2人体制になった新生FRONTIER BACKYARDの ポップでファンキーなニューアルバム『THE GARDEN』 足りないものは何もない充実の意欲作について語る TGMX(vo&syn)インタビュー&動画コメント
昨春、ギターの脱退を受けTGMX(vo&syn)と福田“TDC”忠章(ds)の2人体制となったFRONTIER BACKYARD。新体制になって最初にリリースしたミニアルバム『FUN BOY’ S YELL』(‘16年)に続く、6枚目となるオリジナルアルバム『THE GARDEN』が完成した。インタビューでTGMXも語っている通り、今作では2人のルーツであるP-FUNKを大フィーチャー。60年代末に誕生したP-FUNKは、ホーンやコーラスが賑やかなファンクからソリッドなギターサウンドが際立つロック色濃い音楽まで飲み込んだ幅広い音楽性が特徴で、後のヒップホップやミクスチャーと呼ばれるバンドをはじめ多くのミュージシャンに影響を与えてきた。10代の多感な時期にP-FUNKの洗礼を受けたFRONTIER BACKYARDの2人が、自分たちの中にある音楽を改めて掘り起こした今作は、ギラッと賑やかで楽しく、ポップで、歌心にあふれていて、噛めば噛むほど味がにじみ出てくる食材のようにとても豊か。本作を携えたツアーの大阪公演はNEIL AND IRAIZAを対バンに迎え11月25日(土)Shangri-laにて。メンバーの脱退を乗り越え漕ぎ着けた、バンド誕生から13年目の意欲作についてTGMXに話を聞いた。
いい歌もやるけど、アッパーなふざけちゃった曲もやるよ
――今作『GARDEN』はTGMXさんと福田さんの2人編成になって初のフルアルバム。資料に“ギターレス”と書いてあるのを見て改めて、ギターがないことを意識したというか。逆に『THE GARDEN』になじんだ後に『Backyard Session #2』('15年)を振り返って聴くと、ギターってこんなにも音が主張しているものなんだなと思ったりして。
「2人になって最初にミニアルバム『FUN BOY’S YELL』(’16年)を出して、その時にもう今回の『THE GARDEN』のリリースは決めていて。ギターが抜けたことで音楽のジャンルが変わっちゃうとバンドそのものが変わってしまうと思ったので、ミニアルバムを1枚作ることでワンクッション置こうと。『FUN BOY’S YELL』に関しては、ギターは抜けたけどFRONTIER BACKYARDの音楽は今までとジャンルも変わらずに続いていますよということを謳いたかった。それに対して『THE GARDEN』は、FRONTIER BACKYARDの新しい音楽のジャンルを作るというイメージですね。だから、今までやってきたようなことはあまりやっていないんです。今回は」
――10年以上今のバンドをやってきて、新しいことに挑むのは新鮮でした?
「そうですね。やっている僕らが楽しくないとそういうことって伝わらないと思うし、楽しくするためには自分たちにとって刺激のあること、新鮮なことをやるのが一番いいなと思っていて。ギターが抜けたのは大変でしたけど、それを逆手にとって、じゃあギターなしで音楽を作ってみようってテーマから今作は始まりましたね。バンドにギターがいなきゃいけないというルールもないし、ギターがいないというハンディキャップをおもしろがって音楽を作ることが、自分たちが楽しんでやれる理由かなって」
――青くさい言い方かもしれませんが、TGMXさんと福田さんとで、“新しいことをやろうぜ!”、“これまでやってこなかったことをやろうぜ!”みたいな気持ちで取り組まれた?
