レベッカ、JUDY AND MARY、SHAKALABBITS…紅一点の女性ボーカルを擁する4ピースロックバンドという形態は、移りゆくシーンの中でポップアイコンと成り得る羨望の席であり、同時にそれは時代にたった1組しか座れない限られた椅子でもある。Amelieがリリースした全曲推しの“フルシングル”『ステップ×ステップ』は、そんな壮絶なサバイバルゲームにエントリーするに十分なポテンシャルを持っていることを証明する1枚だ。昨年、バンドのステップアップと注目度を感じながら、何度となく迎えた悔しい夜を越えて、Amelieが観た景色とは――? ついに開幕する『「ステップ×ステップ」Release Tour ファイナルシリーズ』を前に、mick(vo&g&p)がその心中を語るインタビュー。焦りもある。不安もある。そんな未完成の歌だからこそ、あなたに届きますように。
「お店を回らせてもらったんですけど、展開に愛が込もり過ぎてて、すごく嬉しかったです。全国に味方がどんどん増えてきたし、その親密度みたいなものがどんどん深まってきたなぁってすごく感じました。だからこそ、気合いが入りますね。これだけみんな力を貸してくれてるし、自分たちの音楽に自負はあるので、絶対どうにかしなきゃ、どうにかなるだろうっていう、根拠のない自信みたいなものはどんどん湧き出てきますね(笑)」
「ないし、変わっちゃいけないって多分どこかで思ってて。基本的に私はネガティブなんですよ。けど、Amelieをやっているmickであるためには、自分の日々の生活の中でうわぁ〜って負けそうなときも、“いや、私はAmelieのmickです”って、もう“洗脳”じゃないですけど自分に言い聞かせて、思考がポジティブな方に向くようにしてますね」
「何かヘンに“大人にならないといけないんだな”って思っちゃってた時期からの前のミニアルバム『ドラマチック』('17)の制作だったんですけど、そのツアーは“もっと上がったり下がったりしていいんだ。そういう自分を好きになりましょう”っていう感じだったんですよ。結果、最後のクアトロで号泣したり…むしろそうなれて、よかったなと思って。そういう自分を受け入れてからの方が、よりいろんな感情が入ってきやすくなったかもしれないです。だから、『ステップ×ステップ』('17)はこういう盤になったと思うんですよね。改めてバンドに視点を置いて、4曲ともがバンドを通じて感じたことを曲にしてるので。『ドラマチック』ありきの『ステップ×ステップ』だったんだなって出来上がってみて思いました」
「意味分かんないですけどね(笑)。ミニアルバムの小っちゃい版みたいな感じでもあるけど、一応シングルでMAXの収録曲数だし、じゃあフルシングルって言っちゃえ!みたいな」
VIDEO
負の感情って人を動かすんだなって改めて思いました(笑)
――『朝は来る』(M-1)は、応援してくれてる近しい人から、“いつまでそんな夢見てるの?”みたいなことを言われたところから生まれたと。
「あ!
ブログ 読んでくれてる(笑)。ちょいちょいそのようなことを言われていて」
――複数の人から? そいつから?
