「やっぱり…打破しないとダメじゃないですか」 世の中を覆う閉塞感を一点突破するダンスミュージック! 大作『After dance/Before sunrise』をあら恋の池永正二が語る あらかじめ決められた恋人たちへインタビュー&動画コメント
90年代後半から大阪を拠点に叙情的なインスト・ダブを展開し、ポストロックやシュ―ゲイザーなども通過した独自の境地を深化させてきた“あら恋”ことあらかじめ決められた恋人たちへ。20代の新メンバーを迎え、ゲストに曽我部恵一、和合亮一、ハチスノイトという個性豊かな3人のボーカリストを迎えて制作された新作『After dance/Before sunrise』は、2部構成による物語性を感じさせる展開とダンスミュージック色を強めたサウンド、そしてアルバムとしては初のボーカルを交えて新たな境地を提示。強靭かつ多彩なグルーヴと共に、アルバムという作品の力を再認識させる74分に及ぶ大作を完成させたリーダーの池永正二に、4月8日(金)心斎橋CONPASSにて行われる久々の大阪ワンマンライブを前に、その渾身の新作について語ってもらった。
ちょっと聴きではなく、ちゃんと聴いて飽きないものを大作として作りたい
――最新作はコンセプチュアルな2部構成でボーカルが加わる曲も3曲と、これまでにない新展開を見せたアルバムになっていますね。
「またブラッシュアップが1つ出来た気はしています。考えてみると僕はもうこの名前で17~18年くらい活動していて、’08年に東京に移住してからバンドっぽくメンバーも増えてきたんですけど、前作のライブDVD+CDの『キオク』(‘14)を作ったところでそれが一段落したっぽいんですよ。集大成というつもりはなかったんですけど、もう変わるタイミングやったんでしょうね。だから、次のことをせなあかんなと思っていたんですけど、変わるときって何にしろすごく大変じゃないですか?(笑) 引っ越しするだけでも昔のものがバーッと出てきたりするのと同じで、イヤ~な部分もいい部分も改めて見付けたりしながら、そこからじゃあ次は何をしようと考え続けていました」
――結果的に前作が集大成的なものになってしまったというか。
「物理的にああいうものを出してしまうと、結果的にまとまっちゃうんですよね。タイトルも自分で『キオク』と付けていたし(笑)。でも、これから全く別のことをやってしまうと別の名前でやることになるので、“あら恋”って何なのかなと考えてみたら、やっぱり踊りながらもグッとくる音楽というのが、うちっぽいんかなと思って。実は踊れるだけのダンスミュージックみたいなものも作ってみたんですけど、やっぱり何かグッとこなくて。叙情性だったり、サウダージみたいな望郷感がありながら踊れる音楽というのがやっぱりうちなんだな、というのが今回のアルバムの始まりにありましたね」
――収録時間も74分と、大きな流れやストーリーを感じさせる“大作”的なアルバムを久々に聴いた気がしました。
「ありがとうございます。最近はこじんまりとしたものが多いというか、YouTubeとかApple Musicも普及して、それに合わせて短いものを作る流れがある気がしていて、だったらそれに反抗というわけじゃないですけど、ちょっと聴きではなく、ちゃんと聴いて飽きないものを大作として作りたいなと。最初は2枚組も考えたんですけど、それだと大作過ぎて飽きるというか、自分も2枚組のアルバムでちゃんと聴いた作品ってあんまりないなと思ったので(笑)、74分でしっかり聴けるものを作ろうと思いました」
俺はやりたいことよりもやりたくないことの方が多くて
――ドラムにGOTO(DALLJUB STEP CLUB)、キーボードにベントラーカオル(クウチュウ戦)という20代の新メンバーが加わったことで、グルーヴもより強靭さとダイナミズムを増していますね。
「僕は今40歳ですけど、20代の人と関わる機会はあまりなくなってきているので新鮮でしたね。話してみるとやっぱり感覚が違うんやなと思う部分もあるんですけど、レコードの話をしたときに“これ、ブラジルのプログレなんすよー!”とか嬉しそうな顔で言われると、やっぱ変われへんねんなと思ったり(笑)」
――GOTOさんは、ジューク/フットワークの高速リズムを生で叩けるスキルも持っていて、今回のアルバムにおけるダンスミュージック的な部分に対する貢献度も高いですよね。
「そこはデカかったですね。だから、今回のアルバムでは打ち込みはほとんど鳴っていないですし、バンドで出来る曲の幅も広がって刺激になりました。デモで投げてから、バンドで演奏することでメンバーそれぞれの色が加わって、また違うものになっていくのもおもしろかったです」
――今回のアルバムに寄せられた池永さんのコメントを読むと、“今の世の中を覆っている閉塞感を打破するようなダンスミュージックを作りたかった”と書かれているのが印象的でしたが。
「やっぱり…打破しないとダメじゃないですか。しょぼんとしていても誰も助けてくれないし、呑んだりしていてもどこか暗い話になったりするところがムードとしてあるんで。それがあかんこともないんですけど、人に聴かせる以上、何かしらそこにハッパをかけていくようなものが作りたかったし、だったら踊れる音楽の方がいいのかなと。俺はやりたいことよりもやりたくないことの方が多くて、要はイヤなことの方が多いんですよ(笑)。そこから残ったものがやりたいことで、それがダンスミュージックだったのかなと。ダンスビートってそういうときに強いなと思う」
――ダンスミュージック志向が以前より強まってきたのはいつからですか?
