アジアの実力派ディーヴァが贈る究極のスムース・ジャズ!
サンタナ、ボブ・マーリー、トム・ウェイツ他の名曲を
憧れのリー・リトナー、ネイザン・イーストらと20年越しの再構築
ウンサン『誘惑』インタビュー&動画コメント
韓国出身の女性ジャズシンガーとして、コンスタントに作品を発表しながら高い評価を集めてきたウンサン。最新作『誘惑』は、リー・リトナー(g)やネイザン・イースト(b)といった大物もゲストに迎えつつ、60~70年代のロックやソウルの名曲を取り上げた初のスムース・ジャズ作品となっている。世界的に活躍する韓国発のトップギタリストのジャック・リーとの共同プロデュースで心地よくも深みのある新境地を示した新作と、目前に迫ったビルボードライブ大阪でのアルバム発売記念ライブについて、彼女に語ってもらった。
リー・リトナーやネイザン・イーストは
私にとってはアイドルのような存在だったので
20年経って一緒に演奏出来たのはとても光栄なこと
――今回のアルバムは60~70年代のロックやソウル、レゲエなどの名曲を取り上げた作品ですが、以前からこういう路線のものも作りたいと思っていたんですか?
「そうですね。ジャズを本格的に始める20年くらい前はまだ私はロックをやっていたんですけど、そのときにリー・リトナーやネイザン・イーストがやっていたフォープレイを聴いて、これがジャズならおもしろそうだなとファンになったんですよね。でも、その数ヵ月後にビリー・ホリディを偶然に聴いてジャズの世界に入っていってしまったので、フォープレイの音楽を聴いてコレをやってみたいと思ったことは忘れてしまっていたんです。でも、去年に偶然にジャック・リーとボブ・ジェームス(p)が一緒に演奏しているCDを聴いて、ジャック・リーさんに“私もこういう音楽が好きで、やりたかったんですよ”と伝えると“Now Is The Time!(=今がそのときだよ!)”と言われて。そこから自然に曲選びをしたりと、準備を進めていきました」
――本格的なジャズシンガーとしての活動を経て、その入口になったスムース・ジャズに20年越しで戻ってこれた。
「だから、今回のアルバムで今まで歌っていた曲は2曲くらいで、その他の曲は今作のために探して歌った曲になっています。コンセプトとしてはスムース・ジャズをやってみようということで、リー・リトナーやネイザン・イーストはそのトップの音楽家で私にとってはアイドルのような存在だったので、20年経って一緒に演奏出来たのはとても光栄なことでしたね」
――ドアーズやサンタナは、ロックを歌っていた時代にお好きだったんですか?
「そうですね。この辺りの曲は昔よく聴いていたし、今の時代の若い人たちがもう知る機会が少なくなっているのももったいないので、選曲してみました」
音楽をやる上で一番重要なのはブルース
ブルースがちゃんと出来ない人は、ジャズを演奏しても深い部分は出せない
――レコーディングを進めていく上で、特に印象深かった曲などはありますか?
「3曲目のボブ・マーリーの“Get Up,Stand Up”はリー・リトナーからの提案で、彼のアレンジで演奏することになった曲なんですよね。ボブ・マーリーの曲は歌詞もいいし、レゲエのリズムにジャズの要素をプラスすることでまたカッコよくなるから、特に気に入っています」
――原点回帰的でありながらも、ジャズシンガーとしては新たなステップを踏み出した1枚になっていますね。
「今回で11枚目のアルバムになるんですけど、楽しくレコーディングも出来たし、私にとってのベストのCDの1枚になったと思います」
――サウンドのタッチは心地よいスムース・ジャズが基本ですけど、歌のフィーリングは完全にジャズを経たものなので、深みのある作品になっていますし。
「私は韓国ではクラシックのオーケストラや伝統音楽と共演したり、ヒップホップの方たちの作品にも参加して歌っているんですけど、ジャズシンガーのウンサンとして他のジャンルの音楽家との共演にチャレンジするのが楽しいんですよ。私はジャンルとしてのジャズよりも、どんな音楽を歌ってもジャズのスピリットを持っていることが大事だと思うから。どういう哲学を持って歌うのかは重要なことだと思いますね」
――本格的にスムース・ジャズに取り組んでみて、上手く出せた部分などはありますか?
「今回はスムース・ジャズをコンセプトに作っていきましたけど、同じような曲調ばかりにならないよう曲ごとにアレンジや歌い方を変えることは意識しましたね」
――そうですよね。スムース・ジャズってどうしても同じようなタッチばかりでイージーになりがちなんですが、今作は曲調もグルーヴも変化に富んでいます。そんな充実した新境地を示したアルバムを引っ提げて、10月22日(木)にはビルボードライブ大阪で発売記念ライブが行われますが、ライブではまたCDとは違った表情を見せそうですね。
「今回のライブは、キーボードにフィリップ・ウー、韓国からラリー・カールトン的なギターを弾くチャーリー・ジョンにも参加してもらって、アルバムの録音ともまた違う初めての組み合わせのメンバーが集まるので、自分でもどうなるのか楽しみです。フィリップ・ウーさんは先日のネイザン・イーストのツアーでも演奏していましたけど、根底にしっかりとブルースを持っている人だし、私は音楽をやる上で一番重要なのはブルースだと思っているので。ブルースがちゃんと出来ない人は、ジャズを演奏しても深い部分は出せないと思います。ウーさんもチャーリー・ジョンも強いブルースを持っているプレイヤーなので、ブルースの曲も取り上げようかなと」
――ビリー・ホリディもブルースを根底に強く感じさせる歌い手ですもんね。
「ブルースが深いジャズシンガーですね。でも、私はシャーリー・ホーンのようなクールな歌い手も好きだし、ディー・ディー・ブリッジウォーターのようなダイナミックなシンガーも好きなので、クールな面とホットな面を両方持っている人が理想ですね。それは、私が日本と韓国の両方で活動する中で学んできたこととも関係すると思います。日本のジャズミュージシャンからはクールなノリを学んできたし、韓国のミュージシャンは熱が高いのでそこからダイナミックなものを吸収してこれたので。その2つを使い分けながら、いいコンサートにしたいと思います」
Text by 吉本秀純
ライター吉本秀純さんからのオススメコメントはこちら!
「インタビュー内で言及した楽曲以外にもトム・ウェイツ、アイズレー・ブラザーズ、マリーナ・ショウ、ビル・ウィザースなど、今回のアルバムは、洋楽のロック、ソウル、ポップスに親しむ音楽ファンならよく知っている名曲たちが、極上のアレンジと深みのあるウンサンの歌声で取り上げられており、70年代のクロスオーバーなジャジー・ソウルの名作のようです。スタジオ録音とはまた違った実力派プレイヤーたちが顔を揃えてのライブも楽しみ!」
(2015年10月16日更新)
Check