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月はどっちに出ている――
3年ぶりのフルアルバム『月の指揮者』が指し示す
1人の男として、ミュージシャンとしての人生の道しるべ
広沢タダシインタビュー&動画コメント

 23歳のデビューから芯のあるメッセージを贈り続けた広沢タダシが、3年ぶりのフルアルバム『月の指揮者』をリリースした。数多くのミュージシャンとの共演や、SMAPの楽曲提供など、広沢タダシの音楽性は、キャリアを重ねてますます評価されている。来年デビュー15年目を迎える今、「生き様と音楽を切り離すことはなくなった」と語るシンガーソングライターは何を想い、何を伝えるのか――。

 
 
僕にとってその光は、太陽ではなくて月の方がしっくりきた
 
 
――3年ぶりのフルアルバム『月の指揮者』にたどり着いた背景を教えてください。
 



「まず『月の指揮者』という言葉と、それにまつわる景色が浮かんだんです。そのイメージで今年の春くらいから曲を作り始めました。前作『ジャメヴ』(‘11)を作ったときもそうなんですが、今自分が考えていることとか、次に何をやるべきなのかとかを、自然に表現出来るようにしようと思っています。すでに出来ている曲を聴き返してみて、その曲の雰囲気から今の自分の状態を掴んでいく。『ジャメヴ』のときは、全体的に“喪失感”というか前向きなイメージではなくて、僕にとってはどちらかと言うと“失う”という感覚のアルバムだった。そこから3年経って今の自分の状態を考えてみると、ピーカンの晴れではないんですけど、遠くに光が見えるようなイメージがしたんです。じゃあ、今回はその光を音にしてみようと。そして、僕にとってその光は、太陽ではなくて月の方がしっくりきた。今年はたまたまスーパームーンだとか皆既月食だとか、月にまつわるニュースもたくさんありましたし。僕らは方々から月を見上げるじゃないですか? それって素敵やなぁと。遠くにいる誰かを思う象徴的なものが“月”だと思うんですけど、人恋しくてちょっと切ない印象がある。人間は世界中でバラバラに暮している。性格も顔も言葉も環境も全部違う人が、同じように月を見上げて繋がっている。住んでいる場所が違うということは、生き方も価値観もリズムも違う。出す響きやハーモニーも全く異なる。でも、その中で確実に愛や友情が芽生えたり、遠くにいる誰かを思いやったりすることが常に起こっている。そのヒントは月にあるんじゃないかと思ってね」
 
――なるほど。
 
「そして、その月に指揮者みたいな存在がいて、みんながそこに向かっていろいろなものを投げかける。そんなバラバラのものを1つの音楽に作り上げるのが“月の指揮者”だと。何かに迷った人たちが、それぞれの指針ととして月を見上げる。そんな物語や景色が浮かんできたんです。これは、今の自分にもフィットするし、これをテーマに曲を書き足して、今回のアルバムは出来ました。何となくやわらかいイメージと“月の指揮者”を中心に、出来るだけいろいろな主人公を出したかった。だから、言葉もそうですし、メロディやリズムにもバリエーションを持たせましたね。ジャズのミュージシャンと一緒に演奏して、リズムやサウンドの幅を広げてみたのもそういう意図です。イメージした景色から導かれたものが、この1枚に詰まっています」
 
――いつも、そういう風にアルバム作りをしていくのですか?
 
「デビューした頃はそうでもなかったですね。書き溜めていたものをまとめている感じ。それはそれでいいんですけど。『雷鳴』(‘10)辺りからはきっちりとコンセプトを持ってやるようにしていますね」
 
 
11人の異なる広沢タダシがそこにいる
 
 
――1曲1曲調が違うけれど、歌詞に時の流れがしっかりと描かれていて、全体で1つの空気感を感じました。あと、『月の指揮者』のイメージとは別に、今回のアルバムのテーマに“再生”というキーワードも挙げられていますね。
 
「ちょっと温度感が違う部分はありますけど、暗いところに明かりが見えたという意味合いでの、喪失からの再生という感じですね。技術的なこととか音の作り方ともそうですが、歌の質感の部分では特に苦労しましたね。ミックスのときに、太くてローも出ていて、主役としての存在感があり、かつやわらかいというテイストでやろうとして、やり過ぎた感じがあったんですけど(苦笑)。新しい発見としては、即興性の要素が多かったですね。それは、ジャズミュージシャンと一緒にやったのも大きいところですけど、『月に関する自動書記』(M-5)のスポークンワーズ=語りとかも、“自動書記”という小説家とかがやる手法で、1分間だったら1分間と決めて、月から思う浮かぶ言葉を思いつくままに書き出す。同じ言葉でもいいからとにかく止めない。この曲は僕が月というテーマで思いつくままに書いたものをそのまま使っています。だから、自分の中の思いがけない深い部分が出てきた。そういう作業をすることで、頭で考えるだけじゃない奥行きのような、新しい感覚が出せたかなと。自然にやることで湧き出てきた必然、のようなものになっていると思います」
 
――それぞれの曲の登場人物が、ハッキリとイメージ出来る印象を受けました。その辺りは意識しました?
 