「今回はそうだったかもしれない。今までにやらなかったことをやるというよりは、今まで以上に2人のもともとのルーツをやろうという感じでした。2人で作っているのでイエスかノーしかないから、たとえば“これどう思う?”と聞いて、“あんまりだな”となったらそれはやらない。これが3人以上だともうちょっと中間色が加わるんでしょうけど、2人ともが“何かよくわかんないな”と思いながらやるのも良くないし、お互いに“これをやりたい”、“これはやりたくない”という判断をちゃんと持って制作に挑みましたね」
――ミュージックビデオが公開されていた『saute』(M-2)と『Fun summer ends』(M-4)は映像も楽曲もとても対照的でしたが、『THE GARDEN』はファンクやソウルといったブラックミュージックの影響や、同じようにブラックミュージックをルーツに持つメロディーメイカーであるビリー・ジョエルやトッド・ラングレンあたりにもつながるメロディーの良さも垣間見えるように思います。
「ミュージックビデオに関してはたまたまそうなっちゃっただけなんですけど、ふり幅としてどっちも自分たちの中に持っておきたいんですね。いい歌もやるけど、アッパーなふざけちゃった曲もやるよっていう。元々僕らはP-FUNKが好きで、とはいえそれを真似しても黒人にはなれないし、日本人がやる日本人っぽいファンクでいいかなと思っていて。ただブラックミュージックにはずっと憧れているんですね。もともと忠章君とは高校の時から一緒で当時から聴いているものも同じだから、今回は言葉で曲を作って行く感じでした。スタジオに入ってもすぐに楽器を触らないで、YouTubeを見ながら話していて、“あのアーティストのあの曲のイントロみたいな雰囲気”とか、“コード進行はこういう感じで”とか、“ドラムはあのアーティストのあの曲のビートみたいな感じの”というやりとりだけでわかる。最終的に音は出しますけど、まずは外枠を埋めていって音でイメージを限定しないで、実際に紙にメモる感じで。たとえば僕らの好きなフィッシュボーンだと、“フィッシュボーンのあのアルバムの何曲目の感じ”とか、“ちょっとラテンなんだけどちょっと暗め”とかをいっぱいメモしていって。同じような音楽を聴いてきているからその辺はお互いにわかるんですね。それとか、“最近、新譜は何を買った?”とか、“こういう若手が出てきたねぇ”とかそういう普通の会話から音楽を作って行きましたね」
VIDEO
VIDEO
FRONTIER BACKYARDはあまり日本語は合わないなという気がしています
――FRONTIER BACKYARDが英語詞なのは、洋楽から受けた影響が大きいからでしょうか?
「そうですね。もともとは海外でもライブをしてみたいと思っていたので、なるたけ英語で歌いたいなと思ってて。洋楽っぽく聴かせたいという気持ちもいまだにあるし、歌詞が日本語になると音楽が崩れちゃう気がして。日本語が絶対にイヤだというわけじゃないし、弾き語りライブとかでは日本語の歌もやるんですけど、FRONTIER BACKYARDはあまり日本語は合わないなという気が今はしています」
――『ephemeral invincible』(M-8)のように楽しくてライブでワーッと盛り上がるような曲でも、部屋で歌詞を追いながら聴いていると、訳詞がそうなのかTGMXさんの声がそう感じさせるのか一瞬フッと切ないものを感じたりもして。
「本人は全然意識していないんですけど、そういうちょっと悲しい部分がある人なんじゃないですかね(笑)。明るい方なんですけど、その中にちょっと悲しい残念な部分があるっていう(笑)」
――TGMXさんの声が良いんですよね。『Fun summer ends』のミュージックビデオで、照明を落とした中で福田さんと2 人だけで歌っているあの場の空気の重さや濃さが画面からひしひし伝わってきます。
「濃いといえば濃い関係ですよね。高校から大人になって、中年になる現在まで一緒って(笑)。経験してきたこととかお互いの趣味趣向まで知っているという点では、下手すると親より深いかもしれないし、長い付き合いになったなとは思いますね。けど、高校の時と全然変わらないんですよ。昔の同級生で一緒にバンドをやっている人って、年を取ってくるとだんだんしゃべらなくなるとか聞くけど、僕らは今でも普通にしゃべるし2人で飲みにも行きますし。音楽っていう共通の趣味があるからだと思うんですけど、昔も今も会話は尽きないですね」
――メンバーが抜けて2人になった時も、“じゃあ2人でやるか”という感じでした?
