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美しき初ソロアルバム『3人の1日』で提示した
3人の男たちのドキュメンタリーと音楽家としての信念と
U&DESIGN綾部健司(vo&g)がその生い立ちと視野を語る
インタビュー&動画コメントが到着

 曲を聴けば“いいね!”と反応すること間違いなし、良質の音楽をシーンに提供するバンドU&DESIGNのフロントマン、綾部健司が初のソロアルバム『3人の1日』をリリースした。タイトルに“3人”とある通り、今作にはイタリアと日本とアメリカに住む3人の男性が登場、彼らが過ごす“ある1日”の様子や心象が3人×3曲ずつの計9曲で描かれている。綾部がUNCHAINの谷川正憲(vo&g)と組んだジェームズアンドチャーリーではファンキー&ポップなサウンドを鳴らしていたが、ここでは一転して少ない音数と、時にささやくように、時に独り言をつぶやくように音楽を編んでいく。光のまぶしさや、冷たい空気をまとった寂しさや、ヘミングウェイやサガンの世界に浸る楽しさ…自分自身のことを歌っているわけではないのに、綾部健司の物語としても聴こえてくるから不思議だ。作り手のこだわりが細部にまで活かされたジャケットも、歌詞のブックレットにも、ダウンロードでは出会うことは出来ない。とても静謐で奥ゆかしくもありながら、強い引力で聴き手を惹きつける作品についてじっくりと語ってもらった。2月5日(木)京都sole cafe、6日(金)大阪Shangri-Laでのライブにも期待が募る。



唯一“山下達郎さんが好き”と辛うじて言える程度で
音楽というものをちゃんと聴いてはいなかった



――12月に『3人の1日』のリリースに伴うFLAKE RECORDSでのインストアライブのMCで、“25歳ぐらいまではほとんどCDを買ったことがなかった”と言われていましたね。

「それまでに買ったCDは10枚ぐらいしかないんじゃないかな? 専門学校を出て、20代前半はSTAY wander aroundというバンドでギターを弾いて音楽事務所に所属していたんです。周りにいるバンドの子たちはみんな音楽に詳しかったけど、僕はそういうタイプでもなくて。そんなときに村上ポンタさんに“君は本当に変態だ”と言われもてはやされて。それが22~23歳ぐらいですね。そのバンドが解散して、新たにインストゥルメンタルのバンドをやろうと思って須藤優(b)と鈴木浩之(ds)でU&DESIGNを始めたのが25歳のときでした」

――一昨年に大阪で開催されたライブイベントでU&DESIGNを観た印象は、はっぴいえんど~大瀧詠一、佐野元春~堂島孝平辺りに連なる、都会の街角に鳴り響くロック&ポップスというか。物販で綾部さんからアルバム『1/3 1/3 1/3』(‘10)を購入したときに「次のライブはいつですか?」と聞いたら、アッサリと「分かりません」って(笑)。

「ははははは(笑)」

――買ったCDを開けてみたら“監督 堂島孝平”とあって、なるほどと。

「U&DESIGNのライブをやったときに、たまたま堂島さんのマネージャーさんに声をかけてもらって、それから堂島さんのバックバンドをやらせてもらうことになり、その流れでU&DESIGNの1st『1/3 1/3 1/3』のサウンドプロデュースをしてもらったんですね。1stを作っているときに堂島さんから、“けんちゃん、こういうエッジの立った音楽をU&DESIGNでやったら面白いんじゃない?”って教えてもらったのがソンドレ・ラルケの『Phantom Punch』(‘07)で。ちょうどホワイテスト・ボーイ・アライブも新しいアルバムが出た頃で、そのときになってやっと、過去のものではなく今この瞬間に世界で鳴っている音が自分の中に流れ始めた実感がありました。それまでは、アルバムを作っているときも堂島さんの系譜から得たルーツ・ミュージックの中だけで歌っていたような感じもあったし、U&DESIGNは特にコンセプトといえるものは持っていなくて、僕も唯一“山下達郎さんが好き”と辛うじて言える程度で、音楽というものをちゃんと聴いてはいなくて。U&DESIGNを聴いた人からは“『風街ろまん』(‘71/はっぴいえんど)好きなんでしょ?”と言われることも多かったけど、はっぴいえんども通ってなかったし、バックで弾かせてもらうまで堂島さんも存じ上げなかったぐらい、日本のロックには無知でした」

――そもそも最初にギターを手にしたきっかけは?

