音楽を生命線に生き延びろ―― 傷だらけの人生が生んだ大きな愛と 13曲の処方箋=1stアルバム『ななみ』を語れ ななみインタビュー&動画コメント
歌に救われる。そんな経験に身に覚えがある人生は、幸せなのか、不幸なのか。歌にしかすがれない日々は、こんなにもまばゆきアルバムをここに生み出した。昨年、メジャーデビューを果たしたシンガーソングライターななみが、遂に完成させた1stアルバム『ななみ』は、幼き頃に突きつけられた両親の離婚やドロップアウトを通過したどり着いた音楽という生命線上で、己の才能と想いをたぎらせるような13曲を収録。今作に刻まれた非凡なメロディセンスと、様々なサウンドフレーバーを貫き通す儚くもしなやかな歌声は、この音楽に出会ってくれた人々を救おうと、必死に手を伸ばしているかのようだ。生い立ちから初アルバムに至るまでの心の導線を記したインタビューは、彼女の作品同様、時にドキッとするような大人っぽさと、きらめきを失わないピュアさが顔を覗かせる。愛すべきシンガーソングライターのはじまりのストーリー。
歌うことが唯一1人で出来ることだった
――音楽との最初の接点は?
「家族が音楽一家とかでもなく、逆に無縁だった方で。何でだろう…多分、歌うことが唯一1人で出来ることだったんですよね。友達がいなくても、家に1人で引きこもっていても出来る。あとは、人にバレずに出来る(笑)。お風呂でこっそり歌ったりとか。そこからお母さんの前で初めて歌ってみて、“あれ? ちょっと上手いんじゃないの?”みたいな感じになって(笑)。でも、お母さんの評価=親バカになっちゃうから、オーディションとかに出てみなさいよ、みたいな。そこで、審査員の方に“いいね”と言われて初めてハマったというか。それまでは勉強とかも全然出来るタイプじゃなかったので、あんまり褒められることがなくて、人に評価されることが単純に嬉しくて。兄は勉強もスポーツも出来るんですけど、真面目過ぎなくてちょっとヤンキー、みたいな(笑)」
――それ、一番カッコいいヤツや(笑)。
「そうそう(笑)。でも、私には何もない。ただ、歌はお兄ちゃんより歌えた。それがもう嬉しくて。歌で初めて人に褒められて、褒められる=必要とされてるっていう考え方に変わっていって、自然と“歌がないと自分じゃない”みたいな。本当に他に出来ることがなかったので、ある意味分かりやすい人生でしたね。これで勉強も出来て、そこそこキレイで、とかだったら、悩むと思うんですよ。親も期待するだろうし。だからある意味、いい人生だなって(笑)。悩まない分スタートも早かったし、周りが全員同じように就職して、結婚してって、それが当たり前になっていく前に、気付けてよかったなって」
――なるほど。その助走があったから、引きこもっていた時期に“じゃあ音楽でも聴こう”という発想になったんやね。音楽を始める起点となったのがYouTubeと聞いて、時代だなぁとすごく思いました。
「アニメも元々好きで、ヴィジュアル系もすごい好きだった(笑)。人のモノマネもするのも大好きで、当時流行っていた方の歌い方を…カラオケでビブラートとかも1人でコピーしたり(笑)。洋楽も好きでしたね。日本の方の声が高過ぎて、自分が原曲のキーで出る声って言ったら、もう尾崎豊さんとかだし(笑)。アリシア・キーズは好きでしたね。自分の声に近いものを感じたから」
――最初から自分が歌うこと前提の歌の聴き方で。流行ってるとか、憧れてというよりも、歌いこなせるかどうか。
「それはある意味、YouTubeのお陰ですね。流行りも関係なく、マニアックな曲も探せたので」
――そんな中で、オーディションやコンテストを受けて、歌手になると言ってはバカにされた時代もあって、それでも諦めずにこれたのは?
