『パトスとエートス』全曲再現ライブでホームに刻んだ
バンドの意地と感謝と現在と10年
Brian the Sunライブレポート
'07年、大阪にて中学の頃から音楽活動をしていた森良太(vo&g)を中心に結成。’08年には『閃光ライオット2008』決勝に出場、準グランプリを獲得。だが、若くしてバンドを結成し、早々に結果を出したこのバンドが、メジャーデビューを果たしたのは’16年。出会ってきた多くの人たちの顔と観てきた全ての景色をしっかりと音楽人生に刻みつけ、今年の1月に待望のメジャー1stアルバム『パトスとエートス』をリリースしたBrian the Sun。そこで、今作のリリースを記念し、ツアーに先駆けて行われた同作を完全再現するスペシャルライブをレポート! あなたの街にいずれ訪れるこのバンドワゴンの現在と10年を、とくと感じてほしい。
雨も上がり、心斎橋JANUSに続々と集うオーディエンスで活気立つフロアを出迎える、“Brian the Sun 10th Anniversary”のバックドロップ。Brain the Sunのメジャー1stフルアルバム『パトスとエートス』に伴うリリース記念スペシャルライブ大阪公演。オンタイムで照明が落とされ、雑踏のSEの中ステージに1人また1人と現れるメンバー。勇ましいドラムロールに溶け合う2本のギター、ゆったりとバンドを運ぶベースラインに乗って、告げたオープニングナンバーは『Impromptu』。森(vo&g)のセクシーな歌声が誘うアルバムの世界に、楽曲のボルテージが増すとともに心地よく引きずり込まれていく。
一転、真紅の光をかいくぐるスリリングなビートから突入したのは『Physalia』! 複雑に絡み合うリフの応酬、ノイジーなエフェクトボイスでまた違った色気が際立つボーカル。“メジャー初フルアルバムのお披露目ライブ”という気負いなど微塵も感じさせないステージ度胸と貫禄で魅せていく光景は、若くして10年という時間をともにした戦友ならでは。シーンを賑わせる同世代のロックバンドとは異なる視野と切れ味で、クールかつ淡々とぶった切っていくライブの、何とも頼もしいこと。タイトルチューンの『パトスとエートス』でも、躍動感と野性味溢れるバンドサウンドで、じっくりと会場の温度を上げていく。
ここで、「今日は『パトスとエートス』全曲披露ということでやってきました!」(小川・g)とのご挨拶の後、昨年実施した先行視聴会で感じた充実感が今日の起因の1つであることを伝え、「我々が10年突っ張ってやってきたイメージを、一瞬でぶっ壊した曲を(笑)。メジャーデビュー曲です」(森)なんて微笑みながら披露した『HEROES』は、アニメ『僕のヒーローアカデミア』のエンディングテーマ。キャッチーさと疾走感を束ねた彼らの新たなディケイドを支える代表曲と、胸高鳴る高揚感を演出する『Cold Ash』の波状攻撃に、会場の至るところから拳が上がる!
続いては、アニメ『甘々と稲妻』エンディングテーマとなった『Maybe』を。アダルトでアーバンなフレイバーでゆったり聴かせるミドルチューンは、森の艶やかな歌声と憂いのメロディの黄金配合で、さっきまでの喧騒とはまた異なる手段で、オーディエンスにポップソングを浸透させていく。
「皆さん楽しんでますか!? ここから後半戦いきますよ~!」という小川の扇動のもと、『アイロニックスター』では森が鍵盤にスイッチ。臨機応変にメロディを届ける彼らの手札が、とても自由にのびやかに響く。ここで、「ライブで初めて聴いてもらって、生のリアクションを見るのって毎回新鮮なんですよ。俺らは“こんな感じで盛り上がるんちゃうかな?”って妄想するんですけど」と小川が言えば、「俺“ら”はやめてくれる?」なんて森が翻弄(笑)。「結構予想と違う感じで面白かったり、ちゃんと聴いてくれるんやなって思ったり。ツアーの前にこんなふうにやれるの嬉しくない?」と小川が問いかければ、「リハーサルみたいってこと?」と森が再びイジるなど(笑)、「ここで線を引くのやめてくれる?」なんて小川が思わず抗議するやりとりも微笑ましい(笑)。
ダークで性急なリフからドラマティックに展開する、Brain the Sunのライブという現場を彩ってきた鉄板の1曲『Mitsuhide』に続き、これぞ4ピースのロックバンドたるダイナミズムで聴かせる『Hi-Lite』では、縦横無尽にメロディに編み込まれていく小川のギターセンスが光る。メランコリックな『Cloudy #2』といい、バンドが刻んできた年輪が問答無用に音に宿るライブからは、彼らが着実に歩んできたバンドマンとしてのイズムをヒシヒシと感じる。
「よく10年も、よくもまぁ長い間続いたと思います。最後に『月の子供』という曲をやります。イヤやな、終わりたくないな。みんな、幸せにやっていこうぜ」
白い光に照らされ切々と奏でられる森のピアノが、グッと心の距離を縮めるようなエンディング。アウトロから再び雑踏に包まれた心斎橋JANUSだったが、鳴り止まぬ拍手に応えメンバーが再び登場。
「僕、曲が終わった後に“ありがとう”って言うの何でやねんと思ってたんですけど、最近は言うようにしてるんです。ベタですけど、1人の力でこんな景色は作れません。みんなにも大事な人っているでしょ? 生きてたら増えてくるんですよ。まだ26年しか生きてないけど、こんなちっぽけな自分が何ができるんやろう?って。自分らしく生きること意外、まだ答えが見付かってないです。多分、ずっと見付からないと思いますけど…だから今日、歌います」
最後の最後に彼らが届けたのは、『白い部屋』。フロアに何百人いようと彼らの部屋を覗いているような1対1の身近さで、その想いを完全燃焼させた光景は、全国ツアーへの期待値をこれでもかと引き上げる切なくも優しいラストシーンのよう。『パトスとエートス』というバンドのキャリアを飾る旗を、しっかりと慣れ親しんだホームへと突き立てたBrian the Sunのライブだった。
Text by 奥“ボウイ”昌史
Photo by 渡邉一生(SLOT PHOTOGRAPHIC)
(2017年3月24日更新)
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