「あまのじゃくな自分を受け入れられるようになってきた」
一生ふくろうずします(!?)な原点回帰と底力
切実で美しい会心のポップアルバム携えツアー中!
『だって、あたしたちエバーグリーン』インタビュー&動画コメント
エバーグリーン=常緑、不朽。そんな大胆な冠にも頷かざるえない『だって、あたしたちエバーグリーン』には、ふくろうずというバンドが続いている理由と意義、どこかドリーミングで切ない珠玉の11曲がズラリ。ふくろうずの原点回帰と底力を感じさせる素晴らしいポップアルバムに仕上がっている。ヤラしくならない抜群のバランス感覚でポピュラリティを鳴らす完璧なリード曲『うららのLa』(M-3)、イントロの音色からして80s、舌足らずのコーラス、“オールナイトロング”に“コールマイネーム”と、ポップスの常套句が闇雲に顔を出す(笑)ニクいくらいの確信犯『ラジオガール』(M-5)、女性としての個とかわいげがポップスの隙間に見え隠れする『夏のまぼろし』(M-9)、実はREC途中からクリックが消えていたテイクがエモさに拍車をかけたという『エバーグリーン』(M-11)などなど…良質なメロディを多く世に出してきたポップマエストロの面目躍如な1枚に完全ノックアウト! “あまのじゃく”な自分と素直に向き合うというパラレルさで今作に挑んだ内田万里(vo&key)に、リリースツアー大阪公演を前に9年目のクリティカルヒットの真相を聞いた。
すごく、すごく自分らしいなって思います(笑)。この一連の流れとかは
――今回のアルバム『だって、あたしたちエバーグリーン』は、ふくろうずが続いている理由と意義が分かる素晴らしいアルバムだなぁと。制作に関しても、原点回帰の気持ちがあったとのことですが。
「レコード会社が変わったり、あとはバンドを長くやっちゃってる=自分たちなりにいろんな曲を作ってきたので、“今までにやったことがないことをやろう”というよりは、“音楽をやろうかな”とか“曲を作ってみよう”っていう、最初の気持ちにもう1回戻って作った方がいいものができるんじゃないかなって。悲観的な意味ではなくて、自分にはそんなに引き出しがあるわけじゃないと自覚したんで、それを前向きに捉えて、元々自分が持っているものを出したいなって、素直に作りましたね」
――原点回帰ということで言えば、改めて自分たちの素の魅力を意識することはありました?
「平たく言ったら“中2感”とかそういうものだったり(笑)、やっぱり私のキャラクターが出てる方がいいのかなぁって。初めてのCD(1stアルバム『ループする』(‘10))ができたとき、自分の歌い方とか、自分の世界観がものすごくイヤで。今思えば素が出てた証拠だと思うんですけど、初めて自分の本当の姿を鏡で見たような衝撃があって、結構ショックで。アレンジもみんなの個性のぶつかり合いというよりは、私の曲をみんなで素直にアレンジしてる感じ。それがバンドとしてもすごく不完全に思えて、とにかくイヤだったのを覚えてます(笑)。でも、それから時間が経って、もちろんあれが完璧だったとは全然思わないんですけど、やっぱり素直なよさがすごくあったなって、やっと冷静に受け止められるようになった。すごく、すごく自分らしいなって思います(笑)。この一連の流れとかは」
――曲とかブログを見てても思いますけど、典型的な“あまのじゃく”やんっていう(笑)。
(一同笑)
「そうですね(笑)。本当にそう。もう、典型的なあまのじゃくなんですよ(笑)」
――この人、右に行けって言ったら絶対に左に行くやろうなって。右に行きたくても、それに従う方がイヤっていう気持ちが勝ちそう(笑)。
「本当にそうなんですよ。だから困ったなぁって。フフフ(笑)。来年で10周年になっちゃうみたいなんですけど、その10年でしたね。最近はあまのじゃくな自分を受け入れられるようになってきたという感じですね」
――そして、その結果が『だって、あたしたちエバーグリーン』であると。
すごく大切な作品になったと本当に思います
――今回の取材に際して初期の名曲である『ごめんね』(‘10)とかを改めて聴いて、めちゃめちゃいい曲だなぁと思って。すごくシンプルで、かつここまで届く曲を、6年前の時点でもうふくろうずは作っていて。いろんな旅を経て今回のアルバムができたことに納得がいきつつ、感慨深い感じがしましたね。
「私も『ごめんね』は今でもすごくいい曲だと思うし、歌とか音が外れてるところもあるんですけど、テイクもすごくいいし、曲のアレンジもシンプルなんですけどすごく好きで。自分がやりたかったこと、自分が好きだったものって全てあの曲に詰まってる。ある意味、本当に好きな曲をあのときに完成させちゃったことと、それが思ったより世間に受け入れられなかったことに、今思えばいろいろと思うことがあったんだろうなって。今回の曲にもあるんですけど、マイノリティなんだと思います(笑)。自分の好きなもの=世間のど真ん中じゃないんだって素直に受け入れられてきたのもあって、この作品が作れたんじゃないかなと思います」
