キャリアを重ね、年齢を重ね、経験と知識を得るにつれ、誰もが否が応にも失っていく衝動や無知ゆえの行動力。それはどんな職業だって、人生だってそうで、バンドマンもしかり。“少年の心を忘れない”という常套句は、同時に大人であることへの痛烈な自覚と過去への憧れの心的証拠でもある。が、しかし。シーンの狭間で孤軍奮闘しながら、そのかけがえのないきらめきを意図せずに放ち続けているのが、3ピースロックバンドのジョゼだ。彼らの新作『YOUNGSTER』(=若者、少年の意)は、Cocco、GRAPEVINE、くるり、aiko、木村カエラなど多数のアーティストをプロデュースし、ベーシストとしてもサザンオールスターズ、藤井フミヤ、奥田民生、吉井和哉、ポルノグラフィティ、いきものがかり、miwaなど、第一線の現場でその腕を振るう根岸孝旨をプロデューサーに招聘。まだまだ未完成な若者3人がもがき苦しみながら生み出した、蒼き結晶のようなポップネスがビッシリ詰まった1枚となった。ツアーのクライマックスを前に、バンドという青春がいまだに続いている奇跡を、メンバー全員で語ってもらった。
――『ハートソルジャー』(M-1)に“僕は僕のままで変わればいいんだろう”とありますが、散々変わろうと思っても、こうやって残るジョゼの核(笑)。
今回は本当に変わりたかったから
――とは言え、今作の曲作りは、羽深くん的に相当キツかったと。
羽深「そうですね(苦笑)。いつもは歌詞と同時に曲も作って、歌いたいことがちゃんとあって、サビにこういうフレーズがあって、そこにはこのリフが乗るよなって家で1人で組み上げてみんなに送信、だったんですけど。何せ時間がなかったんですよね。ストックが0というのもあったし、根岸さんがいらっしゃるのに方向性も決まってないし、もうどうしよう!?って。だから今回は、とりあえずスタジオで“せーの”でやった曲がかなり多い。いつもの順序で作れたのは『Friday』(M-6)と『LITTLE CITY』(M-3)ぐらいですね。他の曲はスタジオでまずバンドサウンドが出来て、メロディは何となくあって、歌詞を後で付けるという。やってみて分かったんですけど俺、後付けの歌詞が超苦手でしたね(苦笑)。歌詞とメロディが一緒に落ちてくる必然性が好きなんで、その美学をまず変えなきゃいけなかった。ただ、今回は本当に変わりたかったから、根岸さんもそうだし、スタッフもそうだし、みんなの意見を割と聞いたんですよ。それが逆に自分の首を絞めたというか、“いや、それはちょっと届きにくいんじゃないかな?”とか言われると、カッチーン!ときて。自分で聞いたくせに(笑)」
――アハハハハ!(笑) みんなも意見を求められたから言ったのに(笑)。
羽深「自分の器の狭さも露呈されたというか。自分のダメなところが目の前にあって、分解しなきゃいけない作業って、一番イヤなことだと思うんですよね(笑)。それが多かったからしんどかったのかなぁ」
――音楽家としてだけじゃなく、やっぱり人としての要素もすごくあるというか。ジョゼの曲だったり、羽深くんと会って話した印象から思ってたんだけど、なかなかここまでピュアな人って実はいないかもって。
羽深「そうですか?」
――よく“少年の心を忘れない”とか言うけど、それって大人になっていく過程の中で、自分の中にある少年性が失われないみたいなことだけど、羽深くんはマジでこいつ少年だなって思うことがすごくある。大人の中の少年性じゃなくて、少年そのもの(笑)。
(一同笑)
――だから他の人の少年性とは話が違う。歌詞を見ても、まだこんなこと言ってんのかって(笑)。
(一同爆笑)
羽深「アハハハハ!(笑) いや、クソ生意気なガキですよ、本当に」
中神「こういう歌詞を書いといて、実際は人間関係も結構上手に立ち回れるタイプだったら“あれ?”って思うんですけど、はぶちゃん(=羽深)はリアルにそうだから“あ、本当なんだな”みたいな(笑)」
――やっぱり高校生のときの自分と、大学生の自分、社会人の自分は違う。でも、羽深くんは割と高校生の自分をキープ出来ている人だと思う。それがいいことかは分からないけど(笑)。
羽深「アハハハハ!(笑) でも楽しいですよ、俺は(笑)。人生楽しいです」
――でも、そこが他のソングライターと違うところでもあって、かわいげでもあるなと改めて思いましたけどね。制作中に悔しくて枕を殴ってたっていうエピソードも、いくつだよと(笑)。でも、そこがいいんだよね、ジョゼは。
精神と時の部屋というか…短い期間で強い師匠と出会ったというか
ビシバシ鍛えられましたね
――そんな中、根岸さんがこのチームに加わってくれたわけですけど、今まで錚々たる人たちをプロデュースしてきた根岸さんからしたら、それこそ今まで一番『YOUNGSTER』な、未熟な状態のバンドだったんじゃないかなと。これはでもすごい縁よね。
羽深「間違いないと思いますね。あと、結果このタイミングでベストだったなと思います。ぶっちゃけ俺らがもっと勉強した上で出会っていれば、見付かる答えは違ったと思うんですけど、精神と時の部屋というか…短い期間で強い師匠と出会ったというか、ビシバシ鍛えられましたね」
――そもそも今回はプロデューサーを立ててみようという話が先だった?
