岩崎宏美と国府弘子の声とピアノの音色が心地よく響く
アルバム『Piano Songs』を中心に、楽曲への思いなど
インタビュー。10月7日(土)・8日(日)にはコンサートも!
岩崎宏美と国府弘子によるアルバム『Piano Songs』。岩崎の声と国府のピアノが絶妙なハーモニーを奏で、心身にすーっと染入るような透明感を湛えた1枚だ。岩崎の楽曲をはじめ、ふたりのオリジナル楽曲、洋楽・邦楽の名曲カバー、童謡とバリエーションも豊かに自らがセレクト。楽曲ごとに異なる顔を見せ、聴くものを楽しませる。2014年に国府弘子とツアーを行ったことで、「ぜひ形に残したい」と制作した本作。収録された楽曲にまつわる思い出など、岩崎に話を聞いた。
--まず、国府さんのピアノは、どういう印象をお持ちですか?
懐が深いですね。今回のツアーの初日の前日にメールでやり取りをしたときに、「ちょっと緊張してきた」というようなことが書いてあったので、「私も緊張しているけれど、あなたとなら大丈夫な気がしているよ」とメールを送り返したら、「その言葉を聞いて私も大丈夫になってきた」って。そんな感じの仲ですね。
--お知り合いになったのは?
10年以上前から知っているんですけれど、仕事は2年前からですね。
--そういう感じの仲になるだろうなという予感はありましたか?
2年前に共演したとき、お互いにリスペクトし合ってステージに立っていたんですね。それがものすごくいい空気を醸し出していて。でもしゃべると“同士”っていう感じで、すごく似ているところがあるんです。私は11月になると(国府さんより)1つ年上になっちゃうんですけれど、ふたりともいい時期に出会いました。ピアノ1本で歌うとき、きっと以前の私だったらおどおどしちゃって、こんなにどっぷり浸かってできたかな?と思います。国府さんも「クラシックを勉強して、ジャズを勉強して、今まで勉強してきたことが今回のレコーディングのためにすべて必要だったことを、やっと今感じている」みたいなことをライナーノーツに書いてくださったんですけれど、それはお互い様ですね。
--お互いにいい時期に…。
出会えたんだと思います。ツーといえばカーと返ってくる関係で。私のことを「竹を叩き割ったような性格」って言うんですよ(笑)。割ったではなく、叩き割った。粉砕したとまで言っているんです。そのままお言葉をお返ししますって言っていますけれど(笑)。
--レコーディングはどういうふうに進められたんですか?
一番こだわったのはピアノの音です。「いいピアノの音が録れるスタジオ」が第一条件で、東京にあるスタインウェイとベーゼンドルファーという二大ピアノが揃っているスタジオを選んで、そこでレコーディングをしました。
--出来上がった作品を最初に聴かれたときの印象は?
国府さんのピアノってシンプルな音のときには絶対に邪魔をしないように、ちゃんと弾いてくださいます。それもただ弾いているんじゃなくてひっそり寄り添いながら。で、寄りかかりたいなっていうときには、ダイナミックな演奏をしてくださるので、私はとても心地よかったです。
--『スカボロー・フェア』を聴くと、2014年のツアーの1曲目ということもあって当時の緊張感がよみがえるとブックレットにお書きになっていましたが、どんな緊張感があったんですか?
まず、サイモン&ガーファンクルとは違うアレンジでなんです。コンサートでは国府弘子さんが先にステージに出て拍手が起こる、その後彼女が弾き始めたときの緊張感、あの時は緊張がピークに達しますね。
--先ほどの「寄り添ってくれるような音色」は伝わってきますね。『大切な人』(M-3)でも、すごく感じました。
『大切な人』は、「耳元でささやいてくれるような歌を宏美さんには歌ってもらいたかったから」と、このメロディができたそうなんです。でも国府さん曰く、悩まれたらしくて。2ヶ月くらいかかったんですって。何度も何度も悩んで、出来たと言っていました。私は詞をつけるのに3ヶ月くらいかかりました。
--ライナーノーツにも色んな人の顔を思い浮かべて書かれたとありましたね。
ずっとバンドで一緒に回っていた方が病気と戦っていたり、仲のいい女友達がちょっと倒れていて。身近にそういう人がいたので、こういう歌を聴いて彼らが元気になって頑張ってもらえたらいいなという思いでした。
--「元気になったらいいな」という思いはアルバム全体にも伝わります。聴いていると体が浄化されるような気になります(笑)。
『アヴェ・マリア』(M-11)も、くたびれているときにキャサリン・ジェンキンスのバージョンをよく聴いていたんですね。『アヴェ・マリア』でも特にカッチーニが作曲したものが好きだったので、いいなぁと思っていて。でも自分が歌えるとは思っていなかったので、選曲するときに「好きなんだけど、こんなのもある」というぐらいの気持ちで出したら、「いいじゃない、やろうよ、やろうよ」と国府さんが乗ってくださって。じゃあ、歌えるかどうかわかんないけどやってみようかって、頑張りました。
--どんな気持ちでレコーディングされていましたか?
何しろアレンジが心地よくて。キー合わせのときはまだ全然歌えていなくて、最後の仕上げまでにはカッチーニを歌えるようになりたいなって必死だったんですが、国府さんのピアノに乗せてもらい歌うことができました。
--余韻がいいですよね。ふわ~っと響きつつも、すっと引く感じがします。
『アヴェ・マリア』に関しては、教会の中で歌っているようなサウンドにしたいとミキサーの方もすごくこだわって作ってくださりました。
--歌いたい歌を集められたということで、沢田研二さんの『時の過ぎゆくままに』(M-4)はどういう理由で選択されたんですか?
