「“人と違うことでも、それが正しいんだよ”と歌っているので」
アリプロがシーンに投げかける『A級戒厳令』発令!
アニソン、J-POP、V系…カテゴライズ不能のアート・ミュージック
ALI PROJECTインタビュー&動画コメント
型や枠にハマらない音楽、独特のヴィジュアルパフォーマンスで国内外の聴衆を魅了し、幅広いファンから熱狂的な支持を得ているALI PROJECT。最新アルバム『A級戒厳令』では、アリプロ伝統のゴスロリ曲をはじめ、昭和テイスト、南国ムード漂う楽曲など、新しくも懐かしい楽曲が加わり、繊細かつ壮大で多彩な1枚になっている。そんなアニソン、J-POP、V系のどれにもカテゴライズされない唯一無二の音世界、現代アート・ミュージックを作り続けているアリプロが、ぴあ関西版WEBに初登場! デビュー当時の話から最新アルバム『A級戒厳令』にライブまで、“アリカ様”こと作詞&ボーカルの宝野アリカ、作曲・編曲の片倉三起也に話を聞いた。
アリプロの音楽は世界観がハッキリしているというか
日常的なことは歌ってないので、アニメと一緒になったときに
分かりやすく伝わったんじゃないかと思うんですよ
――ぴあ関西版WEB初登場ということで今さらではありますが、ALI PROJECTについて紹介していただけますか?
宝野「メンバーは2人なんですけど、作詞&ボーカルの宝野アリカと作曲・編曲の片倉の2人でアルバムを作っていて、メジャーデビューが…」
片倉「そんな前の話から?(笑)」
宝野「’92年なので、来年で25周年になるんですよ。最初の頃は盛大に売り出した割には全然売れなくて(笑)。デビューした頃がちょうどドリカム(DREAMS COME TRUE)全盛のときだったんですよ。で、ちょっと暗めのドリカムみたいな感じでやろうとして(笑)」
片倉「そうそう。それで出版会社の偉い人に、“明るいところに連れて行ったら、もう少し明るいヤツらになるんじゃないか”ってロサンゼルスに連れて行ってもらったり(笑)」
宝野「元々もっと暗い曲をやっていたので、明るいアメリカの風に吹かれれば、少しは分かりやすくなるんじゃないかっていうことで、いきなり。でも、私はヨーロッパに行きたいと思っていたのに、“初めての海外がなんでアメリカなの? アメリカにはお城がない!”って落胆して(笑)」
片倉「ビバリーヒルズで、そこにジャクジー付きのプールがあったよね」
宝野「豪邸だったもんね。それも遠い昔ですけど(笑)。デビューしてもあまり売れなくて、CMとかマンガのイメージソングを歌ったりして食いつなぎ…。『魔女の宅急便』のイメージアルバムで歌ったり、CLAMP(女性漫画家グループ)さんのテーマソングを作ったりしているうちに、アニメの音楽をやるようになって。アリプロの音楽は世界観がハッキリしているというか、日常的なことは歌ってないので、アニメと一緒になったときに分かりやすく伝わったんじゃないかと思うんですよ。それでどんどんそういう仕事が増えて、『ローゼンメイデン』の主題歌でアニメファンの皆さんに受けるようになりつつ、『.hack』、『コードギアス』でアニソンの世界で割と有名になって。ただ、オリジナルアルバムはアニメとは関係のないところで常にやってきて、オーケストラだけのアルバムとかも作りつつ、もう一方でアニソンのベスト盤やシングルを出したりしています。今はオリジナルの比重が大きくなっていますけど、アニソンで好きになった人も普通のアリプロを聴いてもらえるような感じになって、今に至る感じです」
――個人的には『ローゼンメイデン』の印象が強いです。
宝野「あれくらいから10代とか若いファンの人が増えて。アリプロも長くやっているので、親子でサイン会やコンサートにいらっしゃる方もいますね。この間は、嫁と姑という組み合わせでサイン会に来られていました(笑)。大学の教授とか作家の人も多いんですよ」
片倉「70%くらいは女性なんですけど、ゲイの方も多いんですよ」
宝野「ステージに踊り子、ドラァグクイーンがいるのでそれもあるのかもしれないけど、ゲイの方たちとか、性同一障害の方で、“自分のままでいていいんだ”って勇気をもらったとおっしゃる方が結構いるんですよね。“人と違うことでも、それが正しいんだよ”と歌っているので」
片倉「だって、“普通の方がおかしいよ”って歌っているくらいだからね」
宝野「そうね、私たちはね(笑)。“普通じゃつまらないじゃん”ってね」
今回のサウンドは、“多分アリプロはこうくるだろうな”っていうのを
分かりやすく裏切っている
――そんなアリプロさんのニューアルバム『A級戒厳令』ですが、作品を出すペースが早くないですか? 毎年きっちり1枚アルバムを出されていますし。
片倉「生き急いでいるので(笑)。まだやることがあるんだなって思ったら、もう25年っていう(笑)」
――アハハ(笑)。タイトルの『A級戒厳令』について教えていただけますか?
宝野「“戒厳令”っていうの何となく前から考えていたんですけど、ただの戒厳令だと軍事っぽいじゃないですか。ジャケットで軍服も1回着ているので違うふうにしなきゃいけないと思っているときに、“A級”っていう言葉を付けたらもうちょっとポップになるし、いろんなふうに広がるかなと思って、途中でA級を付けて」
――ということは、この“A級”という言葉にはいろんな意味が隠されていると?
