4年ぶりのフルアルバム『1985』をリリース
初のセルフプロデュースとなる本作が生まれた経緯、
ライブを軸に据えた活動姿勢、その確固たる想いとは
森恵インタビュー&動画コメント
繊細かつエモーショナルなボーカル、胸に染み込む歌詞の世界観、生の質感を大切にした演奏…、様々な角度からじっくりと、何度も聴き込みたくなるアルバム『1985』。4年ぶりのフルアルバムであり、初のセルフプロデュース作として挑んだ森恵のニューアルバムである。'16年から制作をスタートした数十曲のデモの中から厳選された新曲に加えて、インディーズ時代から人気の高い代表曲『そばに』のセルフカバーが新録で収録。フォーキーでロックな音楽性をベースに、ブラスロックやアコースティックインストなども聴ける渾身の全14曲が詰まっている。これまで一緒にライブを重ね、確かな信頼関係を築いているツアーバンドを中心に、ゲストミュージシャンには斎藤誠、小倉博和、村田陽一を迎えてレコーディングを敢行。松井五郎氏が全面的に監修した歌詞は、よりドラマティックな展開と印象的な描写で聴き手の心に響いてくる。“1985”とは、森恵が生まれた年でもあり、今作が“新たな森恵の音楽のスタート”となるシンボリックな意味も込められているようだ。何よりライブを軸に生きるシンガーソングライターとしての決意とリアルな思いをじっくりと語ってくれた。
――『1985』は、フルアルバムとしは4年ぶりですね。この4年を振り返っていかがですか?
「結構あっという間ではあったんですけど。すごくライブをメインにしてきた中で、エレキギターを持ってパフォーマンスするという変化もあって。次に作る作品をどうしようかな?って考えながら過ごしていましたね」
――タイトルの『1985』というのは、森さん自身が生まれた年でもありますが、音楽的にもより原点に立ち返った作品ですか?
「80年代に生まれてきた音楽作品の良いところを自分の中に吸収していくというのはあったんですけど。そこに戻るとか、自分が音楽を始めた頃に戻るということはしなかったですね。その頃学んだことは確かにあったんですけど。それより、今の自分がやりたい音をどういう風に形にしていくか、新しいものをどんどん生みだしていきたいっていうことの方がすごく強かったので。(原点に)立ち返るというよりは、今の自分をすごく見ていたっていう意識のほうが強かったですね」
――今作の取り組みの中で、今までと比べて一番大きな変化は?
「自分の音楽をここまで第三者の目で見るようになったのが一番大きな変化ですね。この曲の主人公だったらどういうアプローチで歌っていくんだろう?とか、どういう風に夜を過ごしているんだろう?とか、そういうイメージもすごくするようになったし。自分がこういう音楽を求めているからこういう音になりましたっていう気持ちが今まで以上に現れた作品になったと思うんです。エレキを持ってツアーをまわっていくことが多かったので、その中でメンバーと音楽で会話していく感じというか、もっとエレキをかき鳴らす方がかっこいいんじゃないかとか、その方がグルーヴが生まれるんじゃないかっていうのをライブで体感してきたので。ライブでのセッションっていうのが、すごく気持ちよかったし、そこに参加したいっていうのがすごくあったので。そういうライブの楽しさをもっともっと作品としても作ってっていきたいっていう気持ちが一番に強く現れてきた、今だからできたアルバムですね」
――第三者の目でご自身の作品を見るというのは、今作がセルフプロデュースだからこそですよね。セルフプロデュースはいつかやってみたいと思ってたんですか?
「この4年間の中で生まれた気持ちですね。次にリリースする時は、自分がいいと思う楽曲が集まった段階でアルバムとして出したいという思いがあったので。それをするためにはアレンジャーさんやプロデューサーさんを決めていると大変な作業になるので。アレンジも含めて自分が手がけていった方がより音の追求ができるかなというのがあったんです」
――レコーディングのメンバーは?
「今回一緒にツアーを回っているメンバーだったり、以前から一緒にライブをやってるメンバーとやりたいと思っていました。そのメンバーがいれば大丈夫だっていう安心感もあったんです。音楽に対する信頼関係がすごくできていたので。ただ、どこまで自分の中にある音楽性を表に出していくことができるのかという怖さみたいなものは、最初はありましたね」
――でも、やるならこのタイミングだと?
「今しかなかったですね。うん、自分で作ってみたいっていう気持ちは強かったです」
――ツアーバンドのメンバーとレコーディングするのも初めてだったんですか?
