「ドキドキワクワクし続けることに命を懸けて23年間やってきた」 充実の40代に改めて日々の“ハッピー”を自らに問う ジェントルでアダルトな米倉利紀流ポップソング満載の最新作 『streamline』インタビュー&動画コメント
配信を含む歴代のシングルは36作、アルバムは20作と、米倉利紀のディスコグラフィを眺めるや、何とも壮観。23年もの間シーンをサヴァイブするしなやかなボーカル、鍛え抜かれたステージマンとしての身のこなし、そして、エンターテイナーとしての気品。熟成する実力派シンガーとしての旨味を存分に発揮した最新アルバム『streamline』でも、洒脱なパーティチューンからSNS全盛の世を憂うメッセージ、恋のはじまりに胸高鳴るラブソングまで、ジェントルでアダルトな米倉利紀流ポップソングのマナーをしっかりと遵守。洗練されたスムースなバックトラック上に踊るリリックは、時代の空気を敏感に読み取りながらも、年齢を重ねた今だからこその素直な衝動が綴られている。近年はミュージカル、舞台俳優としても活躍するなど充実の40代を謳歌する彼が、改めて日々の“ハッピー”を自らに問う新作、人生における様々な価値観を語ってくれたインタビュー。現在は5月22日(金)地元・大阪なんばHatchまで続く全国ツアーの真っ最中の彼が、インタビューが後半に向かうにつれ関西人ならではの発想がむくむくと頭をもたげるくだりまで(笑)、音楽への誠実さとユーモアたっぷりに語った空気をぜひ感じて欲しい。彼のキャリアが続いていく理由が、ここにある。
アルバムをリリースする度に嬉しさが増している
――ニューアルバム『streamline』の話をということなんですけど、まぁディスコグラフィを見ても凄まじい数で。
「実は新作のリリースって慣れるどころか、デビューアルバムよりも2ndアルバム、2ndアルバムよりも3rdアルバムの方が嬉しかったという感じで、アルバムをリリースする度に嬉しさが増しているんです。ちょっと大袈裟に聞こえるかもしれないですが、“またリリース出来たんだ、アルバムを1枚作れたんだ”という熱い想いで、今作のリリースはデビューアルバムのリリースのときよりもはるかに嬉しいです」
――キャリアを重ねて当たり前になっていくよりも、人生経験を積んでその有意義さにむしろ気付けるというか。
「その心を忘れてはいけないなと思っていますし、とにかく感謝の気持ちでいっぱいです。それはもちろん、長年支えてくださっているファンの皆さんやスタッフもそうなんですが、根本的な“音楽というものへの感謝の気持ち”ですかね。音楽がこの世の中に存在し、自分の生き様として奇蹟を残せている。その音楽で例えば美味しいご飯を食べ、着たい洋服を着れているというように」
――キャリアを重ねるとだいたいリリースのペースも2年に1枚とか緩やかになっていくものですけど、米倉さんは変わらずコンスタントですし。率直な質問なんですけど、米倉さんはどうやって曲を書くんですか?
