「10年以上バンドをやってきて どこかに忘れてきたものを取り戻せるんじゃないかって」 the telephones石毛&岡本が江夏詩織を迎え結成したlovefilmの 求めた曖昧の美しさ。ツアー開幕に捧ぐインタビュー&動画コメント
現在、活動休止しているthe telephonesの石毛輝(vo&g)と岡本伸明(b&syn)が新たに結成したバンド、lovefilm。今年3月にお披露目されたこのバンドは、ソロ作の準備も始めていた石毛が元々モデルや女優として活躍していた江夏詩織のInstagramを目にし、その感性に興味を覚えコンタクトを取ったところから大きく動き始めたという。8月に発売された1stアルバム『lovefilm』には、ビーチハウスやテニスといった石毛のフェイバリットでもある90年代のオルタナティブロックを大きく深呼吸した音作りと、バンド未経験とは思えない江夏のすがすがしい歌声が生む真新しいバンドの空気をパッケージ。江夏の声に導かれるように、石毛の歌声もこれまでとは違った表情を見せているのも聴きどころだ。間近に迫った初の東名阪ワンマンツアーの大阪公演は、11月19日(土)梅田Shangri-Laにて。the telephonesというキャリアを持ちながらも「lovefilmはこれまで以上に自分の素が出ている」と語る石毛と、その石毛の覚悟や初期衝動と近距離の感覚を引き出したともいえる江夏の2人に語ってもらった。
楽器は練習すれば上手くなるけど、感性は持って生まれたもの
――lovefilmというドリーミーなバンド名も、このメンバーも全てが予想外でした。
石毛(vo&g) 「感性が素晴らしい人とやりたいという気持ちがあって。楽器は練習すれば上手くなるけど、感性は持って生まれたものでもある し、自分はセンターに立つ気がなかったからこそ、納得できるセンターを選びたかったんですね。自分の好きなバンドもそういう点が突出してる人が多くて、スリッツとかも楽器初心者で成功してますよね。僕自身もう10年以上バンドをやってきて、どこかに忘れてきたものを、しっし(=江夏(vo&g&syn))と一緒にやることで取り戻せるんじゃないかって」
――江夏さんはバンド未経験とは思えないぐらい歌声も素晴らしくて。とてもきれいな声を持っていながら『Don’t Cry』(M-2)では絶叫するパートがあって驚きました。
石毛 「そうなんですよ。彼女は舞台もやっていて、スタジオで練習の休憩中にノブ(=岡本(b&syn))が“何か台詞を1つ教えてくれ”とか言ったときに、たまたま怒号のように怒る台詞を言ってくれて。僕はそのとき廊下にいたんですけど、その声を聞いてものすごくドキッとしたんですね。本当にすごく迫力のある声で、僕もthe telephonesでハイトーンで歌ったり叫んだりしてましたけど、それってスイッチが入らないと出せないから、しっしにはスイッチがあるんだと思った。なので、元々『Don’t Cry』には叫ぶパートはなかったんですけど、無理やりねじ込みました。ライブでも反応がすごくて、しっしが叫んだ後にお客さんの歓声も上がるんですよね。僕がスタジオの廊下でビクッとしたように、お客さんも叫ばれたときにビクッとするんでしょうね」
江夏 「ライブでシャウトしてるときには目をつぶってるんで、最初の頃はお客さんの反応が分からなくて。ただ、ずっときれいに歌っているよりも、“台詞を言って”と言われたことがこういうふうにつながっていって、違う一面を引き出していただけたのは嬉しかったですね。幅広いチャンスを与えてもらえたというか」
石毛 「見た目がかわいくて、女優でモデルもやってて、きれいな声をしてる…っていうのは想像がつきますけど、僕みたいに性格が悪い人だとそれだけじゃつまんないんですよね(笑)。彼女が叫ぶことでギャップも生まれるし、そうかと思えば『Kiss』(M-3)みたいな曲もあるし。喜怒哀楽を表現できる人なんで、すごくいいなと思います」
何も考えてない曖昧じゃなく、意思のある曖昧さ
――『Kiss』はMVが早くから公開されていました。演奏シーンと、モノクロの石毛さんのシーン、カラーの詩織さんのシーンで構成されていますが、この曲をMVに選んだ理由は?
