シンプルに、よりストレートに―― 自身のアトリエにてレコーディング&トラックダウンまで行った 4年ぶりのフルアルバム『The Harvest Time』について語る Caravanインタビュー&動画コメント
Caravanみずからが設立に携わった所属マネージメントオフィス、株式会社HARVESTの設立10周年を記念し作られた久々のフルアルバム『The Harvest Time』が素晴らしい。作品リリースの有無にかかわらず年中全国どこかのライブハウスや喫茶店、バー、あるいはフェスのステージで歌い、制作したアルバムはライブ会場や通信販売、限られたショップの店頭からCaravanの音楽を求める人のもとへ届いていく。音楽家としてその独自のやり方を選び、昨年で節目といえる10年を迎えた。豊穣の時季を迎えまた次の実りの日々へ歩き始める今の心境や、旅の途中で見た情景、忘れられない瞬間を刻み付けた14編の音楽。このアルバムを携えたバンド編成によるツアーが4月6日(金)梅田BananaHallよりスタートする。前作『Homesick travelers』以来、3年ぶりのCaravan登場です。
自分なりの価値観を音楽に入れたかった
――今日ここに来る電車の窓から景色を見ていて、自分は今どこかに旅に出ることはできないし、Caravanさんの歌に出てくるテキサスにもカラカスにも行ったことはないんですが、この場に居ながらでも旅はできるんだなと思わせてくれる14曲でした。そう思える瞬間が愛おしく感じるようなアルバムです。
「そうなっているといいですね。思い返せば、自分もライブではおかげさまでいろんな場所へ行っていますけど、個人的な意味の旅は行ってないですね。ただ、実際に身体は移動しなくて想いを飛ばすことがいちばんの旅っていうか、イマジネイションできる場所が増えていくことが旅の醍醐味だと思うんですよね。いつか行ったあの場所は今どうなってるかなとか、あの時会ったおじいちゃんはどうしてるかなとか、あそこで話した少年は今幾つぐらいになってるのかなとか。そうやって想いをはせるのも心の中の旅ですよね。日々いいことばかりじゃないし、うまくいくことばかりじゃないし、モヤモヤすることも多々ありますけど、そういう中で音楽を聴いてる数分間とか、映画を観ている数時間、本を読んでる時間だけは、ここじゃないどこかへ連れていってもらえる。それはエンターテインメントの役割でもありますよね」
――3曲目の『HEIWA』は、“ピース”じゃなく“HEIWA”=平和というタイトルなんですね。
「ラブ&ピースって昔からよく言いますけど、“平和”って言葉と“ピース”ではニュアンスが違う気がするんですよね。日本語に訳すとピース=平和ですけど、“平和”って言葉それ自体がいい言葉だなと思っていて。自分も音楽で平和とか自由とか歌ってきましたけど、一体それって何だろうというのをすごく思うことがあったんですね。それをさらにもっとわかりやすく噛み砕いて人に伝えたい、自分なりの価値観を音楽にちゃんと入れたいなという想いが今作は強くて」
――それぞれに大事なものが違って、ぶつかることもあるけど、いつか混ざり合うことができたら― ― そう歌われていますね。何気ない思いをつづられているように聴こえて、実は核心をついていると思いました。
「難しいことでもあると思うんですけどね。かといって“みんなで一つになろう”みたいなことではなくて、みんなバラバラでいいし、みんながそれぞれに違うから成り立って、雑多なんだけどバランスしてる。それが平和だと思うんですね。みんなで一つになるんじゃなくてバラバラな感じがいいし、その感じがどうしたらできるのかを考えたら、お互いの違いを認めることなのかなって。自分も間違えるし、あなたも間違える。どっちが正しいとかの答え合わせをしないで、自分も正しいしあなたも正しい。自分にリスペクト、相手にもリスペクトを持ちつつ違いが認められれば。認められなくても相手を知ろうとすることが鍵なんじゃないかなとは思うんですけどね」
――そうやって噛み砕いて、歌にして伝えようと思わせる直接的なきっかけがありましたか?