「シャワーを浴びているとき、車に乗っているとき、あとはジム中とか、何かしら作業しているときにフッと浮かんできたメロディを携帯に録って、後にPro Toolsに取り込み、その時点でコードが浮かんでいるときはそのままアカペラで1曲作ってしまうんです。それをデモとしてアレンジャーさんに渡す。毎年アルバムをリリースする意図は、’08年からお芝居をやっているということが大きく影響しています。演劇界から必要としていただき、そして、その期待に応えたい、チャレンジしたいという想いで続けていましたが、ただ、やはり本業は音楽です。絶対に音楽、歌手である自分のペースを忘れたくないという想い、ファンの皆さんに歌手・米倉利紀をコンスタントにお届けしたいということです」
距離を置いていくのではなくて、距離を見つけていく
――『streamline』には“流線型/合理化”みたいな意味があるということですけど、そこから米倉さん流の解釈として“断捨離”に行き着いたと。
「『streamline』というタイトル、単語はいつかタイトルか歌詞に使えれば良いなと思い数年前から携帯にメモしてあったんです。でも、実は最初は『kiss or dis』というアルバムタイトルだったんです。KISSをするほどの想い、それともDISるのか、右か左か、0か100かみたいな、ちょっとした言葉遊び、いわゆる、天秤に掛けるということ。結局のところ、『streamline』と同じなんですが、合理化=断捨離=“Yes・No、要る・要らない”を明確に選択する今の自分。言葉の響きとして『kiss or dis』よりも『streamline』の方が柔らかくて良いなと思ったんです」
――確かにKISSというのはプラスのイメージでも強い言葉ですし、DISはまさに今の時代を象徴する言葉ですよね。
「そのエッジィな感じでアルバムを作り上げることも可能だったんですが、制作の途中で僕が思う“断捨離”って、そういうことではないなと思い始めたんです。物理的にも人間関係的にも要らないものをドンドン切り捨てていくというのではなくて、“このTシャツ、要らないけど雑巾に使えるな”みたいに(笑)再利用していくじゃないですけど、“この人とは晩御飯を楽しく食べに行く仲ではなくなったけれども、ランチには行けるかな?”とか。距離を置いていくのではなくて、そうやってちょっとずつ距離を見つけていく。年齢的にも40も超え、もっと合理的に生きていった方が、笑顔でいられる時間が長くなるんじゃないかなと思ったんです。やっぱり人と揉めたり、ギスギスして居心地悪い日は笑顔ではいられなくなるし、そんな時間が無駄に過ぎてゆくことに違和感を覚えました」
――それには何か明確なきっかけがあったりしたんですか?
「日常の中で起きる小さな出来事の積み重ね。昔からいろいろなものやことが目に付くし気に掛かる。単純に“あれはイヤだ”とか“これいいな”という決断ですら、ちょっと面倒くさくなってきたというか(笑)。その感情に達する前に未然に防げる方法があるのではないかなと思ったんです。例えば、“この人と夜御飯に行くと、必ず深酒になり面倒くさい話になる=次はもう行かない”となっていたんですけど(笑)、その人自体は苦手でも嫌いでもないわけです。“じゃ、軽めにランチぐらいにしたら、お酒は飲まないだろうし夕方には帰れるかな”とか、ちょっとした工夫でお互いの距離を保つ方法を見つけ始めているんです」
――ちゃんとつながりを持ちながら、どういう距離感でいるとお互いに一番ハッピーなのかと。
「無理にコミュニケーションを取るより、その方が相手も楽なのではないかと思ったり。恋愛に関しても、気になることがあると“直して”ではなくて、お互いに“何か出来ることはないかな?”と歩み寄りを大切にしています。背中を向けて“勝手にしろよ”ではなく、一緒に課題に取り組む楽しさを選んでいます。そういったことが僕なりの“合理化”なのかもしれません」
――“合理化”と言うと言葉面では冷たいイメージがありますけど、物事を心地よくスムースに動かす術というか。
「まさにそうなんですよね」
1年間の内のたった1日でも、1時間でも僕の音楽を楽しんでもらえたなら
――今の話もそうですけど、今作は風通しがいいというか、ハッピーなムードと迷いのない感じが音からも歌詞からもしますね。
「ありがとうございます。そう感じてもらえただけで、僕はすごく幸せです(微笑)。まさにそこなんですよね。1曲1曲、伝えたいテーマはあります。でも、最終的にこのアルバムで何を伝えたかったかと言うと、その“ハッピー”なんです。これまでアーティストとして生きてきた23年間の中で、たくさんのインタビューを受けてきました。今思えば、自分が試行錯誤してるときのアルバムって、インタビューもやっぱり試行錯誤しながら答えていたんですよね。でも今回は、インタビュアーからの質問も、僕の答えもすごく明確(笑)。発信源である僕の想い、そしてアーティストとして表現するためのアンテナの大切さを実感しています」
