高橋久美子(ex.チャットモンチー)、堂島孝平、藤井敬之(音速ライン)、末光篤(SUEMITSU & THE SUEMITH)、たむらぱん、ハマ・オカモト(OKAMOTO'S)、津野米咲(赤い公園)、長岡亮介(ペトロールズ)、小松シゲル(NONA REEVES)、カトウタロウにマシータ(ex.BEAT CRUSADERS)、一瀬正和(ASPARAGUS)etcと、枚挙にいとまがない程のクリエイターやミュージシャンが参加。彼女にスポットが当たるきっかけとなった楽曲であり、自身も出演し社会現象となったテレビ番組『テラスハウス』卒業ソング『言葉にしたいんだ』、そして『flavor』『マイフレンド/ぼくらの歩む道』の3枚のシングルを収録。と、並べ立てればもはや非の打ち所のないスペックだが、住岡梨奈の2ndアルバム『watchword』に収められたクオリティ担保の全11曲のポップソングに潜むのは、シンガーソングライターとしての葛藤や巨大化するプロジェクトへのもがき、独り歩きするイメージとの戦いの中で、精一杯声を上げる彼女のアーティストとしてのプライドにも似た想いと底力だ。現在は同作に伴うバンドツアーを開催中、2015年第1弾シングル『Large & Small GIFT』の発売も間近に控えるなど、今年も彼女の周辺は騒がしい。インタビューが進むにつれイキイキとしていく彼女の瞳には、20代の迷いと対峙するひたむきさと無邪気な美しさが、確かに宿っていた。
「何かとカレンダーが埋まっている1年でしたね。忙しいというか、ずっとライブをしてきたイメージが強い。とは言え、CDも3ヵ月おきには出していたし(笑)、ライブして、CDを出して、プロモーションしてっていうサイクルがずっとありましたね」
「両方ですね。例えば、イベントで初めてたむらぱんさんとお会いして、顔を見て、曲を聴いて、お願いするとか、紹介された方でもある程度ちゃんと知ってから会うことが多かったですね。たむらぱんさんはCDも持っていて聴いていたし、作り手としても歌い手としても憧れでしたし、人となりもすごく気さくな人で話しやすいっていうのが自分の中であって(笑)。思い切って“曲を書いてくれませんか?”ってお願いしたら、快く引き受けてくれました。基本はお任せで書いてもらうことが多いんですけど、歌詞までお願いするときは、“最近の自分はこんな感じで”みたいな話は伝えていますね」
「この曲は歌詞と曲が一緒に届いて、デモの段階で歌詞の内容もすごく気に入って、その歌詞の意図が聞きたくてたお電話させてもらったんですけど、“たむらぱんさんから見た私自身みたいなイメージで書きました”と言ってくれたんで、じゃあこれはこのまま使わせていただきますって(笑)。自分が北海道から上京してだんだんと慣れてきて、夢が摑めるような、また新しい夢が出てきたような。でも、“これってホントに自分が夢に見ていたことなのかな?”っていう漠然とした悩みみたいなもの、そこから結局は歩いていきたいという前向きな部分もすごくまとまっていて、気に入っていますね」
「そうですね『テラスハウス』っていうものがあって、卒業して1年ぐらい経って、もっと本来の自分を出していこうっていうところで、そのまま“本来 生涯”(『25の瞳』(M-5)より)みたいな言葉が堂島(孝平)さんと共作した詞の中に入ってきたり。より自分に落とし込んで歌えた曲が多かったですね。このタイミングで本来の自分みたいなものを、改めて聴いてくれる人たちに知って欲しいなっていうのはありましたね」
――とは言え今作を聴いて思ったのは、いろんなアーティストが出入りする中でも、やっぱり住岡さんの歌詞が一番リアルで、内面がグッと伝わってくる。そこが、改めて一歩進んだところかなと思ったんですけど。
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「『言葉にしたいんだ』(M-4)を書き終えてから、意外と真っ直ぐ書いていいんだな、そっちの方が伝わりやすいんだなって…より楽に書けていてる気がします。そんなに無理しなくていいんだって(笑)。今までは、書いていても最終的にはそこから解決策を見出さなきゃいけないというか、その話の落とし込み、オチをつけなきゃいけないって悩み過ぎて全然書き出せなかったんですけど。最後の『カラフル・モノクローム』(M-11)はハマ(・オカモト・b/OKAMOTO'S)くんプロデュース曲なんですけど、ホントに自由に書かせてもらって、結局は何が言いたいか分からなくてもいいっていう…まぁそれがいいときも悪いときもあるんですけど(笑)、“伝わりにくいからこそ伝わるもの”みたいな曲もいいなって」
――この一番モヤモヤした曲でアルバムが終わるのがおもしろいなって(笑)。取材用のメモにも、聴いた印象を“悩む”って書いてる(笑)。
「アハハ!(笑) 結構ブワーッと書きました」
――でもね、人生って考えても答えの出ないこともいっぱいあって。こっちからしたら正解でも、他人から見たら不正解だったり、いろんな捉え方もありますし。でも、その観点を持てていたら、さっき言っていたようにちょっと楽になれますね。
「と思いますね。これでいいんだって、自分で許しちゃう」
――そうなれたのは、何か発想の転換になるきっかけがあったんですか?