「ちょうど制作中にマンチェスターでテロがあって。ライブ会場って、自分にとってはさっき言ったことが成り立っているいちばん理想の場所だし、社会の縮図だし、いちばん神聖な場所で、そこでテロが起きたのはすごくショックでした。やるせなかったし悲しかったけど、じゃあテロを起こした人を悪者扱いして攻撃すればいいのかといえば、そうじゃない。でもやっぱり、間違いは間違いで。だけど、じゃあどうしたらこの空気が良くなっていくんだろうって、それを考えていくとやっぱり、お互いを知ることだったり、どうしてそういうことになってしまったのかを知ろうとすることなんじゃないかなって。理解し合えることはなかったとしても、その人のバックボーンだったり歴史だったりを知ろうとすることだと思うんですね。それは世界的な情勢にかかわらず、この場にいるごく少数の人達でも同じで、そういうコミュニケーションを面倒くさがったりインターネットを見てウィキペディアで調べてわかった気になっちゃったり、そのレベルで付き合っているとどこかでちぐはぐになっていく気がするんですね。顔を付き合わせて“どういう人生だったの?”とか“これが好きなの? 俺は好きじゃないけど、どこがいいのか教えてよ”みたいなコミュニケーションをして、“なるほどそういう見方があるんだ”ってなっていくと、その人の趣味に共感はできなかったとしても、理解はできる。そういうことをする努力はすごく大事な気がするし、そういうことを音楽にも落とし込みたいなって」
――私は小学生の子供がいるんですが、子供と一緒に『HEIWA』を聴いたら彼らもこの歌がわかるだろうし、平和について難しい言葉を使わなくても普段着の会話ができるような気がします。
「それはうれしいですね。自分も去年息子が生まれて。それで何かを変えたわけじゃないんですが、昔から子供もおじいちゃんおばあちゃんも一緒に聴ける音楽を作りたいと思っていたし、余計な説明があって成り立つ歌詞は今の自分には歌詞としてあまり響かなくて。“この歌はこういう歌だからこう聴いてごらん”って聴かされる音楽は今の自分には必要なくて、ただ音楽としてスッと心に入ってくるものを聴きたいモードなんですね。だからか、歌詞もよりシンプルによりストレートになってる気はするんですけどね」
――『Travelin’ Light』(M-4)で歌われていることって、Caravanさんにとって一つのテーマでもあるのかなと思いました。“降り注ぐ雨に歌を”“あてのない旅に出よう”と歌われていて、たとえば外は雨が降っていたとしても、何か楽しいことがあれば心は晴れていく―というような。
「おっしゃる通りで、どんなことも最終的にはその人の心の持ちようだったりするじゃないですか? 何でもかんでも持っているけどまだ足りないって思う人もいれば、何も持っていないのに豊かな人もいる。それは結局自分がどう思っているか。結局雨が降ってるからって悲観的になることもできるし、降ってるけど歌でも歌って心だけでも晴らそうよっていうやり方も生き方としての選択としてある。でもいつもそういうモードでいられるわけでもなくて、しゅんとしちゃう日もあるし、それはそれでOK。そういうこともあるよね、というぐらいの感じでいたいですよね」
――この曲で“破れた地図を投げ捨てて”と歌われてて、『Maybe I’m a Fool』では“宝の地図はいらない”とありますね。
「本当だ。今言われて気づきました(笑)。地図って、自分の内側にあるものじゃなくて自分の外にあるものでしょ? こういうふうに道があって、というガイドに過ぎなくて、その道の先へたどり着くかどうかは自分が決めることだし、それも結局心のありようだと思うんですね。俺は単純に自分がワクワクするほうへ舵を取るし、『Maybe I’m a Fool』でいえば、たとえば俺はメジャーレーベルを辞めてインディペンデントになったわけですけど、“お前、そっちに行っちゃうんだ。バカだな”って人もいっぱいいると思う(笑)。でも、自分が決めて選んだ道で、やっぱり自分としては今の方がハッピーなんですよ。手応えもあるし、キャパシティを自分が把握できていて、スタッフとの信頼関係とか自分の充実感でいえば今のチームの方が大きい。バカだなって思う人もいるかもしれないけど、バカなりのアドベンチャーだったり、バカだからこそ観られる景色がある。安心安全がハッピーかといえばそうでもないと思うし、そこは自分の価値観や感覚をよりどころにするしかないと思っているんですね」
自分の音楽が必要な人の所へ、できるだけ無駄なく届けたい
――独立されて昨年でちょうど10年なんですね。
「はい。そうですね。HARVESTは、マネージャーと2人で作ったんですけどそれが去年で10年ですね」
――前回『Homesick Traveler』のインタビューの時は初めてCDを出してから10年のタイミングで、お話の中でデビュー当時に“10年やったら面白くなるよ。だから頑張りな”と声をかけてくれた関係者の方がいたという話をお聞きしました。たとえ周りにいろんな考えの人がいたとしても、10年というのはひとつの結果ですよね。
