「ロールプレイングゲームで言うところの 仲間がどんどん増えていくような感覚がありますね」 幸せの連鎖をつないでいくsumikaの快進撃は続く! 『SALLY e.p』インタビュー&動画コメント
昨年は両A面シングル『Lovers/「伝言歌」』、4thミニアルバム『アンサーパレード』、そしてこの『SALLY e.p』と、形態の異なる3作品をリリースし、一昨年に片岡健太(vo&g)が体調不良で長期離脱を余儀なくされた試練の時期を乗り越え、’16年はバンドの底力と新たな可能性を提示してきたsumika。さらには、ツアーを行えば全公演ソールドアウトと、まさに上昇気流に乗って’17年をスタートさせた彼らだが、その勢いは最新作『SALLY e.p』のリード曲『MAGIC』でも顕著で、耳にした瞬間から世界を一変させるような心躍るパワーに満ち溢れている。ポップミュージックの王道感と好感度の高いボーカル力を武器にブレイクの予感も高まる彼らは、現在は史上最大規模のワンマンツアーの真っ只中。その後もレーベル主催ツアーに、初の東阪ビルボードライブ公演etcにと快進撃が続くsumikaの片岡健太と小川貴之(key)に話を聞いた。
アーティスト写真に写っているのは4人だけど
その裏側にいる人たちを常に意識しながら活動していますね
――片岡さんが復帰されてから活発なリリースやライブが続いていますが、今のバンド内はどんな状況です?
片岡(vo&g) 「復帰して最初の半年ぐらいはホントに“歓喜の舞”というか(笑)。“やったぁ! また音楽ができる!!”という喜びを改めて噛み締めながら活動していたんですけど、最近はいい意味でライブが日常になってきたので、ようやくフラットに音楽と向き合えていますね。“音楽人”としてバンドがチームに何を持っていけるのかを、改めて向き合うタームに来ている気がしています。っていう話を先日、荒井(ds)くんと2人で2時間ぐらいしました(笑)。ゲストメンバーや音響、照明、楽器チームとか、どんどんツアーに連れて行けるスタッフが増えてきているし、ロールプレイングゲームで言うところの仲間がどんどん増えていくような感覚がありますね」
小川(key) 「“これから音楽家としてどうやって生きていきたいか”みたいな共通認識は、特に話し合っていなくてもみんなの中に常にあると信じていたんで、そういうことについて話しているって聞いて、すごく安心しました(笑)」
片岡 「スタッフにも“今日のライブはどうだった?”って聞いて、反省して。トライ&エラーみたいなものは正しくやれている気はします」
――そういう話を聞いていると、sumikaというバンドのチーム力をひしひしと感じますね。
片岡 「総力戦ですからね。常にやったことがないことをやり続けているチームだと思うんで、挑戦の連続で。メンバーはもちろんスタッフもそうで、みんなが常に100%じゃ足りない状況で。じゃあどう120%をみんなで出せるのか向き合いながらやれているのは、sumika自体が人の手を借りないとできないバンドだからで。1人でアンプやドラムセットは運べないし、グッズを売るにしても当然スタッフが手伝ってくれている。アーティスト写真に写っているのは4人だけど、その裏側にいる人たちを常に意識しながら活動していますね」
――そういうことを意識するようになったきっかけはあるんですか?
片岡 「僕は元々音楽専門学校の出身なんですけどプレイヤー科じゃなくて、昔は音楽にスタッフとして携われたらいいなと思っていて。そういう目線で自分たちを客観的に見たときに、“スタッフからちゃんと愛されるバンドなのか?”が気になってしまうというか。もちろんお客さんの目線も気になるんですけど、スタッフから愛されていないとステージ上でも輝いていないような気がして…。どうせ楽しむならメンバーもスタッフも垣根なく楽しめたらいいなって。専門時代に裏側を見てしまったが故に(笑)、そういう目線になっちゃうときがありますね」
小川 「僕も元々サポートメンバーだったので分かるんですけど、sumikaは“招き入れる”という想いが強くて。だからステージ上でも、しっかりこのチームに貢献したい気持ちになるんです。片岡さんが一番招き入れる姿勢が強いというか、“人大好き”人間(笑)」
片岡 「そういう意識が常にあるわけじゃないんですけど、自分がダメだからでしょうね。ついこの間も酔い潰れて、おがりん(=小川)と隼ちゃん(=黒田・g)が家まで送ってくれたんですけど(笑)」
小川 「表に出ている強い部分だけじゃなくて、弱い部分もみんなが知っていると、チームが固まる」
片岡 「強い部分だけを見せられるような間柄じゃない。もう家族と一緒ですよね。自分の父ちゃん母ちゃんにカッコつけられないし(笑)、嘘もバレるし。そういう関係性だと思うんですよね、メンバーとかスタッフって」
今は数千、数万人の前でだってライブができる自信がある
――最新作『SALLY e.p』はどんな意識で制作したんですか?
