「どこにも属せない気がしてる」
日本一売れてる現役OLエレクトロラップユニット
Charisma.com(カリスマ・ドット・コム)が“社会VS自分”をテーマに
言い放つ1stアルバム『DIStopping』インタビュー&動画コメント
毒っ気たっぷりのリリックを4つ打ちビートに乗っけて赤裸々に挑発的に放つ、MC いつかとDJ ゴンチの現役OL 2人によるエレクトロラップユニットCharisma.com(カリスマ・ドットコム)。『ROCK IN JAPAN FES.』や映画監督・大根仁主催のライブイベント『モテキナイツVol.2』に出演する一方、ルイ・ヴィトン主催の特別展『Timeless Muses』のレセプションパーティーでホログラムライブを行うなど、多方面から注目を集めるユニットだ。この度、リリースされた1stフルアルバム『DIStopping』は“社会VS自分”をテーマに、迷いや戸惑いすら詰め込み、トラックも4つ打ちからメロウ~ドープなものまで多彩で、幾つもの表情や温度感が伝わってくる1枚となっている。現在は、『DIStopping リリースツアー 2014 -OL JOKER-』真っ只中にいる2人に話を訊いた。
毒を吐き続けても、消化されないこともある
――アルバムタイトルの『DIStopping』は造語ですよね。“DIS”を“Stop”する、という?
いつか「ディス(DIS)をストップ(Stop)するか、トッピング(Topping)していくか、という意味ですね。今回の作品を作って思ったことなんですけど、毒を吐き続けても、消化されないこともあるなって。解決することもあるし、出来ないこともある」
――吐いてたはずなのに、気付いたら溜め込んでいた、と。
いつか「そうです。『アイアイシンドローム』(‘13)を出したときは余裕があったのか消化出来てたんですけど。今回は曲が出来ていくにつれて、それをすごく思ったんですね」
――タイトルに取り消し線が引かれているデザインになっているのは?
いつか「忘れちゃいけないことは、取り消し線を引いておいた方がいい、みたいな」
――“社会VS自分”がテーマとのことですが、これはどういったところが出発点に?
いつか「最初は“OLの一週間”的なコンセプトアルバムにしようとも考えてたんですけど、全然それにそぐえなくて」
――『no datte』(M-4)が日曜日の曲だったりしましたね。
いつか「はい。でも、2曲目くらいから全然ハマらなくて(笑)。出来あがったら“社会VS自分”みたいだなって」
自分が今生活していて“何だよ”って思ったりすることを書いた
――今回のリリック、毒は隠してますよね。
いつか「前作の『アイアイシンドローム』と今回で考えると、今回の方が今の自分に近いかなっていう。前作は、(リリックに書いているように)思っていた時期が過ぎたときに作っていたけど、今回は自分が今生活していて“何だよ”って思ったりすることを書いたので。でも、自分の中でも迷いがあったから、あまり鋭くは書けなかった」
――その迷いというのは?
いつか「こう思うけど、まだ答えが出ていなくて、言い切れない、みたいな。疑問がとても強くなったかなと」
――『MR.BEER』(M-7)にしても、サラリーマン賛歌だったりしますもんね。サラリーマン=社会だったりもして。
いつか「家庭ではお父さんが結構、邪魔者扱いされてるみたいで。“お父さん、外ではすごい頑張ってるよ”って。でも、奥さんや子供からはあんまりで、何か報われないなって」
――でも、そうやって頑張っているサラリーマンに対して、“何だよ”って思っているOLの自分もいると。
いつか「そうですね。“そんなんだからだよ”って思うことも実際あるんですけど(笑)」
――ゴンチさんからは、いつかさんのリリックの変化はどう見えましたか?
ゴンチ「前作は“こういう女の子に対して言ってるな”っていうのがすごい想像出来たんですけど、今作はそういうのがあまりなくて。抽象的というか。女の子だけじゃなくて、男性に対しても書いているし。毒だけじゃなくなった。それが今の心境なのかなって」
いつか「ジャケットのデザインにしても、今回は“弱さ”とか“迷い”みたいなものを出したかったので、そういう話をして。(デザイナーの狙いとしては)大きい自分と小さい自分がいて、大きい自分は中身が空っぽっていうイメージみたいなんですけど」
似てるのを作ろう、もう1回くらいやっておこうと(笑)
――リードトラックの『イイナヅケブルー』(M-1)は、Charisma.comの名を知らしめた曲『HATE』との類似性というか、アンサーソングのように感じたんですか、関連性はありましたか?
