「ヘヴィメタルという音楽こそ、何をやってもいい唯一のジャンル」
『風神界逅』『雷神創世』を同時発売した陰陽座の司令塔・
瞬火(vo&b)が、発祥の大阪から結成15周年、2枚の新作、
バンドのアイデンティティまでを語るインタビュー&動画コメント
男女ツインボーカル×ツインリードギターという編成から生み出される、ヘヴィメタルを基調とした変化自在のサウンド。人間のあらゆる感情を映す“妖怪”を題材とした歌詞。これらを融合させた“妖怪ヘヴィメタル”という、唯一無二の世界観を作り出している陰陽座。過去、ロックバンド史上初の能楽堂でのライブや組曲を発表するなど、様々なことに挑戦してきた彼らが、結成15周年を迎えた今年、またしても予想外の展開! オリジナルアルバムとしては2年9ヵ月ぶりとなる待望の新作として、11thアルバム『風神界逅』と12thアルバム『雷神創世』を同時リリース。2枚組ではなく、それぞれが独立した作品でありながら、どちらも聴き応え十分な強力盤になっているのはさすがと言うべきだろう。その中で出てきた様々な疑問。なぜ2枚同時リリースだったのか、風神雷神がモチーフだったのか、そもそも“妖怪ヘヴィメタル”を掲げたのは――など、ぴあ関西版WEB初登場となる今回、ほとんどの楽曲の作詞作曲を手掛けるバンドの司令塔、瞬火(vo&b)に話を訊いた。
ヘヴィメタルだの妖怪だのというやり方で15年
12枚ものアルバムを出せているのは信じがたいですよね
――今回、初登場になります。
「雑誌(情報誌『ぴあ関西版』)はいつも読んでいました。小さいライブハウスのすっごい小さいライブまで載っていたじゃないですか。インディーズだった頃に名前が載って、嬉しかったですね。こんな僕らでも本に載っているって喜んでいました」
――陰陽座は大阪で結成されたバンドですよね?
「そうです。大阪で産声をあげて、西九条BRAND NEWっていうライブハウスを中心にずっと活動していました。メジャーデビューするまでに積み上げたバンド活動の記憶は、ほぼ全部大阪のものですね。でも、生粋の大阪人はボーカルの黒猫だけで、僕とギターの招鬼・狩姦は四国は愛媛県の人間なんですけどね(笑)」
――西九条BRAND NEWで活動されていたとは!
「社会人バンドとして活動していたので、土日しかライブが出来なかったんですね。普通、ライブハウスも週末は大きいイベントを入れたいから、ぺーぺーのバンドは平日に来いっていう話なんですけど、BRAND NEWだけ“それでもいいよ”って言ってくれて。すごく感謝していますね。BRAND NEWでやらせてもらえなかったら、そもそもライブもあまり出来ずにいたと思うので」
――そうやって大阪から始まったバンドが、入れ替わりの激しい音楽シーンの中で、今年結成15周年を迎えました。
「奇跡ですよね。上に上がるということをせず前に進んだから、落ちるということがなかったということでしょうか。無理にブチ上げたりしなかったから、地味だけど着実に歩めたのかなと。でも、ヘヴィメタルだの妖怪だのというやり方で15年、12枚ものアルバムを出せているのは信じがたいですよね。僕らと同世代と言えるバンドの中には今はもう活動していないバンドも少なくないですから、何で僕たちが生き残っているのか分からないですけど、一生懸命にやった結果、こういう形で存続出来ているのはありがたいことです」
まぁ、節操はないです(笑)
――“妖怪ヘヴィメタル”と掲げていますが、ある1つのコンセプトやキャラを打ち出したバンドだと頭打ちしがちだと思うんですが、変わらずに続けられている秘訣は?