「初めてでしたね。今までの作品でレコーディングしたこともあるんですけど、ツアーをまわる前提ではなかったというか。このメンバーとこういう感じのライブをしてツアーをまわっていきたいからこのメンバーに頼みましたっていうアプローチの仕方は初めてでした。ライブに対するイメージもすごく湧くようになりましたね。このメンバーだったらこういう風にやってくれるだろうっていう安心感と期待感と、それ以上のものを返してくれるメンバーでもあるので、すごく充実したレコーディングでしたね」
――森さん自身はアコギの弾き語りからスタートしていますが、バンドと一緒にライブをやるようになってどれぐらいになりますか?
「デビューした時からバンドでやることはあったんですけど、パーカッションとピアノのアコースティックスタイルでまわることが多くて。ここ2、3年の間に自分がエレキを持って弾くようになってからバンドの編成も増えてきたので、ここ数年で変わってきましたね」
――今作の収録曲は2016年頃から、数十曲作られていた中から厳選されたそうですが、『そばに』(M-5)という曲はインディーズ時代からの代表曲なんですね。
「そうですね。インディーズで歌ってきて、ライブでのリクエストもとても多い楽曲なんですよね。'08年ぐらいにできた曲で、ずっと歌い続けてきて、この曲で私のことを知ってくださったファンの方もとても多いんです。CDで聴きたいですっていう声もたくさんもらっていたんですけど、今は手に入らないCDなので。セルフプロデュースであれば、自分の楽曲をリメイクできるチャンスだなと思って、今回入れることにしました」
――この曲ができたきっかけは?
「祖父が亡くなった時に作った曲なんです。歌詞の中に具体的には出てこないんですけど。失ってから気づいてしまう人間の悲しさというか…。そういうのをすごく味わった時に作った曲なので。この曲を聴いてもらう人には、そういう悲しみを感じることがないようにという願いを込めながら作った曲ですね」
――それ以外は2016年以降にできた曲?
「そうです。一枚のアルバムの中で、ライブに来た感覚を味わってほしいっていうのがすごくあったので。結果的にいろんなタイプの楽曲が出てきて、ブラスロックもあれば、バラードロックもあったり、エレキがすごい歪んでる楽曲があったり、自分の中では新しい試みをいろんな形で詰め込むことができたかなと思います」
――インストも2曲入っていますね。
「インストの曲を2曲入れたのも初めてです。タイトルは自分が使ってるギターの型番なんです。『#M-D18(ディーイチハチ)』(M-4)っていう方は、インディーズの時に買ったギターで、『#M-0018(ダブルオーイチハチ)』(M-10)は去年手にした新しいアコギです。若い音とずっと弾き続けていた重みのあるギターの音と音色の違いを差別化してレコーディングしました。そういう風にギターの音を自分の腕一本で聞かせていくっていうのは初めてだったので、ドキドキしましたけど、楽しかったです」
――そういうところにも森さんのギター愛が詰まってるんですね。
「そのギターの持つ音をちゃんと出せるようにっていうか、ギターが歌うようにっていうのはすごく意識していて。その2曲は自分で宅録したんです。他のエンジニアさんが録ってくれた曲と比べて遜色ないように、音質も高いものにしたいなと思いながら録ってました。ブックレットを見てもらうと、レコーディングエンジニアの名前が私になっているんですよ」
――『確信犯』(M-2)は80年代の歌謡曲を彷彿とさせるキャッチーさがあって。
「その曲は、ライブでよりテンションが上がる楽曲を作りたいというのを意識して作ったんですけど。ブラスのフレーズ自体は、私のデモの段階ではコーラスで作っていたんですよ。でも、そのフレーズをスタッフに聴いてもらった時に、これをブラスにしたらかっこいいよね?っていうアイデアが出てきて。それもカッコイイなと思っていたら、村田(陽一)さんから私の曲を聴いて気に入ってもらったというご連絡をいただいたんです。これは運命だと思って、お願いすることになりました」
――『プランクトン』(M-6)のちょっとダウナーな感じもいいなと思いました。他とは明らかにテイストが違ってて。
「ああ、こういう浮遊感のある曲は今まで私の中にはなかったので。私も結構気に入ってる曲なんです。歌詞を書いてくださった松井(五郎)さんも、洋楽っぽいって言ってました」
――これは言葉数が少なくて想像力が膨らむ歌詞ですね。
「そうなんですよね。日常の一部を切り取った感じで。ただすごくリアルというか…。サウンドは浮遊感があって、そういう世界観に浸れる感じが私はすごく好きですね」
――歌詞の方もいろんな思いが詰まってるようで。1曲目の『Around』は、森さん自身の決意が歌われているのかなと。
「『Around』はアルバムを作りたいと思って、最初にできた曲なんです。なので、決意というものは一番に現れていますね。全然意識したわけではないんですけど。素直にそういう気持ちを表すことができたなと」
――自分を奮い立たせるために書いた曲?