――そうは言いつつ、全然マイノリティに留まらないポテンシャルを、今作を聴いて逆に感じましたけど。ただ、自分がこうと思う音楽を、やり続けるしかないですよね。
「そうなんだと思う。結局それしか方法はないのかなって。(世間に)上手く寄せられる人もいると思うし、自分でももうちょっと上手くやれると思ってたんですけど、やっぱりあまのじゃくなんで向いてないんだなって(笑)、そういう自覚はちょっとずつ」
――多分、周りももうちょっと上手くやれるんちゃうかと思ったでしょうね(笑)。だって、これだけポップな曲が書けるから。でも、そこがふくろうずのよさで、残った理由だとも思うし、この音楽の輝きにつながってるのかなと。
「ま、そう思うしかない(笑)。でも、この作品を通して今話したようなことがちゃんと具体的に思い当たるようになったし、自分の中ですごく大切な作品になったと本当に思います」
――1曲目の『白いシャトー』から、“そら残るわこのバンド”って思いましたもん。
「何か辞める理由もそんなにないっていうか(笑)。やっぱり2人とも(安西(b)&石井(g))すごくのんびりしてるんで」
――内田さんも十分のんびりしてそうやのに(笑)。
「だから相当ぼんやりしてると思う(笑)。みんなぼんやりしてるから、続けられてるんだと思う(笑)」
私らしさを構成してるものって
コード感とかメロディももちろんあるとは思うんですけど
歌詞が割とウェイトを占めてるんだなって
――冒頭の『白いシャトー』『メリーゴーランド』(M-2)が顕著ですけど、今作では“夜の遊園地”みたいなイメージがあったと。いつもアルバムを通してコンセプトを立てたりするんですか?
「今まではあんまり考えずにできた曲を入れてきたんですけど、前作『ベイビーインブルー』(‘14)がまさにそれで、一貫性みたいなものが特になかったので。今回はある程度同じような雰囲気を持った曲を入れたかったので、テーマがあった方が分かりやすいだろうと。ある程度それに沿ってアレンジもしましたね」
――例えば、『白いシャトー』『メリーゴーランド』がこのアルバムの根底に流れる切なさの配分がちょっと多くて、一転リード曲の『うららのLa』(M-3)は、ちゃんと傷みを乗り越えてから手に入れた幸せみたいなものが、しっかり伝わってくる1曲だなぁと。
「ありがとうございます。今の自分の限界のキャッチーさはこういう感じです。この曲は意図的になるべく多くの人に聴いてもらいたいなと思って書いた曲ですね。そういう気持ちが大切だと思いますし、それが全くない曲って、そんなに好きじゃないんですよね。多少なりとも大衆性が高いものにはしたいし、人を意識しないような曲は作りたくない。そこは変わってないかもしれないですね。その気持ちがなくなっちゃったら、わざわざこんなに多くの人を巻き込んでやることでもないのかなって(笑)。すごく小っちゃいことだったりするんですけど、1年に2~3回は必ず“バンドをやっててよかった”って思うことがあるんで、やり甲斐はやっぱりすごくあるんで」
――『夏のまぼろし』(M-9)なんかも切なさ成分のあるポップスですけど、歌詞にはそこはかとなく内田さんの恋愛観みたいなものも感じます。“後ろ指さされても やっちゃえばよかったのに”とか、“それでも 君のこと 笑わせたかった”というラインがめっちゃいいなと。好きな人にどうしたいかというときに、この志向が出てくるのが個性かなと。
「女の人でこういうことを言う人は、あんまりいないかもしれないですね。この曲は割と自分らしい歌詞かなぁと思います。私らしさを構成してるものって、コード感とかメロディももちろんあるとは思うんですけど、歌詞が割とウェイトを占めてるんだなって思いましたね。それはふざけたブログとかをやってても思うんですけど(笑)、同じテーマで同じことを書けと言われても、語尾とかちょっとした言葉の選び方で、その人となりみたいなものが出ちゃう。『夏のまぼろし』はメロディがいいとか歌がいいとかアレンジがいいというより、歌詞が一番いい曲だと思います」
――音楽的には原点回帰な部分もあって、言葉的にはより自分らしくなって、本当の自分に近いものというか、誤差がないものになりますね。
「そうですね。ずっと変わらない自分みたいなものを、もう1回出せたらなぁとは思ってましたね、うん」
バンドに向いてる人生は送れてるのかなって、前よりは思いますね
――アルバムを締め括る『エバーグリーン』(M-11)はタイトルにも関わってきますけど、大事な曲ですよね。
「そうですね。今の心境みたいなものだったら、この曲が一番素直に、いい形で表現できてるんじゃないかなって」
――ここにきて、ふくろうずの立ち位置を明確に示したような曲で。“生涯ふくろうず”じゃないですけど。
「フフフ(笑)。イヤだな、生涯ふくろうずは(笑)」
(一同笑)
「でも、やっぱり後悔はしたくないなと思うようになってきて。そういう意味では、こういう曲が作れたのはよかったなと思います。本当に素直な歌詞とメロディでよかったなぁ」
――内田さんは音楽自体はずっと続けると思いますか?
