「ブランドを捨ててまで音楽を続けて」
『勇者のウタ』、19、ビジネス、そして音楽
気持ちのざわめきをガソリンに自分の魂に問いかける自走ツアー中!
岡平健治がスピリットと現在地を語るインタビュー&動画コメント
‘98年に19(ジューク)としてデビュー。’02年の解散まで『あの紙ヒコーキ くもり空わって』をはじめとする数々のヒット曲を生み、現在はロックバンド・3B LAB.☆Sを経てソロとして精力的に活動する岡平健治。この春には2年ぶりの音源となるシングル『勇者のウタ』をリリース。5月末より、スタッフも帯同せず自ら車を運転し、全国47都道府県52公演をその身1つで巡る、恒例にして7度目の“自走ツアー”を敢行中だ。昨年、バラエティ番組『有吉ジャポン』で、ビジネスの世界で成功を収めたもう1つの顔が紹介され話題を呼んだが、なぜ彼は今でもこんなタフな旅を続けるのか? 当時、社会現象を生み出すまでに膨れ上がった過去の自分との戦いは、彼にどれだけの夢を見させ、どれだけの絶望を味合わせてきたことだろう。岡平健治、デビュー17年目の現在地を赤裸々に語る。
吹っ切れさせてくれた、あの虹が
――リリース自体が2年半ぶりということで、音楽活動をしていく上では短いスパンではないと思うんですけど、久々に音源をリリースしたことに関してはどうです?
「何かもう、ただ出したかったというか(笑)。本当に衝動に駆られて出来た曲だったので」
――逆に2年半出さなかったのは?
「とにかくツアーをしていたかったっていうのもあったんですけど」
――あれだけやってるのに?(笑)
「はい、足んないっすね(笑)。何て言うんですかね…今の内に経験出来ることはしときたいなぁと思ってるんですよね。常に時間に追われてるというか。だから、いつの間にか2年半ぐらい経ったっていうのもあります」
――(ツアースケジュールを見ながら)こんな1ページに収まらない本数のツアーを毎回やっているにも関わらず(笑)。最近、初めて全県ツアーをやったバンドに、“全県ツアーってミュージシャンの憧れやね”って言ったら、やったらやったで“まぁ…当分はいいですね”、みたいな(笑)。もうハード過ぎるって。
「そうなんですよ(笑)。それでも何で自分がここまでライブをしたいのかって、まぁ東京にいても暇ですからね…。オフのときに家でボケーッとするのが無理なんです。休みの日でも、日曜大工とかいろいろしてるんですけど」
――そういう意味では、“全県ツアー”ってもう明確にやることがあるからいいのかもしれない。いついつまでに移動しなきゃいけない、もちろんライブしなきゃいけないって、やることが自ずと設定されるという意味ではね。そんな中で音源を出そうと思ったきっかけは何だったんですか?
「昨年ツアーを廻り切って東京に帰って、屋上で日曜大工をしていたときなんですけど、新宿にものすごくキレイな半円を描いた虹を見たんですよ。それに感動してその場で出来た曲なんです。これは音楽の神様からのツアーを廻り切ったご褒美かなって、ものすごくテンションが上がって(笑)。Yahoo!でニュースに載るぐらいの虹だったみたいで、Twitterにも写真がものすごくアップされていたみたいで。新宿を全部包み込む、キレイ過ぎる虹だったんですよ。しかも5分ぐらいしか出てなくて。で、その写真ちょっと見てもらおうかなぁと」
――(写真を見て)おぉ~! ホンマや、映画みたい(笑)。ホントに半円ですね。
「すごい虹を見てしまいまして。何かワクワクしたんですよね」
――でも、虹を見て、うわぁーってなって、曲を書く。ってそんな…。
「小学生みたいなね(笑)。その晩、何も考えずに一気に書きましたね。それまではギターをちょっと難しくしようとか、洋楽っぽいテイストを入れようとかいろいろ考えたり悩んだりしてたんですけど、“こういうフォーキーな世界でいい!”って吹っ切れさせてくれた、あの虹が。ナチュラルに背中を押せる曲が、この歳にしてやっと書けたなって」
我が道を行ってるように見える人ほど、めちゃくちゃ弱い人だと思います
――そうは言いながら、『勇者のウタ』(M-1)は1行目から“伝わらない声”という言葉があって。この辺なんかはやっぱり、それを味わったことがある人間だからこそかなぁと。
「そう。だから、ツアーを何回廻っても答えが出ないんですよね。ファイナルで感動の涙が流せない。これだけ身体も酷使してようやく廻り切って、ゴールのZepp Tokyoでライブして、みんなからお花をもらったり、お客さんもたくさん来てくれて…。だけど何かね、“まだ自分の気持ちを伝えられてないな”って。だから涙もあんまり出ないし。満たされてないんですよね。だからやり続けてるのかもしれない」