片岡 「前作『アンサーパレード』のリリースツアー中に今回の制作があったんですけど、ツアー中に制作するのが実は初めてで、ライブで感じたことが作品に還元されていったんだと思います。ライブって最初は無表情だった人が笑顔になっていったり、涙を流していたりすることもあるし、“sumikaのライブで出会った人と結婚することになりました”って報告してくれることもあったり…。余談なんですけど、『Lovers/「伝言歌」』のジャケットのロケハンに一緒に行った人から、“実は結婚することになりました”と急に連絡が来て。そのロケハンの当日の夜にずっと付き合っていた人にプロポーズされたらしくて、さらに僕が“ロケハンにご同行をお願いできないですか?”って最初にメールした日のちょうど1年後が、結婚式だったんですよ! これはもう音楽が引き寄せた“魔法”としか言いようがないなって。そういういろんな奇跡が目の前で起こっていったので、今作のテーマはもう“魔法”でしょうと」
――それが1曲目の『MAGIC』にも象徴されているんですね。
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片岡 「そうですね、分かりやすく(笑)。もう1秒目から“魔法”をかけようと。これは『Lovers』ができたときの気持ちと似ていて、曲が自分を高めてくれるというか、引き上げてくれる感じがあって。多分、『Lovers』は楽曲とピアノが上手くマッチしたんだと思うんですけど、僕はピアノが弾けないんで、アコースティックギターとベースとドラムとボーカルのすーっごいラフな状態で、小川くんにデモを投げたんです。これが俗に言う“『Lovers』法”と(笑)。そんな成功例を1回見ていたんで、これはマジックが、奇跡が起こせるぞ!と。案の定、おがりんから返ってきたピアノがすごくよかったんで、コーラスワークがガチっとハマったらホーンを入れる余地を作ったり、『Lovers』と同じ方式で作っていって。今回もそういう成功体験を引き継げたのは、自分の中でも財産になるなと」
――その辺りは、小川さんが加入したことが大きく左右しているようですね。
片岡 「他のアーティストのライブを観に行った帰りに荒井くんと2人でよく話すんですけど、数百人の前だったら3人の頃のsumikaでもいけたかもしれない。けど、今は数千、数万人の前でだってライブができる自信がある。そこまで引き上げてくれたのはおがりんなんじゃないかって。それはコーラス力もちろんあるんですけど、やっぱりピアノが単純にすごいから。そこはすごい武器だなって今、改めて思いますね」
――小川さんは『MAGIC』のデモを投げられたとき、どんな印象でした?
小川 「片岡さんの持っている明るさというか、どんなに粗削りなデモの状態でも“片岡節”が出ていて、それにピアノを合わせるのが楽しくて。僕自身もプラス思考というか明るめの性格なんでそこが自然とマッチして、ホーンを入れた瞬間にまた広がりが増したんで。これは冬に聴くの最高でしょ!っていう、めちゃくちゃいい曲ができたなと」
――この曲には在日ファンクのホーン隊が参加していますが、ホーンを入れるアイデアはどこから?
片岡 「グレン・ミラーを聴きながら車を走らせていたら、“冬のシーズンにホーンの音って沁みるなぁ~”みたいな気持ちになってきて、ビックバンドでやってみたいなと思って。在日ファンクもすごく好きだったんでお願いしたんですけど、それも小川くんに投げるのと同じように“1人ぼっちでも寂しくないような感じで!”みたいな(笑)。逆に在日ファンク側から、“これは3管よりも6管の方がより世界観が出ていいと思うよ”と提案していただいて。コラボレーションの楽しみは前作『アンサーパレード』でも味を占めてたんで、余白を残して投げるのは大事なんだなって改めて思いましたね。じゃないと化学反応が起きないから。そんなことを楽しめた1曲でしたね。あと、レコーディングでは山口寛雄さんっていう新しいベーシストの方に弾いていただいて。もう異次元過ぎて爆笑が起こるっていう(笑)」
小川 「ドラムの荒井さんも僕も常に笑いながらレコーディングする、みたいな。“わ、こんなの入れてきた!”みたいに、フレーズが毎回全然違って、全部が新鮮で、おもしろくて。ホントにいい出会いでしたね。でも、それに負けない、いい歌を歌うんですよ!」
片岡 「何回も歌いました(笑)。めちゃくちゃ時間かけましたよ。メンバーも駆り立てられている感があったし、普通にキャッチボールをしていたはずなんですけど、いきなり150キロぐらいの球がバーン!っと返ってきたんで(笑)。僕は何を投げ返せばいいんだろう?って、歌を録りながらもずっと思っていましたね。ここは変化球じゃなくてストレートで返すでしょ、160キロ出すでしょ、みたいな美学(笑)。『MAGIC』はコーラスの本数も多いんで悩みましたけど、いい経験でしたね」