「いわゆるギミック、仕掛けという意味で無理やりキャラ付けしたり、バンドの音楽を限定するような“~ロック”というような演出をするともたないですよね。陰陽座の“妖怪ヘヴィメタル”も一見そう見えると思うんですけど、僕たちが言うヘヴィメタルっていうのは世の中の人が想像するようなただやかましいだけの音楽ではなく、道なき道を切り開く精神とそこにあるエネルギーそのものを表していますし、音楽ジャンルとして見たとしても、元々ヘヴィメタルというのは極端に激しい要素から静かで美しい要素までが含まれている、振り幅がものすごく広いジャンルなんです。世間では偏ったイメージのみで捉えられていますが、僕たちにはヘヴィメタルこそ“何をやってもいい唯一のジャンル”だという信念がありましたので、敢えてそれを掲げました。そして妖怪っていうのも、単なるおどろおどろしいギミックとして掲げているのではなく、妖怪を題材にすることによりそれを見た、あるいはいたと思う人々の心を描くことで、それこそ喜怒哀楽、もしくはその間にある微妙な心理、人間の心そのものを描くことが出来るという、自分たちなりの理屈があるんです。人間のありとあらゆる感情を、制限なしのジャンルで音楽にする。ギミックじみたことで囲っているように見えて、実は何も囲っていないということなんですね。だから続いているんだと思います」
――なるほど。陰陽座の楽曲は実に多彩で幅広いですもんね。
「良く言っていただくとそうで、悪く言うと節操がない。まぁ、節操はないです(笑)。いいと思ったアイデアがすごく激しいものだろうと、静かで美しいものだろうと、どっちもやれるバンドとして陰陽座を始めたので。聴く人によっては、激しい音楽が聴きたいときはこのバンド、静かなものが聴きたいときはこのバンド、という風に気分によって分けたりすると思うんですけど、もし陰陽座を好きになってもらったら1つのバンドで済みますよっていう(笑)」
――そう考えるとお得な(笑)。サウンドはもちろん、歌詞もいろいろなモチーフを元に書かれていますよね。音、歌詞含めて、いろんな角度から楽しめるバンドだと思います。
「歌詞とかテーマそっちのけで曲だけ楽しんでもらうことも出来ますし、今おっしゃっていただいたように楽曲のテーマが日本の伝承だったり、妖怪の話だったり、人間の業を歌っていたり。メジャーシーンであまり用いられないテーマを引くくらいの本気度で(笑)音楽として昇華していると思うので、そういうモチーフにちょっと興味のある方だったら、そういう意味での選択肢は陰陽座しかないと思います。“何でわざわざ大昔の戦国武将とか妖怪を題材にするのか?”って言われることがあるんですけど、僕に言わせると、近所のコンビニで淡い恋が生まれたっていう歌も、江戸時代とか昔の人の恋の話、題材をどこに求めているかだけの話で。人間を描いているという点では同じだと思っているんですよね」
心の闇も描けば、光も描くし、怖い歌詞も書けば、おもしろい歌詞も書く
それはどっちもやりたいことなので
滑稽な歌詞をものすごくマジメに書いている
――2年9カ月ぶりにオリジナルアルバムが発表されましたが、2枚同時発売は以前から計画されていたのですか?
「計画と言うほどではなくて、結成当初、アルバムを2枚同時発売出来るようなバンドになりたい、というような希望は持っていましたけど、本当に出そうと思ったのは’09年辺りで、9thアルバムを作っていたときですね。10thの『鬼子母神』はコンセプトアルバムという形で作ったんですけど、10っていう数字はひと区切りであるし、10thアルバムは手の込んだアルバムだったので、それを出したことで息切れをしたとか気が抜けたのではと絶対思われないようにしようという気持ちもありましたし、実際にそれを証明するに足るマテリアルが満ちていたこともあって、11thと12thを2枚同時発売しようと決めました」
――結成15周年に合わせたわけではないと?
「偶然も偶然です。自分たちとしては15周年をフィーチャーするつもりはありません。ですから今回のアルバムとの関連性で言えば単なる偶然ですけど、区切りがいいところにこの大きな2枚のアルバムを出せてよかったです」
――11thが『風神界逅』、12thが『雷神創世』ですが、対になるものは他にもある中で、なぜ風神雷神に?
「対になるモチーフで何にしようかと考えたとき、真っ先に風神雷神が浮かんで。それ以外も考えたんですけど、浮かんだものが到底、風神雷神に及ばないというか。インパクトや勢いがあり、対になっていて日本人ならほぼ誰でも知っているほどの有名なもの…というと、これしかないなと思ったので。直感でこれにしました」
――ちなみに、『風神界逅』を“邂”ではなく“界”にしたのは何か意味がありますか?
「新しい陰陽座の世界に出会うという意味を持たせるために、こっちの“界”にしたんです。新しい世界に出会って、それをさらに作って、ということで、次を“創世”として」
――『風神界逅』の1曲目の『風神』はインストゥルメンタル、ラストの『春爛漫に式の舞う也』(M-12)はとてもポップで、『雷神創世』よりも振り幅が広い感じがしました。
「『風神界逅』は風、『雷神創世』は雷というキーワードに基づいて楽曲を用意していったんですけど、そよ風から暴風まで、風の方が言葉、イメージとしての振り幅がどちらかと言うと広いんですよね。雷は危ない、怖い、強い、荘厳、畏怖、というような。キーワードのイメージの振り幅が、そのまま作品になっているということかなと」
――確かに『雷神創世』がダークでヘヴィな楽曲が多い印象です。
「単純に楽器のチューニングが『風神界逅』がレギュラー、『雷神創世』がダウンチューニングなので、それだけで『雷神創世』がヘヴィに聴こえると思います。楽曲的にも、風神よりはややギュッと幅を凝縮したような楽曲が揃っていると思います」
――凝縮された中で、『天狗笑い』(M-7)は異色ですよね。コミカルですし。
「陰陽座のように古語などをいっぱい使った歌詞は、それこそ奇をてらっていると見える部分もあると思いますけど、心の闇も描けば、光も描くし、怖い歌詞も書けば、おもしろい歌詞も書く。それはどっちもやりたいことなので。陰陽座というイメージをダークな方に想像していた方からすると、“何でここでフザけているの?”って思うかもしれないですけど、滑稽な歌詞をものすごくマジメに書いているんですよ」
――2枚を通して聴いた中で、先程話しに出た『風神界逅』収録の『春爛漫に式の舞う也』は、個人的にはすごく意外でした。歌詞が古語じゃないですし、曲調はポップ。こういう楽曲は過去にもありました?