「人に書いてもらった曲でも、自分がどうありたいかとか、自分が言いたいことも上手く盛り込まれているんですけど、その曲と並んで自分の曲を入れるとき、ヘンな話、楽してるんじゃないか?ってちょっと思って(笑)」
――オチをつけたりという難しいことは、書き手がやってくれてるわけですからね(笑)。
「フフフフ(笑)。とは言え結局、その曲を歌うのは自分で、それを自分の中に落と込んでライブで伝えるのも自分で、そこは1人でやっていかなきゃいけないことだし。そういうアメとムチみたいな関係で、今回のアルバムは出来ているなぁって思います(笑)」
ホントに“学生の放課後”みたいなレコーディングスタジオでしたね(笑)
――それこそ今作にはいろんな方が参加してくれていますけど、個人的には『DROPS』(M-9)で詞曲を手掛けた音速ラインが意外でしたね。
「シングルの『flavor』(M-3)のC/Wに『一分間だけ』っていう曲があるんですけど、その曲を藤井(敬之・vo&g)さんに書いてもらって。あの哀愁感というか、切ないけどちゃんと幸せが詰まってる曲を、もう1回歌いたいなって。曲もそうだし、人柄もそうだし、自分でも分かるくらい相性がいい気がしていて」
――藤井さんとの接点は?
「ディレクターのクボタマサヒコ(kuh、ex.BEAT CRUSADERS)さんに紹介してもらって、初めて会ったときにもう、訛ってるのに安心しちゃって(笑)」
――アハハ(笑)。そうね、昔からずっと福島県在住で活動してますもんね。
「もうすっごいリラックスして喋れるし、“呑みに行こう!”って誘われても“全然行くし!”って(笑)」
――藤井さんビール好きやもんね~(笑)。
「そう(笑)。レコーディングが終わった後も朝まで呑んだり、ホントに“学生の放課後”みたいなレコーディングスタジオでしたね(笑)。すごく気持ちを楽に、楽しくやれてましたね」
――そして『涙日和』(M-8)は、このアルバムの中のアバンギャルド担当の赤い公園(笑)。
「そうです(笑)。もうホントに狙い通りな感じで。ハマくんプロデュースは2曲で、1曲は自分で、1曲は提供してもらおうって決めて、ハマくんから赤い公園の津野(米咲・g)さんがいいんじゃないかって。私がやったことのない部類に行きたかったのと、ハマくんが東京事変が好きだったりっていうので」
――あぁ~事変感ある!(笑)
「私が例えとして東京事変の『OSCA』(‘07)の
MV がすごい印象的だったんでそれを観せて、津野さんにもそういう話をしたら、ハマくんから“すげぇ曲が来たよ!”って。これは歌うのがすごく大変でした。ずっと走り続けるみたいな曲で、ビックリしたな…」
――こういうアクの強い曲を聴くと、かえって住岡さんの声の特徴を感じますね。住岡さんが歌えば、結局どれだけ曲が強かろうが、声の印象が勝つというか。
「津野さんが狙った部分と上手い具合にビタッて合ったのが、限界を超えないギリギリで全てを使い切るような音域というか。ハマくんとか、長岡(亮介・vo&g/ぺトロールズ)さんとか、メンバー自身もギリギリの際を行っている曲だなぁと思いました」
――ハマくんは同じ事務所というのもありますが、それが一番の接点ですかね?
