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「今回は言葉も音楽も“軽さ”みたいなものはちょっと気にしましたね」
よりフィジカルに、より軽やかに
『Almost A Rainbow』の内部構造とバンドのモードを語る
アナログフィッシュ下岡晃(vo&g)インタビュー&動画コメント

 アナログフィッシュの最新アルバム『Almost A Rainbow』のオープニングを飾る『Baby Soda Pop』を聴いたことがあるだろうか? 恋を知ったときの、手と手が触れて、目と目が合った瞬間のまぶしいきらめきを2015年の今、これほど瑞々しく躍動的にスケッチした音楽は、多分他にはない。バンド結成から15年を越え、ベテランの域に片足を突っ込みつつあるキャリアの中で磨かれてきた独自の視点による新時代のレベルミュージックを鳴らすと共に、これまで知らなかった真新しいアナログフィッシュに出会えるこの意欲作を携え、現在彼らは全国ツアー中。そこで、旅の折り返し地点である11月15日(日)の大阪公演を前に、下岡晃(vo&g)のインタビューをお届け。繊細かつ鋭い視点で言葉を紡ぎながらも、ポップに帰着する高い精度を誇るアナログフィッシュの音楽同様、下岡の言葉はその意味することの深さに反して、とても軽やかで心地よかった。

 
 
自分の気持ちが違うモードになったんなら
早めに形にしといた方がいいんじゃないかって
 
 
――前作から1年経たない内にニューアルバムが聴けるとは、思っていませんでした。
 
「ねぇ?(笑) バンド史上最速らしいです。それまでは1年半ぐらいかけてアルバムを1枚作るペースでやってきたんですけど、前作の発売まで2ヵ月ぐらい間があったときにはもう進めていて、それが去年の9月頃ですね。前作『最近のぼくら』(‘14)『NEWCLEAR』(‘13)『荒野/On the Wild Side』(‘11)で3部作みたいな感じがあったんで、最初はそのモードをリセットして、時間をかけて濃密な作品を作ろうと思ったんですけど…前作のマスタリングが終わったら、“これは今作った方がいいな”って気になっちゃって。自分の気持ちが違うモードになったんなら、早めに形にしといた方がいいんじゃないかって。モードが変わると言っても、実際に何かがガラリと大きく変わった感じじゃなくて、気分の問題なんですよね。前作自体がそれまでの僕らからは確実に変化してきていたものだったし。ここ数年はテーマに沿って曲を作ることが多かったんですけど、今回はそういうテーマみたいなものはあんまりなくて、やってみたらいつもとそんなに変わらなかったっていう(笑)」
 
――前作のインタビューで、『荒野/On the Wild Side』以降、ライブの雰囲気が変わってきたと言ってましたね。作品的にも、震災以降の日本を覆っている漠然とした不安とか疲弊の中を前に進んで行かなきゃっていう現実感が、日常的な言葉や風景で描かれていて。元々あったプロテストソングの側面がよりはっきりと表に出て伝わりやすくなってくると共に、その時々の空気にもフィットしてましたよね。
 
「そうだったら嬉しいんですけど(笑)」
 
――そういう中にあって、『Baby Soda Pop』(M-1)の色鮮やかな瑞々しさは、とても新鮮でした。ドリーミーでサイケデリックな曲で、タイトル通りポップで、音が聴こえた瞬間に知らない世界の扉がパッと開いたような印象で。3人の中でもこの曲が出来たことで、何か手応えがあったんじゃないでしょうか?
 