「“歌ってないと自分の価値はない”って思ってたんで。そうじゃないよって言ってくれる人もいると思うんですけど、“諦めたら死ぬ”って思ってたんですよ(笑)。だから、生きたいと思う限りは辞められなかった。でも多分、メジャーデビュー出来なかったとしても、オーディションに受からなかったとしても、ずーっと働きながらライブはやってたと思う。ライブハウスで月に2回とか歌わせてもらうだけでも、幸せだったと思う。歌は絶対に歌っていくだろうなって、もう17ぐらいのときから諦めながらも思ってましたね」
生きてる限りメロディは出てくる
――歌に没頭して行く中で、曲はいつから作り始めたんですか?
「14歳で初めてギターを弾いて、コードを知って、中学3年生のときに初めて作りましたね。元々洋楽を聴いてたのでフェイクとかを入れるのも好きだったんで、コードを弾いたらメロディが浮かんできて、それが=作曲なんだっていう理解の仕方でしたね。いろんな曲を聴いてる中で、“Bメロにこう行って、サビでこう行く”みたいな流れは何となく分かってたから、誰かに教えてもらうこともそんなになく、自分の好きに歌ってきました」
――曲はオーディションに受かってからも何十曲と送ったということなら、書けない方じゃないんですね。
「スランプになったことはいまだにないです。それはすごくありがたいことですね。どんなに苦しくてもメロディが出てくるんですよ。歌ってる限り、辛いことも含めていろんなことが日々あるじゃないですか。なので、生きてる限りメロディは出てくるんだろうなって、今は信じてます」
――じゃあ曲は作ろうと思って作るより、心が動いたときに出来る?
「そうですね。作ろうと思って作ったら、クソみたいな曲が出来るんで(笑)。本当に日記を書くような気分で曲を書くんで。例えば、Twitterに“今日、上司がウザかったなう”って書くみたいな感じで(笑)。ある意味、ただ自分が思ったことを曲にして、それに人が共感してくれて、人のためになるのが、すごくいいことだなって思います」
――1stアルバムの『ななみ』を聴いてると、この人は何でも曲になるというか、全ての感情の動きが歌になると思わされます。フィクション/ノンフィクションの割合は?
「全部が自分の経験ですね。決して幸せなものだけじゃなく、時に裏切られたり(笑)。『君という宝物』(M-9)は、大親友が大事な人をこの世から亡くしてしまいまして、それを歌で助けてあげたいなと思って作った曲ですけど。死というものだけじゃなくて、失ったものっていっぱいあると思うから、皆さんの歌にしてくれたらいいなって」
――『約束を果たすその日まで』(M-3)『I live for love』(M-4)『愛してる』(M-5)って、対象は同じ人?
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「『約束を果たすその日まで』『愛してる』は一緒ですね。『I live for love』は、私にとっては家族です。今はファンのみんなにと思ってるんですけど、この曲を書いた頃は、人を信じてなくて、本当に狼みたいに威嚇して、傷付かないように自分をかくまってたんです。だけど、誰かと一緒に愛を探していくのは綺麗なことだなぁって気付いたときって、すごくあたたかい気持ちになるじゃないですか。ディズニー映画を観終わった後みたいな、何とも言えない気持ちになったことがあって、そのときに出来た曲ですね」
――アートってそういう効用がありますよね。映画だったら2時間、音楽だったら3分で人の人生を変えられる。
「そうですね。『Dahlia』(M-11)とかも最初は恨んでて、最後にはもう恨む価値もないっていう方向に進んでるので、それこそ3分の間に、女の子に気持ちを断ち切って欲しくて」
――ダリアの花言葉が、“うつり気・不安定・華麗”みたいな。ダメな男に振り回される。
「1ヵ月ぐらいかけてこの曲を書いたんですけど、元々は最後まで恨みを晴らす気だったんですよ(笑)。でも、歌詞を見直してるときに、“いや、もう恨みはないな”って思って書いたら、逆に女性の成長の歌になったので」
――このアルバムを貫く、すっごくピュアな想いと、歳の割にはいろいろ経験してるなぁみたいなギャップ(笑)。
(一同笑)
「何か真ん中に線があって、“ななみちゃん”と“ななみ”として生きてる自分がいて。ななみちゃんは、『ポケットの恋花火』(M-8)とか『出逢えたのはあの店で』(M-6)とか、そういう純粋な気持ちなんですけど、ななみはそれを悟って見てるところがあって、それが『愛してる』だったり」
――『許されざる愛』(M-7)だったり。
「三角関係の(笑)」
――この曲はEDMっぽいアレンジでおもしろいですね。
「R&Bがすごく好きだったんで、ディーヴァっぽくしたいのがあって。歌い上げる曲が本当は一番好き(笑)。アレンジはもうとことん洋楽にしてくださいって話をして」
――本当にいろんな曲が入ってますが、その全てが…。
「基本ノンフィクションです(笑)。フィクションの曲は、ライブで気持ちがこもらないですね。やっぱり他人の気持ちでしかないというか」
私が救われたんですよ、音楽に。一番の証拠が私なので
――このアルバムにたどり着くまでは、自分にとってどんな時間でした?