――やっぱりそこが発信源ですもんね。
「アルバムを聴いてくださって
オフィシャルHP に寄せられる感想もそうですし、実際にリリースイベントで握手会をやったときも、今までは“リリースおめでとうございます!”という一言が多かったのですが、今回は“ハッピーです”という言葉をよく耳にしました。LOVE SONGを詰め込んだアルバムで“ハッピー”が伝わっていることがとても嬉しいです」
――時代的には日々飛び込んでくるニュースも気が滅入るものが多い中、ちゃんと自分がハッピーだと思える生き方を、紆余曲折を経て実践出来ているのはいいですよね。1曲に対して伝えたいこと、メッセージがシンプルに届く。
「ありがとうございます。例えば『I KNOW, YOU KNOW HOW TO DO IT』(M-3)は世の中にというよりも、SNSに対しての僕のちょっとした“憤り”的な想いで書きました。でも、結局その憤りも、何でそんなに自分を見繕おうとするの? 本当は自分のしていることをちゃんと理解出来ているはずなのに、という愛情でもあるんですよ。あと、『that's the way life goes』(M-7)は人生の応援歌的な感じ、残りの8曲は、実は1人の人に宛てた楽曲たちなんです。そういった意味でも、今回は目標が明確です。歌詞を書くときもそうでしたし、歌を入れるときも何の迷いもありませんでした」
――SNSの話になりましたけど、周りを見渡せばみんなFacebookに日々いろんなことを書き、Twitterでも呟き、instagramには写真をアップして…何だかすごい時代だなって。
「すごいですよね。何を発信しても自由だとは思いますし、実際に僕も幾つかのSNSを活用しています。ただ、何でもかんでも“情報を得ないといけない”というような時代の流れが苦痛です。例えば、久しく連絡を取ってなかった友達に“元気してた?”とメールを送ると“あれ、Facebook見てくれてないの? 近況報告してるよ?”と言うんです。いやいや、見てるけど別に君の生活を四六時中追ってはいないよ(苦笑)。そういったことで人間関係を円滑にしようとしている時代って何か大事なことが欠落しているような気がしますし、何だか疲れちゃいますよね」
――そういった中で、歌詞にも“instagramのデリカシーのない 酷い八方美人”とか、今の時代感が感じられるワードが飛び込んでくるのがリアルですよね。
「恐ろしい数の情報を自分の心でちゃんと選択出来る時代に戻って欲しいなという願いも込められています。黙っていても携帯を覗けばいろんな情報が手に入るのではなく、自分の意思で必要な情報を手に取る時代が戻ってこないと、本当に世界中がダメになってしまうような気がしています。僕たちアーティストが発信している音楽もそうですが、“今日は米倉の気分じゃないな”と言われても僕は全然平気なんです。1年間の内のたった1日でも、1時間でも僕の音楽を楽しんでもらえたならそれで十分。僕のことを全部知ってなきゃファンじゃないとか、掘り下げて突き詰めなきゃいけないみたいに、執着し過ぎる感じが人間を疲れさせてしまってるのではないかなと思うんです。そんなことも含めて、今回のアルバムはもっと軽い気持ちで“何か楽しくない? ねぇ、何か幸せじゃない?”というフワッとしたメッセージをどっしりしっかり詰め込みたかったんです」
ここまできたらもう言ってしまってもいいかなって(笑)
――先ほどアルバムの大半は1人の対象をイメージした曲という発言がありましたけど、『a moment -20140314』(M-5)なんかは、明らかに何かしら大事な日付だろうなっていう(笑)。
「人によっては“何故そこまで曝け出すの?”と言う人もいるでしょうね(笑)」
――アハハハハ!(笑)
「最初は『a moment』だけだったんですよ。でも、ここまできたらもう言ってしまってもいいかなって思いサブタイトルにしました(笑)。まぁ一期一会じゃないですけど、この年齢になってくると人を愛することは出来ても、人に恋することはこの先どれぐらいあるんだろう?と思ったんです」
――あぁ~でもそうかもしれない、確かに。
「この年齢になると、恋のトキメキって、そう簡単には起こらないんじゃないかなと思うんです。恋と愛の違い…ですかね。“最初で最後の恋の始まり”と歌っています」
――同じ気持ちを持っている人も多いでしょうね。別に今の生活にそこまで大きな不満があるわけではないけれど、“この先胸がトキメクことが果たしてあるだろうか?”って。ミュージシャンとしては、やっぱり心が動かないと曲にならないじゃないですか。ドキドキワクワクすることを自分からキャッチしに行かないと。
