てきた言葉ではありますね」
――曲からは芯の強い女性像が浮かびます。
「そこは憧れですね。実際、島の女性は強いし、島では女性が神様っていう立ち位置なんです。自分が神様になって男性を見守ってあげるという島の文化。だから自分もそうできたらいいなっていう部分もありますよね」
――女性が神様というのは、女性が神職を務めるということ?
「そうです。奄美も沖縄もそうですね。でも奄美の方がそういう面が強いかな。ユタ神様とかノロ神様とか言われる、いわゆるシャーマンという立場の方たちはだいたい女性です。たまに男性もいますけど。その流れで姉妹(うなり)神信仰っていうのがあるんです。歌詞にも姉妹神という言葉が出てくるんですけど、それは、男性が漁に行く時は、女性は鳥に変わって“あの白い鳥は姉妹神だよ。鳥に変わってあなたたちを守ってますよ”という詞なんです。そもそもシマ唄は奄美では女性に合わせて作られていて、歌い方も三味線の弾き方も高くて女性用なんですよね。沖縄では男性に合わせているんですけど、やっぱり奄美は女性を立てるというか、神様としての存在であるっていうところからですよね。歌の原点は祈りじゃないですか。だからそういう点でも女性に合わせた歌が生まれて来ているんです」
――なるほど。女性が神様的な存在だとしても、海外のようにレディーファーストということとは…。
「また、違いますね。九州とかもそうですけど、男性を立てるじゃないですか。だけど、実際は裏では女性が…(強い)っていう(笑)。奄美は女性が元気です。頼もしいです!」
――表題曲『西郷どん紀行~奄美大島・沖永良部島編~』は、そんな女性の強さもボーカルに感じましたが、c/wの『愛加那』や『愛、奏でて』(「愛加那」の三味線弾き語りバージョン)では、やはり女性の繊細さや弱さが出ているような。
「はい。やっぱり(愛加那さんの気持ちになると)寂しいなって思っちゃって(笑)。曲をいただいた時、お月様の下で愛加那さんが大島紬を織りながら西郷さんを思っている風景が思い浮かんだんで、それを書きました。西郷さんが残してくれたお家でサンゴの石垣に囲まれて…っていう。(西郷さんと子どもが)薩摩に行ってからもずっと一人で暮らして亡くなったというのは、どれだけその(西郷さんと暮らした)3年間のことを思い返しながら生きているんだろう?って本当に思いますよね」
――せつないですね。さて『西郷どん紀行~奄美大島・沖永良部島編~』では、日本を代表するジャズピアニストである山下洋輔さんと共演。
「もともとこの曲は『敬天愛人』というタイトルで「西郷どん」のドラマで流れていたんです。で、そのオケを事前に資料としていただいていて…。でもオケとピアノ1本ではまったく違うだろうなって思いながら、山下さんとはレコーディングの日に初めてお会いしたんです。なので、その日までどういう化学反応が起きるのかが、私もあまり想像できなかったんですよね。で、当日は練習やリハーサルなく、“はい、じゃお願いします!”の“よーい、ドンッ”という感じだったので、一音一音刺激を受けながら歌を紡いでいくような感覚でしたね。ドキドキでした(笑)。山下さんは、私がどう歌っても包み込むようにフォローしてくださって、気持ちよく歌わせていただきました」
――そして弾き語りの『愛、奏でて』は、すごくライブ感がありますよね。
「そうですよね。実は何もいじってなくて、そのままその時の音が収録されています」
――三味線はゆったりと音も少なめですよね。
「少ないですね。最初、弾くかもしれないし弾かないかもしれない……みたいな感じで、“一応、三味線持って行きます”って感じだったんです。そしたら“せっかくなんで、弾き語りしてもらっていいですか?”ということになって……(笑)。“じゃ、時間ください”って5分ぐらい練習してやったテイクなんですよ。それくらいピュアな音源です」
――先程話に出たように愛加那さんの寂しさを表している曲ですが、不思議なことに聴き続けているとそんな感情とは離れて日常に溶け込みますね。島の音楽はそういうものなんですかね。
「そうですね。生活に根付いてますもんね。辛い歴史のなかで生まれた音楽なので、もともとは祈りだったとしても、今も残っているものだから恨みとか悲しみを歌うというより、その状況のなかで島の人たちがどう生きていくかや、どういう風に(歴史や伝統を)教え守っていくかが重要視されていて…。だから聴くとそういう感じになるんだと思います」
――さて、ツアー「ウタアシビ2018夏」が6月30日(土)からスタート。会場限定で初ミュージッククリップ集を販売するんですよね。
「そうなんですよ。全17曲、今まで作ったミュージッククリップがすべて入ります」
――書き下ろしの新曲も収録されたとか……。
「そうなんです。『ひとつになれたなら』という曲です。私の子供の頃を振り返って、大好きな浜辺で寝そべっていた風景を思い浮かべて作りました。大好きなマジックアワーという時間帯があるんですよ。夕方、空と海が同じ色になる、夕陽が沈んだ後の数分間。そのマジックアワーを思い浮かべながら“自分の愛しい人に、この時間だけ自分の思いを届けられたら”っていう、愛しい人を思って歌うロマンチックな曲です。ツアーでも歌おうと思っています」
――ツアーのある夏は、そんな浜辺を描いた曲やシマ唄にぴったりの季節。
「そうですね。今回は夏ならではのコンサートにしたいと思います。昨日、セットリストを決めてたんですけど、これまでとはまたちょっと違う雰囲気になってくると思いますよ」
――では、少しヒントを!
「そうですね~。バンドもガラリと変わります。だから音楽的なアプローチも変わったり。あと、来年デビュー10周年も控えていて、改めてデビューした頃の楽曲もやりたいなと思います。もちろん夏らしい曲や、まだライブで披露してないカバー曲も! みなさんと“ウタアシビ”しながら楽しいライブにしたいと思います」
text by 服田昌子
(2018年6月19日更新)
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