’10年に神戸で結成され、地元を中心に各地で精力的にライブを行い作品をリリースしてきている3人組、alcott。彼らが地元・神戸を盛り上げるべく’13年にスタートしたサーキットフェス『BUTAFES 2017』が、今年も11月23日(木・祝)に神戸・太陽と虎をはじめ5会場で開催される。今年はパノラマパナマタウン、空きっ腹に酒、mol-74やShout it Out、the quiet roomにドラマチックアラスカなどこれまで以上に多彩な顔ぶれの36組が集結。神戸出身の先輩バンドであるアルカラが主宰する『ネコフェス』に触発されてスタートしたという『BUTAFES』に込めた思いや、今年5月に発売されたalcottの最新アルバムにして大充実の一作である『YELL』についてメンバー全員に語ってもらった。
alcottの曲はいろんな表情があるけど
最新アルバム『YELL』はalcottの本質が詰まったものになりました
――まずはalcottのことを教えてください。最初にバンドを組んだきっかけは?
内田将之(g) 「関西学院大学の同じ学部の同期で、僕と宰司はクラスも一緒で、お互いRADWIMPSが好きで意気投合しまして」
貴田宰司(vo&g) 「里志は語学の授業が一緒で、いつもノートを見せてもらってました(笑)」
谷里志(b) 「僕、こう見えて真面目なんで。4年になって僕とうっちー(内田)は普通に就職活動をして内定ももらってたんですけど、宰司はまったく何もしてなくて」
貴田 「何の見通しも立っていないのに、“俺は音楽でやっていくんだ!”と言ってました」
谷 「だから心配してたんですけど、ちょうどその頃バンドとして初めて音源を作ったりしてめちゃくちゃ楽しくて。その楽しさに騙され続けて7年経ちました(笑)」
内田 「僕も騙されました(笑)」
貴田 「2人が就職が決まったと聞いて、4年生は授業もそんなにないし時間があるから“じゃあ本格的にバンドやろうぜ”って。やるからには中途半端じゃなくしっかりやりたいので、その気持ちを伝えたら騙されてくれて現在に至っています(笑)」
――貴田さんはもともと、音楽でやっていくと決めていたんですか?
貴田 「そういうわけでもなくて、高校の時はアコースティックデュオをやっていて、バンドを組んだのは大学に入ってからなんですね。大学で初めてバンドの楽しさを知って、うまくいかない時期もあったけどいいメンバーに出会えたんで、本気でやりたいと思うようになって。高校時代にデュオをやってたヤツは今シンガーソングライターでがんばっていて、そいつにも負けたくないし自分にも負けたくないし、そうやって今もお互いに刺激し合いながらやっています」
――結成の翌年の’11年に最初の作品『Communication Box』を出されて、’12年に『COMIN’ KOBE』に出演されましたね。
貴田 「カミコベは大きかったですね。僕ら自身、名称が『GOING KOBE』だった頃から聴きに行ってましたし自分たちもずっと出たかったから、出演が決まった時はすごく嬉しかったです。それから何度か出させてもらっているんですが、毎回会場の大きさもステップアップしていて本当にありがたいです」
――今年5月に発売された初の全国流通のアルバム『YELL』についても聞かせてください。収録曲には『さくらの麓』(’16年)や『その姿は美しい』(’15年)など、これまでにリリースした作品から選ばれた曲も含まれていてベストアルバム的な内容ともいえそうで。ただ、去年出た5曲入りのアルバム『ROCK CHAPS』、『DRESS』の頃とはバンドが違う段階に入ったような感触もあります。実際に制作する上でこれまでと違う感じはありましたか?
