神戸を拠点に活動する4ピースバンド、ムノーノ=モーゼス 1stミニアルバム『CURRY』をリリースし 2月と3月にはレコ発ツアーを開催! 未だ謎多きバンドの正体に迫るインタビュー
シティポップ・ミーツ・青春パンクで“夢の中シティーパンク”を打ち出したり、メンバー全員が7月生まれで“夏の権化”と書かれていたり、そもそもバンド名に“ムノーノ=モーゼス”と付ける人を食ったようなセンスも気になってしょうがない。そんな彼らが1stミニアルバム『CURRY』を2月7日にリリースした。1曲目『no mean』から迸る青い疾走感、山下達郎へのオマージュのような『ドキドキ(しちゃうね)』、歌謡バラード風のムーディで切ない心情が胸に沁みてくる『オールナイト』など、振れ幅があるフレッシュなフレーバーを湛えたナンバーがバランス良く構成された全5曲。ストレートな瞬発力があり、繊細な歌心も感じられるボーカルも耳に残る。良い意味で未完成な青さや素朴さがあり、インディー/カレッジバンドのような遊び心や自由さを持ち合わせているところも魅力的だ。ムノーノ=モーゼスは果たして何を目指しているのか? このバンドの正体を探るべく、若月雄佑 (g&vo)と小玉亮輔 (g)に訊いた。
――ムノーノ=モーゼスっていうバンドはどこか正体がつかみ辛いですね(笑)。
若月(g&vo) 「僕ら、あまのじゃくなところがあるからな(笑)。いろんなところに目を向けながら、いろんなところを避けながら…みたいな感じでやってますからね」
――ちなみに、避けてるところって?
若月 「う~ん、音楽の話でいうと、一回イメージがついたら、そこからどう逃げるかみたいなことを考えますね。『シーブリーズ』(※昨年リリースされた1stシングル)が出た時に、僕ら、“シティーパンクバンド”って言ってたんですけど、最近はあんまり言わなくなってて。そういう見方をされだすと、このままやるのもな…って思って。じゃ、どうやって裏かこうか、みたいな感じになっていく。かといって、失望はさせたくないんで。どうやったら、(聴いてくれる人に)面白く裏切りを歓迎されるかなっていう感じですね。そういうちょっと一言では片付けづらいような二面性というか、多面性みたいな含みがあった方がカッコイイなって(笑)」
――メンバー全員、神戸大学生とのことですが、大学に入った時、将来、バンドでやっていこうという思いはあったんですか?
若月 「多分みんな音楽は好きだったんですけど、コピーバンドしかしてなかったんです。ドラムの小崎は高校の時にオリジナルバンドをやっていて、僕とベースに“バンドやろうや”って声をかけ、ギター欲しいからって、小玉を誘って、それで偶然できたバンドみたいな感じですね。それから、一回スタジオ入って曲を作ろうってなった時に、あ、俺ら曲作れるんや、僕も歌詞って書けるんやな、みたいに気づいて(笑)。最初はライブをするつもりもなくて、曲作ってるだけだったけど、“ROCK IN JAPAN”のオーディションで決勝に残ったりして。このまま突き進めば、面白いことになるんじゃないかと。あと、単純に曲を作ることとライブをすることがすごく楽しいことだって気づいて。そういうシンプルなモチベーションから続けていきたいなって思うようになったんです」
――では、10代の初めからバンドで成功しよう!ってギラギラしてたわけじゃなくて?
若月 「今もギラギラはしてるわけではないですね(笑)。高校の時に軽音楽部に入っていたけど、ずっとボーカルしかやってなくて。もうちょっと幅を広げようと思って高3ぐらいからギター始めたんです」
――小玉さんがギタリストに目覚めたきっかけは?
小玉(g) 「僕は中学3年生ぐらいにギターを始めたんですけど。ASIAN KUNG-FU GENERATIONとか、BUMP OF CHICKENを入り口に、有名なギタリストを聞いてコピーするようになり、だんだん60、70年代の洋楽も聞くようになっていって。その中でも一番影響されたのは、高校の時にずっと練習していたレッド・ツェッペリンのジミー・ペイジとか、スティーヴィー・レイ・ヴォーンですね。でも、今やってるバンドは根本的にリズムが全然違うから。それが直接的に出てるわけではないですけどね」
――そうなんですね。確かに、今回のアルバムでもギターサウンドは特徴的ですね。
小玉 「ああ、自分でもちょっと弾きすぎてるなと思うところがあって、これからちょっと控えようかなと(笑)」
――若月さんが歌詞を書くようになったのは大学生になってから?
