SAKANAMONレーベル移籍第一弾
新しい一面もこれまでの“らしさ”も詰まった
新作『cue』を語る藤森元生(Vo&G)インタビュー
3月にレーベル移籍を発表したSAKANAMON。彼らが移籍第一弾となるミニアルバム『cue』をリリースした。この心機一転を映し出すように、新しい一面もこれまでの“らしさ”も詰まった全6曲は、その後のツアーも楽しみになる仕上がりだ。今回は藤森元生(Vo&G)に、転機を経て生まれたこの新作について話を聞いた。ウソのない彼のストレートなトークをお楽しみあれ。
――新作『cue』はレーベル移籍第一弾。そのタイトルには結成9周年の“9”と再出発の合図“キューサイン”の2つの意味が込められているんですね。
「そうですね。毎回制作する時にテーマを持って作ったりしてないんですけど、この転機はいいテーマになったなと。そういうのがあってなんか得だな……というか(笑)。決め打ちで作ったわけではないんですけど、そんな雰囲気でそっち(転機と周年を飾る作品)に向かいました。来年は10周年なんで、おもしろいことをして盛り上げていきたいね!って。そこに一つのゴールを作って、向かって行くミニアルバムです。ホップ!ステップ!な感じ (笑)」
――今回はミニアルバムで全6曲ですが、このままイベントなどのセットリストになりそうなまとまりがありますね。
「そうですね。そこは、まずリード曲があって、ほかに入れたい曲を並べて、あとはそこにない曲を入れてって、バランスをとることはやっています」
――では詳細を。1曲目はパンチ力ある『CATCHY』。イントロは“CATCHY!CATCHY!”のコールで始まり、キャッチーな曲に乗せて、詞でキャッチーに対する毒が炸裂?と思ったら、藤森さんにしては猛毒でもない印象 (笑)。
「そこはですね……受け取り方しだいですね(笑)。僕としてはわりと“こうすればいいんでしょ感”もありますよ、ハハハ! ま、どっちにとってもらっていいですけどね。そこはもう曲が一人歩きしてくれればと思ってます。僕が決めちゃうと、そういう風にしか聴こえなくなるのでね」
――でも曲の展開はSAKANAMONらしいひとひねりが……。
「どうなんですかね(笑)。ま、すべて成り行きなんですけど、この曲の1番を作って、このままで終わりたくないなって。自分が飽きちゃうから。だから一回終わらせて、また違うことしようと。このまま進んでも自分の合格点には絶対いかないと思って、じゃもうちょっと!って感じです。てか、この曲はとりあえず最悪、“CATCHY!CATCHY!”って言ってれば楽しいだろう!っていう(笑)。最初にこれでつかめたから、それだけでちゃんと目標は達成してるんで、あとはもうSAKANAMONの色を見せるだけ!ということですね」
――確かに1曲目でつかまれました。ゆえに2曲目『不明確な正解』のいつもの“SAKANAMON節”が際立ちます。
「そういう狙いがあったんですよね。1曲目の“CATCHY!CATCHY!”コールで違和感を持ってもらって、『不明確な正解』でいわゆるSAKANAMONのスタンダートみたいなものを出して“安心させてやる!”みたいな。新しいこともやるけど、こういうこともやっていくからね!って、一回ちゃんとなだめる(笑)」
――そんな“SAKANAMONスタンダード”な曲ですが、やはり昔と比べると少しだけ詞が“陽”な気がします。これはこの曲に限らずなのですが……。
「昔と比べてですか? う~ん、どうなんだろう。ま、単純にわかりやすくしたとか、自己肯定的な歌が増えたとか……ぐらいしか思いつかないですね」
――自己肯定感が増えたというのは?
「やっぱりね、作ってると不安になるんですよ。これでいいのか?と。僕は自分の考えていることがそのまま曲とか歌詞に出るんですけど、例えば『不明確な正解』は今の俺は大丈夫なのか?ってところから書いたんです、一番最後に。その時は僕の歌詞待ちで追い詰められてて、もうどうしたらしたらいいかな?ってなって、それで“正解はない!”って、歌ってあげたんです、自分自身に(笑)」
――そういう理由 (笑)。じゃあ今も不安感や否定感は……。
「あるんです。でも、どうなんですかね。めちゃくちゃ売れたらもっと自信もつくんじゃないですかね。ハハハ!」
――でも、いつまでも不安感や否定感のある人の味方でいてほしいです(笑)。
「そこはもう、大丈夫だと思います(笑)」
――ありがとうございます。そんなちょっと真っ当な感じがしないのが4曲目の『ヘソマガリアの地底人』ですね。
「これはもうちょっとわかりやすくした方がいいんじゃないかっていう会議があったんですけど、結局最初に僕が提示したわかりにくい形になりました」
――取材の度に、ダメ出しの話や追い詰められた話になりますね(笑)。
「もう、いつもいっぱいいっぱいです(笑)。なるべく思いつきたいんですよね。おもしろいなと思って、バーッて作っていきたいんです。でもそれだと間に合わないんで……ひねり出すしかないという」
――そうして繰り出された歌詞が3曲目の『lyrics』。歌詞を考えている状況を書いたんですよね?