羽深「そうですね。その中で“根岸さんはどう?”っていう提案があって。スタジオにいきなり来てくれたんですよ。もうマジかよ!って。(奥田)民生さんも好きですし、GRAPEVINEとかくるりも好きだったんで、いつかはやって欲しいとは思ってましたけど、今か!って(笑)」
――しかもね、そんなときに限って曲もない(笑)。
羽深「そのときはマジで『Friday』しかなくて、とりあえずスタジオでやってみて。“ジャーン♪ ドコドン!”って終わって、“…で?”みたいな(笑)。根岸さん的には『Sekirara』を聴いて、“もうこの子たちは完成されてるし、僕が何を助ければいいの?”っておっしゃってたんですね。でも、いろいろとコミュニケーションを取っていく内に、俺らの勉強が足りない部分がいっぱい出てきて。それこそ音楽理論というか、今まで勘違いして乗せていた音が意図的だったのか、ラッキーでそうなったのか…そういうことが分かってないと、お客さんに伝わるものも伝わらないって」
――しかもね、J-POPの大海原に打って出てみんなに聴いてもらうには、まぐれを待ってはいられないというか。しっかりそういうことが分かった上で仕掛けていくのか、バットをただ振り回すのかじゃ、バッターボックスに立つときの感覚も全然違うだろうし。特にベーシストは試練ですよね、先生がベーシストですから。
吉田「自分で言うのもあれですけど、根岸さんもこれだけ未熟なベーシストと一緒にやったことがないと思うんですよね(苦笑)。変わらなきゃいけないとは思ってたんですけど、変わる=自分のダメなところを全部見なきゃダメじゃないですか。もう何も包み隠さずに全部おっしゃってくれたんで、正直むちゃくちゃ辛かったですね(苦笑)」
羽深「よく泣かなかったよね?」
吉田「いや、めっちゃ泣いてたよ? 家で(笑)。うーん…振り返れば“辛い”しか出てこないのが正直なところ(苦笑)」
中神「あんなに露骨に分かるものなんだと思ったんですけど、実際に来ていただいてスタジオワークをしたときに、春人(=吉田)と同じベースで、同じアンプで、もう全く言い訳が出来ない人の違いだけの状態で、根岸さんに俺らの曲を弾いていただいたりもしたんです」
吉田「しかもその場で、“こういう感じの曲なんですけど”って伝えたら、“ちょっと貸して”ってもう完璧に、っていうかむしろ120%ぐらいのフレーズが(笑)」
――根岸さんのベースはヴィンテージだから、とかじゃない(笑)。腕でしかないという。
吉田「根岸さんと合わせた次の3人のスタジオが、超怖かったです」
羽深「俺らは知っちゃったんでね、極上の味を(笑)」
――とは言え、パートを置き換えればみんなに起こり得る出来事なわけで。
中神「絶対にそうだと思いますよ。僕はもう全力で避けたいですね(笑)」
――次はドラマー出身、その次はボーカル&ギター出身のプロデューサーって、担当制で回していく(笑)。
羽深「次はセルフかな!?」
(一同爆笑)
――でも、ヘンにキャリアがスタートしてしまうと、ここまで言えてそれを聞けるかもお互いに難しい。根岸さんが第一線のプロで、みんながまだ未熟でっていう状態で出会えたからこその、貴重な時間でもあったよね。
中神「しかも、あくまで僕らのよさを分かってもらった上で、意図を汲んで、アドバイスをいただいたんで」
羽深「プロデューサーのイメージって、“ここはこうだから”って決めていく人だと思ってたんですけど、根岸さんは俺らが何をしたいのかを第一に、尊重してくれたというか。“それだったらここは違うんじゃない?”とかいうコミュニケーションが多かったんですよね」
俺もボーカルブースで“お会計ー!”って
歌うことになるとは思わなかったですよ(笑)
――あと、歌詞について触れていくと、『LITTLE CITY』はリハに遅刻しそうになったときに生まれた曲であると同時に、“なんでもあるのが自慢で/なんにもないのが自分で”という、東京生まれのコンプレックスを描いたと。
羽深「一見、意識が高そうに見えがちだけど、東京って怠け者が多いと思う。だから遅刻もしちゃうし(笑)」