――周りから見たら、それこそ19で一度は頂点を極めたし、最近はビジネスの分野でも成功して。なのに、当の本人は満たされることがないんですね。
「そうなんですよね。何かねぇ…まだチャレンジしたいっていうか。うん」
――隠居というか、“もう南の島でゆっくりしたいわ!”ってならないんですね(笑)。
「アハハ(笑)。ならないんですよ!」
――俺はもう今すぐ南の島でゆっくりしたいです(笑)。
(一同笑)
「僕の親父もですね、南の島というか(広島県の)江田島っていう、目の前にビーチもあってのんびり出来るところで、定年したのに毎日動き回ってるんで遺伝かな?(笑) 島中のおじいちゃんとかおばあちゃん家のサッシを変えてるみたいですよ。だから、人材派遣センターからも引っ張りだこで、“マルチ岡平”って呼ばれてるらしい(笑)」
――かつて岡平さんが“正直お金には一生困らないだろうし、音楽も別に辞めちゃってもいいんだろうなって思うんだけど、やっぱり辞められない”みたいなことを言っていたのがすごく印象的で。今の話にも通じるところというか。
「僕の事務所の社長でありギターの先生でもある8つ上の千葉から、“健治は周りの人にきちんと過程を説明せずにポンッと最短距離の答えを言うから、誤解はされるかもしれないね”ってよく言われるんですけど(笑)。そりゃやっぱりドームツアーもやりたいし、飛行機で廻りたい。だけど、そこまでのレベルに達するまでは、僕は車で廻ります」
――ドームツアーを飛行機で廻る未来を想定していたら、そりゃ今でも満たされないですよね。そうか、だから目標が下がらないんですね。
「そうかもしれないです。やっぱり19のときに日本武道館のチケットを1分で売り切っちゃうエネルギーを体感した時代から、言わばそのブランドを捨ててまで音楽を続けて。19を残しておけばよかったんだろうけど、そんな器用なことは当時思い浮かばなかった(苦笑)。今でもやっぱりそこを目指してるんで」
――もしかしたら、活動休止の名目でそれぞれがソロをやって、戻れていたかもしれない。でも、それがやれていたら、今頃音楽をやっていなかったかもしれないですね。目標も達成して、ビジネスに専念してるかもしれない。
「あぁ~かもしれないです。確かに今ビジネスマンやってるし(笑)。それこそ裏方になっていたかもしれないし」
――それこそ南の島にいたかもしれないし、そこでサッシを変えていたかもしれない(笑)。そう考えたら自分の下した決断が、逆に音楽人生の寿命を延ばしている気もしますね。
「そうですね。今、人間として成長出来てるのは、(19の)ブランドを捨ててきた、このスタイルというか」
――以前、岡平健治ソロで19と同じステージ(=日本武道館)に立つまでは復活しない、みたいなことも言っていて。これはすごく明確な意志だなぁと。
「だから、いろんな人に口説かれてるんですけど、“ごめーん!”って(笑)。あのね、まず今復活したとしても続かないと思います。やっぱりどっちかがものすごい場所まで行っておかないと、持続出来ないと思うんですよね」
――“この10何年悩み続けた”みたいな発言や、『勇者のウタ』の最後の一説の“流されてる…”も含めて、ネット上の書き込みだったり、いろんな意見にも左右されるというか、引っ張られるというか。“俺は我が道を行くんだ”っていう風に見えるけど、違う。
「音楽という流行にも流されてますしね(苦笑)。あのね、我が道を行ってるように見える人ほど、めちゃくちゃ弱い人だと思いますよ。僕がそうなんで分かるんです。暴れてる人ほど、めちゃくちゃハートが弱いんですよ。弱いから、吠えるんです。柴犬と一緒っす(笑)。だから頑張らないといけないんですけどね。ただ、僕はあんまり吠えないようにして、人知れず海を見ながら悩んで、サングラスの下で涙を流してね(笑)」
結局、ここまで来たら“好きだからやってる”んですよね
――自走ツアーとかこの曲の肌触りもそうですけど、D.I.Yな感じがすごくあるし、誰とでもつながれる時代だからこそ、1対1のコミュニケーションが大事になってくる。そういうところが岡平さんの活動の軸としてあるのかなと。
「それはあると思いますね。もしかしたら、自走ツアーでシャボンの店長のおばちゃんと会えなかったとかね」
――シャボン?
