――そして歌詞の面では、『サネカズラ』(M-6)以降すごく赤裸々な歌詞になったのでは?
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「確かに歌詞においては、『サネカズラ』が1つのターニングポイントではありました。自分にとってライブという場所はすごく大きいんですけど、お客さんとの間にどこか壁があるなという感覚があって、ライブをしていても何だか居心地が悪くて。お互いに探り合ってるような感じから、もう一歩踏み込みたかったんですよね。人間関係でもそうだと思うんですけど、何か大事な秘密を共有しちゃったときとか、初めて2人で正面切って話したときって、今までとは違う距離になると思うんですよね。だから『サネカズラ』では、みんなと一緒だよっていうところを、俺も悩むし、不安もいっぱいあるし、汚いところもあるしっていうところを、まず表明したくて。お客さんともっと近付きたいという目標のもと、まずは自分が裸になって伝えようと。それでお客さんが、“お前がそれだけ言ってくれるんだったら、俺も話すよ”みたいに感じてくれて、今までとは違う関わり方ができたらというところから生まれたんです」
――なるほど、そうだったんですね。
「初めて全国流通盤を出したのが3~4年ぐらい前で、その頃は恋愛の曲が多かったんです。でも、そこから“泣けるバンド”とかカテゴライズされ過ぎちゃって…逆に恋愛の曲をずっと避けてきてたんです。でも、『サネカズラ』を歌ったとき、やっぱり俺、こういうことをグダグタ言ってるのが好きだなって思った(笑)。そういう原点回帰みたいなことがあった上で、よりお客さんとコミュニケーションを取るためにも、なるべくカッコつけないで、自然体で自分のことを歌おうと思ったんです。言わば、お客さん1人1人と“サシ飲み”するような、愚痴る感覚で歌った曲が(笑)どんどんできてきて、結果的にこういう“サシ飲みアルバム”になっていったのかなって」
――恋愛中の男子の頭の中って、こんな感じなんだって思いました(笑)。
「よく、“ここまで自分のことを書いて、恥ずかしくないんですか?”って聞かれるんですけど、恋は盲目に近いというか、僕は駅の改札とかでめちゃめちゃ深いキスをして抱き合ってるカップルが、恋愛の極限の形だと思ってるんですよ。あれって、いい意味でおかしくなっちゃってると思うんですよね(笑)。恋愛というものに溺れてるからこそできることで、普通だったら絶対にしないことなので。端から見たら“何やってんだ?”ですけど(笑)、2人の間では本当に美しい愛の形だと思うんですよ。だから、『サネカズラ』のような恋愛の歌詞を書くとき、僕はそこのタガが外れてたんだと思うんです。恥ずかしいというリミッターがなくなって、ただただ愚痴を言いたかったみたいなテンションで書いてる(笑)。僕自身はそこが盲目だったと思うんです」
――それだけピュアに吐き出した曲だったと。純度120%ぐらい?
「150%ぐらい(笑)。自分でピュアと言うと恥ずかしいですけど、それだけいい意味で何も考えず書いたという…」
――ここまで赤裸々に吐き出した歌詞だと、聴いてて重くなったりもしそうですけど、そうはならないところにポップマジックを感じます。
「嬉しいですね。僕はずっと詞曲を作ってアレンジもやってるんですけど、今回は詞曲だけに専念したかったので、アレンジは黒木(g)に全部託して。その辺は僕と黒木の融合がそういうマジックをもたらしたのかもしれないですね」
――バンドマジックですね。
「そうだ! バンドマジックですね。4人でやっててよかったです(笑)。(実感を込めて)これ、もし1人で作ってたらもうちょっとネガティブなアルバムになってたと思うんで。そこはバンドでよかったなと思うところですね」
今回のアルバムは異性からの共感を得られるとは思ってないので(笑)
――曲調はバンドサウンドを強調したものもあれば、EDMを取り入れた曲もあって幅広いですね。
「今のテンションとしては、“やっぱり生楽器っていいね”っていうところに帰ってて。アルバムバージョンで収録した『My name is...』(M-5)なんかは、ライブでやってる感じで録音してみようっていう流れでこうなりましたね」
――『矛盾のおれ様』(M-9)なんかは、今までになかったタイプの曲ですか?
「新しいタイプだと思います。これは単純に恋愛全般そうだと思うんですけど、必死になると矛盾してるとかしてないとか、もうどうでもよくなっちゃう感じがすごいあって。僕が誰かを好きでいるときに生まれる感情は、基本矛盾していて。自分でも気付いてるんだけど止められない、そういう“ダメだな俺は”っていう感じでは、この曲が一番愚痴要素が強いですね(笑)」
――この曲は同性からの共感を得そうですね。
「嬉しいですね。今回のアルバムは異性からの共感を得られるとは思ってないので(笑)、そうだとすごく救われるなと。女性の方には、“こんなことを歌っててもかわいいよ”って言われたいです(笑)」
――歌詞のダメな感じとは裏腹に(笑)、センスのいいトラックに言葉を乗せているのが印象的です。『ギブアンドテイク』(M-3)も竹縄さんの本音ですか?
