「“あいつ、フザケてんのか?”くらいのことをやりたかった」 the band apart荒井岳史がルーツと衝動に導かれた 2ndソロアルバム携え、いざツアーファイナルへ! 『プリテンダー』インタビュー&動画コメント
the band apartのリードボーカル&ギターとして活躍を続ける一方で、 近年にはアルバムもリリースしながらソロとしての活動も本格化させてきた荒井岳史。ソロとしては2作目となる『プリテンダー』では、プロデューサーに同世代でもある口ロロ(クチロロ)の三浦康嗣を迎えて、よりシンガーソングライター色が強くポップな世界を展開。遊び心に溢れたアレンジや歌い回しなどを覗かせつつも、バンドにおける彼とはまた違った個性をより明確に確立してきた感のある新作とそのツアーファイナルに向けて、荒井に語ってもらった。
とにかくバンドとの差別化をもっと意識的に図りたかった
――最近はシンガーソングライターの口からも荒井さんの名前が挙がることが多いと聞きます。
「それは嬉しいですね。ソロでやるようになってから何度かいろんな方とご一緒させてもらうようになったんですけど、僕の方が視野が広がったところもありますね。ソロをやり始めの頃は、大阪では岩崎愛ちゃんであったり、この前は井上ヤスオバーガーさんとも一緒にやらせていただいて。バンドとはまた全然タイプが違うし、僕からするとシンガーソングライターとして活動してる方は実力派しかいないし、大いに触発も受けています」
――今回の『プリテンダー』はソロアルバムとしては2枚目になりますが、プロデュースを務めた口ロロの三浦さんをはじめとして、核となっているメンバーは前作にも参加していた顔ぶれですよね。
「そうですね。三浦さんも前作ではアレンジャーの1人だったんですけど、今作では誰か1人にプロデュースをしてもらいたいというか、三浦さんにプロデュースしてもらいたかったんです。プロデュースだけじゃなくて、曲を書いてもらうのもソロっぽいなと思ったし、とにかくバンドとの差別化をもっと意識的に図りたかったのはありましたね」
――なるほどその通りで、ジョン・メイヤーのアルバムのパロディとなっているジャケットと同様、音の方もthe band apartとは全く異なる、よりシンガーソングライター色が強い作品となっています。
「プロデューサーの三浦Pとは、いかにバンドと違うものにするかということばかり話していましたね。例えば、必然性のないツインギターみたいなものは入れないとか、録音エンジニアも前作はバンドと同じ方だったのを、今回は口ロロの『ファンファーレ』(‘05)などを録ったROVOの益子樹さんに変えて、曲もサウンドの質感もかなり違うものになるようにしたんですよ」
――確かに、歌の響き方からしてかなり違いますよね。ということは、曲を作る段階からも、これまでとは違う感覚でという意識が強かったんですか?
「そうですね。もう(ギターの)リフで作っていくやり方ではなくて、弾き語りで曲を作って、ある程度できた段階で三浦さんに一度投げてアレンジを一緒に考えていくというやり方だったので、バンドとは進め方から全く違っていましたね。前のアルバムからそうはしていたんですけど、今回はより慣れたというか、バンドとソロでの曲作りにおける棲み分けが、自分の中でも少しずつ出来るようになってきた気がします」
いい音楽だったら別にスタイリッシュに作る必要はない
――ソロとしてはどういう理想像を持っているんですか?
「簡単に言うと、聴きやすいものを作りたいというか、いい意味で流して聴けるものを作りたいな、というのがありますね。いちいち腰を据えて聴かないとよく分からない音楽じゃなくて、掃除をしながらとか、通勤中に電車の中で聴いたりしても、端々に耳に飛び込んでくる言葉だったり歌だったりを意識して作ったというか。なので、言葉選びでもバンドでは絶対にしないような大胆なものを選んだり、“ダセェな”とちょっと笑っちゃうようなものも、それがいいなと思ってやっていたりしますね」
――確かに、the band apartでは絶対に考えられないような言葉のチョイスもかなりあります。
「歌詞もそうなんですけど、アレンジも三浦さんと“ダセェなコレ”とか言いつつ、爆笑しながらレコーディングを進めていましたね(笑)。その楽しんでいる感じが、何かしらのパワーになって出てきていると思うんですけど」
――それはもう、1曲目の『あの夏のイリュージョン』における80年代の大瀧詠一とヴァン・ヘイレンのポップな某ヒット曲が交錯するような、ギリギリのアレンジからも感じられます(笑)。
「『あの夏のイリュージョン』なんて明らかにフザケてるというか、タイトルからフザケてますし(笑)。でも、“あいつ、フザケてんのか?”くらいのことをやりたかったんですよね。素直じゃないのかもしれないですけど、いい音楽だったら別にカッコよくというかスタイリッシュに作る必要はない、って最近よく思っていて。逆にこちらが、“スタイリッシュにまとめてきました”と言っても、聴く人によっては単純にダサいこともあると思うし。奇をてらわずに自分のやりたいことをやる方が楽しい。何が人に刺さるかは分からないじゃないですか? 本気でダサいなと思ってやっていることもありますけど(笑)、それは悪い意味ではなくて、そういうものの方が意外と心に残ったりする。一番ダメなのは“よくない”ことだと思うんですよ。だから、自分のルーツにも忠実に、ヘタな小細工をしないで作っていったのが今回のアルバムですね」
両極端くらいのことを目指して続けていきたい
――シティポップ的な『TMKN』(M-5)、口ロロの村田シゲさんの作曲による『花火』(M-6)などで聴けるポップさも印象的ですけど、サウンド的にも最も意表を突かれたのは、ラストの女性ボーカルとのかけ合いによる叙情的な『ワンモアタイム』(M-10)ですね。
「この曲は作詞も作曲も全て三浦さんが作ってくれたもので、もう“三浦康嗣節”というか、初の語りも入っておもしろいし、笑ってしまうところもあるけどいい曲という感じですね。女性ボーカルの部分は岩崎愛ちゃんに歌ってもらっていて、さすがに上手いなと思いました」
――そうした遊び心も感じるポップな楽曲に、よりシンガーソングライター的な魅力が力強く出た『あきらめの街を抜けて』(M-8)などが核としてバランスよく同居して、荒井さんのソロとしてのスタイルがより明確に確立されてきた感があります。
VIDEO
「見え始めてきているところはあるなと思います。ま、こっち(=ソロ)も本気でやってるんだぞ、という感じを受け止めてもらえれば嬉しいというか。どうしてもバンドと同時進行でやっていると片手間に思われがちなんですけど、こっちはこっちで広がりがあるし、僕自身は両方やっていることでシンガーソングライターの方々との新しい出会いもあって、刺激を受けているので。そのためにもバンドとはもっと差別化する必要があると思ったし、両極端くらいのことを目指して続けていきたいですね」
――そして、6月5日(日)には福島の2nd LINEにて、今回のリリースに伴うソロツアーの大阪公演が行われます。
「アルバムのレコーディングメンバーそのままでやるんですけど、最近はもうサポートメンバーがあまりにもライブ中に喋るので、こっちはこっちでバンド化してきてしまっているというか(笑)。でも、楽しんでやってくれているので、いい雰囲気でやれると思います。アルバムの音を忠実に再現するということにあまりプライオリティを置いていなくて、すでにライブアレンジみたいになっている曲も結構あるので、その辺りも含めて楽しんでもらえれば!」
Text by 吉本秀純
(2016年6月 3日更新)
Check