「シンガーで例えると、デビュー出来た瞬間=結婚だと僕は思っているんです。その後の結婚生活を充実させるためには、自らいろんな刺激を求め、与えながらドキドキワクワクし続けなきゃいけない。刺激し続けることに命を懸けて23年間やってきたと思います。そして、そんな自分の音楽を信じてくれているファンの皆さんにも刺激を与え続けられていないと、こうやって歌い続けられないのではないかと思っています」
――そう考えたら、音楽も人生もやっぱり全部つながってますよね。今、米倉さんが心身共にいい状態であるのが、音楽からも伝わってきますね。
「そうですね。だからライターさんたちとの関係も同じなんですよ。こうやって今回お話を聞いていただいて、次回のアルバムリリースのインタビューのときに“この1年間どうでした?”というお話が出来たら、今回のこのインタビューに意味があったなと思うんです」
――米倉さん、去年はあんなにハッピーなアルバムを出しましたけど、今回は…(笑)。
「“ドン底ですね”みたいな(笑)。そういうこともありえますからね(笑)。でも、それがアーティストであり、そして、人間ぽさだと思っているのでそれも幸せです。1日24時間の中でも、朝起きたときはハッピーだったのに、電車に乗った瞬間に嫌な目に遭ってドン底、というようなことがあったり、逆にすごく憂鬱な朝だったけれども、通勤途中に良いことがあって幸せな気分で出社出来たとか。それと同じように人生には必ず浮き沈みがあると思うのです」
言葉や歌詞をいかに深く伝えられるか
作詞家・米倉利徳からシンガー・米倉利紀に対する挑戦
――そういった想いもあってか、今回は歌詞にはものすごく時間を掛けたらしいですね。
「結構大変な作業でした。“会いたい”という感情を“会いたい”という言葉ではなく別の表現で…という書き方をするのが職業作家さんの素晴らしいところ。でも、今回僕は敢えてそうせず、“会いたい”という感情なら選ぶ言葉も“会いたい”、ポエティック過ぎない言葉や歌詞をいかに深く伝えることが出来るか、作詞家・米倉利徳からシンガー・米倉利紀に対する挑戦でもありました。こういう挑戦が出来たのはお芝居をやってきたお陰なんです」
――舞台をやることで、自分の 歌詞の捉え方の幅も広がったと、過去のインタビューでも言ってましたもんね。
「例えば、台本があります。正直、自分ならこの単語を使ってこの言い回し、この言葉尻では喋らない(笑)。台詞の流れ通りの心情にもならない。実はお芝居って台詞の行間とか、改行、ト書きがとても大事なんです。そして、そこに自分の感情を当てはめる必要はない。心の引き出しを使うだけなんです。与えられた言葉でいかに自分らしく表現出来るか。それを今回のレコーディングで試しました。作詞家・米倉利徳が求める歌にたどり着けるまで、たくさんの時間を費やしました」
――今作を聴いた印象がすごく丁寧というか、本当に愛でるようにというか、そういう丹念さが感じられるなぁと。
「“会いたくて ただ会いたくて”、ヘンな話、日本のポップス界で使い古されているぐらい、皆さん的にも聞き飽きているぐらいの言葉、表現だと思うんです。でも、それを敢えて使い、僕らしく、今の僕だから歌える“会いたくて ただ会いたくて”を表現したかったんです」
――『「好き」』(M-8)とかも、めちゃくちゃ情熱的で、そして素直ですね(笑)。
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「そうですね(笑)。僕たちの1つ2つぐらい下の世代のシンガーたちって、もうとんっでもなく歌が上手いんですよ! と同時に、僕たちの1つ2つ上の世代のシンガーたちからは、“上手さ”とは実はそういうことではないとも教えられています。例えば、音を外しました、声が裏返りました、というようなミスはプロとして良くないのは当然なのですが、心を鷲掴みにする歌ってそういったミスなんてどうでも良いんですよね。心と声が1つになった歌、僕は諸先輩方からしっかり受け継ぎたいと思っていますし、その想いを僕たちの1つ2つ下の世代の方たちにも伝えたいと本気で思っています。皆、本当にすごい技術なんです。でもそれだけが歌の全てではないってこと。いずれメジャーで歌う日が来るでしょう。大きな会場で歌う日が来るでしょう。次の一歩を踏み出したければ、自分たちで動き出すしかないんですよね。スタートもゴールも自分次第なんですよね。周りにいる後輩たちが自主制作でCDを作りましたとか、自分たちでライブを成功させましたという話を聞くと、ただ、本気で応援したくなりますよね」
――そう考えたら、米倉さんがデビューしてからの23年間で、音楽シーンはめっちゃ変わりましたよね。
「そうですねぇ。僕はギリッギリ、アナログ盤を出せなかったCD世代なんですけど、最近デビューする方なんてCDを作る機会自体も貴重になってきていると思うんですよね。配信だけってこともあるでしょうから。そういったことも含めて大きく変わりましたね」
――そんな中を生き抜いていく上で、大事なものを感じるんじゃないですか?