「そいつからっす(笑)」
(一同笑)
「“オメェ!”と思って(笑)。めっちゃ応援してくれてると思ってたんですけど、お酒を呑んだときに将来的な話になって、“こんなこといつまでやってんの?”みたいなことを言われて、“はぁ!?”って。本当にショックだったし、クソ!っと思って。なので“どっかの誰かが嘲笑っても”っていうフレーズとかは、そういうところからきてますね。悔しい気持ちとか、怒りじゃないですけど、負の感情って人を動かすんだなって改めて思いました(笑)」
――アハハ!(笑) でも、Amelieの状況的には決して悪くないのに。
「今はすごく恵まれた状況だと理解しているし、ちょっとずつここまで来れたのに、っていう感じだったんですよね。もうちょっとじゃん!って。だから『朝は来る』っていうワードが出てきたんだなぁと思っていて。あと私、レコーディングが好きなんですよね。歌入れも、音がどんどん重なっていくのも面白いし。エンジニアさんが結構プロデュースっぽいことをしてくれる人で」
――SUPER BEAVERとかNakamuraEmiさんとかも手掛けている兼重哲哉さんやね。
「そうですそうです! プリプロでも歌はちゃんと録るんですけど、 “自分にこんな引き出しがあったんだ”っていう感覚をどんどん引き出してくれて、まるで違うんですよ。化けました! 4曲とも全部。『朝は来る』は、最初は“小っちゃいライブハウスでやる、ちょっとロックンロールをかじってるパンクっぽい曲!”みたいなイメージで結構荒っぽく歌ってたんですけど、兼重さんが“この曲は化けるから、歌い方をちょっと変えよう”って。“広瀬すず主演の青春映画の主題歌をイメージして歌って”って言われて(笑)。それでだいぶ変わりました」
――めっちゃ具体的(笑)。『朝は来る』の冒頭の音も、地平線に光が昇ってくるようなイメージで効果的ですね。
「あれはピアノの逆再生で光を表現したんですよ。『エラー』(M-2)は、機材車が車上荒らしに遭ったとき、直人(g)さんがキレちゃって作った曲(笑)。結局、機材も半分ぐらいはリサイクルショップとかで売られてたらしくて見付かったんですけど、私のキーボードは今頃海に沈んでるかな?(笑) 『エラー』の頭の歌が入るところにガラスが割れる音が入ってるのは、機材車を盗んだヤツにファ××の気持ちを込めて(笑)」
――オープニングからライブで盛り上がりそうなこの曲には、そういう怒りが(笑)。
「はい(笑)。多分、今までで一番速い曲ですね。結成当時ぐらいのときは『エラー』みたいなマイナー調でちょっとメロコアっぽい曲が多かったんですけど、(レーベル/マネジメントの)[NOiD]に入ってから、今のギターポップロックみたいな曲を書くようになったんで」
――やっぱり初期の方が激しいというか、ルックスもみんな変わっていってるもんね、特にmickが(笑)。
「そうですね(笑)、はい」
VIDEO
また戻ってきてくれたときに、ちゃんと胸を張って
“うちらが継いでますから”って言えるぐらいになってないとなって
――『step!』(M-3)を最初に聴いたとき、テレビのバラエティ番組で流れて人気が出ていく、そういうお茶の間に愛されるバンドの曲の雰囲気がすごいあるなと思いました。
「わぁ〜い(拍手)。一番速い曲と一番ポップな曲を直人さんが作ってきて、マジで幅が広いなぁと思いましたね」
――ある意味、『朝は来る』と『サイクル』(M-4)は、1つの芯がある気がしますもんね。
「Amelieの王道っちゃ王道ですもんね」
――ソングライターが2人いるバンドならではというか、やっぱりお互いに刺激し合うところはある?
「ありますね。“うわ、またこういう曲を作ってこられちゃった! 私も頑張らないと”みたいにはなるんですけど、そこはムキになると逆にいい曲ができなくなっちゃうから」
――直人さんは、ある種オーダーがあっても作れる作家的な資質もある人っていう。
「はい。私は…できない(笑)」
――ムカつくことを言われた→感情ボーン!!→曲、みたいな(笑)。
(一同笑)
「毎度そんな感じで(笑)。『step!』はミドルチューンのライブ曲がないから作りたいねって言ってたら持ってきてくれて。なのでクラップとかシンガロングが多めに入ってます。すごく人気がある曲で、最近、一番人気があるかも」
――じゃあ、ある意味狙って書いて、ちゃんと刺さったみたいな曲ですね。『サイクル』はmick作曲ですけど、ルーツであるSHAKALABBITSとの交流から生まれたという曰く付きの曲で。
