バンドの歩みや最新ミニアルバム『Leave, slowly』について語る ジャンルの壁も国籍も超えたピアノスリーピースバンド Ryu Matsuyamaインタビュー
5月24日、ライブハウス・CLAPPERとイベンター・夢番地によるイベント『not forget pleasure』の第5回目が開催された。そこで今回は、イマジネイティブな音楽を響かせ観客を沸かせたRyu Matsuyamaにクローズアップ! バンドの歩みや最新ミニアルバム『Leave, slowly』のことについてたっぷり語ってもらった。笑いが絶えない朗らかな素顔が明らかに!
――『not forget pleasure5』に出演するRyu Matsuyamaさんは、言わば、夢番地&CLAPPERのお墨付きアーティスト。そこでまず読者の方にバンドのことをよく知っていただきたいので、バンドの成り立ちから教えてください 。
Ryu 「僕は20年間イタリアにいて、ミュージシャンをやろうと思って帰国しました。最初はシンガー・ソングライターとしてやっていて……。でもやりたい音楽はバンドサウンドだったのでオーディションを開いて、まずTsuruちゃんを選び……」
Tsuru 「一回落とされてるんですけどね(笑)」
Ryu 「でも“回収”し(笑)、初代のドラマーが抜けるタイミングでドラマー募集をかけたところJacksonが……」
Jackson 「ちょうどそこの頃、(留学中の)アメリカから帰って来て。ライブを見て、かっこいいなと思ってオーディションを受けました」
――各々の音楽を始めたきっかけは?
Tsuru 「僕は両親がピアノとかの先生で。家に楽器もあって、小さい頃から音楽をやる環境があったんです。本当に楽器をやろうと思ったのは中学校くらいですね」
Jackson 「何とか君だよね?」
Tsuru 「タブチ君(笑)。転校生のタブチ君がギターをやってて、すごくかっこ良くて! それで彼と一緒に音楽をやるにはどうしたら?って考えて、ベースがあんじゃん!と。でもタブチ君はギターをやめて、今はダンス……いやもっと他のことやってると思います(笑)」
Ryu 「僕も6歳頃から兄貴たちの影響でピアノを習ってて。でも最初は嫌い過ぎて上達しなくて、先生からも『ちょっと(ピアノじゃなくて)作曲やる?』って言われ……(笑)。ま、そもそもそこまで取り組んでなかったんですよね」
――意外。
Ryu 「今は後悔してます。もっと一生懸命やれば良かったなと。で、バンドを始めたのは僕もモテたいから(笑)。中学でギターを始めました」
Tsuru 「僕も? 僕はモテたいってひと言も言ってないよ。タブチ君だから(笑)」
Ryu 「ごめん(笑)。俺がモテたかったんです!」
――モテました?
Ryu 「全然!」
(一同笑)
――Jacksonさんは?
Jackson 「祖父が俳優で親父は普通のサラリーマンだったんですけど、親父が祖父の影響でレコードが好きで、たくさんレコード持っていて、小学生の僕にLPやレーザーディスクを聴かせて『これがアース・ウィンド・アンド・ファイアーだ』とか『これがイエスだっ』て。その時は嫌々聴いてました(笑)。それで小6の時にゲームのやり過ぎで目が悪くなって……」
Tsuru 「みんな理由が激しいな(笑)」
Jackson 「それでアコギをやってた兄貴に他のことをやれって勧められた一つがドラムだったんです。親父の部屋にドラムがあってオブジェと化してて洗濯物がかかってる状態だったんですけど(笑)、コレだ!って思って始めました」
――三者三様。ちなみにオーディション時のエピソードは?
Ryu 「僕は最初からTsuruちゃん!って言っていたんですけど、初代のドラマーがロック路線だったから選ぶベースもロッカーで……」
Tsuru 「今、遠まわしにお前はロックじゃないって言われてます(笑)」
(一同笑)
Ryu 「違う! 話も“回収”します(笑)。……で、ドラマーがやめるってなって、じゃ僕が想定していたバンドの絵に入っていたTsuruちゃんをもう一度呼ぼうって。手つきがおもしろかったんです、最初から」
Tsuru 「落とされた時、彼から長文が来たんですよ。“今回は申し訳ないです”って。しかも20歳の誕生日に。で、2度とこいつとは一緒にやらない!って思ったんですけど、数か月後に“やっぱりやらない?”って電話が来たら、すぐ“やります!”って言ってました(笑)」
――Jacksonさんが一緒にやりたいと思った理由は?
Jackson 「洋楽っぽいバンドだったからですかね。それまでバンドはやってなくて、ジャズのセッションとかをやってて、バンドで一緒にやろうぜ!みたいな気持ちはなかったんです。でも帰国してからは同じベクトルで頑張れるバンドをやりたいなって変わって、友達の紹介で“好きそうな洋楽っぽいのがいるよ”教えてもらってライブに行って……。俺より年上に見えたんですよね、音楽がクールで。話してる時とギャップがあるんですけど(笑)。それでこういう音楽に自分の経験をぶつけたらおもしろいんじゃないかな?って」
――Jacksonさんの印象は?