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貴田 「所属事務所が決まったのは大きかったですね。今まで自分たちでやってきたことをバックアップしてくれる人や仲間が増えて、そういうことがすべて曲になっていくので、できるべくしてできたアルバムだと思います。『ROCK CHAPS』、『DRESS』はクラウドファウンディングでみんなが力を貸してくれたから作ることができたし、それがなかったら事務所の目に留まらなかったから全部がつながっていて僕達だけではたどりつけなかった道なんですね。その感謝の気持ちを形で表現したくて、alcottというチームを支えてくれるみんなを笑顔にするにはどうしたらいいかとか、聴いてくれる誰かの力になりたいとか、そういう思いを突き詰めていった時に出てきたのが『YELL』だったんです。歌詞に関しても自分の中心にあるものを言葉にした曲ばかりだし、alcottの本質が詰まったものになりましたね」
谷 「『YELL』は僕達が6年、7年とバンドをやってきた中で作ってきた曲と、アルバムの全体像を踏まえて今の時点の僕達が作った曲のどっちもが入っているんですね。5年前、6年前のその時にしか作れなかった曲もあるし、その時々の僕らの心境が曲に出ているのがわかるから、“この曲作ってる時は俺らめちゃめちゃしんどかったな”というのも全部詰まっていて(笑)。感慨深いものもあるし、“ほんまにいい音楽やで”って自信を持って言えるアルバムになりましたね」
内田 「僕からはぜひ買ってください!しか言えない(笑)。それぐらい本当に胸を張って届けたい音楽が詰まっています」
貴田 「alcottの曲っていろんな表情があって1つのジャンルに収まらないんですが、僕らもいろんなものに影響を受けていて、好きなものもやりたいこともたくさんある。ただ、どんなにとっちらかっているように見えても、そこに僕の歌詞がちゃんとまっすぐにあればalcotttの曲になると思う。歌詞を書く上では、感じたことをできる限りわかりやすく伝えたくて、背伸びしてしまうと嘘っぽくなるんですね。根底にあるのは自分が変わりたいという思いで、その上で誰かの支えになることができたらいちばん嬉しいですね」
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“神戸といえば『BUTAFES』と言われるように
アルカラのネコフェスを超える日まで続けます
――alcott主催の『BUTAFES』がスタートしたのは’13年。今年は5年目ですね!
貴田 「そうなんです。もともと思い立ったのは、アルカラが主宰する『ネコフェス』に2013年に出演させて頂いた時に、僕らも『ネコフェス』みたいに神戸を盛り上げるフェスをしたいと思って。“やってもいいですか?”とアルカラの(稲村)太佑さんに聞いたら“いいよ!”と言ってもらえたので、その年の秋からやり始めました(笑)」
――それがスタートのきっかけですか。
貴田 「はい。『ネコフェス』と『BUTAFES』って名称も似てますよね。すべてのきっかけはアルカラですし、アルカラを食ってやろうというイメージでやってます(笑)。『ネコフェス』を超えて、“神戸といえば『BUTAFES』”と言われるような大きなフェスを作って行こうと」
内田 「神戸にはライブハウスがたくさんあるんですが、会場と会場はそれなりに距離もあって。最初に謳ってたのは、“会場の移動距離が短くて、あまり歩かなくてもいい、膝にやさしくデブにやさしいフェス”だったんですよ(笑)。正式名称は『NAMAKEBUTA METABOLIC ROCK FESTIVAL』で、それを略して『BUTAFES』なんで」
貴田 ・谷 「そうそう(笑)」
――(笑) “やろう!”と思って、実際に開催までこぎつけるのは大変なこともあったのでは。
谷 「僕はこう見えて真面目でマメなんで、事務的なことはすべてやってきたんですね。ただ実際にいろいろやってみて、世間でバンド主宰のフェスはそんなに多くなくて、イベンターさん主宰のフェスが多いのは理にかなっているなと思いました(笑)。BUTAFESと並行して曲作りもレコーディングも常にあるし、毎年30組、40組とバンドに出てもらっていてそのやりとりも大変といえば大変ですけど、終わって打ち上げでいろんなバンドマンと顔を合わせた時に“やってよかったな”と毎年思うんですね。それとともに“次はこうしたいな”というのもあるし、その思いがあって毎年やってますね。もちろん大変なんですけど、結局はこういうつながりがあってバンドをやっているんかなとも思う。このフェスがあるから初めて繋がれるバンドもいるし、仲のいいバンドともそう何回も対バンできるわけじゃないけど、BUTAFESのおかげで一堂に会することができる。観に来てくれるお客さんもそうですけど、出演するバンドの中にもBUTAFESの一日はいいグルーブが生まれるし、そこからまたツアーで一緒にやれる機会が生まれたり、その日限りじゃなくてどんどん広がっていけるんですね。会場の規模が大きくなってることもBUTAFESが成長している証明でもあると思うので、今年もぜひたくさんの方に来ていただきたいですね」
――夏、冬だけじゃなく一年中各地でフェスはありますが、みなさんが思う『BUTAFES』ならではの良いところは?
