「“未来の『みんなのうた』”みたいになれたら」
近未来×郷愁感の黄金配合で聴かせるまさかの傑作『なつめろ』携え
ツアーファイナル大阪へと向かう三戸なつめに迫る!
撮り下ろしインタビュー&動画コメント
関西でも『ちちんぷいぷい』『MBS SONG TOWN』等のテレビ番組やCMで彼女を見かけることは、今やそう珍しくはないだろう。そして、以前からのモデルとしての活動に加え、’15年にはPerfumeやきゃりーぱみゅぱみゅ他のプロデュースワークでも知られる中田ヤスタカのもと、シングル『前髪切りすぎた』でデビュー。お茶の間に進出する親近感を備えつつ、様々なチャンネルでその魅力を発揮してきた三戸なつめが、ついに2年越しの1stアルバム『なつめろ』をリリースした。だが、モデルやタレントが音楽活動をすることは決して華やかな一面だけではなく、むしろそれ相応のクオリティと理由を自ずと求められるリスクを伴う。が、しかし。結果、そんな懸念を軽々凌駕する内容となった今作は、中田ヤスタカの凄まじい才能とともに、それに素直に応える歌声が見事に機能。彼女の声質が持っているある種の“幼さ”が“郷愁感”を誘発、そこに最新鋭のサウンドが鳴っているまさかの黄金配合に、新たなポップアイコンの誕生には、大いなる期待を抱かずにはいられない。“懐かしさ”を宿したメロディであり、“夏”を感じるメロディあり、“なつめ”のメロディでもある『なつめろ』。アーティスト・三戸なつめの揺れ動く2年間を刻んだかけがえのない1枚を、地元関西でのリリースツアーファイナル前に語ってもらった。
もう本当に何も分からんままやってたなぁって思います(笑)
――’15年のデビュー以来、ようやくリリースされた1stフルアルバム『なつめろ』ですけど、この2年間がギュッと詰まった作品ができましたね。新曲も含めて12曲並んでいるのを見たら、思うこともあったんじゃないですか?
「ありましたね~。特に『コロニー』(M-5)と『ねむねむGO』(M-11)は、デビュー曲『前髪切りすぎた』(‘15)(M-1)を録る前に、まだデビューの日程も決まってない状態で録った曲だったんですよ。だから、すごく初心に帰るというか…当時はもう本当に何も分からんままやってたなぁって思います(笑)。やっぱり新曲の『なつめろ』(M-8)と『風船と針』(M-12)と比べたら、全然違うなって」
――三戸さんはモデル/タレント業と、音楽業が並行して走っていて、この2年の間にそれぞれの位置付けも変わっていったと思いますけど、音楽活動はどういうスタンスというか、自分に何をもたらしてくれるものだと思います?
「モデル/タレント業は“自己プロデュース”というか、テレビに出る衣装とかも自分で選んだりしてるので、割と自然体ですね。あと、“親近感がある”ってよく言ってもらえるんで、そこは大事にしてる部分ではあります。音楽はやっぱり中田ヤスタカさんにプロデュースしていただいてるのもありますし、本当にいろんな方が支えてくれているので、自分的にもアーティストとしてはよりクオリティの高いものを目指してやりたいなって。ジャケットの写真だったり、ライブでの振る舞いとかは、自分でも意識しながら“親近感のある三戸なつめ、だけじゃないもの”を表現してるつもりではあります」
――飾らないモデルやタレントでのスイッチと、ある種ちょっと背伸びしてでもそれとは違う側面を見せるアーティスト、っていう。
「そうですね。でも、ライブのMCとかは結局また素に戻っちゃうんですけどね(笑)」
――ファッションの方面ではプロデュースするのに、音楽の方面では完全にプロデュースされる。両方やってるからこその面白さはありますね。
「そうなんですよ。曲もめちゃくちゃポップだし、“私ってこう見えてるんや”って最初は若干戸惑ったりもしたんですけど、それもだんだん受け入れられるようになってきたというか。歌っていくうちに楽しくなってきて、“こういう表現も自分はできるんだ”って分かった。それこそ、『前髪切りすぎた』を出したときは、“自分はこんなにポップな人じゃないんだけどな…”みたいな」
――陽のパワーを発して表現してる人あるあるですけど、普段は暗いです、みたいな(笑)。
「ホントそんな感じ(笑)」
自分がやりたい気持ちには勝てないなって
――『前髪切りすぎた』は自伝的というか等身大の歌詞ですけど、他の曲は割と感覚的な言葉も多かったりしますけど、歌うときの気持ちの持っていき方はどうしてるんですか?
