不穏と平穏が交互にやってくる日常のそばで
多くを語ることなくただ傍らに寄り添う音楽
旅の途中にいるQUATTROの潮田雄一(g&vo)が
ソロ3作目となる『水のない海』を語るインタビュー
UKロックやガレージ、サイケデリックロックと近距離にあるセンスの良い楽曲で一目置かれるバンド、QUATTROのギター&ボーカルを務める潮田雄一が、ソロ3作目となる『水のない海』を今年2月にリリースした。’11年に相次いでリリースした前2作(1st『弦のあいだ』、2nd『8songs』)が自主制作だったのに対し、今作は初の全国流通盤。彼のルーツであるフォークを下敷きに、フリージャズの要素やサウンドコラージュをちりばめ、ストリングスやホーンも絡んだ楽曲は、モノクロームのようなオールドタイプの音楽の質感がありながら、とても色彩豊か。指弾きによるギター音は、くっきりと太い線を描くようにブレることがない。不穏と平穏が交互にやってくるような日常のそばにあって、多くを語ることなくただ傍らに寄り添ってくれるような音楽。それは、誰もが作り得るものではない。このアルバムを携え、彼は発売から現在までの約半年間、QUATTROの活動と並行する形で全国各地で精力的にソロライブを行っている。8月16日(日)には、神戸旧グッゲンハイム邸で開催されるイベントに出演する。インタビューで彼が語った“ソロ作=何歳になってもやれる音楽”というのは、何歳になっても聴き続けられる音楽ということでもある。次のライブ地へ向かうまでのひととき、ビールを飲みながら語ってくれた普段着の言葉たちを、彼の音楽と共に楽しんで欲しい。
新しくてきらびやかなものよりも、さびれたものの方が心に残る
――今年2月にソロ3作目の『水のない海』を出されて半年ほど経ちますが、その間ずっと全国各地でソロライブをやられていて。各地でのアルバムの反響はいかがですか?
「じわじわとですけど、聴いてもらえてるんだなぁっていう感じがありますね。自分でも息の長いアルバムにはなると思っているんで、まだまだ地道にやっていこうと思ってます」
――QUATTROとソロは、潮田さんの中ではまったく別物ですか?
「そうですね。やっている音楽自体も違うし、バンドはバンドのメンバーでしか出来ないことを突き詰めながらやりたいと思っていて。ソロは自分の趣味というか…(笑)、そういう音楽が出来たらいいなって」
――QUATTROは、UKギターロックやガレージロックな曲もあり、ライブでは時に潮田さんはフロアに降りて暴れたりもしていて。でも、ソロはフォーキーで歌声も穏やか、ほっとするような声だけれど、歌によっては歌詞の中に出てくる風景はものすごく寂しげで。そういうさびれた感じの風景は、潮田さんの中に存在するものなんですか?
「ハハハハ。そうですね。新しくてきらびやかなものよりも、さびれたものの方が心に残る。それは昔からですね」
――元々、潮田さんが最初に音楽をやろうと思ったきっかけは?
「親の影響が大きいかもしれないですね。子供の頃からスティーヴィー・ワンダーとか久保田利伸とか、そういうソウルな感じの音楽が家でよく流れていて。そう言えば、保育園のときに久保田利伸が好きで、毎朝アルバムのカセットテープを聴いてました。決定的だったのは、映画『ブルース・ブラザース』(‘80)かな。すごく楽しくて、ビデオを観ながら妹と一緒に踊り狂ってましたね。我が家で大ブーム(笑)。それが小2か小3の頃かな」
――最初からギターと歌を選んだんですか?
「はい。子供の頃から渋いものが好きで、小学校の高学年ぐらいの頃はボブ・ディランとか桑田佳祐とかのしゃがれた声とか、フォークシンガーにすごく惹かれていました。だから自然と、一番最初に買ったのもフォークギターで」
――その時々のヒットチャートに登場する音楽には目もくれなかった?
