初の詩集『真夜中の魚』の発売と並行して行われている
弾き語りツアー『ROOMS TOUR 2017』も終盤戦へ!
自身の可能性の幅を広げつつあるKeishi Tanakaインタビュー
この春、Keishi Tanakaが初の詩集『真夜中の魚』を出版した。ソロになってからこれまでに発表してきた3枚のアルバム、『Fill』『Alley』そして最新作である『What’s A Trunk』はもちろん、2002年に結成したリディムサウンター以降、The Dekitsも含めたこれまで15年間の音楽家人生で書き記してきた歌詞の中から厳選した41篇を収載。この詩集の発売と並行する形で4月から行われている弾き語りツアー『ROOMS TOUR 2017』は7月2日(日)の三重県・伊賀で一旦終了。その間も誘われるイベントには出演し続け、夏以降も各地でのフェスやライブイベントの出演が続く。詩集を編むことで改めて自身が発してきた言葉に向き合い、弾き語りツアーを重ねる中で自身の表現をより確かなものにし、可能性の幅を広げつつある真っ最中のKeishi Tanakaに話を聞いた。
――4月から続いている『ROOMS TOUR 2017』も終盤にさしかかりましたが、各地で詩集『真夜中の魚』の評判はいかがですか?
「ありがたいことに、ライブ会場でも売れてます(笑)。ライブの後にサイン会を開くこともあって、人によっては、気に入っている歌詞のページにサインをしたり、その日のライブでよかった曲のページにサインを、という声ももらったりして」
――東京では4月にチャーベさん(松田岳二)、5月にはカジヒデキさんを迎えた出版記念トークショーもありましたね。
「トークショーというより普段の僕らの雑談を聞いてもらった感じでしたね(笑)。どちらも、司会も入れないで2人だけで話す形にして、チャーベさんとのトークショーでは“歌詞はどうやって書いてるの?”とか“日本語と英語の歌詞の違いは?”とかの質問を投げかけてくれて。チャーベさんはリディムサウンターの頃から英語詞の曲の邦題とか、英語詞の和訳に関して感想をもらっていたし、僕のやりたいと思っていることや邦題をつける時のこだわりみたいなものにも気付いてくれていて」
――そのこだわりというと?
「英語のタイトルの直訳ではなくて、意訳のようなタイトルをつけることを自分でも楽しんでいて。たとえば『Prologue/序章』のようにそのまま訳したものもあれば、『After Rain/今は雨の音を聞く』や『Keep A Journal/片隅で書いた僕の日記』のようなものもあって、チャーベさんからは“その違いはどこからきてるの?”と聞かれたり。僕がちょうどトークショーにトルーマン・カポーティやレイモンド・カーヴァーの本を持って行っていて、20代の初めによく読んでいたこともあって歌詞の書き方や訳詞の表現にはそういった本の影響もあると思います。J.D.サリンジャーとかもそうですね」
――なるほど。
「これは別の方から聞かれたんですけど、“歌詞という歌ありきのものを本にすることに抵抗はなかったですか?”と質問されたことがあって。それはまったく抵抗はなくて、Keishi Tanakaというミュージシャンを知らずにたまたま手に取って読んでくれた方がいても嬉しいし、必ずしも歌とリンクしなくてもいいと思っているんですね。まぁ、リンクしてくれたらもちろんうれしいんですけど(笑)。今回の詩集を作る上で僕がこだわったのは、縦書きにしたいということと、見開き2ページで1曲の歌詞を載せたいということだったんですね。CDのブックレットだと歌詞は横書きですけど、今回のように縦書きになった形で読むとまた印象も違ってくる気がして。歌詞を書いている本人としては、改行の位置や行間にも意味があったりして、CDのブックレットだとデザイン的に1行に収まらないことも時にはあるんですけど、本の場合はそこを気にしなくてよかったのが嬉しかったですね」
――『真夜中の魚』というタイトルも目を引くと思います。個人的な意見ですが図書館や書店で新しい知らない本に出会いたい時は、タイトルで選ぶことが多くて。『真夜中の魚 Keishi Tanaka』という背中をパッと見た時に翻訳本のようでもあり、一般小説のようでもあり、自分だったら一度は手に取るなぁと。
「タイトルは自分でも結構気に入っていますね。2012年に出したCDブックのタイトルが『夜の終わり』で、今回が『真夜中の魚』だから同じような時間帯が続くなあとも思ったんですけど、それは僕が夜の時間帯に歌詞を書いていることが多いからなんでしょうね。でき上がった詩集を自分で読んでみて、歌詞を書いた時の感情とか忘れていることもあるなぁって、いろいろ思い出したりして。それと、まったく違う時期に書いた歌詞なのに内容的にリンクしているものもあって」
――というと?
