ハワイと東京でレコーディングされたDef Techの2年ぶりのニューアルバム『Howzit!?』(ハウズイット)。ダブステップなどを取り入れ、“ジャワイアン・レゲエ(ジャパン+ハワイ+ジャマイカ)”のオーガニックなサウンドとの共存を果たした前作『24/7』(‘13)とはまた異なり、改めて彼らのルーツであるハワイと日本どちらもが、音にもメロディにも自然に息づいた最高にリラックス出来る1枚になった。アルバム制作に向かう途上で2人は、猫も杓子もEDMに傾倒する音楽シーンの中で、自分たちが何を指し示すのか改めて考えたという。さらに、彼らの名を広く知らしめた『My Way』(‘05)をはじめ、これまで多くのメッセージを紡いできたMicroが発することを拒み、“音楽を辞めようと思った”とまで語ったエピソードは、彼らがどれほどの覚悟で真摯に音楽を生み出しているのかを物語っている。動画コメントでジョークを交えて語られている通り、タイトルの『Howzit!?』とは、ハワイ特有の表現で“ハロー”や“どうだい?”を表す挨拶の言葉。普段着のまま、今にも海に飛びこもうとする勢いで“Def Techのニューアルバム、どうだい?”と笑いかけてくるような人懐っこいこの新作を手に、7月16日(木)にはビルボードライブ大阪に初登場、18日には大阪城野外音楽堂でデビュー10周年を祝うスペシャルライブ、そして、9月18日(金)にはリリースツアーで神戸国際会館こくさいホールへ…。Micro、Shen、それぞれの根っこは変わらないまま、この10年で培われた経験や友情が蓄えられた豊かな土壌が生んだ『Howzit!?』で、また新たな道を作ったDef Techにインタビュー。
Micro 「と言いながら彼は、現地でいろんな曲をiPhoneのボイスメモに録りためてきていて。その中にあったジェイクのウクレレを聴かされたときに、僕は火が付いちゃったんですね。一発録りしたもので、そのテイクをそのまま『One Day with Jake Shimabukuro』(M-3)に使っています」
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――それは元々アルバムに使うために録音したものだったんですか?
Shen 「そういうわけでもなくて、“バーベキューやってるから遊びにおいで”って連絡をもらって、その場でセッションしようかって話になって。コード進行だけ決めて、メモとして録音して、うまくいったらソングライティングしようぐらいの感じで」
Micro 「その演奏を聴いたときに僕はズバリ、“アルバムが出来る!”っていうのが見えたんですね。それからこの曲を中心に、様々なパズルのピースが集まってくるようにアルバムが出来ていきました」
――前作のバラエティ豊かな感じともまた一味違って、“夏”を感じるアルバムでした。派手に楽しむハジけた夏っぽさもあれば、夕暮れ時のしっとりとした夏の心地よい感じもどちらもあって。ちなみに1曲目の『B-3』はビーチサンダルのビーサンでしょうか?
Micro 「そうです。僕ら『A-1』(‘10年『Mind Shift』収録)で復活したので、次はB-3(ビーサン)でいいんじゃない?って(笑)。僕は小さい頃から父親に、“サーファーは海では靴を履け”って教え込まれていたんですけど、それに対する反骨心で大人になってからはガンガン、ビーサン履いてますね(笑)。夏と言えばみんな水着で、僕らはトランクス一丁で、夕暮れの自然を感じながら野外で歌って…いいですよね、気持ちよくて。やっぱり夏に暑苦しい曲は聴きたくないし、ゆったりとしたレゲエが合うのは、レイドバックしていて涼しいからなのかなぁって」
Shen 「海の前で聴いても、アーバンな場所で聴いても合うものになりましたね。僕らはいつも目指しているコンセプトと、その途中で思いがけなく生まれたものと、半々ぐらいなんです。偶然と必然、わび・さびです(笑)」
Def Techとしてどこに向かうかを考えたときに
EDMやいわゆる四つ打ちの世界からは離れようと思った
――『Gone Surfin’』(M-5)は、サーフィンソングの新しい定番を作りましたね。
Micro 「ちょうど“今のサーフィンソング”がないなと思ったんですね。それと共に、“僕らがハーモニーを追求していくとどこに向かうんだろう?”と思って、改めてビーチ・ボーイズのグレイテストヒッツとかも聴いて、日本のサーフィンの曲と言えば“乗ってけ乗ってけ乗ってけサーフィン~♪”(『太陽の彼方』(‘72))ですよね。他にもベンチャーズを聴いたり。僕らの周りは今完全にEDM一色で、その対抗馬としてオーガニックなサウンドのエド・シーランとかがあって。ミュージックラバーが全員EDMを好きかと言えばそうでもないし、僕らもスクリレックスやダブステップも大好きだけど、Def Techとしてどこに向かうかを考えたときに、EDMやいわゆる四つ打ちの世界からは離れようと思ったんですね。そのとき、1人でパソコンの前で作った曲をDJブースでプレイしている世界に対して、ハワイでスタジオにいたギターの人が歌い始めて、そこに歌声が重なってハーモニーを奏でてて…というトラディショナルなハワイの音楽の生まれ方がとても新鮮に聴こえて、改めてハワイの音楽をずっと聴いていたんですよ。あと、ハワイにいて気付いたんですけど、普段の生活にEDMは合わないんです。山の上でも聴いたし、海にいるときも聴いたんですけど、圧倒的に“違う”んですよね。やっぱり海と自然に合う音楽ってあるんですよ。(EDMは)パーティータイムの夜の時間帯とか、クラブに行かないと聴こえてこない」