「やっとスタートラインに行けたというか。自分はソロミュージシャンなので結局ひとりなんですよね。子供の頃にずっとバンドをやっていたこともあってバンドに憧れがあったんですけど、HARVESTというチームは俺とマネージャーとデスクの3人で、この3人が自分にとってはバンドメンバーみたいなものだなって(笑)。そう考えるとHARVESTが結成10年で、バンドでいえば10年続いたらその間にはケンカもあったり、もめごともあったりも経ての10年だったりしますよね(笑)。そういう10年経ったバンドみたいな空気感があるので、ここからまた10年頑張れるかなという布石としてアルバムを1枚作りたかったというのもありますね」
――なるほど。
「3人だから人手は全然足りないし、“大変ですね”って言われるけどしょうがないですよね(笑)。ギリギリな感じではあるけど、CDの発送を手分けしてやったりギリギリでもなんとかやっていけるチームワークというか連帯感でやってますね。HARVESTと出会う前はそれをひとりでやっていたわけだから自分がやっていることは変わらないんですけどね」
――今って音楽の聴き方もいろいろで、ストリーミングで聴く人も多いですし、CDを買ったことがない人もいます。そういう方からすると、音楽配信をしていなかったり流通を通していないCaravanさんの音楽は、探して探してやっと出会う音楽でもあるのかなと思います。
「そうかもしれませんね。YouTubeのチャンネルは作っていますけど(
ChannelHARVEST )、配信もやっていないし聴き放題みたいなのもやってないですもんね。そこはアルバムというものにこだわって、それを欲しいという人に買ってもらいたいという想いがあるんですね。だからワーッと広がることはないと思うんですけど、好きになって探してたどり着いてくれた人は“見つけた!”って感じがあると思う。自分の過去の音楽歴を考えると、そうやって探した一枚っていまだに愛聴盤だったりもするし、時代の流れと関係なく大事にしている作品の一つになると思うんですね。パーセントでいえばそういう人って今は少ないのかもしれないけど、まずはそういう人をちゃんと喜ばせたい。YouTubeで検索するとなんでも聴けるから便利な時代だし、それはそれでいいんですけど、そんなご時世に“CDを買ってみよう”とか、“アルバムで聴いてみよう”とか、もっというと“ライブに行ってみよう”と思う人はかなり踏み込んだ人たちですよね。そういう人たちを喜ばせたいし、そういう人たちに矛盾のないメッセージを届けたいなって思いますよね。やっぱり自分もそっち側の人なので」
――私が最初にCaravanさんを知ったのは、前に勤めていた会社の先輩に勧められたのがきっかけでした。そうやって自分の周りでCaravanさんを聴いている人はずっと聴き続けていますし、自分が良いと思うものを人に勧めたくなるのは聴き手の初期衝動でもありますね。
「それっていちばん嬉しいし、利害関係じゃないピュアな口コミっていちばんリアルですよね。そういうのってプロモーターが何枚も新譜を持って“ハイ、これが今月の新譜です”ってラジオ局や編集部を宣伝して回るのとは違いますね(笑)。自分たちがなぜ音楽をやっているかといえば、音楽に音楽以上のパワーみたいなものをもらったこれまでがあったからやっているわけで、それをモノとして消費されることが切なくもあって。けど、CD=モノではあるし消費される覚悟はしていて、だったら必要な人の所へ出来るだけ無駄なく届けたい。数打ちゃ当たる的なやり方はしないというのが理念としてはあって、求めてくれる人、求めてくれそうな人にちゃんと届けたい。そうしないとごみが増えるだけだしエコじゃないですよね(笑)」
――そうですね(笑)。
「俺の場合は流通も独自でやっているから、カタログみたいなところにラインナップされなくて存在すらできない世界もいっぱいあって。でもそれは逆に言うと自分が存在しなくてもいい世界だから、そこへ目がけていこうとしないというか。自分が当たり前だと思うことを当たり前にやって、そこに反応してきてくれる人がいる。それが自分のいる世界だと思うんで、すべての世界において自分をアピールしようとは思わないから」
同じ曲をやっても毎晩違うし、忘れられない瞬間がある。だからライブは面白い
――アルバムに戻りますと、『Stay With Me』(M-10)、『おやすみストレンジャー』(M-12)のあたりはグッときます。特に『おやすみストレンジャー』の持っている温かみは、マーヴィン・ゲイやカーティス・メイフィールドに通じるような、どんな気分の時に聴いてもなじんでしまう包容力を感じます。いろんなタイプの曲が聴けますが、たくさんある楽曲の中からこの14曲を選ばれたんでしょうか。