「確かにそうだったかもしれないですね。この曲は佐々木(健太郎)が作ってきたんですけど、今作は特に佐々木のソングライティングがすごくて。単純に作曲のペースが上がったし、それがバンドにもいい作用して。ポップという言葉が当てはまるのか…そういう楽しめる感じは、ここ最近の作品の中では一番あるような気がします。音の面では“タイトで音数が少なく、なるべくコンパクトなサウンドメイク”みたいなのはずっとテーマとしてあって、今回はそれと共に『最近のぼくら』をもう少しフィジカルにしたいなと。それに、90年代の音楽のドラムのフィーリングを取り入れたかったんですね。スネアの音がグッと持ち上がって聴こえる感じというか、ドラムに関してはここ2年ぐらいは、自分の中で90年代の感じがキてますね。自分の盤にそういう音を落とし込もうと思ったのは最近なんですけど、やっぱり自分もその時代に音楽を聴き始めたから、勝手知ったるというか沁みついてる感じがあるんですよ。あの時代のグランジとかを聴くのが最近は楽しくなってきたし、多分5年前だったらあんまり聴けなかったと思うんです。だから、自分の中の時代感が動いたんだなって」
 
――去年、唐突にニルヴァーナを聴きたくなって、『ネヴァーマインド』(‘91)を久しぶりに聴いたら、ものすごく音のいいアルバムだったことがちょっとした衝撃で。
 
「ですね。あの頃の音楽とかバンドのアルバムって、本当に音がいいものが多いし、好きなものが多いですね。他の2人も90年代に初めて音楽に触れて、すごく聴いていた頃だと思います。あと、僕はとにかくサウンドが好きなので、ベースもずっと理想の音があって。でも、エフェクターとかを使ってもなかなか出るわけじゃなくて、試行錯誤することが多かったんですね。ただ今回は、プロデューサーの吉田仁さんにお借りしたベースから、僕の理想とする音が出たんですよ。だから、全部そのベースで弾いてもらいました。それは本当にデカかったし、やっててテンションが上がりましたね」
 
――確かに『F.I.T.』(M-2)『Walls』(M-7)『こうずはかわらない』(M-10)辺りのベースは特に印象的でした。
 
「すごくいい音でしたね。“こういう音がいいなぁ”と思う音が本当に出ました。音って大事だなぁと思いましたよ」
 
 
“諦めちゃいけないよ”って歌うのは難しいなぁと思いながら書きましたね
 
 
――歌詞のこともお聞きしたいんですが、以前「歌詞でどこまで言ってもいいのかは、時代によって変わる」と言われてました。それはただ自分の言いたいことや思いをストレートに書くというよりも、一番届きやすい表現になるまで精査してると言えますか?
 
「その精査する作業が何のためなのか、何をゴールにするのかが、毎回自分の中にあって。1人でもたくさんの人に聴いてもらいたいと思ってるけど、その設定によってはどう頑張っても自分の趣味じゃない、つまらないものにフィニッシュする場合もある。だから結局は、自分の好みや意思の範囲で一番いい言葉を探すことになるんですよね。これはジャケットをデザインしてくれた井口(弘史)さんが言ってくれたことなんだけど、“何か大きなメッセージがあったとして、ミュージシャンからリスナーへトップダウンで投げかけるのには限界があるんじゃないか”って。僕もまさにそれに近いことを感じていたので、今回は詞の言葉も音楽全体も“軽さ”みたいなものはちょっと気にしましたね。軽さと言っても、“軽薄さ”じゃなくて“軽やかさ”ですね」
 
――ただ、下岡さんの届け方というか、アナログフィッシュの音楽へのメッセージの乗せ方って、トップダウンというより同じ目の高さから届く印象があります。
 
「そうなら嬉しいですけどね。“聴け! これが俺たちのメッセージだ!!”みたいになってなきゃいいなって(笑)。自分にとって大切なこと、発見したこと、思うことを書くのは大事なんですけど、それをヘヴィにやるのは自分たちには合わないし、陰鬱に重々しく表現するのは違うなと。例えば、新宿の横丁で呑んでると、まさに『今夜のヘッドライン』 (M-6)みたいな世界なんですよ。歌詞にあるような異様に前向きなBGMが流れていて、そこで耳にするのも音楽だし、自分がやってるのも音楽だしなぁと思う。最近、友達にテレビをもらってそれを観る生活が始まったんですけど(笑)、観始めたら結構おもしろくて。ヒットチャートの常連になる人やドームでコンサートをやるような人たちの曲もテレビで知って、結構カッコいいんですよね。自分が本当に大切に出来る音楽とはまた違うものなんですけど、そういうものを聴くのも楽しいですよね」
 
――『こうずはかわらない』の歌詞は、最初から全部ひらがなだったんですか?
 