Ryu 「やっぱり見た目のインパクト(笑)。いろんな人が来てくれたんですけど……」
Tsuru 「みんな律儀にちゃんと曲を覚えてきたり、“こういう感じでやってみました!”って感じだったり、そのなかで彼は“なんだこれ?”って(笑)」
Jackson 「(オーディションで)同じ曲を2、3回やったんですよ。毎回(演奏は)違う手つきで……。(それまでやっていた)ジャズって即興だから。バンド(Ryu Matsuyama)もそういうのだと思ってたんです。普通の日本のバンドとは違うジャムバンドだと。でも、 “違うことやらないでください”…みたいな(笑)」
Ryu 「でもそれがおもしろみがあって、やりながら曲を作り上げているんだなって思いましたね」
Jackson 「でもだんだん(バンドに対する)見方は変わってきたかもしれないです。バックボーンが違う3人が集まって、どのジャンルにも当てはまらない映像の浮かぶような音楽をやるんだって気が付いて……いいバンドだなって」
――何かきっかけが?
Jackson 「前のアルバムでCDを出そうってなった時、きちっとアレンジを決めないとCDにならないから、ちゃんと方向性が見えたんですよね。それまではライブばっかりやってたんで」
――最新作『Leave, slowly』は自由度高い作品ですが、きちっと決めた緻密な計算上に成り立っているんですか?
Jackson 「その反対ですね」
Ryu 「かと言って100%自由でもないので決めることはちゃんと決めて。例えば、絵を描く時もスケッチするじゃないですか? そういうのは絶対にしておきます。そこに上書きする作業。骨組みをしっかり作って、こう足そう、ああ足そうっていうのを自由にやってます」
――丈夫な骨組みがマストなんですね。
Ryu 「う~ん。マストでもないかも(笑)」
Tsuru 「そこもやりながら作ってる気が……。スタジオでやって、こうだ!って思っても、ライブだと違って、また肉付けされたり」
Ryu 「骨組みを作りながら僕らのビジョンも固まっていくので。後から風景とかが付いてくる感じです。歌詞も書いた時に共有するかというとそうでもなくて、どんなビジョンかな?って3人で思い浮かべながらやってます」
Tsuru 「見てもわかんないですもん、英詞(笑)」
(一同笑)
Tsuru 「ぶっちゃけると、ワンマンが近いので……って歌詞を知るのも遅い話なんですけど(笑)……、ま、コーラスの兼ね合いで歌詞を見たら、もっとわかんなくなるな~って(笑)」
Ryu 「それまでは感覚で歌ってたものがね……」
Tsuru 「文字を追って当てはめるようにってなっちゃう(笑)」
――ハハハ。でも実は、詞を拝見してとてもわかりやすいと思いました。
Jackson 「そうなんです」
Ryu 「僕、ネイティブではないので。イタリア(生まれ)なので。結局簡単な英詞になるんですよね。それに、伝えたくないってことではないけど、伝えたいことをキーワードにして、少しでも英語がわかる人ならわかるという感じ。英語がしゃべれない人でもキーワードから感情が(生まれる)……。“Bad”って言ってるから悪い何かを想像する人もいれば、良い何かを想像する人もいると思う。『To a Sunny Place』って曲も、(日のあたるところの意でも)いいところっていう答えはなく、聴く人の方向性で進んでもらったらいいなって。そういう余地を残すということが簡単な英語ってことです」
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――なるほど。聴く側の想像という点で言うと……。先ほども出ましたが、曲と実際の人柄にギャップが(笑)。もっと大人しい人たちかと勝手に思ってました。
Ryu 「残念でした(笑)」
Tsuru 「ゴリゴリがきましたね(笑)」
Ryu 「さっきもラジオでも“すごく静かな声で来るのかなって思っていたら、うるさいですね”という第一声。申し訳ない(笑)」
Tsuru 「最近は(Ryuが)マッチョになった疑惑もあるし(笑)」
――人となりが音楽に映し出されない。
Jackson 「それがうちらのいいところ。まさに映像を自由に思い浮かべてほしいっていうのが詞にも音楽にも声にもある」
Ryu 「日本って内面と容姿はつながっているというイメージだと思うんですよ。でも海外では髭が生えててファルセットの人とかいっぱいいる。例えばボン・イヴェールは……グラミーも取ってるけど……見た目は木こりみたいなのに(笑)、ファーって(繊細な)感じだし」
――確かに見た目の情報は音楽のイメージに加わります。
Ryu 「究極、作品としてもアーティストとしても(目で)見てもらわなくてもいいんです。聴く人たちが(見た目を音楽に)意味付けちゃうから。でも音楽でもスポーツでも趣味で形から入るのはあり。僕も釣りをするけどいろいろ(アイテムを)集めてからやってるし。ただ個人を表すものに対して、形から入るのってないような気がするんですよね。それでもそこに“一理”があればいいと思います。例えば、何かをリスペクトしているのでこういう風にしましたとか。だから全面的にストップ!ってわけでもないんですけど……。ま、そもそも僕は髭が生えやすいので、生えてもいいんじゃない?って(笑)」
――そうですね(笑)。
Ryu 「中間にいたいというか、答えを出したくないというか。例えば、場所とか時間とか行動とか具体的な歌詞があって、それに対して自分が同じ体験をしていたらそう(いう気持ちに)なれるんだと思うけど、そんな時間にそんな所行ったことないし!ってなって、しかもそこから自由に妄想してと言われても、そこでの行為とか書かれていたら、もう(詞で)やっちゃってるし!って(笑)。だから僕はキーワードだけから勝手に想像してもらってという(スタイル)」
――今は聴く方がわかりやすさを求め過ぎなのかも。で、それに応えるという図式?