「そうですね。デビュー前から顔は知っていて、ライブを観に行ったりもしていたし、お互い“やりたくないことはやらない”っていう割り振りをきちんと話し合って出来たのが、すごくよかったなぁと思いますね」
好きだから、歌いたいから歌ってる
“歌うのに理由がなきゃダメなのか!?”って(笑)
――そんな中でも、今作においては、『moyamoya』(M-7)が最も素に近いというか、よく“自分がやりたいことが見付からない”とか“夢がない”とか“自分は何に向いてるのか?”とか言いますけど、生きていてそれが最後まで見付からない人なんて全然いる。だから今の状況が良かろうが悪かろうが、例えば“歌が好きなんだ”とか、そういうものが1つ見付かるだけでも、人生においてはすごく幸せなことだと。
「そうですよね。歌詞でも“進む道を知らないよ”なんて言っちゃいけないんじゃないか?って思いますけど、よくよく考えたら、そりゃあみんな知らないよなって。よく“何で歌ってるの?”とか言われるんですけど、好きだから、歌いたいから歌ってる。“歌うのに理由がなきゃダメなのか!?”って思いながら作った曲なんですよ(笑)」
――アハハハハ!(笑)
「何かそういうヘンなモヤモヤというか、ずっと付きまとうことを歌っている感じです(笑)」
――ある意味、今だからこそ書ける言葉でしょうね。『ぼくらの歩む道』(M-10)もノスタルジックでいいですね。
「これは、元々『秒速5センチメートル』(‘07)っていうアニメ映画を見て書いた曲だったりもしたんですけど、CMのお話をいただいたときに歌詞を書き直して、“すーごい幸せなのに切ないの、何で?”みたいな(笑)。あと、親が結婚して30年とかになるんですけど、よく30年も一緒にいられるな~って」
――そのお陰であなたがいるんじゃない(笑)。
「そうなんですけど(笑)、若いときによく揉めないで、離婚しないで、よくここまで来ましたね、みたいな。元をたどればお互いに好きで一緒にいるのは見ていても分かるし、いい歳こいて手をつないでスーパーに行っちゃって、はぁ~みたいな感じもあるし(笑)」
――すごいなそれ(笑)。仲良しやなぁ。
「私は3人姉妹の末っ子なんですけど、末っ子が東京に出て来たんで、より2人で過ごす時間も出来て、遊びに来るのも東京に2人で泊まりに来たりとか。大阪でライブがあったときも観に来てくれて、“明日何するの?”って聞いたら、“2人でUSJに行ってくる!”みたいな(笑)。大事に大事に長く細~く付き合って家族になるみたいなイメージで、そういう人が増えたらいいなっていう想いも込めて」
――すごく身近にいいお手本がいましたね。
「いましたね。しかもいっぱいいるんですよ、いい夫婦が周りに(笑)」
――直接アルバムに参加してくれた人はもちろん、そうやって自分に影響を与えてくれた人の顔も、今回はいっぱい浮かびますね。
「ホントにそうですね、うん」
ちゃんと聴いてくれる人に出会える機会を、一番大事にしたい
――今回のアルバムが出来上がったとき、どう思いました?
「“よし、クリア!”っていう感じ」
――アハハ!(笑) RPGみたいな(笑)。
「そう(笑)。もうホントにそんな感じです。3ヵ月おきにシングルを出してきてのラスボスみたいな(笑)」
――確かに(笑)。2014年ステージのラスボスだったもんね、このアルバムは。
「クッパやし(笑)」
――アハハハハ!(笑) “『watchword』=クッパ”。
(一同笑)
「アハハ!(笑) 1st、2ndと来て、次はいつになるかまだ分からないですけど、またラスボスに会えるようにって。すいません、マリオ(・ブラザーズ)の話で(笑)」
――今回のタイトルの『watchword』はあまり聞かない言葉ですけど、調べたら”合言葉/モットー/掛け声“とかいう意味があって。どれが一番近い?
「“合言葉”ですかね。それこそ“住岡梨菜をプロデュースしました、レコーディングに参加して来ました”とか、自分と関わった人の先には、その関わった人たちを好きな人がいて。そういうことでも私に気付いてもらえるというか、つながるというか。逆に自分のファンの人だったら、“ハマ・オカモトって誰? OKAMOTO'S? カッコいい!”みたいに、そういう音楽のつながりがもっと出来たらいいなって。自分の声もそうですけど、住岡梨菜でいろんな人の顔が浮かぶ=自分が合言葉になるのが理想で付けたタイトルですね」
――さっき言ったことが、まさにですよね。参加してくれた人も、自分に影響を与えてくれた人も、その先にいる人たちも、いろんな顔が浮かぶアルバム。だからクッパではない(笑)。
「アハハハハ!(笑)」
――今はちょっと楽になれた?
「これからライブ祭りが始まるんで、何とも。いや、これからじゃないですね、ずっとやってますね(笑)。もうパンクするんじゃないかっていう、今年辺りに(笑)。今作のツアーもあるので、駆け抜けたいですね」
――ライブに関してはどうですか?
「そうですね。弾き語りでライブをずっとやってるんですけど、これでツアーでバンドでってなると、見え方が違ってくるのかなって。インストアライブとかでイオンモールとか学園祭に観に来てくれたりすることは多いんですけど、ライブハウスってハードルが1つ上がるみたいなんで、その辺を飛び越えられるようなラフさにしたいです(笑)。ちゃんと聴いてくれる人に出会える機会を、一番大事にしたいですね」
――関西のお客さんだったり環境って、何か違うものですか?
「うわ、ちゃんとやんなきゃって感じですね。どこでもそうなんですけど(笑)。何かこう、実際に見えている表側よりもグッと奥を見られているようなイメージがあります。だから、より無垢な感じで、素直にやっていくというか…笑わせようとするとこける気がして、ちょっと怖いんで(笑)」
――関西の人間を笑わせようなんて、危険なことしますね(笑)。
「いやいや! だからこそ、私は何もおもしろくありません!っていう線でやっていく(笑)」
――無垢という発言がありましたけど、素を見せてくれると喜ぶ傾向が。とちったり噛んだりすると喜ぶ(笑)。
「フフフフ(笑)。その中にすごくあったかいところがあります」
――そんなライブも楽しみにしてます。本日はありがとうございました!
「ありがとうございました!」
Text by 奥“ボウイ”昌史