ミッション・インポッシブルに007、ルパンにスター・トレック…
日本のラテン・ジャズ・ビッグバンドの最高峰=熱帯JAZZ楽団が
映画音楽の名曲満載の結成20周年記念ベスト引っ提げツアー中!
カルロス菅野インタビュー&動画コメント
日本のラテン音楽シーンを牽引し続けてきた打楽器奏者のカルロス菅野がオルケスタ・デ・ラ・ルス脱退後に結成し、今年で結成20周年を迎えた日本のラテン・ジャズ・ビッグバンドの最高峰=熱帯JAZZ楽団。ラテン~ジャズ界の実力派たちが集結した圧倒的な演奏クオリティの高さと、あらゆるジャンルの親しみやすい名曲を取り上げたレパートリーの幅広さで世代を超えた支持を集めてきた彼らが、人気の高い映画音楽のキラー曲ばかりを集めた20周年記念ベスト『熱帯JAZZ楽団XVII~The Best from Movies~』のリリースを経て、9月11日(金)にサンケイホールブリーゼに登場する。20年の歩みを凝縮したベスト盤とツアーについて、リーダーの菅野に語ってもらった。
映画のテーマ曲って、その作品のインパクトを作るもの
とっつきにくいインストゥルメンタルへの入口も
カバーから開けていけばいい
――そもそも映画音楽というのは、カバーしやすいものなんですか?
「やっぱり映画のテーマ曲って、その作品のインパクトを作るものじゃないですか? 元々がすごく印象に残る曲になっているから、それを取り上げてアレンジしたときに面白味が出るんですよね。“ラテンにするとこんな風になるんだ”というおもしろさでは、例えば『スター・トレック』(M-12)ではメレンゲ(※ドミニカ共和国発祥のダンス音楽)のリズムを使っていたり、『風のささやき』(M-7)はミシェル・ルグランのメロディアスで綺麗な曲をゴリゴリのへヴィなサルサに変えていたり。今回はベスト盤ということで録音時期はバラバラですけど、いろんな変遷はあるにしてもやはりバンドとしての統一感は取れているんだなと思えましたね」
――熱帯JAZZ楽団はこれまでにあらゆるジャンルの楽曲を取り上げてきましたけど、映画音楽も音楽的にはジャンルレスなものですよね。
「そうですね。ロックっぽいものもあればジャズっぽいのもあるし。それを熱帯JAZZ楽団というフィルターを通すとこういう形で1つの色が出来ますよ、みたいな。ただ普通にオーケストラでカバーして集めているだけだと統一感が出ないかもしれないけど、全曲が熱帯~のフォーマットを通して出てきたものだったので、上手くまとまりが出たんじゃないかと思います。やっぱり、そこはこのバンドが20年間かけて作ってきた核というか、どんな曲を取り上げてもこういう面白味を出してくれるバンドという評価があるんだと思います。そこを今回は、映画音楽という括りでまとめて味わってもらえればと」
――今回のベスト盤は、選曲的にも結成20年のキャリアの中から幅広く選ばれていますが、ブレのない統一感があるのが改めてすごいというか。でも、結成当初はこんなに長く続けることになるとは思われていなかったそうですね。
「最初はもう、こんなバンドが、こんなコンセプトで、ここまで活動出来るなんて全く思ってなかったし、1~2回ライブがやれたらいいかなくらいの気持ちで始めたんですけどね(笑)。もちろん集まってきたメンバーのクオリティが高かったのが大きかったと思うんですけど、ちょうど世の中的にもビッグバンドや生の音の元気がなくなってきた頃で、逆にインパクトがあったんだと思います。最初はこんなにカバー曲をたくさんやるとも思っていなかったし、熱帯~自体のスタイルもなかったんですけど、最初のアルバムで『ミッション・インポッシブル』(M-1)や『セプテンバー』を取り上げてみようかとカバーを始めたところ、それに対する反応がすごく強くて。で、とっつきにくいインストゥルメンタルへの入口も、カバーから開けていけばいいのかと逆に気付かされましたよね」
――なるほど。メンバー的にはもっとハードなラテン・ジャズもその気になればすぐ出来てしまう人たちではあるけれど、そちらの方向には敢えて進まずに。
「実際の演奏ではテクニカルなことはいろいろやっているんですけど、(曲は)耳馴染みがあるのであまり小難しくは聴こえないみたいですね。もちろん、もっとミュージシャンとしてのポテンシャルをぶつけたい欲求は常にみんなにあるんですけど、聴く側の立場から考えれば、そういう人たちが(親しみやすい曲で)クオリティの高いことをやっているのが気持ちいいということだと思うので、そちらをメインに活動していくことにしたんですよね。その結果が、実際にここまで長くやれているということだと思うんです。毎回毎回ジレンマはあって、オリジナル曲もこれまでにたくさん入れてますし、そっちにも目を向けてくれないかな?というのはあるんですけど(笑)。ただ、活動の中盤にはそういうジレンマも強くありましたけど、20年経つとそれも落ち着きましたね(笑)」
オルケスタ・デ・ラ・ルスの時代から
ラテン音楽がもっと広く受け入れられればという
モチベーションを持ってやってきた
――20年続けてきてバンドとして深まってきた点となると、どこになりますか?