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石毛 「どうだったかなぁ。曲のバリエーションが広いアルバムだし、“リード曲”っていう時代でもないだろうから、しっしが一番映える曲がいいなと思ったんですね。最初は『Alien』(M-1)にしようと思って監督にもそう伝えてたんですけど、『Kiss』は個人的に好きで、このバンドを一番表してる曲だと思ったから、“どっちかで悩んでるんだよね”ってメンバーに伝えたら、“俺も”、“私も”って。『Alien』だとthe telephonesの延長になっちゃうような気もして、それよりは新しさとかいい意味で予想を裏切りたかったのもあって。この曲はメンバーの人間性の核が出ている曲かなとも思ってるんですよね」
――“しっしさんが映える曲”と言われましたが、映像を観て納得です。
石毛 「誰か女優さんに出てもらってああいう映像を撮る作品は多いと思うんですけど、メンバーでそれができるのは強いなと。それに、バンドしかやったことない人だったらあの映像は撮れないと思うし、それはしっしが女優やモデルをやってきてるから、カメラの前で自然にああいうことができるわけですよね」
江夏 「便利ですよね?(笑)」
石毛 「便利じゃなくて、多面性です(笑)。それはこのバンドの強みでもあると思うし、海外ではモデルの人がバンドを組むことも珍しくないけど、日本はちょっと保守的ですよね。そういう偏見もなくしていきたいなと思う。音で表現するか、演技で表現するかの違いなだけで、アーティストというくくりなら全部一緒だと思うんで」
――『Kiss』は歌詞もいいですね。“さよならだけが人生ならば”とか。
石毛 「そこは寺山修司ですね。昔から寺山さんの本は愛読書なんです。the telephonesが好きだった人はこういう歌詞に驚くかもしれないけど、自分でもlovefilmはこれまでのバンドやソロ以上に、自分の素が出てると思います。しっしはthe telephonesを知っててくれたから最初はイメージが違ったみたいだけど、元々はこういう人間というか」
江夏 「ビックリしました。the telephonesの音楽は聴いてたんですけど、インタビューとか普段話してるところとかは全く知らなかったんで、最初にお会いしたときに石毛さんもノブさんも普通に腰が低いというか(笑)」
石毛 「稲穂のように頭を垂れてたからね(笑)」
江夏 「上から目線みたいに聞こえちゃうけど、その腰の低さに、“逆にすみません!” みたいな。ただ、最初の時点で、こういう歌詞を書く人なんだなっていうざっくりとしたものは感じました。とは言え、ギャップのおもしろさもありつつ、最初は受け入れるのに必死でしたけど」
――江夏さんの声と石毛さんの声が重なることで、リスナーとしても発見がありました。その声や雰囲気にバンド少年の初期衝動っぽさを感じるというか。
石毛 「ずっとそう思いながら音楽をやってきたんですけど、これまで評価される側面はそこじゃなかったんですね。僕自身はメロディを大事にする作曲家ではあるので、メロディメーカーとして見られたらいいなとは思ってるんですね。歌い方に関しては『Kiss』は特に自分でもチャレンジだったんで楽しかったですね」
――江夏さんは石毛さんの曲を歌ってみていかがでしたか?
江夏 「最初にデモが送られてきて聴き終わった後も、ずっと頭に残っていて、気付いたら口ずさんでるような感じで。だけど歌詞は、わざと漠然と、ふわっとしてるけど、考えさせられるものもあって、いろんな角度から捉えられるような歌詞だなって。石毛さんの繊細さが分かったし、30歳の男性が書いたとは思えないような、甘酸っぱいキュンキュンしちゃうような詞が多くて(笑)。私自身もすごく共感できる部分があったのでスッと入ってきて、ちゃんと自分のものという認識で歌えたのもすごくよかったです」
石毛 「全部自分で歌うとしたら赤面するような歌詞だし、絶対にこうはならなかった。しっしに預けて歌ってもらったらすごくハマったんですね。他の人だったらこうはならなかったかもしれない」
――最後の“叶わない”というフレーズがとても印象的だったり、歌詞の世界を想像させるものもあれば、景色や感触だけを伝えるものもあって。そういう漠然とした感じにかえって想像力をくすぐられます。
江夏 「曖昧で漠然としてるからこそ、いろんな人生を歩んでいるいろんなタイプの人に当てはまるんじゃないかなと思うんですね。一部の人にしか伝わらないようなコア過ぎる歌詞でもよくないし、逆にみんなに受け入れられるのもウソっぽいというか。言葉がメロディを邪魔していないのがいいなと思うし、邪魔せずにフッと考えられる感じがいいなって。ふわっとスッと入れるような、いい意味で曖昧で漠然としたところが、聴く人それぞれに自由に受け止められるんだろうなって」
石毛 「そこは感性がすごく似ていて、僕も曖昧が好きだし、曖昧は美しいと思うんですね。一方的に意見を押し付けるのは子供の頃から大嫌いで、あらゆることをその人の目線で考えるのがいいと思うんです」
――音楽に限らず、今の時代は黒か白、右か左のどちらかを選ぶことを迫られているように感じることがあります。
石毛 「絶対譲れないところは白黒つけるんですけど、芸術とか物事を表現するのにそんな簡単な感情で割り切れないし、そうやって割り切れる人はそもそも物を作らないと思う。それができるならもっと普通に生きられるし、普通に生きられない感情があるから、曖昧にしていくことの美しさを感じてるというか。何も考えてない曖昧じゃなく、意思のある曖昧さであって、曖昧でモヤモヤしてるのが多分自分も心地いいんですよ。一生、中二病なんで(笑)」
初ツアーで初ワンマンだから
単純に“楽しい!”っていうだけでいいのかなって気もする
――『Our Dawn』(M-9)の“意味のないことは何一つなくて 喜びのために年齢を重ねていく”は、いい一文ですね。
石毛 「それは自分が30代になって思ったことですね。僕はルー・リードが大好きで、彼が亡くなったときにすごく悲しくて。彼の曲名を何か歌詞に入れたくて、この曲に“サテライト オブ ラブ”という曲名を無理やり入れました(笑)。『Don’t Cry』(M-2)にもキュアーの曲名“boys don’t cry”を入れてるんですけど、僕自身が小学生ぐらいの頃に洋楽を聴いて、歌詞やライナーノーツを読む中で、いろんなバンドや音楽を知っていったんですね。なので自分の音楽でも、そうやって若いリスナーが何かを見つけられるようなことができたらいいなという想いもあって」
――改めてこれまでの日々と1stアルバムを振り返ってみていかがですか?
