『あの素晴らしい愛をもう一度』『白い色は恋人の色』
『戦争を知らない子供たち』…デビュー35周年を迎えた白井貴子が
北山修/きたやまおさむの名曲群を運命のカバー!
『涙河(NAMIDAGAWA)』インタビュー&動画コメント
80年代の日本の音楽シーンにおいて、女性ロックボーカリストとして絶大な人気を誇り、今年デビュー35周年を迎えた白井貴子。そんな“ロックの女王”が、60年代後半にザ・フォーク・クルセダーズとしてデビュー以降に『あの素晴らしい愛をもう一度』(‘71)『白い色は恋人の色』(‘69)をはじめとする日本の音楽史に残る数多くの名曲を残してきた重鎮、北山修/きたやまおさむとタッグを組んで新作アルバム『涙河(NAMIDAGAWA)』を発表した。詩情豊かな歴史的名曲の数々のカバーと共作によるオリジナルを3曲収録し、ジャンルや世代を超えて胸を打つ新作について、ビルボードライブ大阪での発売記念ライブを間近に控えた白井に語ってもらった。
運命的なものを感じてしまいました
――北山さんとコラボを行うことになったきっかけから、改めて聞かせてもらえますか?
「4年前にコンサートの打ち合わせをしていたときに、一本の電話があったんですよ。そこで、“白井さんは北山さんをご存知ですか?”と訊かれたので“ご存知も何も大好きだし、日本のビートルズだと思って大尊敬しています”と答えたら、当の北山さんから“僕の歌を歌い継いでくれる女性を探していて、ふと白井さんがいいんじゃないかと思ったんだけど、どうですか?”と言われて。その場ですぐに“やらせていただきます!”と答えたのが始まりですね。ホントに“鶴の一声”みたいなもので。私が10歳のときに初めて買ったアナログレコードは、ベッツィ&クリスの『白い色は恋人の色』だったんですけど、実家に急いで戻ってそのクレジットを見たら作詞に北山さんの名前があって、やっぱり!と思いましたね」
――まさに、白井さんにとって音楽的な原点と呼べる方だったんですね。
「そうですね。運命的なものを感じてしまいましたよね。以前は音楽の教科書に載っていた『あの素晴らしい愛をもう一度』も、今はもう載らなくなっていて子供たちも知らなくて。そこで、伝え続けていくという役割を与えてもらった。それだけでなく新曲も一緒に作ろうよという話になったのも、私にとっては思いもよらないことでしたね」
――日本のポップス史に残る名曲の数々と並んで収録されることになるわけで、ソングライターとしては光栄な話ながらも、プレッシャーはとてつもなく大きいですよね(笑)。
「家で曲を作ろうとなったときも緊張して、ホントにもう口から心臓が飛び出そうになる一年を過ごしました(笑)。書いては捨ててを陶芸家のように繰り返して、一応最初にお約束していた締め切りから半年くらい遅れて、ようやく出来上がったのが去年の9月くらいでしたね。(カバーする他の名曲たちは)何よりも歌がコンパクトですから、私もそれを見習ってシャキッとしたメロディラインを作ろうと思いました。お茶で例えると、加藤(和彦)さんと北山さんのコンビによる曲は“玉露”みたいなもので、普通のお茶とは違うなと。そういう空気感を私自身も吸い込みながら。改めていい勉強になったし、その点でも北山さんからいい影響を与えてもらったと思っています」
小学生のときに好きで聴いて歌ってきた曲を
当たり前に並べただけだったんですけど
それで充分にアルバム1枚分の曲数があった
――そんな共作によるオリジナルの新曲を3曲交えながら、今回のアルバムでは北山さんの代表曲といえる名曲の数々を取り上げているわけですが。カバー曲のセレクトに関しては、どのように考えて進めていったのですか?