「最初は普通に漢字を使ってました。多分、ひらがなを使うことで緩衝材的にやわらげたかったんだと思う。ひらがなって朴訥として見えるじゃないですか? そういう効果を狙ってみました」
 
――争いは終わった、でも“またおんなじことがおきるだろうけど”って、こういう冷静で現実的な視点はアナログフィッシュの音楽に元々あるものですね。
 
「これは自分の芸風ですね(笑)。そういう視座は元々あるものだから、作ってるとどうしても出てきちゃう。自分としては“きみをあいすしかない それができそうもない”っていうくだりが結構ヘヴィでしたね。恋愛を例に挙げると、付き合ってたり結婚していても、お互いにずっと好きでいたり愛し続けるのは難しいときもあるし、それってそんなに珍しいことじゃなくザラにある。それと共に、仮に誰もが1人残らず自分の大切な人を愛せたら、戦争は起きないんじゃないかなとも思う。結局は、そうなる理由が自分の中にあって、それを見付けちゃったところが、何と言うかちょっと複雑だなって。歌の中では結論なく終わっちゃうんですけどね」
 
――愛し続けられたらいいけど、それが出来ないというところにたどり着いた?
 
「それは結構大変なことだなって思いました。好きなら好きで、争いになったりすることもあるでしょうけど(笑)」
 
――『夢の中で』(M-9)『こうずはかわらない』『泥の舟』(M-11)と続く最後の3曲は、下岡さんの詞と対話をするような感覚がありました。結論がないと言われましたが、聴く人それぞれに委ねてくれているように聴こえたし、『泥の舟』の“オールは握っているかい まだ諦めちゃいけないよ”の一節は、荒野を生きていかなきゃいけない者へのエールとも取れます。
 
「その曲はただ美しいものを作ろうと思ってたんですけど、“諦めちゃいけないよ”って歌うのは難しいなぁと思いながら書きましたね。何だろう? でも、この曲ではそう書いといた方がいいなっていう気持ちだったんですね。とは言え、勇気がいるというか、躊躇はしますね。僕が何かを変えることの出来る神様みたいな人だったら、そういうことも苦もなく言えるんでしょうけど、“お前は何様や”と思いながら書きましたね(笑)」
 
――アハハハハ!(笑)
 
「もし、さっき言われたみたいに僕らが投げかけるメッセージが同じ高さの目線から届くものになっているとしたら、それは僕らも聴いてる人と変わらないところで日々いろいろやって暮らしてるからなんだと思うんですね。たまたま僕らはバンドや音楽をやる力があって、そういう変わらない日々の中から音楽は生まれてきてるんで」
 
――毎回、“このアルバムの曲を早くライブで聴きたい!”と思うんですが、今作は今まで以上にそう思います。
 
「今回は打ち込みよりもフィジカルに演奏する曲が多いので、バンドでも夏ぐらいからかなり練り上げてきているので、ライブもすごくいいものになると思います。かなりアグレッシブなライブが出来ると思うので、是非いろんな人に遊びに来て欲しいですね」
 
 
Text by 梶原有紀子



ライター梶原有紀子さんからのオススメ!

「アナログフィッシュのボーカルの2人、佐々木健太郎と下岡晃は、ソロ活動も盛んに行っている。ソロアルバムもリリースしている佐々木健太郎のライブでは、等身大の言葉で日々の物語を綴ったような、シンガーソングライター然とした歌やステージをじっくりと味わうことが出来た。ユニークだったのは、下岡晃。ギターをつま弾きながらも、歌は音色につかず離れず。マイクだけを手にラップのように繰り出した歌では、言葉の断片が会場のあちこちを舞うように解き放たれ、歌も彼自身もとても自由。シンガーというより、まるでパフォーマー。そういう稀有なボーカルが2人もいるすごいバンド、それがアナログフィッシュ。『Baby Soda Pop』(M-1)の詞に登場する“彼女”は、歌の中で話題の映画に“あんな物語で皆は満たされるの?”と囁く。ありきたりのものでは満足出来なくて、未知の驚きが欲しくて音楽を聴く自分にとって、『Almost A Rainbow』はドキドキが止まらない1枚でした」

(2015年11月12日更新)


Check

Movie Comment

新作とライブとカレーへの想いを語る
下岡晃(vo&g)からの動画コメント!