――普通、こういう曲って最後に一筋の光があるというか、何かしら改善の余地が提示されて終わる。でも、この曲は言い訳するのも諦めて“許してくれ”で終わっちゃう。こんな曲見たことないわ(笑)。
(一同爆笑)
羽深「俺も歌詞を書いていて、このオチにたどり着いたときは笑いました(笑)。結局、ただ許して欲しかった(笑)」
――他にも、根岸さんも指摘したという『GUILTY』(M-5)の“16番線”とか“新宿”とか、景色が限定される言葉を選んだことでむしろ広がりが出るというか。Syrup16gとかもそうだけど、案外、固有名詞を出した方がイメージを喚起させるのはあると思う。聴いた人がそれを勝手に自分の環境に置き換えるから。
羽深「それこそ今までは、風景を限定されたくなかったんで固有名詞を避けてきたんですよ。でも、五十嵐(隆=Syrup16g・vo&g)さんも“エビセン”とか言ってますしね(笑)。この曲は割と特殊かもしれないですね。弾き語りライブの待ち時間に“1曲増やしちゃおう”と思って、楽屋でバーッと30分ぐらいで書いた曲だったんで。本当に新宿にライブをしに来た自分を書いた(笑)」
――厳選された言葉数と明快さ。『GUILTY』『Friday』『ヤングパレード』(M-7)の3曲のポップさはすごくいいなと。『ヤングパレード』は最後に出来た曲ということだけど、まぁ入れられてよかったよね。
羽深「これはもう、みんなのお陰ですね。1人じゃ絶対に作れなかった」
――ライブの絵が浮かぶようなコーラス、言葉にならないWoo~♪というサビも新鮮で。
羽深「これはもう俺の心の叫びですね。“上手くいかねぇ!”って枕を殴っていた日々を叫んでるわけですよ(笑)。みんなの心の叫びも分けて欲しいというか、一緒に分かり合えたらいいなって」
――『ロクデナシ』(M-4)の詞が羽深くんと中神くんの共作となったのも、羽深くんがこってり絞られてたからこそ生まれたんだもんね(笑)。
羽深「こういう勢いあるロックナンバーは今までになかったから、どうやって歌詞を付けたらいいかが分からなくて。繊細な歌詞をちまちま書いてたんですけど、ジンジン(=中神)と、“BLANKEY JET CITYみたいに敢えて意味をそこまで持たせない歌詞にした方が、逆に上手くいくんじゃないの?”ってLINEでやり合って、ジンジンが送ってきたのが2番の歌詞だったりするんで。爆笑しながらボーカルブースに入って歌ったら、意外とイケたという」
中神「俺も本当に採用されるとは思ってなくて、これをヒントに言葉が広がればいいかなぐらいの軽い気持ちでササーッと書いたんですけど、いざ歌ってみたら“あれ? よくね!?”みたいな(笑)」
――それこそ、この曲では固有名詞が入ってきて“お会計”と絶叫するという(笑)。ロックバンドの歌詞にはまぁ普通は出てこないワードだけど、耳に飛び込んでくる言葉自体が持つキャッチーさがあって、それをあんなにしなやかな声で歌うという(笑)。
羽深「やっぱりそこですよね?(笑) 俺もボーカルブースで“お会計ー!”って歌うことになるとは思わなかったですよ(笑)。でも、結構英語の発音っぽくてカッコいいなって(笑)」
俺の声があって、メロディがあれば、ジョゼなんだ
――作っていく中で、改めてジョゼの武器とは何なのかを考える機会にもなったのかなと。
羽深「アレンジはこねくり回したんですけど、今回は自分の歌を信じましたね。歌モノに対する覚悟を決めたのも大きいのかなぁと。僕はそこまで自覚がなかったんですけど、テレビとかのタイアップもあって、あんまり僕らの曲を詳しく知らない人でも“ジョゼ、流れてたよ”って分かってくれたから。俺の声があって、メロディがあれば、ジョゼなんだって確認できたのはよかったと思いますね」
中神「そこがやっぱり一番芯の部分というか、これからバンドが続いていく中でも絶対にブレないというか変わらない部分だと思うんで」
――ちなみに印象的な事件とか制作上のエピソードはあった?