「あそこまで素直に言葉を歌詞にしたことはないですね。ああいう曲調でいつになく素直な物言いをした結果、どうしちゃったの?っていうくらいに素直な曲になりました。あの曲は、僕たちが陰陽座のファンの方に対して常に抱いている感謝と親愛を曲にしようと思って。今までもそういう感謝の曲はいくつもあるんですけど、自分の出身の愛媛の方言とか古い言葉とかで照れ隠しというか、ストレートじゃない形で曲にしていて。お礼を言うのにまっすぐに言うことも出来ないのかと自分に問い、たまには真正面からお礼を言っておこうと思った結果、ああいう感じになりました。激しい曲も入っている中で、あの曲で締めることで聴き終わりが爽やかな感じになっているかもしれませんが、自分たちとしては、そこに込めた感謝の気持ちを考えながら聴いてしまので、どちらかというと胸や目頭が熱くなりますね。ライブが終わるときの感覚っていつもそうなんですけど、アルバムの最後とライブの最後がシンクロしているなと思いました」
――シンクロと言えば、風神雷神と対になってはいるものの、2作でリンクしている曲はほぼないですよね?
「直接相互関係があるのは両方の11曲目である『故に其の疾きこと風の如く』と『而して動くこと雷霆の如し』。その2曲だけ一応、意味合い的には繋がってはいます。あとは全く相互関係はないですね。そこをあまり強く結び付けてしまうと、別々じゃなくて2枚組の作品になってしまう。今回やりたかったのは、1枚1枚独立したアルバムを同時に作ることだったので。ビジュアルイメージなどは対になってはいますけど、2枚聴かないと音楽として意味をなさないということは一切なく。どっちかしか聴かなくても、全く問題なく楽しんでいただけるように作っています」
ライブに来てもらったら
その直感は間違いじゃなかったと確信してもらえると思う
――1枚1枚が独立したアルバムということで、ツアーも同様にそれぞれあって。
「うちはアルバムを引っ提げて~と言ったら、そのアルバムから容赦なくやってしまうので、2枚引っ提げて廻ると24曲新曲をやるだけでライブが終わるんですよね(笑)。それじゃあ観る方もやる方も“定番のあれやこれも聴きたかった、やりたかった”となってしまうので、1枚ずつ引っ提げて別々にツアーを廻ることにしました。陰陽座のライブに関しては、“何かを持っていかなくちゃ”とか、“こう言われたらこう反応しないと”とか、そんなことはなりゆきに任せていれば対応可能なので、こういう時代に、こういう音楽をやっているバンドが生き残っていることがおもしろいと思ってもらえたなら、またはどれか1曲でもおもろいなと思ってもらえたなら、何も準備せずに手ぶらでフラっと来てもらっても、楽しく過ごしてもらえると約束したいですね」
――お客さんの層はどんな感じなんですか?
「男女半々くらいで、こういうバンドにしては割と珍しい客層だと思います。男女比半々、お若い方からシニアな方まで、メタルな人も、外国人の方も、メンバーの真似をして着物を着てくる子もいるし、普通の格好で来る方ももちろんいるし、どんな人でも浮かないと思います。それこそ“ヘヴィメタルなんてよく知らない”っていう人もたくさん来てくれているので、どんな人にでも見て欲しいですね。どんな趣味嗜好の人にでも楽しんでもらえるライブが出来ないとダメだと思っているので。もし、ちょっとでも“金返せ!”と思ったらMCの途中でそう叫んでもらってもいいです。返金に応じるかは別として(笑)」
――関西だったら本当に言いかねないですよ!?(笑)
「そうですね。思ってなくても、ノリがいいからネタで言う人がいるかもしれませんね(笑)。それで実際に言われて凹むっていう(苦笑)。でも、そう思わせないくらいの自信があると取ってもらえたら」
――(笑)。初めて陰陽座を知る方もいると思うので、最後にメッセージをいただければ。
「コンセプトがどうとかの理屈は抜きにして、ちょっとでも引っかかったら何かしらの形で聴いてもらいたいなと思いますし、ライブに来てもらったら、その直感は間違いじゃなかったと確信してもらえると思っています。まず、読み方すら分からない人もいると思うので、“いんようざ”ではなく“おんみょうざ”という名前だけでも覚えてくださいという感じです(笑)」
――言い間違いされることってあります?(笑)
「10年を越えた辺りからなくなりましたけど、“いんようざ”とか“おんみょうじ”とか、だいぶ言われましたよ(笑)。普通は間違えられたらムッとすると思うんですけど、“そうなっちゃいますよね?”ってそのまま流して訂正もせずに帰ったこともあります(笑)。だって、これを読めっていう方がおかしいですもん(笑)。だからまずは、読み方を覚えてもらうということで」
Text by 金子裕希
(2014年11月21日更新)
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