若月 「僕、中学校の時は野球部だったんですけど、その頃、ちょっと歌詞を書いてました。誰にも見せられないぐらいのものを(笑)。当時は楽器はできないし、メロディーを口ずさむぐらいだったんですけど。なぜか毎日歌詞を書くっていう習慣があったんですよ。歌うことを意識して書いてましたね。鼻歌みたいな感じで」
――やっぱり心のどこかで自分の歌を歌いたいなっていう気持ちはあったんですね。若月さんのボーカルにはストレートな勢いだけじゃなくて、繊細な歌心を感じます。その中学生ぐらいの時から自分は何を歌いたかったと思いますか?
若月 「何を歌いたかったんでしょうね? でも、僕はすごいメッセージがあるわけでもないんで。中学校の時に書いてた歌詞も自分の気持ちをただ淡々と綴ってた…みたいな感じで。これを伝えたいとかいうのではないですね。なんか、自分が見た景色とか、ちょっと湧き出た感情とかを歌詞にするっていうのが念頭にありますね。好きなアーティストの歌詞を見て、どうやったらこんなに書けるんだろう?どうやったら言葉だけで人をこんな気持ちにさせることができるんだろう?とか思いながら…」
――ちなみにどんなアーティストの?
若月 「やっぱり小沢健二の歌詞は凄い! ちっさい頃はただ口ずさめるのが好きで歌ってたんですけど。大人になるにつれて、どんどん深みが増してきて。あ、こんな意味があったんやとか、引き出しの多さにすごい惹かれますね。音もリズムも歌詞も、すごい量の引き出しがあって。僕も小手先で書くのではなくて、自分がインプットしてきたものから出すことで、そこから僕の人生が浮かび上がってくるみたいなものを書きたいなって思います」
――作詞作曲は若月さんをメインに?
若月 「作詞に関しては全部僕ですけど、『ドキドキ(しちゃうね)』(M-2)っていう曲はこいつ(小玉)が初めて作って、それがいい曲だったので、今後は曲を作る機会も増えると思います」
小玉 「これが初めて作ったオリジナル曲です」
――そうなんですね! この曲聴いてて、Scoobie Doを思い出しました。
若月 「ああ、これは、(山下)達郎の『ライド・オン・タイム』をカバーするScoobie Doって感じですね」
小玉 「なるほど(笑)。僕の中では、シュガー・ベイブって感じで」
――今回のアルバム『CURRY』に入ってる曲はいつ頃できた曲なんですか?
若月 「一番古いのが、『消えない会話』(M-3)で。1年前ぐらいに僕が弾き語りで作った曲。あとの曲は2017年の8月から11月ぐらいにかけて作った曲ですね」
――曲調は結構違いますね。どんな風に作っていったんですか?