「兄がギターを始めたのが羨ましくて。特に好きなギタリストがいたわけでもなく、専門学校に入ったものの、ディープ・パープルぐらいしか興味がなかった。興味と言っても『スモーク・オン・ザ・ウォーター』(‘72)とか、自分にとってパッと聴いてカッコいいと思える、印象に残るものがあったというだけで、10代後半~20代前半はそういうテーマ性に惹かれていたんですね」

――テレビやラジオで音楽に触れてはいた?

「ほとんど見てなかったです。ラジオもなかったしCDコンポもなかった。テレビも部屋になかったし。でも、中学校の頃はバンドを組んでギターで、文化祭でドリーム・シアターとかやっていましたね」

――ドリーム・シアターにディープ・パープル(笑)。今の綾部さんはアンビエントな雰囲気ですけど、その頃は激しいギターを弾いていたんですね。

「MR.BIGが流行っていましたし。でも、音楽よりも先に本が好きだったかな。小学校高学年~中学の初めぐらいは星新一が大好きで、それは父親の影響もありました。僕の父はサラリーマンの傍ら、発明学会に所属していて特許も持っている発明家でもありました。僕の人生において“発明”というのはかなり大きなキーワードになっています。0から1を作るときの自分のアイデンティティの振り方は、発明が軸にあるようです」


今回のアルバムを作る上で、音楽家の役割についてじっくり考えたんです
芸術であり美しいものとしての存在について



――『3人の1日』は、ジャケットのアートワークや歌詞カードには縦書きと横書きの歌詞の表記が混在していたり、散文的な韻律の自由さも一種の発明かなと思いながら聴いていましたが。

「そう思ってもらえるのは嬉しいです。今回のアルバムを作る上で、音楽家の役割についてじっくり考えたんです。芸術であり美しいものとしての存在について。僕は“美しい=意識の墓標”と言っています。意識が死にゼロになった自身が、一気に希有な現象をすすり込む瞬間を、いかに引き起こすかについて。象徴的な行為として壁にかかった絵の前に立つ。例えば、僕は美術館に行って本当に素晴らしい絵を見ると、その絵の前に2時間ぐらい立ってたりすることがあります」

――2時間!

「ちょっと怪しい人ですけど、そのぐらい作品にエネルギーがあるし、それこそが意識の墓標の前に立っている状態。その行為を可視化したいと思って、ああいうジャケットになりました。この作品の前に立ってもらいたい、というメッセージです」

――額縁に入れられた絵のようなジャケットになっていますね。まったく違う土地に住む3人の1日を3曲ずつで描くという手法は、オムニバス映画のようでもありますね。

「ちょうど1年ぐらい前に作品の着想があって。そして、それをCDという作品に出来るっていう状況に到達して。“壁にかかった音楽”と“3人の1日を追うドキュメント”というキーワード。登場する3人は、イタリアのベルガモという街に住む人と、静岡の人と、カリフォルニアの人。去年の夏にイタリアに行ったんですが、それはそもそもイタリアのある街で撮られた1枚の写真を見たときに、自分の中で“モダンだな”という印象が強く残って、その写真の中に流れるような音楽を作りたいと思ったんですね。じゃあ現地に行こうか、ということで」

――元々旅行はお好きなんですか?

「海外に行ったのは今回が初めてで。最初の登場人物であるベルガモの人は、さっきの僕が見た写真に写っていた1人の男性で、青空が広がるベルガモ市街の広い交差点を横切る、僕と同い年ぐらいの32~33歳の青年、という想定。会社に行くような雰囲気だけど、私服みたいにラフな格好をしていて、その彼に音楽を付けたいと思った。その後、今度は日本人を主人公にしたくて、何故静岡を選んだかはよく覚えていないけど、静岡の海の近くに住む数学者のことを歌にしようと。奥さんを早くに亡くした男性で、彼の1曲目『(am6:00)+5』(M-4)は、奥さんが亡くなって実家に帰っていて、朝6時に起きながら気分は過去を引きずるという心象を書きたいなって」

