スピッツの名曲カバーにクラムボンのミトらも参加した ファンタジックな話題作『七色眼鏡のヒミツ』引っ提げ 只今全県ツアー中! デビュー5周年の分岐点を語る nano.RIPEインタビュー&動画コメント
メジャーデビュー5周年を迎え、バンドとしての理想型を確立したnano.RIPE。この春届けられた4thアルバム『七色眼鏡のヒミツ』には、リアレンジされたインディーズ期の楽曲や、これまでの作品の続編として書かれ、アンサーソングとしてより深みを帯びたナンバー、意欲的にカバーしたスピッツの『ホタル』なども含まれ、今の4人の充実ぶりを反映した全14曲が収録。クラムボンのミト、元センチメンタルバスの鈴木秋則と福富雅之が初めてアレンジャーとして参加し、音色にも広がりを増した多彩なナンバーが聴ける1枚だ。そして、一見シンプルでありながら、聴き手の想像力を喚起する独創的なリリックにもご注目! そんな新作がリリースされた4月8日より、怒涛の全国ツアーに突入。終着点となる10月10日(土)沖縄OUTPUTまで、半年にわたり全国47都道府県制覇に挑むバンドの中心人物・きみコ(g&vo)に、新作に込めた想いとライブに向けての意気込みを聞いた。
猫があたし、小鹿がササキジュン(g)、蛙がアベノブユキ(b)
小鹿の隣にいるちっちゃなどんぐりが青山友樹(ds)です(笑)
――今回のアルバムジャケットには、4人のメンバーがそれぞれキャラクターとして描かれているのですね。
「そうなんです。猫があたし、小鹿がササキジュン(g)、蛙がアベノブユキ(b)、小鹿の隣にいるちっちゃなどんぐりが青山友樹(ds)です(笑)。アートワークは『リアルワールド』っていうシングルからずっと同じデザイナーさんにお願いしていて、その世界観がメンバーもスタッフも大好きで。今回も『七色眼鏡のヒミツ』というタイトルやあたしが書く歌詞のイメージから、児童文学書のようなジャケットにしたいと伝えて描いていただいたんです」
――前作のジャケットは絵本をイメージしていたそうですが、そういうアイデアはどこから生まれてくるのですか?
「あたし自身が絵本や児童文学書がすごく好きなんです。小説も読むんですけど、児童文学書に詰まっている教訓や名言って、簡単な言葉で大切なことを伝えられるところがすごいなぁと思って。なので、nano.RIPEの歌詞も難しい言葉や英語を使わないようにしています」
――きみコさんは音楽だけでなく、そういった本などからの影響も大きいのですか?
「そうですね。本や映画から影響を受けて書くことが多いです。あたしは、小学校の頃から詩がすごく好きで。まだ音楽に興味がなかった頃は、詩人になるって言っていたんですよ。音楽と出会ってから歌詞を書くということにつながっていったんですけど、音楽とは別に本屋さんに並ぶ詩集をいつか出したいなって、ずっと思っているんです。あたしは銀色夏生さんが大好きで、歌詞も銀色夏生さんの言葉の選び方にかなり影響を受けています。夏生さんはあまり難しい言葉は使わず、すごく短い文章の中にハッとする言葉を入れていて。読むときによって、いろんな意味で取れる書き方がすっごく素敵なんですよ。あたしもそういったことは意識をしていて、あたしのことを歌っているんですけど、聴いてくれた人が自分のことに置き換えて聴けるようにといつも思っていますね」
人間って、変化をしていくもの
――『ルーペ』(M-4)には特にメッセージ性を感じたのですが、これはどういったときに書かれたのですか?
