どうしてこんなにも魅力的なのか 国内外の垣根を超えるDIYロックバンド、DYGLの“今”を探る
今年4月、1stアルバム『Say Goodbye to Memory Den』をリリースし、国内外33ヶ所を廻るツアーを完遂、フジロック出演、コンピレーションアルバムの企画イベントなど、精力的に活動を行ってきたDYGL。海外の音楽をリスペクトする彼らは、海外と日本を行き来しながら創作を行うスタイルを取っている。主導権を常に自分たちに置き、心地良く刺激的な活動方法をさがしつづける。真面目で賢く、冷静で礼儀正しい好青年。隙のないインタビュー記事を見ていて、そんな印象を持った。今回のインタビューは、大阪でのTHE STRYPES来日公演のサポートアクトをつとめた翌日、メンバー全員に話を聞いたもの。DYGLは“今”何を思い、考えているのか。ツアーを廻って何を感じたのか。25歳の青年らしい、少しパーソナルな部分が見たいと思い、敢えてざっくばらんな質問も投げかけてみた。この原稿を書いている最中、彼らはイギリスに滞在している。12月8日には大阪梅田CLUB QUATTRO、9日は東京LIQUIDROOMで、今年最後のワンマンライブが行われる。バンドとして初めてイギリス滞在を経てどうアップデートされるのか、来年の活動はどうなるのか。今から非常に楽しみだ。
音楽を楽しむ場所はもっと自由であればいい
――DYGLの活動スタイルは、今どんな感じなんですか?
Nobuki Akiyama(vo&g) 「活動の拠点という意味では基本的には東京です。今まではアメリカも観光ビザでいける限界までの滞在で、本当は半分グレーゾーンなんですけど(笑)。自分たちがリスペクトしてる音楽やカルチャーがあるところで創作をするのは目標の1つではありますが、アーティストビザがおりるまでの段階が結構難しくて。活動実績がないといけないし、向こうで弁護士をつけて書類を作って審査を出して、お金もかかる。でも活動の流れは止められないから、観光ビザでもやれるところまでやろうと、約3ヶ月毎に2~3回行ってる感じですね」
――じゃあビザが取れたら。
Akiyama 「そうですね。取れたらその先はまたバンドとして何処で活動したいのか考えたいと思います。今のところきちんと滞在して活動してきたのはアメリカだけなので、他の地域も視野に入れたいですね。今月、バンドとしては初めてイギリスに行けるんですけど」
――そうなんですね、ついに!
Akiyama 「12月の頭まで2週間弱ぐらい行く予定なんですけど、イギリスというアメリカとはまた違う音楽の中心である国や街の様子も見て、改めて創作や活動についてのアイディアや、自分たちがどういうところでどんな風に音楽をやりたいのか、来年の動きについても頭を整理して考えたいですね」
――イギリスでは制作をしながらの滞在になるんですか?
Akiyama 「具体的に制作をすると決めてるわけじゃないんですけど、12月にワンマンライブがあるんで、多分何かしら備える形にはなると思います。現地ではライブが2本決まっていて、それが1番の名目ではありますけれど」
――念願叶いましたか。
Akiyama 「はい、念願です(笑)。フランスのPhoenixとかオーストラリアのTAME IMPALA、これまでも様々な国出身の好きなバンドがいましたが、個人的にはイギリスのバンドには何故か特別惹かれて。中学高校の時に音楽をがっつり聴き始めて、イギリスにライブをしに行きたいと思ってからちょうど10年ぐらいなので、自分としては感慨深いものがありますね」
――他の皆さんは、イギリスに行けるとなってどうですか?
Yosuke Shimonaka(g) 「正直に言ったら、もう何かあんまりどこかに行くということに対しての感動が、昔ほどはないですね」
Akiyama 「海外に行くということ自体は慣れてきたけど、新しい経験に対して期待は持ち続けたい」
Shimonaka 「うん。ツアーで廻ったアジアも衝撃的でしたし、まあ良い人に会えたらどこでも楽しいんで、イギリスでも良い人に会えたらいいなと思います」
――海外と日本のお客さんのライブでの反応は、どう違いますか?