「そんなこともなかったんですけど…。ボブ・ディランを好きになったのは小学生の頃なんですけど、孤独な佇まいに“カッコいいなぁ”ってグッときた記憶があります。それは今も変わらず、1人で完結しちゃってる人に憧れますね」
――渋い小学生(笑)。潮田さんのアルバムを聴いたときに、ブライトアイズとバート・ヤンシュを思い出しました。ブライトアイズはバンドでも活動されていますが、彼のソロのアシッドフォークな匂いと、バート・ヤンシュのトラッドフォークの感じが、潮田さんの音楽にも潜んでいる気がして。
「あー、それはありがとうございます。両方ともすごく好きですね」
一聴すると普通なんだけど、よく聴いてみると
“あれ? ちょっとおかしいぞ”っていうもの
――『墓場の猫』(M-4)『遠い渚』(M-6)『エンディング』(M-11)と、インストゥルメンタルが3曲ありますが、『墓場の猫』をライブで聴いたときに、即興的でどこに転がっていくか分からない面白さを感じました。他の2曲も聴くたびに違った情景が浮かんできたりして。言葉はないけれど雄弁に音が語っているようで、聴いていて飽きることがない。インストゥルメンタルの楽しさに開眼した気分ですが、どうしたらそんな音楽が作れるんでしょう?
「どうしたらいいんでしょうね?(笑) 最初にイメージしたのは、一聴すると普通なんだけど、よく聴いてみると“あれ? ちょっとおかしいぞ”っていうもの。自分もそういう音楽がすごく好きだし、そういうところが気に入っていただけたんですかね」
――アルバムのタイトルが『水のない海』で、『遠い渚』や『このまま海まで』(M-12)という曲もあり、作品全体を通して“海”がインスピレーションの源だったんでしょうか?
「何で海だったのかなぁって自分でも考えてるんですけど…遠い情景みたいなものを歌いたかったのかな。『ささくれた風景』(M-1)は、陸から海を眺めているようなイメージで作りました」
――その曲は歌詞に“錆びたボロボロの銃 原子炉に投げ込んでしまった”など、震災以降を思わせるフレーズがあったり、克明に景色が見える曲であるように感じました。どの曲もとても詩的ですね。
「ありがとうございます(照笑)。歌詞は得意です…あ、得意じゃないかな?(笑) 曲と一緒にワーッと出てくることもありますね。そうやって出てきたものを、あまり直し過ぎないようにはしていて。それがダメなところなのかもしれないけど、どこか尖ったところがないとイヤなんですよね」
――丸く、優しいだけのものにはしたくない?
「そうですね。もうちょっとメロディに乗りやすい歌とか歌詞があると思うし、自分の詞も直した方がいいのかなと思うところはあるんですけど…。でも、今回は歌詞も頑張りました(笑)。さっきも言いましたけど、自分はも元々孤独なものとか鋭利なものが好きで、それがだんだんストイックな方にいっちゃって、それがイヤでQUATTROを⒈回辞めたんですよ。それからいろんなミュージシャンとアンダーグラウンドで音楽をやるようになって、いろんな方との出会いを経験することで、今までよりも風通しのいいアルバムを作ってもいいのかな?って少し意識が変わったんですね。それが今回のアルバムですね」
――過去2作を作っている頃は、閉じこもっていた?
「やっぱり1人でやっていると、どんどん尖ってくるというか。ただ、ソロでやっている音楽は、“自分がこの先、何歳になってもやれる音楽”と捉えていて。誰だったか、“歌というのは人生なんだ”みたいなことを言っている人がいて、なるほどなと思ったんですけど、そのときそのときの自分とか生き方みたいなものが、この先の自分の歌に反映されてくるのかなぁって。ま、フラフラした人生なんですけどね(苦笑)」
――『夢を見た』(M-10)で、“キュキュッ”とギターを持つ左手がネックを滑る音が聴こえてきたときに、ヘンな言い方かもしれませんが、すごくセクシーだなと思いました。“こんな音まで聴こえてくる!”というか、全部を見せてくれているような生々しさに、ゾクゾクする感じもあって。
「あの曲は左手のところにマイクを立てて録りました。バート・ヤンシュもそうですけど、昔のフォークシンガーってマイクをいっぱい立てて演奏する人が多かったんですよ。アタック音とか、アタックのリズム感とか、質感がいいなぁと思って。ライブでもそういうことをやってみたいんですけど、広い会場だとマイクだけではなかなか音が伝わらないこともあって、いろいろ試行錯誤しているところですね」
“分からない”って大事だなと思うんですよ
“分からない”の答えをどう導き出すか
――アナログ盤のシングル『このまま海まで/夢をみた』もリリースされていますが、潮田さんにとって、CDとアナログ盤はどう違いますか?