Release

史上最短のインターバルで生まれた
フレッシュで実験的な充実の最新作!

Album
『Almost A Rainbow』
発売中 2700円(税別)
felicity
PECF-1125

<収録曲>
01. Baby Soda Pop
02. F.I.T.
03. Will
04. No Rain (No Rainbow)
05. Tired
06. 今夜のヘッドライン
07. Walls
08. Hate You
09. 夢の中で
10. こうずはかわらない
11. 泥の舟

Profile

アナログフィッシュ…写真左より、斉藤州一郎(ds)、下岡晃(vo&g)、佐々木健太郎(vo&b)、によるツインボーカルの3人組。`99年に地元である長野県喬木村で佐々木と下岡により結成。上京後、`01年よりサポートドラムを加えて都内でライブを開始し、翌`02年に斉藤が加入し現在の編成に。インディーズより2作リリースしたアルバムを完全コンパイルした『アナログフィッシュ』と、ミニアルバム『Hello Hello Hello』を`04年にメジャーレーベルよりリリース。『FUJI ROCK FESTIVAL』『ROCK IN JAPAN FES.』『SUMMER SONIC』など幾つものフェスやイベントに出演しつつ、フジファブリックやクラムボン、ASIAN KUNG-FU GENERATIONやMO’SOME TONEBENDERや小谷美紗子、髭など多彩なバンドと対バンライブ、ツアーを敢行。`08年に斉藤が病気療養のため脱退。同年に発売したアルバム『Fish My Life』には、GRAPEVINEの亀井亨や100sの玉田豊夢をはじめ7人のゲストドラマーが参加した。`09年10月、新木場スタジオコーストで開催された結成10周年記念ライブのステージで斉藤が再びバンドに合流。`12年5月にSoundCloudとYouTubeで『抱きしめて』を発信。新しい時代のプロテストソングとして高い評価を得た『荒野/On the Wild Side』(`11)『NEWCLEAR』(`13)、『最近のぼくら』(`14)の三部作を経て、`15年9月16日に最新アルバム『Almost A Rainbow』を発売。前作に続き、KETTLESのオカヤスシズエがコーラスで参加している。同アルバムを携えて11月7日(土)の仙台PARK SQUAREを皮切りにツアー『Analogfish TOUR Almost A Rainbow』がスタート。

アナログフィッシュ オフィシャルサイト
http://www.analogfish.com/

Live

ツアーも中盤戦で間もなく大阪へ!
2月には再び京都でのワンマンも

 
『TOUR「Almost A Rainbow」』

【愛知公演】
▼11月14日(土)池下CLUB UPSET

Pick Up!!

【大阪公演】

チケット発売中 Pコード273-050
▼11月15日(日)18:00
心斎橋JANUS
オールスタンディング3500円
清水音泉■06(6357)3666
※小学生以上は有料、
未就学児童は入場不可。

チケットの購入はコチラ!
チケット情報はこちら

 
【福岡公演】
▼11月17日(火)The Voodoo Lounge
【東京公演】
▼11月21日(土)CLUB QUATTRO

【東京公演】
▼2月20日(土)LIVE HOUSE FEVER

Pick Up!!

【京都公演】

一般発売12月26日(土)
Pコード281-650
▼2月14日(日)18:00
磔磔
オールスタンディング3500円
清水音泉■06(6357)3666
※小学生以上は有料、
未就学児童は入場不可。

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Column

“歌いたいことがなかったら
 音楽なんてやってない”
時代の空気と皮膚感覚を頼りに
メッセージを風景として描く
優しきレベルミュージック!
前作『最近のぼくら』インタビュー