Akiyama 「アメリカ内では多分街によっても大分違います。でも、人の在り方や音楽の聴き方、音楽の街への馴染み方が日本とは全然違うなと。たとえばバーにステージがあって、ただ飲みに来てる人もいれば、遊びに来てる若い子も、音楽を聴きに来てる人もいる。日本のライブハウスだったら“このバンドを見に来てる”っていうお客さんだけが集まって、“こういう聴き方をするのが正しい”という感じで他人に迷惑をかけないように余計に動いたりせず音楽を聴いて。最近だと、激しく踊ったり楽しんでると、逆に迷惑みたいな空気があったりするんですけど」
――あー! ありますね。
Akiyama 「それがビルボードとかクラシックの会場だったらわかるけど、ロックの会場でそんなこと言い出したら何も出来なくなっちゃうからちょっと退屈ですね。ほんとに人に迷惑をかけたり、悲しませてるような奴は“やめた方がいいんじゃない?”って思いますけど、音楽を楽しむ場所はもっと自由であればいいのになというのは、海外に行くと感じることの1つではありますね。向こうだとライブ後話しかけてくる人もいればわかりやすく反応悪い人もいて、予知出来ない感じがミステリアスでおもしろいなと感じます」
――ライブ中に話しかけられたらペースが乱れるとかはないですか?
Akiyama 「それはあんまりないですね。勝手に楽しんでくれてるぐらいの方が気を遣わないというのもありますし。ただ、“マジで今日誰も聴いてなかったな(笑)”って時は、やっぱり全然楽しくないので、来日するバンドが“日本のオーディエンスはすごく一生懸命聴いてくれて楽しい”っていう意味もすごいわかるんです。海外に行くと日本が見えてくる感じはありますね」
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マーラータンの話なら、いくらでも出来ます(笑)
――海外での宿泊先は皆さん同じなんですか?
Akiyama 「今まで宿泊先を分けたことはほぼないですね。基本はAirbnbとか会社関係の宿を借りて、だいたい広めのアパートか一軒家で、最低2人1部屋ぐらいはある感じです。Ykiki Beatというバンドをやってた時は何人か他の人も一緒に行ったりしてたので、一度リビングで4人、ワンルームで3人とか、そういう結構きついのもありましたが、それも1週間ないぐらいだったんで」
――滞在中の食事はどうされてるんですか? インタビュー動画で、Kachiさんがアメリカの食生活が不安だとおっしゃってたのを拝見したのですが。
Yotaro Kachi(b) 「多分その発言をする以前に、1週間ぐらいメンバーでLAとNYに行ったことがあって。その時が外食続きで、値段もカロリーもすごい高い、エネルギッシュな食べ物が多くて、体もたないなって」
Akiyama 「健康面ではね(笑)」
Kachi 「健康面もそうだし、脂っこいもの毎日食べたら精神的にも……」
――えっと、Kachiさん今、おいくつですか?
Kachi 「25歳ですね。年寄りめいてるかもしれない」
全員 「(笑)」
Kachi 「でもここ最近の滞在は自炊がメインで、割と料理するの好きだし問題なかったです(笑)」
Akiyama 「帰国して“日本のハンバーガー物足りない”って言ってたじゃん(笑)」
全員 「(爆笑)」
Kachi 「前滞在した時はアメリカンなハンバーガーとかタコスを食べまくってたから、終わったらふと“ハンバーガー食べたいな”ってフラッシュバックが起きて。LAの直後だとやっぱパンチが足りないなと」
全員 「(爆笑)」
Akiyama 「マジどっちなの(笑)」
Kachi 「1週間行っただけで染まってしまったんですけど。でもその後順調に戻って」
――今は日本のハンバーガーのサイズがちょうどいいと(笑)。
Kachi 「そうですね(笑)」
――ちなみにイギリスもご飯美味しくない説がありますけども。
全員 「あー」
Kachi 「でも最近は結構美味しくなったって話をちらほら聞く」
Akiyama 「2年ぐらい前に『Nero』という雑誌の手伝いでイギリスに行ったんですが、そこまで不味い飯にあたった記憶はないですね。ただ物価が基本的に高いので、美味しいものを食べるには、ある程度のお金を出せばという前提があるかもしれません。ただちょっと良いレストランとかは普通に美味しいんですけど、街中のちょっとしたご飯屋さんみたいなところに行くと、たまに単純に不味いとも違う、何を目指したかわからない味の食事と出合ったりすることはあって、イギリスの食事が不味いと言われてるのはこれのことかなって」
――なるほどなるほど。
Akiyama 「一度食べた創作中華とかもどっちを目指してるのかわからないのがありましたね。塩っぽくもないし、油は感じるけど“何味?”みたいな感じで」
Kohei Kamoto(ds) 「俺、それ好きかもしんない」
全員 「(爆笑)」
Akiyama 「彼だけ舌が違うんですよ。大体3人が好きなものと、彼が好きなものは微妙に分かれる(笑)」
――くだらない質問かもしれないんですけど、各所でインタビューを拝見しても、皆さんのパーソナルな部分があまり明かされていないと思ったんです。そこでお聞きしたいんですが、それぞれ好きな食べ物は何ですか?