「FRONTIER BACKYARDはもともと3人組というのを意識してやっていたので、最初は相当落ち込みました。これは解散かな、ぐらいまでの話もしていたし、じゃあ新しいバンドを組もうよとも話したんですけど、40代半ばで新しいバンドを組んで、またホームページのドメイン取って、ステッカー作って布教するのも面倒くせぇなぁって(笑)。“だったらFRONTIER BACKYARD続ければいいんじゃないの?”って周り回ってシンプルな話になって。“この2人で新しいバンドを作るっていうのが一番意味わかんないね”って(笑)。一時は結構2人とも悩んでいて、そこはすぐに脱したんですが、地元も一緒だからぶっちゃけ東京を離れて地元に帰って音楽をやることも考えて。それも可能だし、東京にいるのももう潮時かなぁぐらいの話もしましたね。そういう人生設計みたいなことも話しながらでもまたバンドが始まっちゃったので帰るタイミングを失いました(笑)
――聴き手としては、FRONTIER BACKYARDは止まらなかったなと。
「一時は、もうこういう思いはしたくないって思ったけど、曲を作っているうちにいろんな感覚を思い出してきて、やっぱり音楽は楽しいんだなって。レコーディングしている時も曲を作っている時も“楽しいね”って言ってましたね。そうやって構築している時の楽しさをだんだん思い出してきて、また元通りに戻ったよという感じですね」
――今回はゲストでSCAFULL KINGで一緒だったNARI(sax)さんやTHE REDEMPTION Mai(tp)さん、Sawagiのコイチ(key)さんも参加されています。変な言い方かもしれませんが、このアルバムを聴いて、曲も音もメンバーも足りないものは全然ないんだなと思いました。
「サポートメンバーも素晴らしいメンバーなので、ライブも含めてバンドをやっていること自体がすごく楽しいですね。コイチ君には曲のアドバイスやヒントもいっぱいもらいましたし、サポートメンバーですけど一緒にステージに立ってもらうので、本人が気に入っているフレーズを弾いてもらった方がいいからたくさん話しました。NARIにも“どういうふうなのが楽しい?”、“ホーンを吹いてる時間がたくさんあった方が楽しい?”って聞くところから始まって、彼は“ずっと吹いていたいです”って言ったから、“じゃあフレーズをたくさん作ろう”と。そういう進め方でしたね。手伝ってもらっているメンバーにも楽しんでもらった方が絶対にいいので」
――今回のように自分たちのルーツを色濃く反映した作品って、これまでにももしかしたら作るタイミングはあったのかもしれませんが
「今だなぁと思いましたね。2人になってより一層、面と向かって音楽を作るとなった時に改めて自分たちが好きだったものをやろうというところに向かった。今回のアルバムを作るにあたってテーマとしては“健全な音楽”“健康的な音楽”みたいなイメージで、ジャケットも野菜をテーマリングしたんですけど、これまでは何かカッコつけた曲を作ってたんですよね。たとえば、ライブで受けたいからライブで受けるような曲を作ろうとか、何かを狙って曲を作ってた。そういうものを今回まったく持たなかったしテーマも掲げなかった。これまでは毎回アルバムを作る時はカチッとテーマを決めていたんですよ。たとえば“とにかくアッパーでライブでめちゃめちゃ暴れる曲を作ろう”とかの縛りを作ってから取り掛かってたんですけど、今回は単純にまたバンドをやれることが楽しかったし、とにかく楽しいものを作ろうと。良い曲と自分たちの好きなジャンル、自分たちの好きなことをやろう。それが大きかったですね。音楽をやっている人なら誰でも“次のアルバムはヒットを狙いたい”とか、ある程度考えていると思うんですけど、このアルバムは別にヒットしなくてもよくて(笑)。CDが一枚でも多く聴いてもらえたり、1人でもたくさんの方にライブに来てもらえる方がいいに決まってるんだけど、それだけを考えると長くやっていく上でしんどくなってくるんですよね。逆に自分たちが揺るぎなく在ることが大事なんじゃないかなって。人に合わせたり何かを目指して音楽を作るんじゃなく、今回は自分たちのワガママを通して、世間的にはウケないかもしれないけどそれでも良いか、ぐらいな気持ちで作ってましたね」
――TGMXさんの曲でアルバムが始まって、福田さんの曲で終わる曲順も絶妙ですね。
「おのずとそうなっちゃっただけなんですけどね。忠章君が、前半にP-FUNKな曲を並べたいと提案してくれて。全体にちりばめちゃうと“そういう曲もあったな”っていう認識になっちゃいそうだから、いちばん打ち出したいジャンルを最初からボンボン出していこうと。後はどの曲がどう並んでもいいかなって。今はあまり曲順通り聴かないと言われていますけど、僕らはアルバムの世代だし、下手するとまだアナログのA面B面の感覚も残っているので、もちろんこだわりはあります。ただ、今回は“この次はこれでいいんじゃない?”、“じゃあ次はこれで”、“最後はこれでしょう”ぐらいのざっくりとした感じでしたね」