「いちばん新しいアルバムに入っている『Just A Side Of Love』と、カジヒデキとリディムサウンター名義でリリースした『Teens』(2010年)の歌詞のテーマが一緒だったんです。主人公の世代が違っていて、『Just A Side Of Love』は大人の彼と彼女だけど、『Teens』はもう少し幼い僕と彼女。ただ歌詞で言おうとしていることは同じで、それぞれに別のストーリーを組み立てている。そういう発見はおもしろかったですね」
――特にうれしい反響はありましたか?
「“何回も聴いている曲でもこの詩集を読んでから改めてライブで聴くと、感じ方が変わった”と言ってくれた人がいて、そういうことがあるんだなぁと思って。今回詩集にしたことで、歌詞も曲もより伝わっているような感覚がありましたね。そろそろ作詞家、作曲家と名乗っていこうかなと(笑)」
――全37本をKeishiさん自身でブッキングされた『ROOMS』ツアーも残りわずかですが、これまでと違う手応えはありますか?
「これまでも弾き語りのライブはやってきましたけど、今回のツアーは何か新しいものを持って“今これをやりたいんです!聴いてください!”というツアーではなくて、リディムの曲もやれば、リクエストをもらいながら時にはゆるい感じでやったり、ある意味この15年、自分が歌ってきた曲を何でもやれるツアーになっていますね。これまで自分のライブでリディムの曲を歌う理由がなかったからやってこなかったけど、今回は詩集にリディムの歌詞も載せているので、明確な理由があると思っています。これは多分今回限りの感情です」
――詩集のあとがきでも“(リディムが終わってソロが始まっても)気持ち的には途切れていなくてずっと続いてる”と話されていますね。
「バンドがなくなってソロが始まるまでにあまり時間を置かなかったことも大きいかもしれませんね。あの頃は、時間を空けてしまうと後々良いことにはならないんじゃないかなって直感があって。解散も、バンドが終わったというよりもソロの始まりという感じだったし、中学3年生が高校1年生になるみたいにというか(笑)、卒業式があってすぐに入学式がある方がいいんじゃないかなって。これがもしも、解散からソロまで3年間空いていたとしたら、最初からリディムの曲をやっていたかもしれないし、一生やらないと決めていたかもしれない。そういうことを考える前にソロをはじめちゃった感じでしたね」
――弾き語りというと、座って静かに演奏を聴くイメージもありますが、2年前のRECORD STORE DAYでthe band apartの荒井岳史さんとSEASICKと一緒にdigmeout CAFE&DINERでライブをやった際の弾き語りは、演奏も歌もとても躍動的で、踊っている人がいてもおかしくないようなステージでした。
「そういうことにこだわっている部分は今もあります。ただ、今回の『ROOMS』ツアーは、“ROOMS=部屋”というコンセプトもあるから座って演奏するのもいいかなと思っていて。これはライブでも話しているんですけど、前まではバンドセットでライブをやる時と同じぐらいの熱量で弾き語りをやることにこだわっていて。今でもその想いはあるんですけど、じゃあ座って演奏している人が全力でライブをやっていなかというとそうではないし、去年Ropesとツアーをした時に思ったんですけど、Ropesは2人ともイスに座って演奏していて汗だくで演奏はしないけど、それがすごくいい。見るからに汗だくになってやっているライブだけが全力のライブで、汗をかいているように見えない弾き語りは全力でやっていないということにはならないですよね。いろんな全力の出し方があるし、いろんな全力を持っていたいと思うようになりました。みんなに楽しんでもらうのは大前提としてありつつ、詩集を出したことでより歌詞を届けたいなとも思っていて、いろんなやり方を試してみるのもいいなって。今まで100回やったことのある曲も初めてのアレンジでやってみたり、弾き方を変えてみたり。その日のお客さんが醸し出す空気とか、会場の壁がコンクリートなのか木でできているのかで音の反響も違ってくるから、そういうことも考えながらその日その日のライブを作っている感じで。この前も、『真夜中の魚』を弾き始めたら、あの曲はレゲエなんだけど弾き始めたら裏打ちじゃなくなっちゃって(笑)。自分でも“なんだ?このアレンジ”と思いながらもやり切ってみたらすごく新鮮な演奏ができて。そういうこともあるんですよね」