「これは声優の伊藤かな恵ちゃんに提供した曲なんですけど、元々かな恵ちゃんと私は性格が似ているので、かな恵ちゃんに書いた曲だけどすごくあたしらしい曲になったなと思っていて。いつか絶対にセルフカバーしたいなと考えていたんです。人生には一本の道があり、その中にいる自分のことを小さな物語として書いているんですけど。私はあんまり綺麗事が好きじゃないので、単純に“頑張れ!”とか“大丈夫!”っていう表現では歌えないんですね。だからこの歌詞の中では少し皮肉めいた表現をしています」
――“傷つけ合うことや涙を流すことで手に入れることもある”というフレーズには、ドキッとさせられました。
「この辺りは、まさにバンドをやっていてすごく感じることですね。良いときもあれば苦しいときもあるけど、苦しいことがあった後に手に入れたものが、結構大事だったりして。あたしは以前、声帯の手術をしたので、当時は歌えない苦しみがあったんですけど…その後に、また歌が歌えるようになってからの喜びがすごく大きくて。そういう風に、苦しい思いをした後に手に入れたものは、自分の人生の中で価値のあることが結構多いなと感じたので、それを歌詞にしたいなと思ったんです。基本的には自分自身に言い聞かせるように書いているんですけど、同じような気持ちを持っている人もきっといると思うし、この歌を聴いて、今は泣いてばかりの日々を過ごしているような人も、この辛い時期を乗り越えた後に、大切なものが手に入るのかもしれないなって思ってもらえたら、すごく嬉しいです」
――『神様』(M-6)で歌っていることは?
「以前、2nd アルバム『プラスとマイナスのしくみ』(‘12)の曲の中で、“神頼みなんて意味がない”っていう歌詞を書いたんです。あたしは今までもずっと、神頼みはしないと言い張ってきて、初詣にも行かないくらい徹底していたんです。でも、あるとき自分だけではどうにもならなくて、とにかく何かにすがりたくなってしまったときがあったんです。それで、5円玉を握りしめて御賽銭箱の前まで行ったものの、今までしないと言ってきたことをしようとしている自分ってカッコ悪いのかな?って躊躇して。でも、最終的には5円玉を御賽銭箱に入れて手を合わせて帰ってきたんです。人間って、そういった変化をしていくものなんだなと感じたので、そのことを今回は歌詞にしました」
――そういう風にご自身のことをベースにしていても、あまり生々しい表現にはならないですね。
「自分のことを書いている曲なんだけど、聴く人が想像する余白を必ず残すように意識しているんです。あたしの歌になり過ぎると、それはあたしのためだけの歌になってしまいますから。今までだったら、自分が一度言ったことを否定するのは良くないと思ったことも、このアルバムは結構否定していたりします。それを成長として捉えることが出来るようになったのは、私がちょっと大人になれたからかなと思います。それで、より一層表現の幅は広がったかもしれないです」
――あと、歌詞の中に出てくる“君”と“私”、“僕”というのは、どのような関係性を歌っているのですか?
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「いろいろなんですけど、リードトラックの『こたえあわせ』(M-1)に出てくる“君”はステージから見たみんなの顔だったり、ステージから見える景色を対象にしています。私は恋愛でも友達でも家族でも、何かがあったときはすぐ曲にするので。どの曲に出てくる“君”にも、それぞれの人物像がありますね」
――その『こたえあわせ』の中に出てくる“耳を洗うような恋”という表現が印象的だったのですが、これは何を指しているのですか?