片倉「要は、アリプロの音楽で戒厳令を出しちゃいますよっていうことです」
――それを感じさせるような1曲目の『永久戒厳令』は重厚ですよね。
宝野「最後にくればいいのになって思うような曲なんですけど、イントロの何かが始まる感じがカッコよかったので、それもあって一発目に持ってきました。今回はかなりいろんなタイプの曲があるので、何だか違う人が歌っているみたいな感じになっていますけど(笑)」
片倉「アリプロは結構エスニックな曲をやってきているんですけど、今回は南米の方に行ってみようかなって(笑)。『異種革命』(M-2)がそうで、『女化生舞楽図』(M-7)はキューバのルンバ。今までにやったことがないような曲が入っているんです」
宝野「最初は“ポルトガル系のバンドみたいな音楽をやりたい”と言っていたんですけど、結局“キューバのルンバになりました”って(笑)。だから、『女化生舞楽図』では葉巻とモヒートとかそういう言葉を最初は出そうかなと思っていたんですけど、全然違う昭和ムード歌謡みたいになってしまいました(笑)。ああいう歌い方をしたのは初めてだったので、おもしろかったです」
――それにしても今作の幅広さに驚きました。ゴシックなイメージが強かったので。
宝野「ゴシックな曲も残しつつ、今回はちょっとかわいい感じの、ロリータちゃんが好きそうな雰囲気の曲(『薔薇美と百合寧の不思議なホテル』(M-3)とかは入れるようにはしています。そういうものもやっぱり好きなので」
――アリプロさんは曲によって“~系”という棲み分けがあるんですよね?
宝野「“黒アリ”“白アリ”っていうのがあります」
片倉「“黒アリ”=ゴシックなんですよ」
宝野「そうそう。黒い服で怖い感じで、地獄がどうとか歌っているような感じ(笑)。かたや“白アリ”はロマンチック路線。声もかわいい感じで歌ったり。“大和ソング”っていうのもありますよ。それこそ軍服を着て歌うような曲で、さっき言った1曲目にあたる感じです。“美味礼賛シリーズ”は食べ物をテーマに作っていて、今回はタイトルが『A級戒厳令』だからこっちはB級かなということで、『昭和B級下手喰い道』(M-6)を作りました(笑)」
――その辺の意図を知って聴くと、より楽しいかもしれませんね。この作品を通して感じとってもらいたいものは?
宝野「今回はとにかく楽しんで聴いてもらいたいかな。全然タイプの違う曲がいっぱいあるので、1回聴いただけじゃ分からないでしょうし。アリプロの曲って私ですら1回聴いただけじゃ分からないので、じっくり好きな曲を決めて聴いてほしいなと思います。何度も聴いているうちに“こっちの曲のが好き”とかなってくると思うので」
片倉「今回のサウンドは、“多分アリプロはこうくるだろうな”っていうのを分かりやすく裏切っているんですよ。アリプロではよく転調するんですけども、最近それに飽きてきて、転調はしていますけど、変な転調はしていないんです。意外と技術的には基本に帰ってきているというか、簡素にすることを考えてやってみて。今までだったらものすごい仕掛けを作って転調する場合もあったんですけど、誰が聴いても違和感なく聴けるような転調とか、転調するフリをしてしていないとか。例えば、曲の中で1音転調しているはずなのに、分からないまままた戻っているとかね」
宝野「それ、私も分かってない(笑)」
片倉「そういう遊び心をあまり聴く人に負荷がないように作っています(笑)。だから、今回はいろんな曲があるんですけど、サウンド的にも耳に入ってきやすいと思うので、無理なく聴けるんじゃないかと思うので。淡水画とか水墨画のような音楽もやってみたいというかね。今の音楽は絵でいうと結構厚塗りでしょ?(笑)」
宝野「シンプルで動かないメロディでもおもしろく表現できればいいなと思うし。今よりもっと分かりにくくなるかもしれないけどメロディラインはシンプルで、でも気持ち悪い現代アート、みたいなものもありかなって。ただ、それを1枚でやっちゃうと変にヘヴィになっちゃうし。やりたいことはまだいろいろありますね」
片倉「やっぱり、そろそろみんなに愛される曲を作りましょうよ(笑)」
宝野「25年経って?(笑)」
片倉「うん。心を入れ替えて(笑)」
“みんなで一緒に楽しもう”とか“元気になろう”とかではないんですよ
オーディエンス個々とアリプロが対峙する感じ
――ツアーもありますが、どういうライブなのかも教えていただけますか?
宝野「お通夜のようですよ(笑)。どんなライブハウスでもイスを設けて、座って聴いていただく感じです」
片倉「曲が終わった後に拍手があってね」
宝野「そう! クラシックのコンサートみたい。だから、結構最初はビックリされます」
片倉「“みんなで一緒に楽しもう”とか“元気になろう”とかではないんですよ。オーディエンス個々とアリプロが対峙する感じです」
――それぞれがアリプロの世界観と向き合って音と演出を楽しむ感じなんですね。それでは最後にメッセージを!
宝野「アリプロを知らない人たちもまだまだたくさんいると思いますし、もしかしたらアニメの主題歌で耳にしたことがあるかもしれないけど、オリジナルアルバムは聴いたことがない人も多いと思うので、もし興味を持たれたら、ちらっと聴いてみていただいて、好きかどうか判断していただけたらなと思います。まだ聴いたことのない人に、聴いてほしいなと思います」
片倉「昔、雑誌だった頃のぴあって情報の発信源で、“こんなにおもしろいことをやっているヤツがいるんだ”とか、発見があったんですよ。だから、WEB版でもアリプロを初めて観る人の発見の場になってくれたら嬉しいなと!」
(2016年11月 1日更新)
Check