沢田研二さんのファンでもありますし、『Dear FriendsVII 阿久悠トリビュート』(2014年発売)の中から、トリビュートとはミックスを変えて、アルバム用に音を作り変えました。クラスメイトでもあった伊藤咲子さんの『ひまわり娘』(M-5)もそうです。『時の過ぎゆくままに』はジャズナンバーみたいですよね。歌謡曲じゃないですよね。今もコンサートで歌っているんですが、イントロを聴いていてもカッコイイな~と思いますね。
--コンサートのときも、国府さんのピアノに聴き惚れて、歌い出しを忘れてしまったとか。
『すみれ色の涙』(M-7)のときですね。「あれ? 今、入るところだったかな?」と思って、ちらっと見たら「う~ん、聴いてるな~」みたいな感じで弾いてるんですよ。で、終わった後に、「弘子ちゃん、私、入るところ間違えたよね」って聞いたら、「それがいいのよ、ジャズなんだから」って。そんなときでも国府さんは怖気づいたり、慌てたりしないの。竹を叩き割ったような性格なんでね、あちらも(笑)。
--お客さんとしては面白いですよね、セッションのようで。
きっとそうだと思います。国府さんってビートルズが大好きなんです。コンサートでは、二部はお客様からビートルズのリクエストを頂いて、それに応えたりしてるんです。
--童謡メドレーもすごく良かったです。
童謡は大好きで、特に好きな3曲です。それこそ、童謡の『七つの子』『赤とんぼ』『故郷』は心が洗われるような思いで、小学校2年生のときに歌のお稽古を始めた頃の自分がよみがえるような、そんな思いです。その頃は歌手になりたいとかではなく、ただひたすらに歌をまっすぐに見つめて歌っていた感じです。
--今、もしその頃の自分に声をかけられるなら、なんとお声がけしますか?
2回、声帯のオペをしているんです。なので、「あなたは長く歌うから声を無駄遣いしないように」と言ってあげたい。あと、「歌い終わった後は静かにしなさい、声が疲れたら沈黙しなさい」。その頃の私にもし声をかけられるのであれば、教えてあげたいですね。
--子供の頃のご自身からすると、今こうして作品が出来が上がるというのはすごく嬉しいでしょうね。
そうですね。私の30周年のときに出したアルバム(『岩崎宏美 30TH ANNIVERSARY BOX』2004年発売)の中には、小学校2年生のときとか、5年生のときの声が入っているんです。
--そうなんですね。どんな感じなんでしょう?
頭のてっぺんから声を出していました(笑)。
--かわいいでしょうね。
かわいかったですね。意味も分からず、一生懸命歌ってましたね。
--『思秋期』(M-9)ですが、歌詞がずいぶん大人だなと思いました。高校生ぐらいの主人公だと思うのですが、それにしてはすごく大人びた子だなという印象で。
『思秋期』はシングルでは初めてのバラードで。私は2番の「卒業式」というワードが悲しくて。阿久先生の詞でレコーディングで何度も何度も泣いた覚えがあります。若い頃ってその時、その時は真剣に悩んでるけども、今思い起こしてみるとなんでもないことだったりするんですよね。でも何事にも結構一生懸命だったんだなということは感じます。あのきれいな歌の世界、メロディが自分のオリジナルとして生まれたということが、歌手・岩崎宏美にとっては大きな誇りですね。
--洋楽メドレー(M-10)ですが、構成もすごくいいですよね。
国府さんも私もすごく洋楽が好きなので、まだまだ歌いたい歌はたくさんあるんです。今回は第1弾としてカーペンターズの『Close to You』とポール・マッカートニーの『My Love』。『My Love』は私が16才のときの初めてコンサートで「好きな歌を2曲、宏美のリクエストに応えてあげるよ」って言われて、『My Love』とロバータ・フラックの『やさしく歌って』を自分で選びました。そのときは日本語で歌ったんです。そんな思い出もあって、今回は英語で。3曲目の『Baby Love』は、私がモータウンが好きだったので、シュープリームスのナンバーから選びました。
--洋楽カバーは今後もご予定あるんですか?
この『Piano Songs』を皆さんが買ってくださったら、第2弾も絶対出ます(笑)。皆さんにかかってます(笑)。
--最後の『大切な人』のバンドバージョン(M-12)も、ピアノ1台とはまた違いますよね。バンドとピアノとでは気持ちの乗り方とか違いはありましたか?
デモテープはピアノ1本だったので、どちらかというと静かな印象でしたけれど、バンドバージョンはリズムがありますし、キラキラとした感じになっていて、歌詞の受ける印象もまた違うと思います。
--そして関西でもライブが待っています。
はい、10月7日(金)はNHK大阪ホールで行います。この日はスペシャルバージョンなので妹の岩崎良美がゲストで来てくれます。彼女と歌うのは8年ぶりになります。
--8年ぶりに良美さんとご一緒に歌われて、いかがですか?
前よりも声が似てきた感じがします。妹もピアノ1本でステージに立つのは多分初めてなので、とても緊張しているみたいなんです。8日(土)の奈良県葛城市でのコンサートは通常の国府さんとの『Piano Songs』になりますので、彼女とはじけながら楽しもうと思います。
--2年ぶりのツアーといえども、おふたりの形が出来上がっているんですね。
そうですね。漫才コンビみたいですよ(笑)。
--何でも言い合えるような友達や相手は、年を重ねれば重ねるほど出会いにくくなると思うんです。
本当に! こんな大人になって国府さんのような方と出会えて、こんなに仲良くなれるなんて嬉しいですね。
--そういったおふたりの仲も、お客様には楽しんでもらいたいですね。
はい!
--今日はありがとうございました。
ありがとうございました。
取材・文/岩本和子
(2016年10月 5日更新)
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