「私はZipper(=女性ファッション誌、現在は休刊)世代なんですけど、中学生のときにSHAKALABBITSとかYUKIさんを聴いてて、Zipperをみんなで群がって見て、“YUKIちゃんかわいいね!”とか言って、待ち受けとかにもして。で、バンドが好きになるきっかけがSHAKALABBITSだったんですよね。高校生になってSHAKALABBITSのコピーバンドを始めて、UKI(vo)ちゃんになり切って、超憧れてて、本当に大好きで。なりたかったですね、UKIさんに。そのうちAmelieを始めて…多分手が届かないんだろうなぁっていう存在だったんです、ずーっと。けど、Amelieを頑張っていく中で、友達がMAH(ds)さんとたまたまつながる機会があって。SHAKALABBITSが打ち上げで友達が働いているお店を使ってくれたみたいで」
――なるほど。そういうところでもつながることもあるもんね。
「で、“私の友達がバンドをやってて”みたいにMAHさんに教えてくれてつながって。時々、私がドーンって堕ちてエモっぽいツイートをしちゃうときがあるんですけど、その直後にMAHさんから長文のLINEが来て。女の娘が歌ってバックに男3人っていう形態のバンドって、レベッカから始まって、ジュディマリ、SHAKALABBITSときて、シャカは止まるし、その後はAmelieだと思ってるよ。この形のバンドの継承者だよ”って…何てことを言うんだこの人は! しかも私、SHAKALABBITSにこんなことを言われてる!って」
――憧れの人からバトンをもらって。
「改めて気が引き締まったし、本当に頑張って頑張って売れて、私の中のSHAKALABBITSみたいな存在に、誰かの憧れに、“Amelieがきっかけでバンドを始めました”とかいう人が出てきたら、超面白いなって。だからこそ、継いでいかないといけないというか、頑張らなきゃなと思って作りました」
――本当に光栄ですね。だってまず接点が持てるだけでも。
「いやぁ、もうアガりましたね。しかも、そのメールをいただいて、曲を作って、スタジオでみんなでアレンジを固めてた段階ぐらいのときに、シャカラビがずっとやってた企画『釈迦兎寄合』にオファーしてもらって」
――言葉だけじゃなく行為でも示してくれて、もう泣けるな。
「泣けますよね。その日もSHAKALABBITS以外の女性ボーカルのバンドはうちらだけだったし、すごい意味があったなと思って。だから、また戻ってきてくれたときに、ちゃんと胸を張って“うちらが継いでますから”って言えるぐらいになってないとなって、思っております」
――今度はAmelieがデッカい企画に誘えるようになったら最高ですね。それが動くきっかけとかになったら。
「やばぁ〜!!(笑) 言いてぇ〜! 最高ですね、それ」
ファイナルシリーズまでにやれることをやって、挑みます!
――『ステップ×ステップ』はここ1年のAmelieの衝動みたいなものが全曲にありつつ、それをAmelieの4種類の持ち味を使って伝えている感じがしますね。出来上がったときは何か思いました?
「マスタリングにもみんなで立ち会ったんですけど、マスタリングエンジニアもビーバーとかSHAKALABBITSもずっとやってきた人で。SHAKALABBITS宛に作った歌を、SHAKALABBITSの音楽をずっと作ってきた空間で、こんな爆音で聴けることってあるんだなって。贅沢な4曲になったなと思ってます」
――タイトルの『ステップ×ステップ』は、機材車がステップワゴンというところからきた『step!』から派生して。
「そうです! その白いステップワゴンへの想いがすごいんですけど、30万キロ走ってきたその機材車を使って『step!』のMVを撮って、廃車です。ステップワゴンの歌が入ってるCDのツアーなのに、その前に引退(笑)」
――ツアーのファイナルシリーズが東名阪でありますけど、名古屋、大阪はツーマンで、最後の東京はワンマンです。ファイナルの渋谷クアトロに関しては、前回のリリースツアーと同じ会場ですけど、満員になってたらステージに出て行った時点で泣くね(笑)。
「泣いちゃいます(笑)。パンッパンのやつ、観たいですね〜クアトロで。今回のタワレコの予約特典(=「Live at Amelie 『ドラマチック』Release Tour FINAL 2017.5.19 at 渋谷 CLUB QUATTRO」)に伝説の『ヒーロー』っていう曲が入ってたんですけど、私、泣いて歌えてないですからね(笑)。歌えなくてみんなに歌われて、余計泣くっていう(笑)。最高でしたね。でも、そういう奇跡の日って作ろうと思って作れるもんじゃないじゃないですか? だからもう本当に毎回全力でやるしかないし、ファイナルシリーズまでにやれることをやって、挑みます!」
――みんなさ、mickを泣かせにライブハウスに行ってくださいって感じやね(笑)。
「アハハ!(笑)」
Text by 奥“ボウイ”昌史