「5~6年前くらいですかね。何かお客さんが踊ってくれるようになってきて(笑)、その後に震災などもあった流れの中から来ているものだと思います。だから、流れをちゃんと見過ごさないようにせなあかんというか、流れているものって気付かないことも多いじゃないですか? そこをちゃんと見ながら、自分は今何をするべきで、自分がまだやっていないことは何なのかと考えたとき、“ボーカルが入ったアルバムをちゃんと作る”というのがあったんですよ」
物語としての起伏も付けながらちゃんと観せられるショーにしたい
――福島を拠点に活躍する和合亮一のポエトリー、ダンスミュージック色の強いトラックで歌うのは久々な曽我部恵一、ボイスパフォーマーとして海外でも注目を高めるハチスノイトと、迎えられた3人のボーカリストもあら恋ならではの個性豊かな並びですね。
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「和合さんとは
DOMMUNE で共演して気が合った縁もあって。曽我部さんは難波ベアーズの19周年(‘06年)のとき、トウヤマタケオさんとうちと共演させてもらったことがあったし、ハチスちゃんも夢中夢としてよくベアーズに出てくれてはったので。特に和合さんの詩は聴いていて直接的にくるので強かったですけど、そこでは最近劇伴の音楽をやらせてもらってきた経験が役に立ちましたね。役者の演技よりも音楽が前に出過ぎるとMVになってしまうし、逆に下がり過ぎると音楽が入る意味がなくなってしまう。あら恋の音楽を風景として違和感なく存在させるために考えることが多かったんですけど、今回の和合さんの曲もそういう風に作ればいいんだと思えました。曽我部さんも最近はハウスっぽいトラックなどでは歌っていなかったし、ハチスちゃんも最近は声だけでやっていることが多いので、今回のようなベース・ミュージック的な音の上で歌ったら絶対におもしろくなると思っていたし。和合さんの朗読も、ちゃんとしたメランコリックなノイズとかに映えるやろうなというのがきっかけとしてありましたね」
――そして、4月8日(金)には東心斎橋のCONPASSにて、大阪では久々となるワンマンライブが控えています。
「もちろん曲は今回のアルバムを中心に、2部構成なのでライブの構成も決めやすいし、2時間くらいで物語としての起伏も付けながらちゃんと観せられるショーにしたいなと思っています。ライブでは音源と違ってドカーンと激しいところもあるので、“体験”してほしいですね。“もっとクールにやったらええんとちゃうの?”と思うときもありますけど、ライブになるとやっぱり過剰になってしまいますね。そこはやっぱりルーツが大阪ならではやと思います。叫ばんでもいいんですけどね(笑)。あとは、音楽を担当した映画『モヒカン故郷に帰る』が大阪では翌日の9日(土)から公開になるので、ぜひこちらも。主演の松田龍平さんが劇中でやってるデスメタルバンドのメンバーをうちのメンバーがやっていて、ちゃんとしたデスメタルファンが聴いても聴けるデスメタルを鳴らしているので(笑)、コアなデスメタル好きの方もぜひ観てもらいたいですね」
(2016年4月 6日更新)
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