「もう14歳からメジャーデビューしたくてしたくてたまらなかったので、“やっと”って感じでしたね。“やったー!” じゃなくて“やっと”。同時に、14から目指してきた7年間の夢がなくなっちゃうのかと思うと、ちょっと寂しかったですね。でも、デビューしてからは早かったです。自分との戦いだったなって、決して誰との戦いでもなく。自分を探そうとしてる内は、まだ自分じゃないんだろうな…。だから胸を張って、“私はななみです”って言えるようになりたい。それを今後見付けられたらいいなと思います」
――こういったアルバムを作ろうという、ビジョンはありました?
「“薬箱”みたいになればいいと思ってましたね。私、辛いことがあったらすぐ母親の顔が浮かんで電話しちゃうんですよ。それみたいに、皆さんに辛いことあったときにすぐこのアルバムが浮かんで、“聴きたい~!”って思うような曲を作りたかった。傷には傷の、熱には熱の薬があるじゃないですか。それと一緒で、このアルバムは13種類の薬が入ってる薬箱だと思ってくれたら嬉しい。だから、そのときの自分に合った曲を聴いて欲しいし」
――“音楽に助けられたから、きれいごととかじゃなく、誰かを助けたい”とプロフィールにも書いてますが、ここまでの強い衝動はどこから来るんでしょう。
「私は世界を変えたいというよりは、自分が救える人たちを変えたいんですね。“救いたい”ってすごく身勝手な言葉かもしれないですけど、私が救われたんですよ、音楽に。音楽に救われた人の気持ちは自分が一番分かってるから、救われるんだって信じてるから、人を救えると思ってるんです。一番の証拠が私なので、その証拠を見てもらえばみんなも納得すると思うし。これで何も経験してない娘だったら、こんなに胸張って言えないし(笑)」
――この薬、めっちゃ効くから!って(笑)。
「そうそう(笑)」
――アルバムの冒頭はロックなナンバーが続きますけど、2ndシングルの『I’ll wake up』(M-1)と『涙レンズ』(M-12)はホント秀逸だし、『I’ll wake up』と共に『去れ負け犬よ』(M-2)も音と言葉で奮い立たせてくれるし、『約束を果たすその日まで』も、すごく決意が感じられる曲で。
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「17ぐらいのときにすごく好きな人がいて。でも、音楽が大好きだったからこそ、今別れないとダメだって…こんなに大切な人を失ったんだから、ちゃんと夢を叶えなきゃっていう曲でもあるんですけど」
――やっぱりすごく、芯が強い。
「ありがとうございます(照笑)。ただ、自分の中では人に評価というか、理解されにくい曲もたくさんあると思ってるんです。『I live for love』とかはどちらかと言うと洋楽っぽくて、若い子とかには理解されにくいメロディなのかなって思うんですけど」
――あんたも十分若いがな!(笑)
「アハハ!(笑) でも、『出逢えたのはあの店で』とかは、若い子にも伝わるようにバランスを保たないとっていう感覚が、いい意味でありました。なので、選曲にはすごいこだわりましたね。(ストックが)200曲とかあるので」
――マジで!?(笑)
「いい意味で波乱万丈に過ごせてるというか、普通なら辛いと思わないようなことにも、いちいち傷付いちゃう。感じやすいから、吐き出しやすい。チキンなんですよ(笑)。痛い痛い~!ってなっちゃっても、歌に出来るから」
――じゃあ今はガンガン傷付いてるし、ガンガン喜べてると。
「ガンガン喜んでる(笑)。逆に強くなった自分に傷付くぐらいですもん」
私がこんなに愛について歌ってるってことは
多分手に入れてないから求めてる