――小説みたいですね。

「曲中に溜め息声が入っていたり、“ピッピッ”てレンジが鳴る音やほうきで掃く音が入っているのは、数学者が6時に起きてやっている朝の作業を追っているんです。それはさっきも言ったように、ドキュメントにこだわりたかったから。最後に登場するカリフォルニアの人はハモンドさんという男性なんですが、曲を作っているときに、僕に宇宙ブームが到来しまして。宇宙の話やハモンドさんの幼少の頃をイメージして書きました」

――天文台やアマルテア、ヒマリア(どちらも木星の衛星)、地平座標…宇宙や星に関する言葉が歌詞に登場します。

「写真は一瞬を切り取ったもので、0コンマ1秒のドキュメントですよね。音楽で言うドキュメントというのは本来、5分の曲だとすれば5分の間の現実(環境音)しか鳴らせない。時間内に自分の目線を通してどういった音が鳴らせるか、何が書けるのか。もう1つ、今回の作品は“現代”がキーワードなんです。現代の言葉で現代の音(環境音)が鳴る表現をしたかった。詞の役割にも、壁にかかった絵を見るように異質なものが身体に入ってくる機会を作る。それこそが僕の思う音楽家としての姿なんじゃないかなって」

――聴き手は、この壁にかかった絵の前に立って眺めたり、何かを考えたり、自由に楽しめばいい?

「うん。出来上がってみて思ったけど、自分では気軽に聴けないです(笑)。“こんな風に聴いて欲しい”とは作っていないので、作品を出してみて、自分が感じている現代と、皆さんが過ごしている現代がどういう風に重なっていくのか。この音楽がスピーカーから流れたときに、どんな現代が流れていっているのか。それは果たして現代なのか、懐かしいのか、興味があるかな」

――現代というキーワードを持ちながら、ある意味過去とも言えるこれまでのルーツを経て、生まれた音楽。

「ルーツって、何かものを作るときに自分が引っ張り出してくる育ての土地ですよね。僕の過去の作品は音楽によって音楽を模写していたけど、今作は写真や絵、風景によって音楽を作ったり、あらゆるものから得ました」


セッションには芸術が起こりにくいと感じています


――綾部さん自身も作品も一見、静かでアンビエントですが、意欲的で野心的で冒険的な作品になっていますね。

「アンビエントの原初のコンセプトって“家具の音楽”なんですよね。“日常生活の邪魔にならない音楽”というコンセプトが生んだ芸術で、エリック・サティが1920年に『家具の音楽』という作品を発表し、それが後々に継承されている。芸術というのは変なもので、自分がそう言い切らないと芸術にならない。映画の台本を書くみたいに“ベルガモの男性は、年は何歳でこういう性格で…”みたいな構成をダーッとノートに書いていくんですね。“これって本当に曲になるの?”と思ったこともあったけど、3人の男性の1日のドキュメンタリーを描くこと、0から10まで煮詰めていく作業だけを、1年かけてやりました。以前ある人に、“総理大臣でさえ代わりがいるんだから、お前の代わりなんていくらでもいる”と言われたことがあるんです。それも、自分の存在理由を探そうと思ったきっかけでした。音楽家における自由表現の中で、自己の役割を考えることにしたんです」

――『The 1st Corner』(M-1)の冒頭、誰かの話し声が聴こえてきた瞬間から、自分がこの物語の世界に入り込んで一緒にカフェでお茶を飲んでいるようでもあり、そうかと思えばスクリーンか壁の絵を眺めるみたいにこちら側から物語を追っているような、どっちの感覚もあるんですね。静かで邪魔をしない音楽のようでいて、実は何かをしながら聴き流せるタイプの音楽ではない。それと歌詞が、読み物として何度も読み返したくなる詞で。

「一番の理想は、現代が作品にあると思えればいいと。例えば、日本の音楽がpitchforkに取り上げられる題材には日本的なキーワードがある。パーソナルな発信によるものとは隔たりがあります。例えば、アジカンの後藤さんには現代が垣間見えます。そういう1人でいなくちゃいけないなと。そういう作品にならないといけないなと」

――初のソロ作品を作る上で、ジェームスアンドチャーリーやU&DESIGNの作品を作るときとは違いましたか?