「そうそう。そうです(笑)」
――実際の状況ですが、いつもながら生活臭はあまりしないですよね。
「そうですね。できるだけさせないですね、生活臭は。でも最近はあまり気にしてないかもしれないです。前はあまり一人称とか二人称とか(を使わず)、そういう人物像が見えない抽象的なものが好きだったので。ま、今も嫌いなわけではないですけど……」
――あまりひかれない?
「今は……(ひかれない)。今はすき間を探しているんです。やってないことを!って。これだけ曲を出せば、もう同じこともやりたくないし、かと言ってやってないことって、やりたくないことしかないから(笑)、そこをうまく……なんか中間のおもしろいことを探すという」
――なるほど(笑)。今の話は創作活動をする人ではなくても、どこか共感できるところがあります。だからSAKANAMONの曲にひかれるのでしょうか。いや、ひかれている時点で藤森さんと同じようにシニカルな視点があるのでしょうか(笑)?
「わかんないです(笑)。でも、たいていの人は屈折してると思います。パーティピーポーじゃない限りは。でも、流行ってる恋愛ソングとか聴いてる人の方が幸せなんだと思う。(その人たちは)全然(SAKANAMONに)共感しないと思う。“暗っ!”って言ってると思う(笑)」
――ただ、流行っているということはそっちが多数派ですね (笑)。
「それでも、それ(屈折している方)が好きなんで。やっぱみんなと違うってところが好きっていうのもあるし、なんだかんだで、世間に否定的な人間が好きなんですよ(笑)。そいつらが世間からダメ人間だって言われていても。絶対そういう人たちもいっぱいいるはず!」
――そんな尖った感覚から生まれた曲のなかだけに、5曲目の強く切ないバラード『テヲフル』が光ります。今作のハイライトですね。
「ずっと前からいつかバラードをリード曲にしたいっていうのがあったんですよ。それが今回のタイミングになったのは、たまたまです。リードにしないにせよ、そういう曲を作った方がいいっていうことで、作って持って行って。それが良かったので、なんかみんなそっちのモードになったんです。“リードで行けるんじゃね~か!”って。それで、テーマも今回の転機(に合わせて)……出会いと別れ、再出発に!って」
――ピアノのイントロから始まりながら、後半の叫ぶような歌声が耳に残りますね。
「やっぱ飽きちゃうんで。なんですかね、バラードって大抵長いじゃないですか。テンポも遅いし、僕の嫌いな“飽きさせる問題”が発生しやすいんですよ(笑)。で、かつ、今回この曲の1番ができた時に、このサビは何回も出したくないなって思って。ってなったら、1回だけで!って」
――ちなみに、出会いと別れがテーマの曲ですが、恋愛のシーンを想定していますか? ラブソングという言葉は出てきますが、もっと広くも受け取れますよね。
「一応、ラブソングです。ま、恋愛って区切りでもないですけどね。何ていうか異性的なラブソングというより、もっと大きな、感謝的な意味合いの方が強いですかね」
――と言うのも、恋愛になら男のロマンチストな部分が出ているなと思いまして(笑)。
「そういう風に聴き取ってほしいです。いや、やっぱりそこはどっちにでも……(笑)」
――いずれにせよ(笑)、この感触の詞は珍しいですね。
「初めてです。なんか新しいのを書けたなって。ほかのバンド……キラキラしたことを歌ってる人たちとかだったら、全然こんなのいっぱいあるのかもしれないですけど、我々がこのタイミングでこれを出したっていうのが、自分たち的にはかなりおもしろいことですね。あとはそれがどう響くかな?というところです」
――ここまでライブやインストアイベントで披露は?
「はい。ガンガンやってます」
――反応は?
「めちゃくちゃ反応いいですね。ハハハ! ちょっとそんな!って思うくらい。なんか昔から見てくれている人たちとか、特に大人の方々が“やっと元生もこういう曲を書けるようになったんだ”って。この時を待ってた的に喜んでくれて、すごいみんな褒めてくれます(笑)」
――良かったですね! では最後の1曲『クダラナインサイド (cue MIX)』の話も。これは会場限定シングルのリミックスです。オリジナルと変わった点は?
「より、歌が聞こえるように作り直しました。この曲も『テヲフル』に近くて、最近変わった点というか傾向かなと……。前よりも後押しが強くなった感じです。昔は“行こうよ”って手招きしていたところが、ちゃんと背中を押すくらいのスキンシップ具合になったかなと思います(笑)。テーマ的にも……(表現が)チープですけど……みんながもうちょっと希望を持てるようにって。ヘヘヘ。あまり(こういう表現では)言いたくないけど(笑)、前に、というか、より良い方にというか」
――距離感が縮まったことはファンを喜ばせそうですね。
「そうですね。歌詞に共感してもらえる機会がすごく増えたなと思います」
――さて、そんないろいろな側面が凝縮した作品だけに、これを携えた7月のツアーも期待大です!
「今回の楽曲だと、まずは『CATCHY』で踊ってくれと思うんで、そこが楽しみなところですね。あとは『テヲフル』で頑張って泣かせにいって(笑)、最終的に感動して帰ってもらうっていうのが、今のところの作戦です。笑いあり、涙あり、の喜劇になればいいなと。三谷幸喜的な感じでいこうと思います(笑)」
Text by 服田昌子
(2017年6月 6日更新)
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