羽深「それこそ『ヤングパレード』は、ボーカルブースに入る直前まで歌詞が完成してなかった。歌入れの日まで歌詞がないのは初めてですね。“これどう?”、“いや…”みたいになったときはマジで険悪なムードになって(苦笑)」
――そこでみんなも丸く収めるために“いいんじゃない?”って言わなかったのも偉いね。
羽深「今までは“はぁ!? 何だよ、くそ!”って思うだけだったけど(笑)、ちゃんと愛を持って指摘してくれてるから。そういうことを言ってくれる人って、だんだん減ってくるじゃないですか? だから、いるだけハッピーだなって」
中神「今回のプロデューサーが根岸さんだったこともかなり大きいですね。例えば、他のすごい有名な方でも縁がなかったり、あんまり相性のよくないプロデューサーの方だったら、その言葉に納得できているか分からなかったと思うんですよね。“憧れの根岸さんが言ってるんだから”っていうのは、絶対にあったと思うんです」
羽深「もう人選は文句なしでしたもん。だって俺、それこそ民生さんも、GRAPEVINEも、中高生のときにめっちゃ聴いていて、くるりのアルバムの中でも『図鑑』(‘00)が好きだったんで、全部根岸さんが関わってるじゃないですか。だからもう、根岸さんの鶴の一声で突き動かされたというか。よかったです、本当に」
――いや~忘れられない作品になりましたね。後々ヒストリーを振り返ったときの、1つの転機でしょうね。
羽深「間違いなくそうだと思いますね。毎作、転機を迎えたいですけどね」
――いや、迎えられると思うよ。まだ未熟だもん(笑)。
中神「アハハハハ!(笑)」
――それは=まだ変われる余地があるということで。それこそ根岸さんがこれだけアドバイスをくれたのも、やっぱりその余白がまだまだあったからで。その“蒼さ”というか、高校生のまま生き続ける羽深くんの純度が(笑)。それを失ってほしくない気持ちと、変わってどうなるのかが見たい気持ちと。
羽深「自分でも、30代になったときの歌が、すごい楽しみなんですよね」
――何かキラキラしたおじさんになりそうだなぁ(笑)。
見えない場所に届ける最初の力ってライブだと思う
ライブが真髄のバンドになりたい
――アルバムが完成したときは、やっぱり感慨深かった?
羽深「本当にプリプロとかもやらないまま、全力で泳ぎ切って、後ろを振り向いたらそういう波紋=作品になっていた。ただ、ライブを前提として作ったから、『YOUNGSTER』を完成させるには、マジでお客さんの力が必要なんで。ライブで初めて曲が完成するのがロックバンドだと思うんですけど、今回の『YOUNGSTER』は本当にそう。今までの意識と全然違うと思います。このファイナルが終わった後に作り出す曲も、今から楽しみで」
――ずっとやってきたはずなのに、ここ最近はライブからもらえる感情が大きい自覚がやっぱりあるんだね。
羽深「本当に他者を意識し始めたというか…何だろうなぁ。やっぱり、見えない場所に届ける最初の力ってライブだと思うんですね。それで判断されると言っても過言ではない。音源がめちゃくちゃよければそれもいいんですけど、やっぱりライブが真髄のバンドになりたい」
――それでは最後に、みんなに一言ずつもらって締めたいなと!
吉田「『YOUNGSTER』が完成したと同時に、やっぱりまだ変われていない部分も改めて分かって。これからは自分も含めて絶対にもっと変わっていくので、まずはそのきっかけの『YOUNGSTER』を聴いていただいて、その変わっていく様を観に来てください!」
中神「『YOUNGSTER』は若者に向けたアルバムじゃなくて、おじいちゃんでも主婦の方でも、年代に関わらずその人の中の“若さ”を見付けるきっかけになるようなアルバムであって欲しいので。そこを感じてもらえればなと!」
羽深「どうも、高校生の羽深です(笑)」
(一同笑)
羽深「自分の汚いところとかイヤなところの中に、必ずキラキラが眠っているから、それを見つめたときの未来は本当に明るいと思います。それを信じてぜひライブに来てください!」
Text by 奥“ボウイ”昌史