「いや、やりたくないなぁ~(笑)」
――アハハハハ!(笑)
「ただ、いろんなことができない人間なので、消去法で一番向いてるのがまだ音楽のような気がしてたんですけど、他に向いてることがあればそれもいいかなぁ(笑)。でも、すごく楽しいことだし、私はむしろサラリーマンになれないからバンドをやってる意識だったんですけど、やっぱり誰にでもできることじゃないのかもしれないなって。メンバーと出会えてなかったらバンドはできなかったし、自分だけピアノを弾けてもそうだと思うんで。それも含めて、バンドに向いてる人生は送れてるのかなって、前よりは思いますね」
――ちなみに、ちょくちょくソロで弾き語りをやるときはどんな感覚なんですか?
「1人なので自分の世界観が作りやすいし、バンドと違って集まって練習しなくていいので楽だなぁとか(笑)。でも、やっぱりバンドの方が好きだなぁと思います。あと、本当に熱中できるのって22ぐらいまでで限界なのかなぁって。無理にいろんな音楽を聴こうとか、いろんな本を読もうしたこともあるんですけど、今読んだり触れたものを曲にすると嘘になっちゃう感じがして。やっぱり10代とかに強烈に影響を受けたものから作った曲じゃないと、自分の中でしっくりこない。だから、昔の糧から作っていくしかない気はしてます。刺激を受け続けられる人もいるとは思うんですけど、私はすごくあまのじゃくなんで、新しいものをそんなに受け入れられる気質じゃないのかもなぁ」
――じゃあ自分の中にある思い出の金脈を、いろんな角度から掘る、みたいな。
「うん。それをやり続ける方がいいのかなぁと。それが結局、中二感みたいなものにもなると思うんで(笑)」
幸せなんだと思います、今はすごく
――今作が出来上がったときは、何か思うことはありました? いつもと違う感覚があったりしたのか。
「うーん…いい作品が作れたんじゃないかという気持ちと、もう少しやれたんじゃないかという気持ちが半々くらいですね。今までも“すごい傑作ができた!”って思ったことがなくて、だからある意味続けられるし、いつになったらそれができるんだよっていう感じでもありますが(笑)。でも、それがそんなに悪いことだとも思ってなくて。続けてるとこうやって褒めてくださる方もいるわけだし(笑)。うん、向いてる。幸せなんだと思います、今はすごく」
――ライブに関してはどうですか? 何か気持ちは変わってきました?
「バンドだと自分が100%楽しんでいいのか迷ったりしてたんですけど、私が歌ってるバンドだし、私が一番楽しんでいいんだ、みたいな自覚が最近は生まれてきたので、前とはまた違ったライブになるんじゃないかなぁと思ってます。“イェーイ!”ってなってる私を観てもらって(笑)、お客さんも楽しんでもらえるようなライブにしたいなって」
――今はバンドの雰囲気もすごくいい感じがして。ブログに載ってる出来事全部がめっちゃ楽しそうやもん(笑)。
「アハハ!(笑) もちろん楽しくないこともありますよ。でも、楽しくないことを書いてもしょうがないから(笑)。バンドの状態はよくなってると思いますし、この状態でやっぱり1人でも多くの人に観てもらいたいし、音源も聴いてもらいたい。それができたら、さらにいい環境でレコーディングできると思うので。やっぱり曲を作るのがとにかく好きなので、もっともっといい曲ができるんじゃないかなって、今はすごく思ってます」
――内田さん、音楽好きですね。
「何かそれもあまのじゃくのせいなのか、あんまり認めたくなくなっちゃったんですけど(笑)。漫画の方が今も買い続けてるし(笑)。でも、やっぱり好きなんだと思います。音楽で自分を表現するのが好きなんだと思います」
――音楽とちゃんと巡り会えてよかったなぁ。なかったらどうなってたんやろう(笑)。
「アハハハハ!(笑) 私は20歳を過ぎてから曲を書き始めたんで、今でもずっと新鮮な気持ちなんですよね。いくらでも曲は書けるし、その気持ちは全く変わってないですね」
Text by 奥“ボウイ”昌史
(2016年11月17日更新)
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