――アルバムを締め括るデビュー曲『愛が叫んでる』(M-13)も、改めて聴くとすごくパワーのある曲ですね。
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「やっぱりボスはこいつしかいないなって。この曲で終わりのように見えるけど、アルバムをリピートしたときに1曲目『I’ll wake up』のイントロがまた、新しい始まりのように聴こえて。この2曲は最初と最後だなっていうのは、早くに決めてましたね」
――話を聞いてると一見アクの強いアーティストに見えますけど、『悲しみにありがとう』(M-10)みたいな曲を聴くと、王道のポップスをしっかり書けて表現出来る。 本当にクオリティの高いアルバムになりましたけど、自分の人生をちゃんとポップソングに落とし込める能力は何なんでしょうね。
「この曲が出来たのは1年前ぐらいなんですけど、そのときは“悲しみにありがとう”と“思いたかった”んですよ。でも最近やっと、本当に心から、過去にありがとうと歌えるようになった。それはデビューした後にファンの皆さんだったりが純粋に共感してくれて、“ななみさんに元気をもらえた”とかそういう言葉をもらって、初めてこれでよかったんだなって思えたので」
――この想いを音楽にしてなかったら…音楽があったからこそ出会えた人たちに動かされて。今作が出来上がったとき、何か思いました?
「“人間っぽいな”って思いました。いい意味で、キレイじゃないなって。それは同時にすごく美しい気がして。このアルバムではいろんな愛を歌っているけど、決してキレイな部分だけじゃなく、人間の汚い部分も含まれてる。そのどっちもが大切だから。最初はタイトルを付けたくないって言ってたんですけど、いつかその“愛=ななみ”みたいになればいいなって、このタイトルになりました。でも、これから先も多分、愛を知らずに生きていくんだろうなって思うんです。だからこそ愛を歌っているのかなって。“ななみさんにとって愛とは何ですか?”ってよく聞かれるんですけど、“分かってたら歌わないです”って言うんですよ。人間って手に入れたものってありがたいと思わないじゃないですか。私がこんなに愛について歌ってるってことは、多分手に入れてないから求めてる。これからもそれがいいなって思ってます、リア充にならないように(笑)」
――アハハハハ!(笑)
「だから私、絶対結婚したくないと思ってて(笑)。誰かに何かをずっと与えていたいですね」
――でも多分、結婚しても、リア充になっても、歌ってると思います。
「それは自信あります!(笑)」
――ね。何かそこには根拠のない確信が。
「嬉しいです」
――そして、ライブは。
「全国ストリートツアーを、73本。=“ななみ”なので」
――ななみ=773本じゃなくて?(笑)
「“7=なな”だから(笑)」
――ストリートライブは、かつてやってたんですよね?
「故郷の大分ではやってましたけど、大分以外ではあまりしたことがなかったので、おもしろいなって。あとは、ストリートライブってある意味、一番デカい箱だなって。73本の中で、死にたくなるぐらい辛いこともあると思うんですよ。だから楽しみなんです、また傷付くのかぁ~ゾワゾワみたいな(笑)」
―――そりゃこの73本が終わったら、絶対に曲が出来るね(笑)。
「次にお会いしたときは、 (お釈迦様のようなポーズをして)私がこんな感じになってるかも(笑)」
――全てを悟り切って(笑)。再会を楽しみにしてます(笑)。
「はい(笑)。頑張ります!」
Text by 奥“ボウイ”昌史
(2015年8月21日更新)
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