「“らしさ”ですかね。それが一番難しいことではあるんですけれども、奇を衒い過ぎず、“らしく”生きていくことの意味。僕はデビューした頃からスタンスがあんまり変わってないと思うんです。当時、マネージャーさんからよく言われました。僕が何か主張すると“今はそんなことを言える立場じゃない”(笑)。レコード会社のスタッフや関係者がいるところでは黙っていたとしても、帰りの車の中ではマネージャーさんに“僕はこうしたい、こう思う”という自分の想いをよく話していましたね。そしたら当時のマネージャーさんは、“そこまで自分の想いが明確なら、自分の言葉で皆に言えるよう、まずは一歩ずつ階段を上っていきなさい”と言われました。その言葉を道標に、4枚目のアルバムからセルフプロデュースになり、それ以降、全ての作品が自分の責任ですよね」
――23年間は長かったですか?
「ありきたりな言葉ですが、長かったような短かったような。だけど正直な話、デビュー23周年の頃にはもっっっと売れていると思ってました(笑)。でも、もし今の自分の立ち位置じゃない活動をしてきていたら、もっと中身のない空っぽな人間になっていたかもしれないと思うと、自分が想像していたほど売れなくて良かったなと思ったりもしますね(笑)。大阪から上京して、当時の事務所にバイトを禁止され、更には電車にはあまり乗るなと言われ(笑)っていう時代でした。自宅マンションの玄関を出たらマネージャーさんが待ってる、そのまま仕事場へ、仕事場から自宅玄関まで。地方でも、駅からホテル、ホテルから会場、会場からホテル、まずそれ以外1人で出歩くことがなかったので、外部の人と接触することがなかったんです。1人になれる時間は自宅とホテルの部屋、そして、アメリカと日本の往復の飛行機の移動とアメリカの自宅だけ。特に日本では本当に世の中のことを何も知らなかった20代。もし、今もそのままだったらと思うと恐ろしいです。全て1人で動き始めたこと、大変な時期もありましたが、何1つ後悔をしていません。この23年間は長かったような、短かったような、想像していた自分ではないような、でも想像以上のことがあるという、不思議な心境です」
――『贈り物』(M-4)なんかは超メロウな曲ですけど、歌詞にも“巡り逢う、人は誰かに 捜さなくて良い”とあって。出会いは偶然ではなく必然であって、そう考えたら人生においてきっといい選択をしてきたんじゃないかって。
「と、信じていますけどね。そうは言いつつも、ときどき寂しくなることもありますし、これでよかったのかなぁ?と反省することも多々あります。ただ、反省はしても、後悔だけはしたくないと思って生きています」
まず自分がこのアルバムの“ハッピー”に引き込まれていましたし
同時に次へのスタート地点だとも思っていて
――この作品が出来上がったときどう思いました?
「嬉しかったです。まず自分がこのアルバムの“ハッピー”に引き込まれていましたし、未だに自分でも何度も聴くアルバムです。同時に次へのスタート地点だとも思っていて、既に次のアルバムの構想もあったりします。このまま走り続けたいなぁと思っています」
――お芝居の方はどうです? バイオグラフィを見ていると、2013年なんかはお芝居も相当な数をやっていたんだなって思いますけど。
「多分その年は1年に7本の舞台に出演しました。もうあまりに忙し過ぎてキャラクターがごちゃごちゃになる寸前でしたけどね(笑)。音楽活動と舞台がクロスするだけではなくて、舞台と舞台がクロスするってこういうことなのかと勉強になりました。1つの舞台の本番をやりながら次の舞台のお稽古も同時進行、本番後に別の舞台のお稽古に行くという大変さ」
――もう自分が誰だか分からなくなりますね。
「自分では切り替えているつもりでも、やはり演出家さんは勘が良いので、今やっている本番が終わるまでは次のキャラクターに完全には切り替わらないことを分かってくださった上で、お稽古で僕をコントロールしてくれるんです。演出家さんに身を預けるしかないんです。『streamline』は数々の舞台で幾つもの役柄の人生を生きてきた僕が表現するハッピーです。ハッピー=能天気ということではないという自信もあるかもしれません」
改めて米倉利紀を形成してきた曲たちってどんなものなんだろう?