Shen 「さっきMicroが言った考え方があったからこそ、“僕たちは何なんだ?”っていうアイデンティティとか、ハワイと日本の両方のいいところがミックスされて、僕らの感じになるところがいいんだと思えた。例えば、『Gone Surfin’』はビーチ・ボーイズやベンチャーズのクラシックサウンドもありながら、Dメロでは歌モノっぽい世界になる。その部分も自分たちにとってはすごく重要だって、今回分かったんですね」
Micro 「ジャマイカの人がレゲエをやるのは当たり前ですよね。そのジャマイカの音楽に心を掴まれて、エリック・クラプトンが『アイ・ショット・ザ・シェリフ』(‘73)をカバーすることで、その影響を受けて日頃そんなにレゲエを聴いたり歌ったりする環境にないヨーロッパの人がレゲエを歌う。沖縄の人が沖縄民謡を歌うのは当たり前だけど、全く違う土地の人がそれを素晴らしいと取り込むことで、新しい音楽が生まれる。それと同じようなことが、東京の僕とハワイのShenが行ったり来たりすることで生まれてくるんだなって。EDMから離れるとか言いながら、『Talkin’2 You』(M-7)はメチャクチャにトラップしてる曲でフロアを沸かせに行くんだけど、それでも僕らはこの曲に海とか自然を感じるから選んだんですね。自分たちのライフスタイルを考えたとき、サーフィンやヒップホップが好きだからといって、常に“YEAH!”ってハッチャけてるわけじゃなくて、普通に海が近い生活をしているだけなんですよね。その感じが曲にも作品全体にも、自然発生的に出てきたんだと思います」
震災以降、何をメッセージとするか、
何が励ましとなって人を鼓舞するのか…
そこから僕はもうずっと歌詞が書けなくなっていくんですね
――『ふしぎだね?』は5年前には曲の原型があったと言われてましたね。
Micro 「『ふしぎだね?』は再結成するときに用意していた曲で、でもなかなか僕が歌詞を書けなくて。震災以降、何をメッセージとするか、何が励ましとなって人を鼓舞するのかって…そこから僕はもうずっと歌詞が書けなくなっていくんですね。今までは“頑張れ”と歌ってきたし応援歌を作ってきたけど、それが全ての人に向けられなくなったというか。例えば、震災後に“福島頑張れ”とか“頑張ろう、日本”っていろんな人が言っていたけど、僕は全然言えなかった。逆に東京に住んでいる人がそう言うのを聞いたとき、“この人たちはどの角度でそれを言っているんだろう?”って、違和感を覚えてしまって。世の中に溢れているそういうメッセージが嫌になってしまって、一旦口を閉じてしまおうと思ったんですね。そこから今年に入るまで、全くこの曲の歌詞が書けなかったですね。’11年に『UP』が出て、その次に『Official Bootleg Mix CD』(‘12)が出たのは、僕が歌詞を書けなかったからなんで(苦笑)」
Shen 「書けるんだけど、自分が納得するレベルのものにはならないんですよ。彼は自分にとても厳しいし、1人のアーティストとして人の心を掴むものを書きたい。それは素晴らしいスタンスだと思うし、素晴らしい相方です(笑)」
Micro 「人の心を掴むものを書くためには、まず自分が感動しなくちゃいけないし、それまでは自分で自分の書いた詞にシビレてたんですよ。“スゲー! この人こんなこと言ってるよ!すげぇパンチライン!”(笑)とか思ってたのに、そのパンチラインが書けなくて。年齢もあるのかもしれないけど、本当に難しい時期だったし、特にEDMの影響も大きかったと思う。どんなにすごい名曲も、あの四つ打ちに入っちゃうと、タイムラインの音楽になっちゃう気がして。EDMって、同じ言葉をループしているだけだったりして、歌のメッセージがなくなったと思うんですね。シーンがそこに行きついたときに、僕はもう一度音楽を辞めようかなと思ったし、このアルバムが出来なかったら、本当に普通の仕事をしようかと思いました」
――最初に話に出た『One Day With Jake Shimabukuro』を聴いたとき、英語詞の部分はすぐには何を歌っているのか分からないですが、この曲が持っている雰囲気にふと“頑張ろう”と思える瞬間があって。“背中を押してくれる曲”とか、メッセージソングって、こういう曲のことを言うんだなと。
Shen 「言語を越えるヴァイブスですね。その曲はまさにアルバムの中で一番メッセージが強い曲だし、それが言葉以外の部分で伝わるなんてワオ!だね」