Akiyama 「それはもう話早いですよ。Kamoちゃん以外はマーラータンが好き」
Kachi 「パーソナリティなくなった(笑)」
Shimonaka 「ほんとだよ、俺らのパーソナリティ全部抜き取られた(笑)」
Akiyama 「1人だけ浮き出ちゃったね(笑)。マーラータンはマジ美味いです。永遠にいける。火鍋のスープに春雨が入ってる料理なんですけど、結構スパイスが効いてて。渋谷の“七宝(チーパオ)”っていうお店によく通ってるんですけど、何かやたらとハマってしまって、Kamoちゃん以外(笑)」
Kamoto 「辛いの苦手なんですよね……」
――(マーラータンの写真を見て)あ、美味しそうですね!
Akiyama 「ぜひ読者の方にも1度食べていただいて(笑)。音楽家だし、インタビューで基本的に音楽の話以外はいいかなと思ってるとこあるんですけど、マーラータンの話は別です(笑)。あれはまじで世界遺産ですね。食専門の雑誌で呼ばれたりして。積極的にメディアで発言して、最終的に名誉顧客を目指しますよ(笑)」
――Kamotoさんは何がお好きなんですか?
Kamoto 「え!?何だろう」
Kachi 「イクラでしょ?」
Akiyama 「イクラとトウモロコシ(笑)」
Shimonaka 「粒ばっかりか(笑)」
Kamoto 「もうちょっとオシャレなやつ言いたかったな(笑)」
Shimonaka 「北の方から来たファンの人が差し入れで持ってきてくれるかもよ」
Kamoto 「欲しいなあ」
Shimonaka 「メディアで言うの、やり方が汚ねえな(笑)」
すごく時間をかけて作った、DYGLの集大成
――1stアルバム『Say Goodbye to Memory Den』の発売から約半年経ちましたが、今改めてどんな作品になったと感じてらっしゃいますか?
Akiyama 「うーん、考えることは出来るんですけど、まだ振り返るのは早いかなって気持ちがあります。今、新しいアルバムのことを考え始めて、制作も少しずつ始めてるんですけど、もう少し1つの流れで先に進んだ後に、やってきたことを振り返りたい。だから1stアルバムがどうだったと言い切るのは、もう少し時間が経ってからしか出来ないんじゃないかなという気はします」
――なるほど。
Akiyama 「でも完成した時は、時間をかけて作ったアルバムだなという印象でしたね。音楽自体もずっと前から続けてきて、DYGLとしては4年間で1stアルバムをようやく出したという意味で、よくいう話ですがこれまでの集大成と言えると思います」
――5月から10月までツアーで国内外を廻られて、演奏する中で曲の印象が変わっていったりはしましたか?