「レコーディング前に歌詞カードを見て何回も曲を聴くんですけど、やっぱり“これってどう解釈したらいいんやろう?”みたいなこともあるんですよ(笑)。でも、それをヤスタカさんに何か聞けないんですよね、私(笑)。だからもう自分の感覚で歌って、ヤスタカさんがここは違うなって思ったところは“もっとこういう跳ねる感じで”みたいに、歌ってみてから具体的に指示してくれることが多いですね」
――でも、このアルバムを聴いてちょっとビックリしたというか、ヤスタカさんの凄まじい才能も感じながら、三戸さんがちゃんと歌い手としてそれに応えてるのが…ちょっと予想を上回る内容でした。本当に現時点で今年の10枚に入るアルバムの1枚だと思いました。
「えっ!? 嘘ぉ~嬉しい! ありがとうございます! 嬉しい」
――やっぱり二足の草鞋を履いてる人って、どっちかの表現が“片手間でしょ?”とか言われがちじゃないですか。“モデルなのに、タレントなのに”みたいなことって…。
「まぁ言われるやろなっていう感覚で私もデビューしましたし、それはもう諦めてるというか(笑)。うちも初めは“モデルが歌手をして…”みたいなことは、ちょっと気にはしたんですけど、自分がやりたい気持ちには勝てないなって。結局、分かってるけどやる!っていう(笑)」
――それこそ、音楽活動自体は以前からやってみたかったことだということで、小さい頃にモー娘。とかSPEEDをテレビで観て、みたいな世代?
「もうガッツリその世代です! ステージに立って踊ることとかに憧れはありましたし、“モーニング娘。になりたい”ってすごい思ってました(笑)。それで芸能界に入って、モデル以外に何かもう1つ自分の強みが欲しいというか、もっと名前をみんなに知ってもらいたいなっていうのがあって、そのときに事務所の社長に提案してもらえて」
――結果このアルバムができたなら、そのGOはやっぱり正解だった気がしますね。
優しく歌った方が人に伝わったり
曲調に合ってるんだろうなって、最近ちょっと分かり始めて
――自分の歌い手としての魅力はどういうところだと思います? ヤスタカさんが自分のどこを買っているのか?
「何なんですかね? 全然きゃりーちゃんっぽくもないし、Perfumeさんっぽくもないし、どっちかって言ったら三戸なつめ=昭和、みたいな(笑)。ヤスタカさんもCAPSULEとかの活動は近未来な感じじゃないですか。だから、“何で私に!?”っていまだに思います。何でなんやろう? 何かちょっと…近未来な感じに飽きはったんかな?(笑) とにかくありがたいですけどね」
――個人的には、今回のアルバムタイトルにも通じますけど、声が持っているある種の“幼さ”が“懐かしさ”を誘発するというか、郷愁感をすごく感じるんですけど、その辺の自覚はないんですか?
「全然なかったですし、『I’ll do my best』(‘16)(M-4)辺りのシングルまでは、“大きくハッキリ歌おう”みたいな感覚があったんですけど、『おでかけサマー』(M-2)のレコーディングぐらいから、“もっと優しく歌って”って言われることがめちゃくちゃ多くなって。自分でも結構声量はある方だと思ってたんで、“あ、ちょっとうるさかった?”みたいな(笑)。そこからは少し抑えめでずっと歌ってきて、今回録った『風船と針』に関しては、“その優しく歌ってる感じから、もう50%下げてみて”みたいな」
――もう最初からしたら今何%やねんってぐらい優しい(笑)。
「ホントに(笑)。最初が100%やとしたら、多分『風船と針』のAメロとかは5%ぐらい(笑)」
――ちっちゃ!(笑)
「アハハ!(笑) 本当に自分でも笑けるぐらいめっちゃ小っちゃい声で歌って。でも、そこから“さらに優しく歌ってみて”って言われて、“え!? もう無理”って思ったり(笑)。マイクからちょっと離れて歌ってみたりしながらOKをもらえて…何かそういうふうにハッキリ歌うより、自分の声質的には優しく歌った方が人に伝わったり、曲調に合ってるんだろうなって、最近ちょっと分かり始めて。“歌う”=100%腹からバーン!と声を出すもんやと思ってたんですけど、それだけじゃないんだなって」
――ボーカリストとしての成長がそこにも。
「後から気付くんですけどね、いつも(笑)」
『なつめろ』に“これからも頑張ろうね”って
自分が応援されてる気分にもなりました
――ちなみに、アルバムタイトルの『なつめろ』の由来は?