――10曲目の『We can’t end it』はラストに向かっていく空気に満ちた曲ですけど、“終わらせたくない”と歌詞にあって、その終わりたくない余韻の分だけ11曲目のインスト『Stand Stock Still』までの曲間が長いのかなぁと。
「……それさえも特に考えていなかったです(笑)。そうやって聴いて頂いた方に想像してもらうのが一番いいんだと思います。楽しみ方も人それぞれにあっていいと思うし」
――いろんなタイミングが重なってこの作品が出来上がって、行間を探っていけばいろんなものを掘り起こすこともできますが、何も考えずにただ楽しく聴くことも出来るアルバムで。
「そうですね。P-FUNKといっても世の中に浸透しているわけじゃないし知らない人もいっぱいいると思うんですけど、面白いジャンルだと思うんですよね。僕がP-FUNKに出会ったのは高校の頃で、レッチリやフィッシュボーンが出たばかりの頃で、まだレッチリも売れていない頃で、“なんだ? この音楽は”と思って調べて行ったらどうもP-FUNKの影響を受けているらしいと。それから聴き始めて、あぁなるほどなぁと思いました。今の日本のロックの流れから言うと売れないラインだなって感じはしていて、それはわかっているんですけど、でも少しぐらいは良さをわかってもらえないかなとは思ってて(笑)。たとえばsuchmosが大ブレイクしていて、ファンクとかソウルとかも若い子たちはちゃんとわかって聴いているんだなって気がしてるので、昔よりはいい時代だなと思いますね。P-FUNKは今は全然流行っていないといったら失礼だけど、古い音楽ですしね。でもミュージシャンの中では好きな人が多くて、僕は昔からロックバンドはそんなに聴かなくてファンクとかソウル、ディスコとかそういうものばっかり聴いていましたね」
これからも僕らはずっとライブをしていく
――音楽的な印象としてはTGMXさん=ポップというイメージがあります。いろんなフィルターを通って最終的に出てきたものはポップな音楽というか。
「なるべくそうしたいし、そうなればいいなとは思っていますけどね」
――『Fun summer ends』のMVを最初に見た時は夏の終わりの時期で、一瞬言葉を失うような切なさを感じたんですが、切なくてその場に立ち止まる感じではなくて、あの曲の持つ切なさが自分の中に湧き立たせるものがあったんですよね。
「冬を楽しみにしているみたいなことでしょうか(笑)。今の全体的なモードとしてはポジティブなことを言いたいなというのがあって。僕らはバンドを続けられないぐらいの状態だったのに、今またやれるようになった。たとえば仕事で悩んでいる人がいたとして、いい時ばっかりは続かないし辞めなければまたいい状況に戻れるんじゃない?というようなことを何となく言いたい気はしています。なので、夏が去った後も、これからやってくる冬もいいよという感覚ですかね。肯定的に言いたいですよね。僕らにとってはメンバーが抜けるということはとても大きなことだったし、それを乗り越えただけなんだけど、“辞めなくてよかったな”っていまだに普通に言ってますしね。“辞めよう”と思っていた時は現実から逃げだしたかっただけなんでしょうけどね」
――そういう紆余曲折も人間として健全で健康的な気がします。
「健全とか健康的って、ロックとしてはミスマッチな言葉だなとも思いますけどね。健全というのは、品行方正とかではなくて、さっきも言ったように何も狙っていないということなんですね。今作は自分たちにとっては意欲作だと思っていますけど、他人から見ればどう映っているかわからない。けど、それでもいい。前作のミニアルバムと今作で100%出し切ろうと。この先は、今のこのモードを続けるのか変えるか、それはその時に考えればいいかなって」
――10月15日千葉LOOKを皮切りにツアーも始まります。アルバムだけで完結するのではなく、この後に続くツアーまでもセットで楽しみたい気もします。
「そうですね。年甲斐もなく、今までで一番長いかもツアーかもしれません(笑)。ASPARAGUSやthe band apartはちょうどリリース時期が近いし、CALENDARS 、COMEBACK MY DAUGHTERS、ニール&イライザ、荒井岳史、フルカワユタカとか、自分たちが一緒にやって楽しい人たちとツアーを回りたくて。自分たちの音楽が世の中に受けたらもちろん嬉しいですけど、それだったら、英語詞を辞めて日本語で歌詞を書くとか、普通にギターやベースを入れて3、4人組にした方が明快でわかりやすいだろうなとも思うんですけど、僕らは、自分たちのやりたいことを変えずに無理やりみなさんの耳をこじ開けて聴いて頂くのが一番いいのかなって(笑)。今回のツアーもそうですが、これからも僕らはずっとライブをしていくと思うので、どこかで見てもらえたら嬉しいです」
text by 梶原有紀子
(2017年10月13日更新)
Check