――まさにライブですね。生ものという感じで。
「『ROOMS』って同じ1つのツアーをやっているのに、毎回毎回違うイベントをやっているような感覚があって。部屋の間取りも会場によって違って、高級感のある部屋もあれば、“ウチは狭い部屋なんですけど”って座布団を出してくれるような雰囲気の会場もあって。時には宴会みたいな盛り上がり方をするところもある。ライブハウスは日本中だいたいどこでも雰囲気が似ていますけど、今回はカフェツアーなので、それぞれの持っている雰囲気は独特なんですよね。今回のツアーに関してはステージがいらないなと思って、それもカフェを選んだ理由の一つで。ステージがあって照明が当たっていると、見せる側と見る側がハッキリと別れちゃうような気がして。でも今回のツアーはその境目があいまいでいいし、境目がないからこそ見えるこっち側の感情もあるんじゃないかなって。座る位置によってはスピーカーの裏からライブを見ている人もいるんですけど、自分に置き換えたら普段はなかなか見えないものが見える場所からライブを観るのもおもしろいだろうなって。会場のレイアウトを決めるのも好きだから、イスの並べ方とかテーブルをどこに置くかもお店の人と相談して、照明の調光の感じとかも考えて歌う場所を決めたり。そうやってライブの全37か所で部屋づくりから関わらせてもらってやってきましたね」
――まさに『ROOMS』というタイトル通り、部屋に招くような。カフェでライブと聞くとおしゃれな感じもしますが、実際はライブハウスのような音響設備もなくとても大変だと聞いたことがあります。
「カフェという場所がおしゃれなだけで、カフェでライブをやることは決しておしゃれじゃないんですよね(笑)。どちらかというと土臭いというか、生っぽい。その街にあるライブハウスのスケジュールが埋まっていて空いていないことはあるけど、街にあるカフェが全部埋まってしまうことはないから、どこでもできるといったら変ですけど、スケジュール的に直近でもライブが決められることもあって。ライブハウスは半年前とか早くから押さえておかないといけないけど、カフェだったら今から来月の予定を立てることもできる。『ROOMS』はもともと、そういうフットワーク軽く弾き語りをやりたくて企画したライブだったんですね。たとえばツアーで名古屋と大阪を回る、その間に時間があるから三重で1回ライブをやるとか。だからといって内容は決してラクにやってるわけじゃないですけどね(笑)」
――7月2日(日)まで『ROOMS』ツアーは続きますが、これから会場に来る人にひとことお願いします。
「気軽に来てほしいですね。ライブ中、リクエストを受け付ける時間もあるのでためしに“あの曲を聴いてみたい!”とか言ってもらって、できる時はやるし、できない時は“今日はやってないんですよ”と言うので (笑)。ライブハウスにしばらく行っていない人とか、僕のことはよく知らないけどそのお店の常連さんとか、だれでもお気軽に。『ROOMS』が再び音楽に触れるきっかけになれたらそれも嬉しいのでお待ちしてます」
――気が早いですが『ROOMS』ツアー以降の予定は?
「具体的にまだ発表できることはありません。むしろそれを見つける旅でもあるんですよね。なのでフットワークが軽いながらもとても充実してますし、今回の詩集が自分の集大成とは思っていなくて、あくまでも1つの通過点。それと今回のツアーを回ってみて、今までは僕の中にやりたい弾き語りのスタイルが1つあってそれをお客さんに観てもらっていた感じだったけど、もうちょっと一緒に作っていく部分もあっていいのかなって。弾き語りでも踊りたい人もいるし、野外で弾き語りをやるとなれば、しっとり歌うよりも青空の下でハジけた感じでやると思う。なので、いろんなやり方があっていいのかなって。1つのことを貫くのは強いことだと思うんですけど、1つのやり方に見えるライブにもいろんな工夫があって、バンドだとフロントマンの直感でその瞬間、瞬間にライブが導かれて行っているのを目の当たりにすることもあって。自分がやっていてもそういうことって頻繁にあるんです。決まったスタイルでやるライブもいいけど、そういうライブの方に今はおもしろさを感じていますね。ツアーが終わってガラッと大きく変わることはないと思いますが、弾き語りツアーは1人で過ごす時間も長いし考える時間も多いので、これから先どんなふうに歌って、言葉を紡いでいくのか、楽しみにしていてほしいですね」
Text by 梶原有紀子
(2017年6月22日更新)
Check