Akiyama 「結構ありますね。テンポ感が遅くなったり、逆にアップテンポになったりとか。歌詞の歌い回しも自然に変わっていって。しかもレコーディング期間に作った曲が何曲かあって、ライブをしてない状態でレコーディングに入り、アルバムを録り終えてからライブをしていったので、そういう意味ではライブで曲が馴染んでく前と後ではだいぶ印象が違うんじゃないかな」
Shimonaka 「特に個人的に、フレーズとかは変えてないんですけど、すごいノリが変わったのは『I've Got to Say It's True』(M-14)と、『Boys on TV』(M-6)。レコーディングだとサラッと流れちゃってる感じがあったんですけど、ライブだともっと深くノリが出るようになってると思います」
Akiyama 「最初ちょっと合わなかったもんね」
Shimonaka 「Kamoちゃんのドラムが慣れてきた感じかも」
Kamoto 「まあね」
Akiyama 「それはあるね」
Kamoto 「他の人は部屋で練習出来るんですけど僕は出来ないから、レコーディング前に叩けなくて。どうしようかな〜と思ったけど、レコーディングでやるしかないなと。だからライブするにつれ徐々に慣れていきました」
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バンドとして成し遂げるべきことをやれたツアー
――ツアーを終えられて、率直な感想は?
Akiyama 「ツアーの意義は結構大きかったですね。同じセットをこれだけ続けざまにやるというのは今までなかったので。バンドとして成し遂げるべきことを自分たちがやれたというのは大きいことだという気がします。最初はツアー日程を見て、“どこまで続くんだ”って感じだったんですけど、終わった時には全てやりきったのがすごく不思議でしたね」
――やり遂げた感。
Akiyama 「はい。何かが終わった感覚と、また新しい面白いことを探せるのではないかという感覚が入り混じって、気持ちの良い寂しさがありました」
――Shimonakaさんは中国でダイブされてましたね。
Shimonaka 「ほんとは、毎ライブダイブしたいんですけど」
――毎ライブダイブ(笑)。
Akiyama 「韻がすごい」
Shimonaka 「いつもそれぐらいの気持ちではやってるんですけど、1人じゃダイブ出来ないじゃないですか(笑)。中国は割と大きめの会場で“日本から来たバンド”というプレミア感もあるし、たくさんの人の前で出来たので良かったです。歓迎されてると感じたし、だから自分もダイブ出来たと思いますし。中国は初だったしまた行きたいですね」
――アジアのお客さんはウェルカム感がすごいと、どのアーティストさんもおっしゃいますけど、実際そうでしたか?
Akiyama 「基本わざわざ足を運んでくれてる人はすごく好きでいてくれてるんだなと思いました。台湾は日本の音楽が好きな人たちの層がすごく厚くて、規模も大きい。今回のツアーでは行けませんでしたが、香港の人たちもすごくウェルカムしてくれました。ただ、音楽のシーンがどうなってるかは結構わからなくて。お客さんもまばらだし、インディ系唯一のライブハウスと言われていた”Hidden Agenda”という箱でやったんですけど、そこも政治的な問題なんかがあって潰れちゃったり。香港は中国の監視下にあるから音楽は難しいという話は聞いてたんですけど、逆に中国国内の方が、政治的発言の最低ラインを守れば自由に創作活動が出来るという話も聞きました。その辺の温度感も日本とは色々と違って来ていましたね。いずれにせよ、中国もアジアの国も、音楽を楽しむ人たちがあれだけいるというのがビックリでした」
――国内外含めて1番印象に残っている都市はありますか?
Akiyama 「1番……難しいですね。難しいけど俺は福岡がすごく好きで。都会的な街の感じもあるけど、忙しすぎないというか、人が無理してないし、楽しむ余裕もある。ライブをしてても人と話してても、居心地が良い。あとは海外だと台湾は楽しいですね。もう4〜5回行ってるんですけど、人生初の海外が台湾で、しかもDYGLで行ったんですよ。その時はまだ契約も何もない時で、熱心なイベンターの人が直接呼んでくれたんですけど、その時から今までずっと歓迎してくれてて、人も音楽も街もすごく良いなといつも思いますね」
――ちなみに大阪の印象はどうですか?