「さっきも少し言いましたけど、バンドとしての顔というか色が、どんどん出来上がったことですね。例えば、神保(彰)くんが抜けたりとメンバー的な変遷もいろいろあるんだけどそこでクオリティが落ちてしまうのではなく、だんだんと出来上がってきた熱帯JAZZ楽団としての音世界に、いろんなミュージシャンがおもしろがって関わるような流れが出来てきて、さらにそのスタイルが確立されてきたというか。その変遷はすごく感じていたし面白かったですね。この大所帯だから毎回同じメンバーで出来るわけではないし、今回のツアーも新しいコンガのプレイヤーが入ってきていたりするんですけど、バンドの色はもう確立されているからブレないところは強みですね。これからは次の世代の人たちがどんどん入ってこれるようにチャンスを作って、ということも考えていますし」
――今や日本のラテン・ジャズ~ビッグバンドの登竜門というか、全国のアマチュア・ビッグバンドや吹奏楽部の学生たちがお手本にしている存在ですもんね。
「“高校~大学時代からずっとコピーして演奏していました”、みたいな若者がいっぱいいる時代になってきましたからね。20年もやっていると、バンドを始めた頃に生まれましたという人も現れてきたし。自分たちとしては何かを背負ったり、シーンを引っ張っているという気負いはないんですけど、オルケスタ・デ・ラ・ルスの時代からラテン音楽がもっと広く受け入れられればというモチベーションを持ってやってきたし、長年やってきた人間として恥ずかしくない音を出すことで、それが次の世代に自然と繋がっていけばという気持ちはありますね」
――そんな結成20周年での節目となるツアーが、大阪では9月11日(金)にサンケイホールブリーゼにて行われます。
「やっぱり20周年なので今までの全部を集めて、掘り起こすものもあるだろうし、集大成的に“これこそ熱帯JAZZ楽団だ!”というものをやらなきゃいけないんで。まぁ、間違いなく盛り上がりますよ(笑)。新しいメンバーが入って変わった部分も観て欲しいし、一番オイシイところを味わってもらえる選曲で臨みたいなと思っています」
Text by 吉本秀純
ライター吉本秀純さんからのオススメ!
「リーダーのカルロス菅野さんは、日本のフュージョンを牽引した松岡直也グループに在籍した後に、ビルボードのラテン・チャート1位も制した日本発のサルサバンドのオルケスタ・デ・ラ・ルスでも活躍してきた、ラテン界でもジャズ界でも頂点に立ってこられた方。“ラテン・ジャズ”という音楽は、実はラテンとジャズの双方のマニアから軽く見られ続けてきた存在だったんですけど、熱帯JAZZ楽団はそれを吹奏楽部の中高生たちまでもがコピーしたくなる痛快で楽しい音楽に変えてしまった。世界的に見ても、こんなに幅広い年齢層から支持されているラテン・ジャズ・ビッグバンドというのは他に存在しないと思います」
(2015年9月 8日更新)
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