「ああ…、そうですね、その時の自分に満足してなかったので、そこから脱却したいじゃないですけど、そこから何か新しいことを始めたいし、始めなきゃいけないっていう気持ちで書いていましたね。そういう新しいことにチャレンジしていこうっていう気持ちに反する不安や矛盾を包み隠さずじゃないですけど…、感じたことを書いています」
――「祈るだけじゃ望むものは 掴めはしない永遠に」という一節にもハッとさせられます。
「そうですね。願いって、強く願わないと叶わないんですけど、行動に移さないと絶対にそれは形にはならないものなので。それはダイレクトに書いたんですけど。自分が変わりたいんだったら、自分が動くしかないっていう心境だったんだと思いますね」
――『いつかのあなた、いつかの私』(M-3)の歌詞も印象的です。
「『いつかのあなた、いつかの私』は、曲の中に込めた願いというのがより強く表すことができました。自分がこうありたいとか、大切な人のために何かしたい、支えになりたい、そういう願いを込めている曲なので」
――この曲はどういう人に向けて歌いたいと?
「う―ん、やっぱり苦しい時とか悲しい時って、誰かにそばにいてもらいたいけど、一人になりたい時もあったり…。苦しいことをなくすための解決策があればいいけど、今は解決策を探すんじゃなくて、ただ悲しさや苦しさを共有してほしいっていうことがあって。女性は特にそういう思いを持ってる人がたくさんいると思うんです。音楽も聴けないぐらい苦しい時もあったりするし…。そういう苦しさから離れたいとか、楽しいことをもっともっと見つけていきたいなって、少しでも思った瞬間に寄り添える曲でありたいというか。それが歌い続けてる理由っていうか。そういう状況にいる人がいたら、その人の支えになる曲であったらすごく嬉しいなって思いますね」
――森さん自身もそういう辛い時期を経てきて、今も歌っているということでしょうか?
「もちろん、悲しいことも悔しいこともたくさんあった中で、やっぱり支えてくれる家族や友達も、スタッフの方もいたので。ステージに立つと、ファンの方からそういう思いは伝わってきます。そういう支えになってもらえた瞬間瞬間っていうのがたくさんあったので。次は私がその支えになりたいと。歌を歌っているとそういう気持ちが積み重なってくるので。今、その思いを曲にして出しました」
――一曲一曲、とても丁寧に作られているのが伝わってきて、いろいろな角度からじっくりと聴きたい作品です。
「ありがとうございます。こういうインタビュー記事を読んでいただいて、記事に書いているのはこの部分なのかなと、発見するために何回も聴いてもらえると、また違った気づきも絶対あると思うので。リピートして聴いてもらえるといいなぁと思ってます。作る上での苦労はたくさんあったんですけど。それを超える幸せな時間もたくさんあったので。そういう時に生まれた曲をもっともっとファンの方に聴いてほしいなぁと思いますね。そして、ライブに来たいと思って欲しい。なんのためにアルバムを作るかっていうと、ステージでメンバーと作った音と思いを来てくれてる方と共有するためなんです。その楽しさを楽曲を聴いてより高めてもらうために、たくさんの人に届くようにと思って作っているので」
――聴く人によっても受け取り方も違うだろうし、森さんの歌を聴かれる方は年代も幅広そうですね。
「そうですね、大人の方も多いですし、最近は大学生や中学生も来てくれたりするので。このアルバムでまた聴いてくれる人が増えたらいいなと思ってます」
――「MY COUNTRY ROAD CONCERT 2018 “FOLK ROCK LIVE”」は大阪では初めてとなる、特別な編成のライブということで、とても楽しみです!
「キーボード、ドラム、ベース、ギター2人に、ブラス3管で、私も含めて全部で9人です。PAさんやローディーの方も含めて、確かな信頼関係ができているスタッフさんとでしかできないコンサートです。なんばHatchではこのアルバムの全曲をやります」
――その後も、全国バンドツアー「FOLK ROCK LIVE TOUR 2018 “Rock LIVE”」、弾き語りツアーと続いていきますね。新作はライブのことを考えて作られたアルバムでもあり、やはり森さんはライブが一番の軸になっているんですね。
「そうですね。ライブでしか感じられないものが必ずあるので。絶対に楽しんでもらえると思います。そして、ライブで自由に心を解放してほしい。ライブって、もちろん歌を聴きに来てくださっていると思うんですけど、思いのままに音に身体を預けて動いてみたり、テンションが上がった時に叫んだり、自分の思いを吐き出せる場所だと思うので。みんなが吐き出した熱とか思いっていうのがステージにも伝わってきて音楽に変わっていくので、自由に楽しんで、一緒に音楽を作ってくれたらいいなと思います。このアルバムの楽曲はそういう吐き出せるポイントを作った部分はあるので。より自由にしてもらえればいいなと思います」
text by エイミー野中
(2018年5月 8日更新)
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