「うーん、私もよく分かってなくて、“『なつめろ』ってよくない?”みたいな感じで決まりました(笑)。でも、覚えやすいし、キャッチーだし、“ま、いっか”みたいな(笑)」
――でもね、結果めっちゃいいタイトルやと思ったんですよ。懐かしさを感じるメロディであり、夏を感じるメロディあり、かつ“なつめのメロディ”でもある。
「そう! タイトルが決まってから『なつめろ』の曲をレコーディングしたんですけど、“あ! こういうことか!”みたいに私も後から思いました」
――今回のアルバムを聴いて思ったのが、三戸なつめの音楽的な魅力って、声が持ってる成分は懐かしいのに、サウンドがダンスビートであるみたいな。近未来×近未来じゃなくて、親近感×近未来というか。この声質だったらもっと童謡調のポップスとかでもいいのに、そこに最新鋭のサウンドが鳴ってる組み合わせがすごく面白いなって。
「面白いし、ちょっと違和感があるところも好きですね。どこか“ん?”って考えさせられるような…」
――そんなアルバムの中でも、新曲の『風船と針』なんかは今の自分にすごく近い心情だと。これは何でもそうですけど、時に知らなかったからこそできることもあって。そこから上には上がいることを知ったり、裏で動いてくれてる人の顔が浮かんだりすると、自由奔放なままだけではいられない。そういう心の動きが感じられる曲で。
「やっぱり自分も責任が増えるにつれて、萎縮しちゃってるなって感じることがすごいあって…読者モデルだったときは、もっと大胆に自由にやってたなぁって。もちろん今の自分の立場で守らないといけないところは絶対にあるんですけど、その中で自分がもっと開放的になれたらいいなっていうのはずっと思ってたので。だから、『風船と針』を初めて聴いたときにちょっと泣きそうになったというか、“何でバレたんだ!?”みたいな(笑)感覚はありました」
――このアルバムは、三戸なつめの出発点と言える『前髪切りすぎた』から始まって、今の自分に一番近い『風船と針』で終わる。本当に歌い手としての自分を体現した1枚ですもんね。
「あと、最初から最後まで聴いて、『なつめろ』に“これからも頑張ろうね”って自分が応援されてる気分にもなりました。このアルバムを1つの区切りとして、またやっていこうって」
――そして、このアルバムは、言わば“未来の『みんなのうた』”みたいやなって。
「えっ!? めっちゃ嬉しいです! このCDのブックレットには“未来の私”であるおばあちゃんが載っていて、未来の自分が『なつめろ』を聴いてるイメージなんです。“懐メロ”って言うと懐かしい過去を連想させるけど、そういうふうに未来でもずっとみんなが聴いてくれたらいいなっていう気持ちも込めて撮影したんで。だから今言ってくれたみたいな“未来の『みんなのうた』”みたいになれたら、もうガッツポーズです!」
“もうこの曲、神!!”(笑)
――今作において、個人的に特に思い入れのある曲はありますか?
「『わたしをフェスに連れてって』(M-11)は、まだあんまり曲もない新人なのにフェスに出させてもらえることが決まったとき、ヤスタカさんが作ってくれた曲で。この曲にはスタッフの声も入ってるんですけど、みんなで夜な夜なヤスタカさん家に押しかけて…私の歌を録り終わった後に、スタッフのみんなが“るんるん Wow Wow~♪”って歌ってるのを見ながら、何だかすごい嬉しくて。それに初めてのフェスは北海道の『JOIN ALIVE』だったんですけど、めちゃくちゃ盛り上がったんですよ。会場も結構広かったんですけど、めっちゃ後ろまで人も集まってくれて“もうこの曲、神!!”って(笑)。始まる前はすごいドキドキしてたんですけど、あのときの光景が病みつきになったというか」
――今回のアルバムのツアーも絶賛開催中ですが、昨年の大阪クアトロワンマンの頃のブログを見たら、人生で一番緊張したと書いてましたけど(笑)。
「前回の大阪は初日で、もうヤバかったです。本当に今までで一番緊張して、出だしとか普通に間違えたし(笑)。恥ずかしかったなぁ…でも、会場のみんなが優しくて、“間違えたー!”って言ったらめっちゃ笑ってくれて(笑)。ファンの人たちからも“緊張がめっちゃ伝わった”って言われて申し訳ないなと思いつつ、すごいあったかかったなって」
――みんなで歌手・三戸なつめを育ててる感じもあるかもしれないですね。
「確かに、お客さんが自分を見る目がたまにお母さんみたいなときがある(笑)。みんながいてくれるから、アーティストとしての自信が持ててるんです」
――今度は規模もちょっと大きくなって大阪はBIGCATで、ツアーの本数も増えて。最後に、アーティストとしての現時点での目標みたいなものはありますか?
「今が精一杯で、正直、具体的な将来のビジョンみたいなものはなかなか掴めてない部分はあるんですけど、欲張らんと、ちょっとずつでいいんでステージを大きくしていって…いつか武道館とかでできたら、やっぱりすごいことなんで。音楽番組を今やらせてもらってるんですけど、そこで武道館でやらはった人のVTRを観たりすると、やっぱりすごい感動するので。自分もいつかそういう経験をしてみたいなっていうのはあります」
――焦らずに、立つべくして立ったなって言われたいですね。
「そう! だからもう、今はワンマンのことだけをちゃんと考えようって」
――まずはリリースツアーファイナルとなる大阪、楽しみにしてます!
「はい! ありがとうございました~!」
Text by 奥“ボウイ”昌史
Photo by 宮家秀明(フレイム36)
(2017年7月20日更新)
Check