江夏 「最初の頃は、高校生のときから憧れてたバンドが組めたのもあって、ただ楽しいという感じだったんですけど、レコーディングが始まってから、自分たちの鳴らす生の音がだんだんといつもCDで聴いている音になっていって…ミュージシャンの人たちにとっては当たり前かもしれないけど、それさえも自分にとっては初めてで感動する出来事で。そうやってCDになってお店に並んで、みんなが聴いてくれるんだって意識が生まれ始めて、いい意味ですごくプレッシャーもあったし、それが報われた作品になったと思いますね」
石毛 「初めてのバンドで、結成3ヵ月でレコーディングするなんてことは普通は経験できないと思うし、ギターも彼女のパートは自分で弾いてるんでね」
江夏 「リハで大きい音を出してると、小さいミスとか細かい音が聴こえなくて、何弦が鳴ってないとかが全然分からないんですよ。けど、レコーディングでクリーンな音になったときに、“あれ? 全然できてないじゃん”って(笑)」
石毛 「自分の中で聴こえてる音と、実際の音が違うんだよね」
江夏 「だからごまかしが利かないというか、難しいなと思いました。今まで気付けなかったことにレコーディング中に気付いてしまって、必死で練習したり、“どうしようどうしよう”って焦って、でも何とかそれも乗り越えて」
石毛 「みんな最初はそうだよ。そうやって上手くなっていくし、ライブもそうですけど、これまでにフェスに出る機会もあって、少しずつ彼女もなじんでいますね。もう、しっしの弱点はただ1つだけなので」
江夏 「ハイ。自信がないっていう(笑)。リハでは楽しめてるのに、お客さんを前にするとはっちゃけることができなくなっちゃって、きゅっと縮こまっちゃうというか」
石毛 「モデルとか女優をやってきてるから、人前に立つと“こういう自分でいなきゃ”っていう、見られるモードになっちゃうんでしょうね。でも、歌うことは=自分の中に潜って自分を解放すること だから、結構真逆のことなのかなって。なので、自分の理想を一回捨ててもらって、自分を解放することから考えていくのがいいんじゃないかなと」
江夏 「それが自分の中ですごく大きな戦いで、頭の中で考えてること、見せたい自分、実際に表現できる自分が、全部違っていて、全然一致してなかったんです。初めてのライブとかフェスが、もう遠い昔のように感じます(笑) 。覚えなきゃいけないことや得たもの、学んだことが多過ぎて、毎回自分の中で整理していくのが大変で。頭がパンクしそうになって、そのスピード感に必死についてきたという感じで。ライブ後に石毛さんとLINEで長文の反省会をしたりして、ちょっとずつですけど変わってきてると思います」
――初めてワンマンツアーの大阪公演は、11月19日(土)梅田Shangri-Laで。楽しみです。
石毛 「超シンプルにやってやろうと思うし、それがカッコいいと思ってます。しっしも最初の頃に比べたら全然成長してると思うけど、初ツアーで初ワンマンだから単純に“楽しい!”っていうだけでいいのかなって気もする。起きることの1つ1つに驚いてもらって、一喜一憂して、それを僕らは横で見ているだけでもフィードバックがありますから。正直、バンドができてまだ1年も経っていないし、そんなに深いことは考えずにいいものを作ろうというのと、これから起きることを全部楽しんでいけば、どんどんいいバンドになるんじゃないかなって。自分のキャリアを使うことがこの先に起きれば使うけど、野放しでやれるなら僕も新人の気持ちになって何も考えないでやれそうだし、そういう意味ではlovefilmはすごく楽しくやれてますね」
(2016年11月18日更新)
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