「CDとアナログも違うし、MP3とCDも全然違いますね。順番的にはMP3→CD→レコードの順でレコードが一番音がいいし、すんなり体に入ってくるんですよ。ただ、そうは言っていても人に届かなければ音楽である意味がないし、音楽の楽しみ方は人それぞれ自由なので、その人がいいと思う音で聴いたらいいんじゃないかな。自分でも最近レコード屋に行くのがすごく好きで、今回のアルバムもアナログ盤で出したいんですけどね。誰かお金出してくれる人いないですかね(笑)」
――(笑)。今回の潮田さんのアルバムを最初に聴いたときの印象は、正直“よく分からない”でした。漠然とした不安のようなものに包まれる曲もあれば、最後の2曲の『エンディング』『このまま海まで』は、幸せが少しずつ満ちてくるようなあたたかさもあり。ただ、QUATTROとは音楽性も全く違うし、弾き語りもあれば、フリージャズのような展開を見せる曲もあったり。なんですが、“分からない”からこそ惹かれる楽しさ、追求してみたくなる面白さを教えてもらったような気がします。
「“分からない”って大事だなと思うんですよ。“分からない”の答えをどう導き出すか。分からないことにどう答えるかって、結構大事なことだと自分では思っていて。僕も分からないことはいっぱいあるし、むしろ分からないことの方に興味が湧きますね」
――これから先、どんな音楽をやりたいですか?
「インストゥルメンタルのアルバムを作りたくて、それは近々本当にやろうと思っています。次のアルバムはまた1、2枚目みたいに自主制作で出そうかなと考えていて、作品によって出し方も音楽も自由にやりたいですね」
――8月16日(日)は7月に続いて神戸の旧グッゲンハイム邸でライブがあります。関西のお客さんはいかがですか?
「歌詞に敏感だなぁと思いますね。ライブが終わった後とかに話しかけてくれて、“この歌詞ってこういう意味でしょ?”みたいに言ってくれたりして。“全然違うなぁ”と思ったりするんですけど(笑)、それはその人が感じたことだからそれでいいんです。嬉しいし。東京とか、他の場所ではあんまりそんなことがないんですよ。今度のライブも、まだ聴いたことのない人にも来ていただきたいですね」
――自分の音楽が、聴く人にどんな風に作用するといいと思います?
「………幸せになって欲しい(笑)。一番は幸せになってくれることかな。俺の音楽はライブでワーッと盛り上がったり、みんなで一斉に手を挙げて踊るような音楽ではないですけど、自分にしか出来ないことをやっている気持ちはあって。一般受けするような音楽とは違うと思うけど、“こういう世界もあるんだよ”って言いたい気持ちもあり、こういう音楽を楽しんで欲しい気持ちもありますね。クラブとかに行くと、たまにすごくヘンな踊り方をしてる人を見かけるんですけど俺もそういうタイプで、スピーカーの前とかで1人でストイックに踊ってるんです(笑)。だからと言って、みんなでワーッと盛り上がってる音楽や、ワーキャー騒いでる人が嫌いかって言ったら、そんなことはない。楽しみ方は自由だから、僕の音楽も自由に、好きなように楽しんでもらえたらいいなと思いますね」
Text by 梶原有紀子
(2014年8月14日更新)
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