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「本音ですね。例えば、“好きだよ”って言ったときに、“ありがとう”みたいに返してくる女性じゃなくて、“好きだよ”って言ったら、“好きだよ”って返されたい。俺がめちゃめちゃ求める分、相手にも求めてほしいんですよ。歌詞に書いてるのは実際の話なんですけど、“愛の見返りなんて望んでいないの”って言われて俺、すげー腹が立って。期待されないのって、すごい悲しいなって思ったんですよ。本当に好きだったら、期待せずにはいられないと思うから。だからすごい寂しかったし、そういう感情がこの曲では暴発してる(笑)」
――最近の若い子たちはSNSでは発信するけど直接的なコミュニケーションが取りづらくなってるようですが、それだけ竹縄さんが赤裸々に書きたくなるのは、今の世の中の人があまりそういう生々しい感情を出さないから?
「そこまで大それたことは考えてないし、今の若い子たちがどんな恋愛をするのかも分からないですけど、“言わずもがな”みたいなのはイヤですね。本当に大事なことは言わなきゃ伝わらないと思う。ただ、世の中に対して物申したいというよりは、自分の中のある種の恋愛観とか、思うことを歌にしたかったのが一番で。嘘を書きたくなかったので、大それたことは考えずに、ただただ歌ってますね。自分自身を知ってもらうために」
――聴いた人に衝撃とか何かきっかけを与えたいという想いは?
「音楽的にはあります。でも、歌詞で革命を起こしたいとかはないですね。結果的にそうなら嬉しいですけど、最初から狙って書こうとは思ってないです。そもそも恋愛に答えはないと思ってるし、だからこそ、結論が出ないままずっと話して気付けば朝になってることもある。恋愛ってそんなものだと思うんです。エゴとエゴのぶつかり合いで、自分の正解と相手の正解のぶつかり合いでしかない。あと、歌ってることは“俺はこう思います!”っていう主観でしかないので、押し付けは一切ないんです。だから、この歌を聴いて“かわいい”と思ってくれる女性がいたら挙手してほしいし、“俺もだよ”っていう同志がいたら手をつなぎに来てほしい。それぐらいのテンションなんですよね」
ライブはみんなで飲みに来てるみたいな、みんなでワイワイする感覚
それぐらいお互いに気を使わず、自然体で楽しめる場所にしたい
――“曲を持っていく度に言われた言葉をアルバムタイトルにしました”というコメントを読みましたが、これは誰に言われたんですか?
「メンバーとスタッフですね。個人的には曲って、“あなたをこうやってディスることだって、あなたが好きだからだよ”っていうある種の愛情表現の裏返しなんですけど、メンバーに“それは依存だ”みたいな話をされて(笑)。でも、自分は変えられないし、それでいいよっていう開き直りも含めて、“ミスター依存症”とか“ミスター中毒”=『Mr. HOLIC』っていうタイトルになって。ある種、自分を表してくれる言葉でもあるのかなと。これからも、ちゃんと竹縄航太を感じられる音楽であり、歌詞を書いていきたいとは思うので。そのスタート地点に立てるようなアルバムであり、答えだなと思います」
――ライブをする上ではどんな想いですか?
「ライブはまた別物として僕らは考えてるんですけど、お客さんとより近い感覚でコミュニケーションしたくて作った曲たちでもあったので、そういう意味でも、ライブはみんなで飲みに来てるみたいな、みんなでワイワイする感覚。それぐらいお互いに気を使わず、自然体で楽しめる場所にしたい。ライブは唯一、お互いの存在を確認し合いながら、一緒に音楽を共有できる一方通行じゃない場所だと思ってるので。より自然体で肩の力を抜いて、楽しい空間にしたいですね。アルバムでは僕が一方的に愚痴って話を聞いてもらってる感じなんで(笑)。気持ちとしては、“ごめんごめん話し過ぎちゃった。で、お前はどうなの?”って、みんなからの返答を聞けるようなツアーにしたいと思います。僕らもその距離でいたいと思うし」
――今回のツアータイトルは『ファーストレディー』(M-12)の歌詞の最後にも出てくるフレーズで、『Mr. HOLIC 〜僕が虫で、君が男でも恋したいのです〜 TOUR』っていう(笑)。それぐらい揺るぎない気持ちがある?
「揺るぎないし、プロポーズするならこれぐらい言いたい、みたいな、自分の願望もあるし、“俺はあなたのためにここまで言えますよ”っていう感じはありますね」
――“HOLIC”というワードしかり、150%赤裸々な気持ちを吐き出して、それを肯定してくれる場所がライブ?
「曲を作る段階で“肯定してほしい”っていう気持ちは一切ないですけど、ただ単純に僕という人間を知ってくれて、“あ、こいつおもしれーじゃん”でもいいし、“こんな恋愛観の人、探してました”だったら嬉しい限りだし、僕らの音楽を“最高!”って言ってくれる人が増えたらいいなって。ただ、そう言ってもらうためにやるのも違うと思うんですよ。あくまで自分たちがいいと思ったもの、歌いたいと思ったものを提示して、そう言ってもらわないと意味がない。それを今回はちゃんと形にできたので、このアルバムを肯定しない人がいてもいいんです。でも、これを“好き!”と言ってくれる人がいたなら、例え虫だろうと、男だろうと、恋したい!っていうぐらい(笑)、絶対に離さないぞ!っていう気持ちはあるんで。そういう決意表明みたいなところはすごくありますね」
Text by エイミー野中