Akiyama 「大阪は割と、街の温度感という意味で東京に印象近いですが、昨日打ち上げ帰りに乗ったタクシーの運転手さんがめちゃめちゃおもしろくて、そこはやっぱ文化違うなと思いましたね、見習いたいです(笑)。でも音楽に関して人とかお客さんのノリ方という意味だと、東京にも感じる”都会の温度感”を感じますね。京都のMETROでやった時は、コミュニティの形がもう少しあって、演者も客も友達みたいなラフさがありましたが、大阪は東京と似ていて、それぞれが1人とか2人で知らないとこから集まってきて、その瞬間は同じ場所に集い、それぞれ帰って行く。別にそのライブハウスやコミュニティに帰属してたりもしないし、もう少しあっさりしている印象ですね。大きなライブができる街というのは貴重だと思いますが、そもそも東京、大阪、名古屋なんかの大きいライブをする街には共通して、もう少し手作り感というか人間味が介在してもいいのかなというのは感じますね。ただ大阪には他の地域とも違う、文化が集まっている独特のカオス感があると思うので、またそこから音楽的に面白いアーティストがでてこないかなと楽しみにしています。」
その音楽を聴いた瞬間に感じたものが究極の答えだと思ってる
――DYGLの音楽には喜怒哀楽が歌われていますが、感情を表現することへの考えを聞かせてください。
Akiyama 「俺は小さい頃から言葉で感情を伝えるのが苦手で。特に10代中盤の頃とか、自分にとって音楽や言葉を書くことが感情の逃げ場になっていた部分はあったと思います。自分が音楽を作る時もそうですし、他人の曲を聴いた時でも“気持ちを代弁してくれてる”と感じたり。自分は感情の起伏はある方だと思うんですけど、それがどういう風に外に出てるかはパッと見わからない方だと思いますね。でも多分音楽をやってる意味は、自分の感情や心と向き合うことだと思う。他のどんなコミュニケーションより、自分は音楽や詩が一番感情を表現出来ると思ったので」
――たとえば“この曲には悲しみを込めたい”、と思ったら、それを他のメンバーさんに共有したりしますか?
Akiyama 「言葉で“これはこう”って説明するのがそもそも嫌で音楽やってる部分があるので、ある程度雰囲気で伝えているというか伝わっててほしいという感じですね」
Kamoto 「レコーディングの時は歌詞を配ってもらえるんで、“ああ、そういう曲なんだな”って。多分ライブはそれぞれ1番感情が出てると思うんで、音楽的に表現するならそこですかね」
Shimonaka 「でも悲しい曲だから悲しい気持ちでやるから良いとか、そういうわけでもないですし、喜怒哀楽でくっきり区切られたものというよりは、好きと嫌いが表裏になってる強い気持ちみたいな、漠然とした感情みたいなイメージで、と僕は思ってます」
Akiyama 「Shimonakaが言ったように、感情って1つに区切れるパーテーションがあるわけじゃないし、全部が同時に存在してることもあるかもしれない。めちゃくちゃ悲しい曲をポップにやってたらそれはどっちも成立してると思うし。この間Belle And Sebastianのライブ見に行ったんですけど、ボーカルのスチュアートがMCで“楽しい感じの曲だけど悲しい歌詞の曲だよ”って説明してて、それを自分で認識しているのが面白いし、楽しさも悲しさも音楽の中に同居しているんだと改めて思いました」
――Akiyamaさんはライブで説明したりはされないんですか?
Akiyama 「どこまですべきかというのはその時によりますね。歌詞が日本語だったら勝手に感じてもらえると思うんですけど、英語は日本だと特に取っ付きにくいと思うので、説明した方がいいかなって時と、これは自然に感じてもらえればって時があります。ただ今回アルバムに和訳をつけたのは、歌詞を理解してもらえるチャンスを広げたいという思惑があったのと、詩に和訳がついているっていう形式に単純に憧れていたっていうのがありました(笑)。洋楽聴き初めの時は、歌詞が全然わからないんで勝手に解釈して聴いたりしていましたが、実はちょっと予想と実際の歌詞の意味が違ってたりしても、自分の中ではそれが答えだったり」
――すごくわかります。
Akiyama 「オスカー・ワイルドというイギリスの有名な作家に、“作品と作者は別なんだ。作品は作品として存在していて、あくまで作品でしかない。自分は自分、作品は作品。作者と作品は別だ”というような言葉があって。作者がどう考えて創作したのかを作品の解釈に繋げるべきだと考える人もいると思うけど、自分はどっちもありだと思う。最終的にはそれぞれの受け取り方だし、究極はその音楽を聴いた瞬間に感じたものが答えだと、俺は思ってるので。ただ音楽を聴いた瞬間にその人の中でリンクするものがあるんだったら、別に歌詞がわかんなくてもそれはそれでおもしろいし。勿論歌詞も一つの作品として創作しているので、そこから感じることも絶対あるはずなんですが、自分の音楽をどう聴いてほしいかっていうことに関しては半分は投げてる感じはありますね。自由に聴いてもらえたら」
Shimonaka 「日本だけだと思うんですけど、“歌詞をこう読まなきゃいけない”って思ってるなと感じることがある」
――確かに。国民性ですかね。
Shimonaka 「Songmeaningsっていう、“この曲の歌詞は俺はこうだと思う”って皆が意見並べるアメリカのサイトがあるんですけど、普通に歌詞が載ってて、皆自由に好きなこと言ってて。まあでも、作り手本人が意図したものなんて第三者には絶対読みとれるわけがないし」
Akiyama 「本人もわからない時もあるだろうし」
Shimonaka 「その辺は自分との会話みたいなとこがあるんで、皆自由に聴いてほしいなって。僕、歌詞書いてないですけど(笑)」
――Akiyamaさんは歌詞をどんな気持ちで書くんですか?