と振り返る良いタイミング
――今作に伴うツアーに向けては何かあります?
「『streamline』を引っ提げてのツアーなので、今作の楽曲がセットリストのメインにはなりますが、丁度20枚目という区切りと、今年で43歳、もう人生も半分ぐらい生きてきたわけですよ(笑)。改めて米倉利紀を形成してきた曲たちってどんなものなんだろう?と振り返る良いタイミングでもあったんです。どうせなら、その楽曲たちをセットリストに大フィーチャーして、ファンの皆さんに楽しんでもらっても良いかなぁと思ったんです。簡単に言うとベストアルバム的なセットリストのツアーになると思います」
――ファイナルは地元の大阪ということですけど、やっぱり何か違ったりしますか?
「大阪のお客さんはやはりシビアなんですよね(笑)。自分も関西人、いろんな意味でシビアだから思うんですけど、本当につまらないものはつまらない(笑)。しょーもない人とはしょーもない付き合いしか出来ないんですよね(笑)。愛想でお話は出来るでしょうけれども、当然、ホントにおもしろかったときのテンションとは全く違う(笑)。お客さんも僕が提供するものに対して、本当にカッコ良いと思ったらそういう空気を正直に返してくれますし、カッコ良くなかったらサッと引く。一見喜んでくれていても、帰るときの皆さんの背中が違うんです(笑)」
――アハハハハ!(笑) ファンやのにね。
「でもそれが僕はおもしろくもあり(笑)。今回もツアーファイナルという締め括りで地元大阪、自信を持って帰って来なきゃいけないなと思っています。皆さんはもう、とことん楽しもうと、損得勘定で“得させてね”と手ぶらで来てくれれば大丈夫です(笑)」
――ハッピーに貪欲な人たちが多いですからね、関西は。
「本当にそう思います。でも、それが本音ですからね。そして、テレビでやってましたよ、“関西人はダジャレを言わない”ってこと。くだらないことへの無関心さ(笑)」
――おもしろいか、おもしろくないかって、価値判断においてめっちゃ大事ですよね。そのことばっかり考えてる気がします(笑)。
「大事です(笑)。何かね、東京にいると余計にそれを感じるんですよね。何て言うんですかね? 何か真剣な話をしていても、笑っていなくてもどこかおもしろいニオイがあるじゃないですか。“あ、それ興味ある!”っていうおもしろさが、東京にいるとなかなか掴めないんですよね。笑いだけがおもしろさではないというか。正直だから、本当に興味がないときに“へぇ~”って言うと、“聞いてないでしょ?”って言われることがよくあります(笑)」
(一同笑)
――僕もそうなんですけど、もう興味があるときとないときの態度が全然違うらしくて(笑)。
「アハハ!(笑)。聞いてないよねそれ?っていう(笑)」
――“そうなんや~”って言ってるときは全然聞いてないとかね(笑)。
「そうですね(笑)。あと、“なるほど~”って言うのもだいたい聞いてなかったりしますよね?(笑) 関西でのライブはそういった意味でもすごくシビア、MCでは自分で自分にシビアにもなる(笑)」
――まぁこの作品であれば、充実したツアーになりそうですね。
「はい、ステージ上にはダンサーもいたり、楽しいライブになると確信しています。もちろん、ゆったりしっとり聴いてもらう曲もありますが、基本的には最初から最後までアッパーなイメージでいきたいなと思っているツアーです」
――春に向けて暖かくなっていく時期なので、来られる方も楽しみに、いい汗かいてね。
「はい! 是非とも」
Text by 奥“ボウイ”昌史
(2015年3月26日更新)
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