「それがですね、私はこの作品に関しては“お仕事”として聴くのはイヤだと思っていたから、北山さんから“どれを歌ってもいいから”と言っていただいたときに、(改めて探すのではなくて)“北山さんと言えばこの曲が大好きで歌ってきたんです!”と、ソラでも歌える曲ばかりを並べたリストをお送りしたんですよ。そうしたら北山さんが、“キミ、すごいな。全部ド真ん中の大ヒット曲ばかりじゃないか”と(笑)。でも、それがホントというか、小学生のときに好きで聴いて歌ってきた曲を当たり前に並べただけだったんですけど、それで充分にアルバム1枚分の曲数があったんですよね。ただ、唯一、北山さんの作詞ではないけれどどうしても歌いたい曲があって、それがかつて北山さんがザ・フォーク・クルセダーズで歌っていた『悲しくてやりきれない』(‘68)で。それを“この機会に一緒に歌いたい”とお願いしたら、“いいよ”と言ってもらえましたね」
――確かにとてもストレートな選曲に思えるのですが、故に北山さんの曲の非凡さをダイレクトに再認識させる強さがあり、白井さんの歌声ともマッチしているように思います。
「北山さんからは“キミは、何で自分の歌みたいに歌うんだ?”と不思議そうに言われたんですけど、“だって実際に、小さい頃から自分の歌以上に童謡のように歌ってきましたもん”と(笑)。それをこうして歌える喜びが大きかったですね。ザ・フォーク・クルセダーズ時代の曲ももっと取り上げたかったと思うこともありますけど、それはまたこれから機会があればやっていきたいなと思っています」
――そして、新曲の3曲もスマホなどが歌詞の中に登場する現代的な設定で、精神科医でもある北山さんらしい視点や想いが感じられる仕上がりになっています。
「北山さんご自身も、加藤和彦さんを亡くされてから詞があまり書けなくなっていたようなんですけど、今回のアルバムを機会に創作意欲が高まって、ため込んでいた悲しみなどを一気に吐き出せたようなんですね。それが私は何よりも嬉しかったことで。北山さんは現代社会に降り注ぐ痛みの最後のところを受け止める精神科医をお仕事にされながら、そこでの音楽の力や有効さもすごく信じられていて、今回もポジティブに生きていけるような詞を書かれた気がします。北山さんに会うたびに、“どんなことに対してもガムシャラに、泣きながらでも立ち向かい生きていく加藤和彦さんを見たかった”とおっしゃっていたんですけど、アルバムのタイトル曲の『涙河(NAMIDAGAWA)』(M-2)は、きっとそのことをイメージして書かれたんじゃないかと思います」
北山さんがこれまでに築いてこられた“大河”と
私のロックの川を合流させるような感じ
――どの曲も思い入れ深いと思いますが、実際にやってみて特に印象深かった曲だったり、意外な発見があった曲などはありましたか?
「『花のように』(M-1)がいいねという意見が意外にも多くて、私の歌やキーとメロディの感じがどうやらすごく合っているみたいで、それは思わぬ発見でしたね。あとは、言葉の持つエネルギーに改めて驚かされました。私も歌詞も曲も書く人間ですけど、メロディの中から自然と聴こえてくる言葉を探して歌詞を作っていくやり方をしてきたんですよ。それが今回は、目の前にあったメロディに北山さんの詞が加わることで、全く違うところまでビョーンと飛んでいった感じ(笑)。違う生き物になったというか、すごく重量感も出たのがおもしろかったです」
――8月10日(水)にはビルボードライブ大阪にて今回のアルバムの発売記念ライブが行われるわけですが、どのような内容になりそうですか?
「もちろん今回のアルバムの曲を中心にやりたいと思っていますが、今までの私のファンの方もたくさん足を運んでくださると思うので、北山さんがこれまでに築いてこられた“大河”と、私のロックの川を合流させるような感じでやろうと思っています。先日、京都の都雅都雅でライブをしたときは、北山さんと私の曲をあまり分けないで、北山さんの曲の次にはそれに対するアンサーソングになるような私の曲を並べて歌っていったんです。例えば、『戦争を知らない子供たち』(‘70)の後には『FOOLISH WAR』(‘85)とか。そうしたら、思っていた以上にしっくりいって、自然と河が合流する感じがあったので、それをより凝縮した形でやれればと考えています」
Text by 吉本秀純
(2016年8月 4日更新)
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