「基本は主人公を立てて曲作りをしていくんですが、そのときの自分の感情を思い出して作りましたね。自分自身も時によって変化していくから、11人の異なる広沢タダシがそこにいる感じです。ただ、いざ歌になればそこからは聴いてくれる人のモノになっていくから、フィクションもノンフィクションもなく自由に聴いて欲しいと思います」
 
 
自分の良さが一番出るのは、音楽と一緒に生活をすることだと分かった
 
 
――『Ride on music』(M-3)『オトナになりたい』(M-8)に通じているのが、年齢を重ねて音楽をやっていくこと、だと思うのですが、音楽を通じて、若い頃と今とでどう変わってきました?
 
「僕の場合、23歳でデビュー決まって東京に行ったんですけど、オリジナルソングを初めて書いたのが20歳のとき。『サフランの花火』(M-10)が一番古い曲なんですね。その頃は、イベントには出してもらったことはありますけど、2時間のライブを何百人の前でどうパフォーマンスするかを勉強する余裕もなくて、実力もまるで追いついていない状態。ただ感覚だけはあって、たくさんの人が僕の曲を評価してくれたから何とかなったんですけど、それからは結構苦労しましたね。最初はお客さん=得体の知れない群集というイメージだったんです。でも、そういう人の顔が1人1人見えてくると、“ああ、自分はこの人に向かって歌っているんだ”というのがしっかり分かってきた。こういう人が自分の音楽を理解してくれてるんだと分かるようになりました。昔は自分の音楽とは何なのかも漠然としてましたけど、今は実生活と音楽を作るということが一致していますね。自分の良さが一番出るのは、音楽と一緒に生活をすることだと分かったんですよね」
 
――このタイミングで代表曲『サフランの花火』の新録を入れたのは?
 
「正直、この曲だけコンセプト的にちょっと意味合いが違うので、入れるかどうか迷ったんです。でも、昔の音源が廃盤になっていてCDでは聴いてもらえない状態だった。実はさっきの『オトナになりたい』という曲が鍵になっていて、37歳になって、子供の頃に思い描いていた37歳と今の自分の感覚とは全然違う。もっと大人やと思ってた。いろいろなものを手に入れて、全部分かっていると想像していた。でも、実際にはまだ右往左往していて、全然大人になっていないんです。だから、若い頃にまっすぐな感性で作った『サフランの花火』を受けて、今の自分が歌う『サフランの花火』を入れてもいいなぁという有機的な理由が出来てきたんですよね」
 
――今作に伴うリリースツアーが近付いてます。どういうライブになりそうですか?
 
「東京と大阪はバンドで、名古屋と広島は弾き語りでやります。大阪は新バンドになりますね。ドラムとベースは今回のレコーディングを手伝ってくれたメンバーで、ピアノはジャズのミュージシャンで初めて一緒に演奏するんですけど、即興性の高い、いつもより自由度高めのライブをやりたいなぁと思っています。今の広沢タダシの世界を、是非ともたくさんの人に見にきて欲しいなぁと思います!」
 
 
Text by 清水智宏
 

 



(2014年11月14日更新)


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Release

月明かりに導かれし11篇の人間模様
3年ぶりのニューアルバム!

Album
『月の指揮者』
発売中 2500円
Atomic Monster Records
DDCZ-1981

<収録曲>
01. 夜明け
02. 旅に出ようぜ
03. Ride on music
04. HOTEL TOKYO
05. 月に関する自動書記
06. ふわふわ
07. 地球の裏側
08. オトナになりたい
09. 月の指揮者
10. サフランの花火
11. 生きてる心地

Profile

ヒロサワ・タダシ…’99年、インディーズでリリースされたCD『シロイケムリ』が口コミで評判となり地元大阪 FM802チャートにおいてインディーズ初の上位ランクイン。’01年、シングル『手のなるほうへ』でメジャーデビュー。これまでアルバムは9枚リリース。あたたかく、それでいて真実を突く歌詞、ソウルフルなボーカルとブルージーでファンキーなギタープレイは圧倒的な存在感を放つ。これまでにユーモア溢れるエッセイ本を3冊発行しており、その独自の視点で描かれる皮肉と自虐の世界にもファンが多い。

身長175cm、体重50kg、体脂肪率7%
1977.9.8 生まれ。A型
ディラン、スティービー、スコセッシ、
カメラ、野球が好き

広沢タダシ オフィシャルサイト
http://www.hirosawatadashi.com/


Live

東京・大阪はバンド、名古屋・広島は
弾き語りと2つの側面で魅せるツアー!

 
『Winter Tour 2014 –月の指揮者-』

【名古屋公演】
チケット発売中 Pコード238-879
▼12月12日(金)19:00
K・D Japon
自由4000円
サンデーフォークプロモーション■052(320)9100

チケットの購入はコチラ!
チケット情報はこちら


【東京公演】
チケット発売中 Pコード239-474
▼12月19日(金)19:00
渋谷7th FLOOR
全自由4000円
ディスクガレージ■050(5533)0888
※3歳以上はチケット必要。

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Pick Up!!

【大阪公演】

チケット発売中 Pコード240-526
▼12月21日(日)17:00
心斎橋JANUS
全自由4000円
キョードーインフォメーション■06(7732)8888
※未就学児童は入場不可。

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チケット情報はこちら


【広島公演】
チケット発売中 Pコード239-773
▼12月23日(火・祝)17:30
LIVE Cafe Jive
全自由4000円
夢番地広島■082(249)3571

チケットの購入はコチラ!
チケット情報はこちら

 

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Atomic Monster Records
大西順子さんからのオススメ!

『月の指揮者』は、悲しい・嬉しい・切ない・楽しい…を超えた、静けさと大きな優しさに満ちた1枚です。大人の皆さん、この作品で是非救われてください。