「これは『こたえあわせ』の歌詞を順番に追っていくと分かると思いますが、顔のパーツを使ってポエムのように表現出来たら美しいなと思って書きました。実はこの曲の歌詞には、今までnano.RIPEが出してきたいろんな曲のアンサーが散りばめられているんです。“耳を洗うような恋”というのは、メジャーデビューシングル『パトリシア』(‘10)で歌っている恋の続きを歌っているんです。『パトリシア』では“愛してるのコトバの意味を少しずつ知る”というのが一番のキーワードになっているんですけど、nano.RIPEは『パトリシア』から始まって、5周年を迎えて、このアルバムでまだまだその続きを一緒に歌っていこうっていうお客さんへのメッセージにもなっています。その辺りも、歌詞をじっくり読み込んでもらえるといろんな発見があって面白いんじゃないかな」
私が音楽を好きになったきっかけもそうだし
バンドをやりたい、歌詞を書きたいって思ったきっかけも全てスピッツ
――今作ではスピッツの『ホタル』(M-12)をカバーされていますね。
「あたしが音楽を好きになったきっかけもそうだし、バンドをやりたい、歌詞を書きたいって思ったきっかけも全てスピッツさんで、私の中で不動のNo.1なんです。ずっとカバーはやってみたかったんですけど、なかなか機会がなくて…。今回はシングルが1曲だけで新録も多かったので、カバーを入れるならこのタイミングだなと。アルバムを通して聴いたときに、nano.RIPEの新曲としても成立するぐらい違和感なく聴いてもらえるように、よりnano.RIPEらしいアレンジでカバーしました」
――確かに原曲はもうちょっと繊細な印象でしたが、nano.RIPEバージョンはきみコさんのボーカルも含めて力強さと疾走感があって、今のバンドの勢いを感じさせてくれます。たくさんあるスピッツの楽曲の中から、どうして『ホタル』を選ばれたのですか?
「好きな曲があり過ぎて結構悩んだんですけど。この曲は特に思い入れのある大好きな曲なんです。15年ぐらい前の曲なんですけど、スピッツを知らない世代の方たちにも、こんなに良い曲があるということを知ってもらいたいという想いもありましたね」
――あと、アルバム全体のサウンド面に関しては、クラムボンのミトさんをはじめ複数のアレンジャーが参加していて、和のテイストや電子音など、新たな音色に彩られているように感じました。
「今までは4人の音しか入れないということをモットーとしてやってきたんですけど、今だったらアレンジャーさんを迎えても、ブレずにちゃんと自分たちらしい作品が出来るなという自信があったんです。今までに3枚のアルバムを作ってきてnano.RIPEらしさを確立出来たし、聴いてくれる方の中にもそれが浸透していったので。実際、『神様』は鈴や弦楽器が入っていることでより歌詞の情景が浮かぶアレンジになったし、『アポロ』(M-7)も電子音によってよりスペーシーな雰囲気が出たと思います。その辺は歌詞を大事にしているnano.RIPEだからこそ、これからもどんどんやっていくべきことなのかもしれないなという考え方に変わりました。だから、今作はnano.RIPEにとって分岐点になるようなアルバムで、5年後とかに振り返ったときに、“このアルバムを作ってよかったね”って言えるような1枚になったんじゃないかなと思っています」
――このアルバムを携えて行われる、『5th Anniversary program Vol.2 nano.RIPE TOUR 2015 「47.186」』は、約半年にわたって47都道府県全てを廻るんですね。
「ツアーとしては今までの最高が63本で、それを3ヵ月で廻ったことがあるんです。それに比べると今回はツアー期間が半年間あるので、スケジュールを見ても、まーこんなもんか…くらいに思えるのですが(笑)。ちなみに、タイトルの中にある“186”という数字はツアーを開始した4月8日から最終日の10月10日までの日数なんです。やっぱり、全都道府県に行くっていうことが、すごく意味があると思っていて。ずっと行きたかった岐阜・鳥取・青森・沖縄の4ヵ所にもやっと行くことが出来るので、とても楽しみです! ライブバンドとして、 nano.RIPEのやりたいことをちゃんと伝えたいし、それがこの5周年目というタイミングで出来るのもよかったなと思います」
――どのようなライブにしたいですか?
「バンドとしても、2年前に今のドラムが加入してからライブを重ねてきて、現時点が理想形だなと思えているし、今作が今までで一番明るいアルバムになったなと感じているので、ツアーもとにかく今までで一番明るいライブにしたいです! 特に『こたえあわせ』なんかはライブをイメージにして作っているので、合唱から始まるところは是非みんなと一緒に歌いたいですね。そんな風にみんなで歌えるのも、nano.RIPEのライブの醍醐味なので。CDとライブは全くの別物として考えているし、お客さんとの掛け合いやアレンジなども含めて、ライブならではの楽しさを存分に味わってもらいたいです!」
(2015年4月30日更新)
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