「違います。僕が表現を重視するにあたっては、ソロであることが要件で。僕の場合パーソナルなものは1人じゃないと行き届かないと思う。絵を描くにしても、幾人かで描けばセッションであるし、セッションには芸術が起こりにくいと感じています」

――綾部さんは“毎日音楽をやっていないと生きていけない”というタイプのミュージシャンではない?

「全然ない(笑)。毎日音楽を作るのは、締切こそあれば出来るのかもしれないけど…。コンセプトのない音楽というものは、今の自分の制作の仕方とは合致してないのかもしれない。画家が美しい町に恋し留まる様に、対象こそが目の前にある状態では、なかなかないということでしょうか」

――2月5日(木)京都sole cafe、6日(金)Shangri-Laでライブもあります。どんな感じになりそうですか。

「このアルバムの曲を1人で演奏するのは難しいです。ルーツの中でやってきた音楽はみんなと共有する時間を大切にするものだったから、今回のライブはこんな瞬間を得られるのか…演奏家3人でツアーを廻るので楽しみです」

――インストアライブのときに思いましたが、このアルバムの曲はみんなで作り上げるタイプの音楽ではないにしろ、聴く人1人1人がそれぞれにステージの綾部さんとつながっている感じがありました。だからみんながそれぞれに共有出来ているな、と。

「新しい芸術との出会いを探している方、モダンや現代という言葉にピンとくる方は、手に取ってもらいたいです。何年たっても古くならない、色褪せないもの。このアルバムに触れることで“2014年はこんな年だったな”と思ってもらえたらいいなと思う。ライブも素晴らしい時間にしますので、ぜひいらしてください」

 

Text by 梶原有紀子




(2015年2月 2日更新)


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Movie Comment

人柄が伝わるほのぼのとした
綾部健司からの動画コメント!

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Release

3人のとある男性の日常を綴った
小説のような世界に浸る全9曲

Album
『3人の1日』
発売中 2037円(税別)
FLAKE RECORDS
FLAKES-116

<収録曲>
ベルガモの1人
01. (pm2:30) The 1st Corner
02. (pm8:00) Watching Humans Watching
03. (am6:30) Cliff & Blue -sleeptalking-
静岡の1人
04. (am6:00) +5
05. (pm:200) Equilibrium
06. (pm10:00) A Movable Feast
カリフォルニアの1人
07. (am2:00) Sealess Map
08. (am10:00) ’ s relax
09. (pm5:30) Keep Clear

Profile

綾部健司…音楽家。’82年5月東京都生まれ。兄の影響でギターを始め、’02年、バンドのギタリストとしてインディーズデビュー。解散後、主にツアーギタリストとして活動を続ける傍ら、自身が中心となり3ピースのインストバンドU&DESIGNを結成。その後、成り行きでフロントマンとなり歌い始め、幼い頃からの愛読家の側面が頭角を現し、詩の世界観が評価される。'10 年には堂島孝平をプロデューサーに迎え、1stアルバム『1/3 1/3 1/3』を発売。同時にソロライブを定期的に行ない、バンドサウンドとは違った壮大で繊細な世界観を魅せる。'12年、UNCHAINの谷川正憲(vo&g)と作家ユニットとなるジェームスアンドチャーリーを結成。U&DESIGNのリズム隊が演奏家としても活躍する昨今は、コピーライティングや作詞提供などの作家活動を続け、イタリアのベルガモに長期滞在したことをきっかけに制作に取り組んだ、初のソロアルバム『3人の1日』を'14年に発表。

綾部健司 オフィシャルサイト
http://www.namba69.com/

Live

関西方面でのリリースツアーが
京都、大阪で間もなく開催へ!

 
『Kenji Ayabe"3人の1日"release tour
~オールディープな1日~』
チケット発売中
▼2月5日(木)19:00
京都sole cafe
【共演】OLDE WORLDE
前売3000円
sole cafe■075(493)7011

Pick Up!!

【大阪公演】

『Kenji Ayabe"3人の1日"release tour
~踊れる奇妙な1日~』
チケット発売中 Pコード249-679
▼2月6日(金)19:00
Shangri-La
自由3000円
【共演】踊ろうマチルダ/奇妙礼太郎
Shangri-La■06(6343)8601

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