曲が一番喜ぶ方向に近付けていく
――『まいった』(M-3)は言葉のチョイスもおもしろいですね。
片岡 「歌詞は引っかからないと意味がないと思っているので。時に“ダサさ”も武器になるというか、カッコ悪い部分を見せられないとカッコ悪いっていう。カッコいい部分だけを見せるのは何か違和感があって、ちょっとおやおや?っていうところもさらけ出せるようになったのは強いかもしれないですね」
――その『まいった』と『坂道、白を告げて』(M-2)は、好きな人に告白するまでの気持ちを歌っているようです。
片岡 「まさしくその通りですね。歌詞も1対1の会話のところはカギかっこ(=「 」)になっていて、それ以外のところは心の声で。“まいった”の使い方が変わってきたり、心の中にあるはずの言葉が口に出ちゃったり、そういうことが歌詞カードを見てもらえれば分かると思うので、ぜひ歌詞カードを読みながら聴いていただきたいです。カギかっこを使うのはある種反則技だなとも思ったんですけど、ちょっとおもしろくやってみようかなと。自分の中でも楽しみながら歌詞にしましたね」
――配信やYouTubeで曲を聴いていると歌詞カードを見ることがなかったりもすると思うんですけど、CDを買って歌詞カードを見ながら聴く楽しみを味わってほしいと?
片岡 「やっぱり僕は歌詞カードを読むのがすごく楽しみだし、最初の話になっちゃうんですけど、どういうチームでこの音源ができたのかも気になるからクレジットも見るし。あと、映画のエンドロールがすごく好きで、とりあえずあの量の名前を見せられると、“これだけの人が作品に携わってたんだ”ってイヤでも思い知らされるじゃないですか。それだけでも拍手したくなる気持ちになるんで。歌詞ももちろんですけど、クレジットやアートワークも含めて手に取って見ていただきたいなっていう気持ちは常にありますね」
――今作はsumikaにとってはどういう1枚になったと思いますか?
片岡 「前作『アンサーパレード』で、アレンジの幅だったり、すごく間口が広がったと思うんです。sumikaはバンドだけど4人で完結させることにこだわらないというか。いろんな人の手を借りて、いろんな人に音を入れてもらって作っていくことに前作はチャレンジしたんですけど、それが“日常”になったというか。いろんな音を入れながら、曲が一番喜ぶ方向に近付けていくことを意識せず自然体でやれたかなと思うので。前作で得た“気付き”はそのままに、それをもっと研ぎ澄ませて、洗練できた気はします」
――この流れがまた次の作品につながっていくような?
片岡 「何をやってもsumikaはsumikaでしょっていう強みが今はあって。ピアノを入れなくても、エレキギターを入れなくても、ドラムが打ち込みになっても、僕でも小川くんでもないボーカルが歌っても、sumikaはsumikaでしょっていうのは、『アンサーパレード』のときに気付けたことだったりしたので。やるかやらないかは分からないですけど、そんな含みを持たせつつ(笑)。一番楽しい方法でやれればなと思っています」
――今作を携えて行われるツアーについてはどうです? 大阪はなんばHatchですね。
小川 「かなり広い会場なんで、僕たちの表情1つ1つ、演奏の温度感、空気感でグッと距離感を縮められるように、後ろまでしっかり包み込んでいけたらなと思います」
片岡 「Hatchは音も好きだし、客席で観ている感じも好きな会場で。僕らのライブを観ると幸せな気持ちになると言ってもらえることが多いんですけど、僕らも好きなことをやっているから自然と幸せな表情になりますし、そんな気持ちにさせることができているとしたら、僕らも幸せです。そこで幸せの連鎖みたいなものが起こっているから、聴いてくださる方も増えているんだと思いますし、ライブはお互いがそういう気持ちで向き合える場所というか」
小川 「ライブが終わったときに、“ありがとうございました!”って僕らが言うと、観客の皆さんからも“ありがとー!”って言われる。それは特別な空気感だなって思います」
片岡 「それがどこであっても、僕は“ありがとう”と思ったらちゃんと相手に言うようにしているんです。ライブハウスではお互いの“ありがとう”という気持ちがより際立って、“すごい場所に来たな”みたいな感覚が常にあるので。僕らはずっとそういう環境を大事にしていきたいですね」
Text by エイミー野中
(2017年2月 8日更新)
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