貴田 「美味しいご飯が食べれます。『BUTAFES』にちなんで(笑)。僕の兄が料理人で出店するんですが、世界一の料理人なんですね。それが食べられるのは『BUTAFES』だけです。“フェス飯”とか言いますけど、いい音楽が聴けるのはもちろん大前提で、さらに食事も美味しいって最高じゃないですか」
内田 ・谷 「そうそう」
内田 「毎年、僕らがオープニングアクト的な枠でメイン会場のド頭に登場して、早食いとかアツアツのものを食べたりパッサパッサのものを食べる競争をしたり、主宰バンドみずからが体を張る企画もやってますね」
貴田 「今年もすごいことが待っていますので」
谷 「エラいことになってますよ。バンジーとかね」
――バンジーですか!?
内田 「まぁそのへんもお楽しみということで(笑)。最初はまず太陽と虎に集合してもらって、僕らが主宰してますよという挨拶代わりのオープニングアクト的なお楽しみタイムも含めて、11月23日は一日いい音楽と美味しいご飯でお腹いっぱい楽しんで帰ってほしいですね」
谷 「BUTAFESというだけあって、過去にはお客さんの中で体重100キロ以上の人には特典を用意したこともありましたね。今年は少し離れた場所にある会場も加わったので、動いてカロリーを燃焼しつつ美味しい食事も楽しんで、痩せて帰るより太って帰って欲しいですね(笑)。神戸には美味しいお店がたくさんあるし、ゆくゆくはもっとたくさんの飲食店と提携してもっと大きくできたらいいなと思うし、今はそれを少しずつ広げていってるところですね」
貴田 「音楽は日々の生活の中に溶け込んでいるものなので、音楽だけじゃなく僕らの好きなものや楽しいと思うことをみんなで共有しながら、alcottがどんなバンドなのかということをこういうイベントでも見せていけたらなと思っています」
――alcottのミュージックビデオを拝見した時、めちゃめちゃシュッとしたバンドという印象を持っていたので今日のお話は全体的に意外でした(笑)。
谷 「“黙ってたら全然印象が違う”とか、“ギャップがすごい”と最近よく言われます(笑)。でも僕らも関西人やしライブのたびに笑いという点では反省を繰り返していて(苦笑)」
内田 「日頃のユーモアを大切に、が僕らのテーマなんで(笑)」
貴田 「そばにいる人を笑顔にしであげられなければ、もっとその先にいる人を笑顔にすることはできないですよね。だからまずは身近の、隣にいるメンバーを笑わせてあげたいなって」
内田 「え? むっちゃエエ話みたいになってるやん(笑)」
――今後『BUTAFES』に出てもらいたい、一緒にやりたいバンドはどんな方達でしょう?
貴田 「カッコいいのももちろんですし、打ち上げがめっちゃおもしろいとか一緒にいてアガるとか、そういうグルーブを生み出せる方達ですね」
谷 「打ち上げで初めて人となりがわかるところもあるしね。僕らも言葉で教えてもらうとかじゃなく、先輩の姿を見て“あぁ、ここで脱がなあかんねんな”とか学んできたところもあるんで(笑)。自分達だけの世界を作ればいいわけじゃなく、いろんなつながりを作って盛り上げていきたいし、自分達もそうやって育ってきました」
内田 「『ネコフェス』を打倒するまでは続きます(笑)」
――3人とも地元である神戸に対するこだわりも強いですね。
内田 「アルカラやキュウソネコカミとか先輩バンドが地元を大事にしている姿を見て憧れつつ、自分たちも神戸を中心にやっているからこそできることもあるし、『BUTAFES』も地元を盛り上げるという意味も込めています」
貴田 「バンドを始めた時から“神戸から広げていこう”とは話していたし、全国を見ても地元で根を張って戦って息長く続いているバンドは多くて、そうやって地元を護っているバンドは強いんですよね。それは東京に出ていかないという意味じゃなくて、神戸出身であることを胸に地元を護りながらもっといろんなところに出ていきたいし、自分たちの音楽をもっといろんな人に届けたい。僕らのバンド名のalcottの由来は“歩いていくこと”なんですね。継続は力なり、と小さい頃から母親に口酸っぱく言われ続けたこともあり(笑)、歩き続けていく中で地元に恩返しもしながら少しずつ広がっていけたらと思っています」