Akiyama 「“エンターテイメントは人に答えを与えるものだけど、アートは人にクエスチョンを与えるものであって、答えじゃなく疑問を投げかけるものだ”という言葉を聞いたことがあるのですが、それがすごく腑に落ちて。自分が好きじゃないと思っていた音楽と、好きだと感じる音楽の決定的な違いは、それがすごく大きい気がします。歌詞1つとっても、創作との向き合い方を考えるポイントだと思いますね。それを踏まえた上でも1周回って、“これが答えだ”っていう歌詞を書いてもおもしろいかもしれないし。Michael Jacksonが最後に予定していたツアーのタイトルは『This Is It』でしたが、The Strokesの記念すべきデビューアルバムのタイトルは『Is This It?』だった。アートにもエンタメにも違う面白さがあって、どれが答えということでもないですが、自分が音楽を作る上では、どちらのアプローチを参考するにしても深みのあるものにしたいですね。余りにもオーガナイズされすぎた予定調和な歌詞もおもしろくないし、一方で全部適当に書いて“これがアートだ”っていうのも俺はちょっと違うなと思うし、とはいえある程度の意志が介在したらそれが面白くもなりえる。意義あるエラーが生まれる余地も残しながら、自分の書きたいものを書くというのが今の自分のモットーです」
――半分意図して、半分は偶然の意識で書かれていると。
Akiyama 「自分が書きたいものを書いた上で、結果的に自分が意図していなかった何かが生まれるのも面白いと思います。」
今年を締めくくる東阪ワンマンライブ
――12月のワンマンライブは1年の締めくくりですか?
Akiyama 「そうですね。結構ずっと前からワンマンやろうという話はしていて。そこで1回自分たちのことをまとめられたらいいかなと。出来ればただまとめるだけじゃなく、チャレンジのあるものに出来たらいいかなという」
――何か具体的に考えていることは?
Akiyama 「全曲新曲です」
――ええー!!
Akiyama 「冗談です(笑)。ツアーでライブの見せ方もまとまったんで、何だろうな。具体的には、企業秘密です!」
――気になります!
Akiyama 「これだけ言ってすごい当たり前にツアーと全く同じだったり(笑)。可能性としてはそういうドッキリもあるんでお楽しみに(笑)」
――かなり期待出来るライブということでよろしいですか?
Akiyama 「人生いつでも期待大でよろしくお願いします!」
ステレオタイプになりすぎてる日本の社会に風穴を開けたい
――今のDYGLでやっていきたいことや、今後のビジョンはありますか?