Micro 「今年の1月にShenがこの曲を聴かせてくれたときに、今必要なのは優しい歌だなって思ったんですね。優しくあったかい気持ちにさせてくれることが、一番の励ましになるんだなって。震災後、食べ物の産地を気にするようになったり、自転車に乗る人、歩いて移動する人も増えた。こんなに便利でデジタルな世の中になっているのに、敢えて不便な方を選ぶ人も多い。それぐらいそれぞれの生き方や意識が変わっていっている中で、優しい気持ちが人を励ますということは変わらないんじゃないかって」
やっぱり音楽は“救い”なんですよ
――『My Way』から10年経って、今改めて何が2人を音楽に向かわせているのでしょう。
Shen 「音楽って無限の世界だと思うんですよ。同じコード、同じノート(音符)なのに永遠に新しいものを作れる可能性があるし、その感覚が素晴らし過ぎて辞められない。よく、“インスピレーションはどこから来るんですか?”って聞かれることが多いけど、この1年ぐらいで僕は変わってきていて、目の前で起きていることや経験が歌詞に表れることが多いんですね。例えば、『Freeing Ur Pain』(M-2)は、友達夫婦が新年を前にケンカしちゃって、僕は2人の間に入って仲裁みたいなことをしていて。その次の日に何か曲を作ろうと思ってパソコンの前に座ったら、自然とその友人のことを歌詞に書き出していて。とてもパーソナルなことをきっかけに誕生したんだけど、そこにMicroが加わることで歌詞としてコンプリートさせてくれた。自分1人で書いていたら俺だけの世界になっちゃうけど、Microが違うベクトルで入ることによって、陰と陽、イーストとウエスト、プラスとマイナス、何でもいいんだけど(笑)、自分以外の力、素晴らしいパートナーの力を得て1つの作品として完成するんですよね」
――『Freeing Ur Pain』は、人間の心とか感情とか目に見えないものについても歌われていて、それは性別も世代も問わず誰にでも当てはまりますけど、友達のケンカがきっかけで誕生した曲だったとは(笑)。
Shen 「多分ケンカしてる人は世の中にいっぱいいるから、この曲が合う人は多いと思う(笑)」
Micro 「僕を音楽に向かわせるものはやっぱり、エンカレッジ(=励まし)ですね。自分自身も何度も音楽に励まされて救われてきて、何かあるたびに自分の心の中にある何十万もの曲がいろんなシチュエーションや時間帯によって思い出されたりして。ハワイのラジオ局では、今でも夕方の日暮れの時間帯にはボブ・マーリィの曲が流れたりして10年20年、30年経っても色褪せない素晴らしい曲が1日を通してラインナップされている。時を超えた普遍的なラジオで、僕らの音楽もそうなりたいなって思う。ブルーノ・マーズは多分全く同じような環境で育ってきていると思うんだけど、マーク・ロンソンとコラボレートした『アップタウン・ファンク』('15)が大ヒットして、またEDM寄りに行くのかな?と思ったら、自分たちのホームであるR&Bに一旦戻っていて。ファレル・ウィリアムスも感覚的には近いものがあって、そのままEDMに行くかと思ったらファンクに回帰していたり。ファレルもN*E*R*Dの2nd『フライ・オア・ダイ』(‘04)が出た後にレーベルとモメたりいろいろあって自信をなくしていて、その後もプロデュースワークやフィーチャリング、ソロアルバムも出していたけど、決定的だったのはダフト・パンクの『ゲット・ラッキー』(‘13)ですよね。あのとき、一緒に参加していたナイル・ロジャースのギターのカッティングにファレルは救われて、それをテレビのインタビューで泣きながら話しているのを観たんです。同じようなことが、僕の場合はもう少し短いタームで起きていて、やっぱり音楽は“救い”なんですよね。それと、“何でこんなにも僕たち以上に僕たちの音楽について熱く語ってくれるんだろう?”っていうリスナーの存在ですね。それが僕の一番のモチベーションかな。その子たちのためなら、何でもしてあげたいと思う」
――7月16日(木)はビルボードライブ大阪、18日(土)は大阪城野外音楽堂でライブがあり、9月にはツアーで神戸公演。どれも楽しみです。
Micro 「多分この夏は毎月大阪にいるんじゃないかな? そろそろ本気で住む部屋を探した方がいいかも(笑)。あと、実は今回のアルバムのためにもうあと2曲あったけど、敢えて入れなかったんですよ。Less is more(=少ないことは、豊かである)な感じですね」
Shen 「その曲も本当に素晴らしい曲で、僕らの次のステップにつながっていくような曲。だけど、世の中には締切というものがあって(笑)」
Micro 「僕の歌詞が間に合わなかったんですよ(苦笑)。でも、次の1曲は本当にヤバイと思います。もうね、モチベーションも高いし、楽しくなっちゃいました。ライブも、アルバムにも参加してくれているアーニー・クルーズJr.やハワイの素晴らしいミュージシャンを迎えたDef Tech with Jawaiian All Starsでのステージになるので、ぜひ楽しみにしていて欲しいですね!」
Text by 梶原有紀子