Ryu 「そうだと思います。本当にディテールを描くのが好きな人もいるとは思うんですけどね」
Tsuru 「で、それがめちゃくちゃうまいことできてれば全然いいんです」
Jackson 「ただ、うちらはそうじゃなくて詞も曲も全部が(想像の)要素としてあって音楽になるという」
Ryu 「あくまで個人的な希望ですけど、(そういうスタイルで)泣かせたら僕らの勝ちだと思うんです。僕ら自身も聴いた人の想像もすごいところに達したっていう。何も言わずとも感動するものってあると思う、夕日とか。それをやりたいんです」
Jackson 「何人も感動するというね」
――そうなるとわかりやすさからは遠のくので難解な音楽にもなりえるのですが、皆さんの音楽は全然そうじゃないですよね。
Ryu 「そうですね。コード進行もポップです。人となりは出さないけど、(音楽で)勝負してます」
――そして先ほど出ましたが、感動する“景色”という点でいうと、今作は自然が多く描かれていますね。
Jackson 「今回はそうですね」
Ryu 「今作は旅というテーマがあってSTARとかSUNとかが多くなってます。旅の中で(見た景色で)自分はどういう感情になるのだろう?というのを描いているんです」
Jackson 「それはRyu君が自分自身に対して言ってることでもありますね」
――曲は静謐さや荘厳さを感じますが、言ってるのは“All right!”的なポジティブムード。
Ryu 「結局僕、イタリア人なんで、悩んでもどっかでいいや!って思えるんです(笑)。何回も挫折する“彼”がいるけど、それでも歩き出すっていう」
――それも今作の特徴?
Jackson 「前作とつながってますね」
Ryu 「前作は“彼”の生まれた時から最後まで。最後が何かは明確にしてないんですけど『Child』という曲で終わります。今回は前作にある旅の部分をめちゃくちゃ集約したものだと思ってます」
――前作で得た“彼”の心象風景を……。
Jackson 「スピンオフの形でガーッと(集約)してあります」
――ライブでも“トリップ”できそうです。ライブと言えば『not forget pleasure5』。CLAPPERのステージは?
Tsuru 「初めてです。ありがとうございますっ!」
――これまでに『not forget pleasure5』の主催陣とやりとりは?
Ryu 「ないです。(なので出演は)書けないですけど、コネですかね~(笑)」
(一同笑)
――音楽の良さが出演の決め手です(笑)。志の高いイベント。ちなみにみなさんが思う良いイベントとは?
Jackson 「うちらのスローガンは『騙されたつもりで、呼んでくれ!』なんです。騙されたと思って一回、大きいところやらせてくれ!と……」
Tsuru 「それは俺らからの提示じゃん(笑)」
Ryu 「今、良いイベントの条件だから。でも、それ(スローガン)も書いておいてください(笑)!」
(一同笑)
――はい(笑)。で、話を戻し……。
Tsuru 「良いイベントは、皆で何か一つを……」
Ryu 「作り上げようとする感じ。愛情がミュージシャン、さらにお客さんまで伝わる。なぜこのアーティストに愛情を込めてるのかが伝わって、お客さんが楽しいって思う。このバンド見たことないけど、なんか楽しい!っていう」
Jackson 「目当てじゃないバンドも楽しめる!」
Ryu 「一貫性がないといけないとかじゃなく……『not forget pleasure』もそうですけど……全員(出演者の音楽)が違っても、主催者さんの愛情で“僕らはこういうイベントを提示しました、あなたはどう受け止めますか?”ってお客さんに伝わると、良いイベントが成立するんじゃないかと思います」
――では最後に読者にメッセージを。
Ryu 「スローガンが出ましたが、本当に騙されたと思って聴いてください! そして騙されたと思ってライブに来てください(笑)」
Tsuru 「基本的に騙していかないといけないね(笑)」
Ryu 「いやでも、本当に一回情報なしで素の状態で僕らの音楽を聴いてもらって、どういう感情が芽生えるかを聞かせてください」
Jackson 「そこで出たもの……感情もストーリーも情景も……それは本当に自分から出たものだから。自分でも気付かずにクリエイティブになれる手助けをね」
Tsuru 「……したいな!と」
Ryu 「何とかの向こう側に行ってもらいたいなと思います(笑)」
text by 服田昌子
(2017年6月23日更新)
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