Akiyama 「DYGLとしては海外のフェスに出たいですね。一応SXSWは決まっているんです。去年はアンオフィシャルだったんですが、今回はオフィシャルのショーケースの枠をもらえているので、楽しみですね。グラストンベリーとか、レディングなんかの自分が憧れていた世界が実際どうなのかも、出る側として見れたら最高ですね。あとは今までやったことのない作曲のアプローチとか、創作面でも別軸で何か思いつきたいです。あるいは個人的な話でいうとDIYでニッチで排他的な、アンダーグラウンドな世界に留まらない、続いていくおもしろいクリエイティブな場所や空間が作れたらと思いますね。いつでもムーブメントの最初にはパンクにおけるCBGBや、ハシエンダ、最近だとBurger Recordsなんかの何かきっかけになる場所やコミュニティがあったと思うんです。必須ではないですが、日本でもっと知的で、挑戦に満ちた文化を続けるには、何かそういう姿勢を示す場所があったら面白いかなと。高校生の時からの夢なのでいずれ何か形にできたらいいですね。それがレコード屋なのかライブハウスなのかギャラリーなのかレーベルなのかわかりませんが。それか全部なのか(笑)。一人のアーティストとしては、創作する上で新しいアイデアや空気感、刺激になるものが欲しいので、居る場所を変えたいなと思ったりするんですけど。イギリス、アメリカ、ないしは福岡とか」
――福岡!
Akiyama 「あるいはタイとか(笑)。その時思ったことを思ったままにやりたいということなんですが、東京にいるにしても、色々工夫して、繰り返しじゃない新しいことに挑戦したいです。“これ”と言い切るのはなかなか難しいですけど。自分は海外の音楽も好きだけど、日本人の作るもので好きなものもたくさんあるし、日本でどう面白いことを続けて行くかというのは今後も変わらず目標としてありますね。自分の生まれ育った日本が、これまでもこれからもいい国であって欲しい。だから日本でもおもしろい活動が出来た方が絶対楽しいじゃないですか。あと言っちゃえば、イギリスの若手の音楽が正直最近全然おもしろくなくて、ずっと海外の音楽に憧れてたのは、“海外だから”という理由だったわけじゃないんだなとすごく感じていて。そういう意味ではアイデアと向き合い方さえ工夫すれば、絶対日本からもおもしろいものが生まれてくると思う。小さい頃から社会に選択肢が少ないのがすごく嫌だった。ステレオタイプになりすぎてるこの日本の、大きく言えば社会に風穴開けられたらいいなと学生の時からずっと思ってたんで。高校の時の自分に恥じないように、その意志を持ち続けていたいですね。そのためにも、自分が憧れて来た創作精神に満ちた海外で起きてる様々なムーブメントや環境が何故向こうでは成立してるのかもっと知りたい。個人的な目標になっちゃいましたけど、長い目で見てそのために出来ることがあればいいなと常々思ってます」
――ありがとうございます。では他の皆さんも野心や目標などあれば教えてください。
Kachi 「英語をもう少し喋れるようになりたいです」
全員 「(笑)」
――皆さんペラペラなイメージがありますけど。
Akiyama 「俺ももっと勉強したい。頑張って会話は出来るんですけど、やっぱりスムーズにストレス無くは難しいですね。考えの構築の仕方も喋るテンポも違う。日本としての感覚も失いたくないと思うので、そのどちらの感覚も行ったり来たりする感覚はすごく変な感じです。単純に人によって聞き取りやすさとかも違いますし、なんだかんだ喋った後エネルギーすげー使ってるの感じますね」
Kachi 「でも3人とも相当喋れると思います。僕も勉強して頑張ろうって思ってます」
――Kamotoさんはどうですか?
Kamoto 「もうちょっとドラムが上手くなりたいのと、もっと色んな楽器を使えるようになりたい。それこそAkiyamaが言ってたみたいに、今おもしろい新人が出てこなくて、バンドの音楽をあんまり聴かなくなっちゃったので、それなら違うジャンルを聴いてもいいのかなと」
――たとえば?
Kamoto 「僕が好きなのはテクノとか。シンセで時々ライブもやったりするんですけど、それ以外の違うところも聴いてみたいと思ってます」
――では最後にShimonakaさんお願いします。
Shimonaka 「“プロを定義する”という言葉があって、それは“不可能だと思われてたことを可能にする人、それでちゃんと生きて行ける人だ”みたいな意味で。かなり長い目標ですけど、僕はギターしか出来ないので、1人の音楽やる人間としても、他の人が努力しないと辿り着けないところにいきたいというのはありますね。オーセンティックなギターのフィールドの中で新しいものが生み出せたらいいなと思ってますし、音楽家としてもう少しインプルーブしたいです」
text by ERI KUBOTA
(2017年12月 7日更新)
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