「富山でコインランドリー/クリーニング屋で洗濯する機会があったんですけど、量が溜まっちゃうから1~2時間とかかかるんです。その間に、だいたい“君は旅をしてるのね”みたいな感じで店長と仲良くなるんですよ。そのおばちゃんと名刺交換をして、“僕の地元の長崎に行ったらカステラ送るね”って約束したから実際に送ったんですよ。そしたら“ホントにありがとうね”ってお礼の電話がかかってきて、それだけでもホントに嬉しかった。何かそういう体験が、僕の中での幸せに変わっていってるというか。欲望がちょっと変わりつつあります。頂点を目指しつつも、その枝分かれした部分もたくさん見えてきた」
――それってホントに細かくツアーを廻ったからこその出会いですもんね。それこそ飛行機で行ってたら会わないですから。端から見ていたら、自走ツアーなんてすごくしんどい。でも、ここまでやらなきゃ伝わらないと。
「結局、ここまで来たら“好きだからやってる”んですよね。悔しいからやってるのか、自分の今のポジションとかスタイルを卑下し過ぎなのかとかいろいろ考えたんですけど、“ちょっと待てよ。それを踏まえても普通じゃ出来ないぞ”って。好きなんですよね、音楽が。僕がいろいろ多角経営してるのは、ツアーをやるために稼いでいるんで。ガソリン代、高速代、あと、150泊しますしね(笑)。もう完全に赤字なんで」
――でも、音楽活動をするために働いてる人はいっぱいいますけど、ビルは建たないです(笑)。
「アハハハハ!(笑) でもね、やっぱり音楽の神様ってきちんと見ていて、商売は成功させてくれても、音楽はそうはいかない。僕は欲張りだから、音楽と両方欲しいんです。なぜならお世話になった周りの人たちに返したい気持ちがあるから。だから今はホントに悔しい。やっぱりリアルに音楽で稼いでいた時代があるので。なので、今は事業を引退したんです。半年ツアーで会社にいない人なんて普通いないので(笑)、もうケジメで引退するしかないなって」
――経営を任せて。
「僕はまた旅ガラスになるという(笑)。社員にも頭を下げて、“音楽事業に関しては赤字になるんで、みんなが頑張って働いてくれたお金を使うかもしれない”って。僕はリアルに言うんで」
――なかなか発想として会社をやろうって思わないと思うんですけど、何で始めたんですか?
「ホントは個人でやりたかったんですけど、会社が個人とは契約してくれないんですよ。ただそれだけです、理由は。個人事業主でも良かったんですけど、会社を作らざるを得なかったというか。あとは、飯が食えなくなったミュージシャンも助けたかったんで」
――なるほど。そうやっていく内にいろいろと上手くいって。
「そう、偶然にも。でも、2年前に1億騙されましたけどね」
――“岡平健治”って検索したら、3番目ぐらいに出てくるアレですね(笑)。
「そうそう(笑)。騙されちゃってねぇ~ホントに。立ち直りましたけど」
――それを見て、ビジネスも順風満帆だけじゃなかったんだなって思いました。
とにかくファイナルで泣きたい
――シングルのカップリングの『愛し愛され意図しき愛』(M-3)は、友達の恋愛相談から生まれた曲だということですが、この2人は結局上手くいかなかったんですね。
「2人を上手くくっつけようとものすごく努力したんですけど、ダメだったんですよね。お互いに言ってることも全部合ってるし、間違ってない。だけど噛み合わない。こんな恋ってあるんだろうかって。今は自分のことはもう正直どうだってよくて、周りの人がハッピーになって欲しいんです。もうそれ以外に何もない。自分のエゴで迷惑かけちゃってるのも、ここ10年と感じてるんで」
――それで敏感なのかもな、人の気持ちのざわめきに。もっと鈍感だったら楽だけど。
「目と仕草で瞬時に判断して、その人がどう考えてるとか、怠けてるとか、今真剣にやってるとか、全部分かるんで。それが社長、会長クラスでも、あ、この人舐めてるな、逃げてるなとか、夜は銀座で女と遊んでるなとか(笑)。全部分かっちゃう」
――相手からしたらめんどくさい(笑)。
「そう(笑)、しかも爪を隠してるんで。アホな振りをして、金髪にしたりとかして」
――それも若い内からいろいろな人に会ってるからでしょうね。
「そうだと思います。だからしょうがないんです。だけどガキでいたいんですよ(笑)。立場上大人になってるからつらいんですよね」
――そう考えたら、自分がいたい自分でいられる場所かもしれないですね、音楽は。
「音楽だけは唯一無心になれるし、何も考えなくていい。だからかもしれないですね」
――やっぱり今、めっちゃいい顔しましたもんね。“音楽が”っていう話をしたときに。
「音楽は裏切らないですよね。僕たちは人気商売なんで、お客さんがいなければ“君の音楽はダメだよ”って言われてるのと一緒なんで、つらいです。それでも、こんな厳しい世界に入って、たくさんミュージシャンがいるのに、たまたま僕は一度売れた。運は強いと思います。運でここまで来ましたから」
――そして、今年の自走ツアーも残り僅かです。
「とにかくファイナルで泣きたいです。19とか3B LAB.☆Sのときのあの甘っちょろい、ぬるま湯に浸かったツアーファイナルで感動して泣いてるんですけど(笑)。これだけしんどいことをしてるのに、何で泣けないんだろう(苦笑)。今年こそ泣きたいですねぇ…」
――自分の魂に問いかけるツアーですね。
「ライフワークになり過ぎて、“終わっちゃった”っていう寂しさの方が大きいのかな? いざ始まったら、あっという間に2015年になるんで(笑)。いつもそうです。早いです」
――次にライブで会うときに、“このまま行けばファイナルで泣けるかもしれないです!”って言えてたら最高ですね。本日はありがとうございました!
「ありがとうございました~!」
Text by 奥“ボウイ”昌史
(2014年8月29日更新)
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