「去年1年間、夏ぐらいまで制作していたんですが、曲作りに関しては久々のフルアルバムということもあって楽しみながらやれました。曲順も、“この曲の後には、こういう曲があったらいいな”というふうに作っていったところもあって、若干前後はしますけど出来た順に入っている感じで。“アルバムを作る”という頭で進めていたので、ライブのセットリストを組むみたいに、1曲目にインストが来て、次に『Retro』(M-2)を入れるのは最初から決めていて。その次は……みたいに、大きな1曲を作る感じで、楽しんで夢中になって作ってましたね」
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――『Retro』は重みを感じる曲でした。最初のほうに“一つ運命を受け入れたところ”という歌詞がありますが、生きることと死ぬこと、その二つがとても近くにあることを感じるというか。それが残酷な意味ではなく、重みを持って伝わるといいますか。
「『Retro』は懐古主義みたいな意味なんだけど、これは弔いの歌みたいなのをイメージして作ったんですね。ある男が歳をとっていく中で、いろんな哀しいことも嬉しいこともあっていろんなものを手にして亡くして。いつか、今いる場所から離れる時に、その人はどんなことを思うんだろうって。その日は突然やってくるかもしれないけど、もしも、“この日にあなたは逝きますよ”とわかっていたら? そういうイメージで曲を作ってみようと。終わりを受け入れるのは諦めであると同時に前向きでもあるし、次の始まりになるかもしれない。終わることで見えてくる何かもあるかもしれない。ライブとかでも、“もうすぐ始まる、緊張する”って言ってても、2時間後には終わってるわけですよね(笑)。それを毎晩やっていると不思議な感覚があって、うまく言えないけど毎晩生まれて毎晩死ぬような感じで。音楽なんて形がないですよね。絵を描く人なら絵は残りますけど、音楽は空気が震えるだけで実体はなくて、その時はワーッてなるし余韻は残るけど具体的なものは残らない変な職業だなって(笑)。そうなんですけど、みんなで感動したり歌ったりできて、それが音楽のすごいところで。今もライブのたびに思うんですけど、同じ曲でも毎晩違うし、忘れられない瞬間があるし、逆に忘れたい瞬間もある(笑)。そういうのは面白いですし、お客さんが10人でも3000人でも同じように緊張するし、“もう、やるしかない!”ってステージに飛び出して行って、ライブが終わって帰ってきた時は、同じ人間なんですけど最初にステージに出ていった時とは完全に違うものになっていて。そうやって、毎晩生まれて毎晩死んでる感じはありますね」
――それだけライブ、ステージがCaravanさんにとっての人生といえるんでしょうか。
「そんなつもりはなかったんですけど、ライブは好きだし、音楽を聴くのもやるのも好きだから、ライブというものが人生の大部分を占めるようになってきていますね」
――『夜明け前』(M-13)という曲は、最初にも言いましたがテキサスやカラカスの風景を見るような歌です。そういう旅を経ながら、夜明け前という言葉には何かが始まる前の空気を感じます。
「始まりの気配を感じつつ、まだ暗い、見えないっていう感じの空気感ですよね」
――10周年の節目を迎えつつ、これから先を見据えている気持ちの表れでもありますか?
「そうですね。それはありますね。夜明け前のムードって、真っ暗な漆黒の闇でもないし、朝の眩しさでもなく昼の明るさでもない独特の暗さがすごく好きで。背筋が伸びるというか、期待と不安の混ざった感じというか。そういう独特の夜明け前の感じが好きなんですよね。その曲に続く最後の『In The Harvest Time』(M-14)は、Caravan的な春夏秋冬ソングを作りたいなって。HARVEST=収穫で農夫の1年間のように、種を蒔いて水をあげて、秋には収穫するという情景を描いているけど、自分の音楽活動もそういうところがあって似ているなぁと思いましたね」
――念頭から各地でソロライブも活発に行われていますが、4月6日(金)の梅田BananaHallでのライブはバンドスタイルですね。楽しみに待っているファンの方にひとことお願いします。
「大阪にバンドで来るのも久々なのでぜひ観に来てほしいですね。自分でも気に入ったアルバムが出来たし、是非見て欲しい。ツアーの前にこういうことを言うのもナンですけど、今回のライブに来れなかったお客さんがいたとしても、また歌いには来ますよ(笑)。ライブに来れたり、来れなかったりするのもタイミングによるしお互いの縁でもあります。今回は縁がなくても次回はあるかもしれない。ただ今回のツアーはすごくいいものになりますよ(笑)」
text by 梶原由紀子
(2018年3月15日更新)
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