若月 「この5曲は歌詞で統一感を持たせたかったんです。僕の、ちょっと後ろを振り返りがちな性格と前を見ないといけない現状みたいなものが歌になっていて。ミニアルバムを作ろうってなった時に、2曲目の『ドキドキ(しちゃうね)』と、4曲目の『オールナイト』をメインに据えて、5曲入りぐらいにしようと思って。他にも3~4曲ぐらいあったんですけど、その中から『消えない会話』を入れて、『no mean』(m-1)と『EASY GO』(M-5)はアルバム用に作った曲ですね。『no mean』は、『シーブリーズ』みたいな勢いや青臭さを残して、BPMを早くしたシンプルな構成になってます」
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――『no mean』の歌詞は即興で書かれたような印象です。
若月 「確かに。Aメロに関しては僕の現状とか、一瞬で移り変わるものを詰め込んだような感じで、サビは結構前からあって、このアルバムをまとめられるようなフレーズかなと思います。待ち合わせのところに待ってる人が来ないっていう状況で。それは辛い状況なのに、気分は浮わついているっていうか、ちょっと現状打破できるんじゃないかっていう希望感みたいなのがあって、そこから、世界は変わってくるみたいな意味も含まれてて、この曲の中に1曲目から5曲目までの流れを総括してる。スタート地点として、ここで言い切ったって感じですね」
――聞いてパッとわかるよりも、ちょっと謎解きしたくなる感じもあります。
若月 「自分の中にしか答えがない謎かけみたいなのもあるんですけど。そういう余白を残すことで、聴く人も想像できるものがあると思うんですよね。聴きながら歌詞カードを読むと、歌っているのとちょっと違うところもあると思うんですけど、そういう部分もあえて残してて…」
――『オールナイト』はけっこう沁みてくる曲ですね。これは“別れ”を歌ってるのかなって。
若月 「“別れ”を決意しなくちゃな…ぐらいな気持ちですね。このままじゃダメだよな、みたいな。今は今ですごくいい時間だけれど、今以上っていうところでいうと、現状維持でも頭打ちするというか。いずれやっぱ限界がくるんじゃないかなっていうのに気づいて。じゃ、その次はどうしていこうかみたいなところを歌ってますね」
――この曲って、作る時に何かイメージしたものはあるんですか?
若月 「あります。松田聖子とか歌謡曲が好きなんで(笑)、そういうところかな…」
――ほ~、そういう王道感が普遍的な郷愁感を呼ぶのかなぁ…。ところで、タイトルはなぜ『CURRY』になったんですか?
若月 「タイトルで悩んでたんですけど、カレーが好きなんで“CURRY”ってかいたTシャツを着て後輩と食堂でカレーを食ってた時、「“CURRY”でいいじゃないですか?」って言われて(笑)。そこから“CURRY”っていう言葉が頭から離れなくなって、『CURRY』にしました。アルバムの中身を説明するタイトルじゃないですけど、歌詞からいろんなものを想像してくださいみたいな、ヒントのヒントになるタイトルだと思います」
――今回の1stミニアルバム『CURRY』は自分たちにとってはどういうアルバムになったと思いますか?
小玉 「『シーブリーズ』は自分の中で通過点やったような感じがあるんですけど。このバンドを始めて、『CURRY』でひとつ形にできたみたいな感じがありますね」
若月 「現状のムノーノ=モーゼスを表す、これ以上無いアルバムになっていると思います。『シーブリーズ』も、出した時はこれが名刺代わりになるようにって作ったんですけど。今は、この『CURRY』が名刺代わりになるんじゃないかなって。でも、バンドは変わっていくし、現状も変わっていくと思うんで。(作品が出る度に)更新していきたい。いい意味で今の自分たちも裏切るぐらいな感じでやっていこうかなと」
――“夏の権化”とか“夢の中シティパンクバンド”っていう、これまでのワードは今もこのバンドに当てはまるものですか?
若月 「そう言って合うところももちろんあるんですけど、それだけではもう表現できないぐらいライブでもいろんな曲をやりますし。最近は、“夏”も言わないし、“夢の中シティーパンク”っていうのも一言も言わないように気をつけてる(笑)」
――では、今のムノーノ=モーゼスを表すワードは?
若月 「ああ…」
小玉 「えーっと、それはむずいな…」
――これからどんなバンドに成長していくのか、まだまだポテンシャルを秘めてる気がします。ライブはどんな風にやっていこうと?
小玉 「とりあえずもっとスリルのあることをめっちゃしたいですね。始まった瞬間に、自分たちのバンドの空気感になるような。ギターが鳴り出した瞬間、ライブハウスがそのギターの作り出してる空間になるぐらい。歌を歌い始めた瞬間、全員がその歌に持って行かれるみたいな感じになるようにしたいです」
若月 「シャムキャッツとかすごい好きなんですけど、他のバンドのいいライブをすごい見てきたんで。どうやったらあんなライブができるんだろう?って。2017年から一気にライブの本数が増えて、その中で結構つかめたものも多いので。何回見ても面白い、いろんな表情を見せれるバンドになりたいですね」
text by エイミー野中
(2018年2月16日更新)
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