いつか「“似てるのを作ろう”っていう話だったので。もう1回くらいやっておこうと(笑)」
――敢えて似させてますよね。
いつか「はい。トラックメイカーも『HATE』と同じ守尾崇さんで」
――トラックを作ってもらうときは、どういった流れでお願いすることが多いんですか?
いつか「“こういうものが好き”みたいな話をさせてもらったりはします。この曲カッコいいなと思ったものを、具体的に挙げていって」
――今回で言うなら、例えばどういった曲でしたか?
いつか「iPad見ないと分かんないんですけど、見ていいですか?」
――どうぞ。(iPadに貼られているステッカーを見て)今回収録されている『LOOKER』(M-2)が、オッド・フューチャーだとかSIMI LABのような不穏なトラックで印象的でした、という話を後でしようと思っていたら、SIMI LABのステッカー貼ってますね(笑)。
いつか「好きです。この間のワンマンも観に行きました。あと、最近だとエド・シーランの『シング』っていう曲だとか、ディジー・ラスカルとか」
――なるほど。それにしても多彩なトラックになっていますよね。4つ打ちだけじゃなくて、USのTOP 40とかEDM辺りを連想させるものがあったり、いわゆるヒップホップ的なものもあったり。特に印象的だったトラックは?
いつか「『空色WILL』(M-10)は、“これは挑戦だ”っていうトラックでした。最初に聴いたときに“これすか? 絶対思い付かない”ってなって(笑)。でも、スキル的にも目をつむれないし、今ここでやっておかないとって」
――フロウのスタイルも幅広くなっていますよね。
いつか「前作を出してから、4つ打ちにラップを乗せることにハマっちゃって、変にダメになっちゃう時期があったんです。どうしたものかなと思って、ヒップホップのトラックに乗せるようにしたら、その方がフロウが自由になるのを発見して、またこっちに戻ったら、幅が広がってた、っていう」
子供が意味は分かってなくてもノってくれてると
いい曲が書けたのかなって素直に思える
――リリックは、書き溜めているんですか? トラックに合わせて?
いつか「どっちもありますね。ガラケーにちょちょちょって親指でやります(笑)。出来るだけ、そのままストレートに言うよりは、何かと何かの言葉を合わせて、そういう意味だって表現出来るといいなとは思ってるんですけど」
――今作で特に気に入っているパンチラインは?
いつか「『スーパーガール』(M-3)の“三十路忙しい味噌汁にシジミ”ですね。飲み過ぎちゃったら、シジミの味噌汁だよ、って(笑)」
ゴンチ「私は単語なんですけど『LOOKER』の“愛飢え男(あいうえお)”が好きです。言葉遊びがおもしろいなって」
――確かに。言葉遊びが随所にあって、それがまたいいスパイスになっていますよね。
いつか「子供が好きそうな言葉が好きなんですよ。『イイナヅケブルー』の“アブラカタブラ”とか。甥っ子とか友達の子供とか、最近周りに子供が多いんですね。子供が意味は分かってなくてもノってくれてると、いい曲が書けたのかなって素直に思える。ハッピーなのが出来たっぽい!って、指針になります。子供がどこの部分をピックアップするか分からないんですけど、覚えて歌ったりするんですよね。“あっ、そこを選ぶんだ”って、すごく興味深い」
――音楽活動とOLの二重生活ってどうですか?
いつか「年齢的に体力の回復が遅くなっていて、そこには悩まされています(笑)」
――OLの自分とCharisma.comの自分は別モノ?
いつか「地続きですね。でも、多分世間的に見たら全部バラバラに見えてる。よく言われるのが“ラップなのにヒップホップのカッコじゃないね”って。そう言われてもな、っていう(笑)」
――Charisma.comはヒップホップじゃないですもんね。ラップですもんね。
いつか「そうですね。あと、好きなものの幅が狭くて。この曲の何分何秒が好きとか、超リピートして聴いちゃう。偏食なんです」
――最近だと?
いつか「電波少女の『Re:カールマイヤー』」
ゴンチ「車とかで一緒に聴いてると教えてくれたりします。“今からくるから! キターッ!”って(笑)」
いつか「ただ、それ以外のものにあまり興味が持てない。だからジャンルとかにもこだわらない」
――ルイ・ヴィトン主催の特別展でホログラムライブをしたり、『ROCK IN JAPAN FES.』に出たり、最近だとチボ・マットと共演したりと、振り幅がおもしろいなぁというのが外から見ている印象です。
いつか「そんなに意識はしていなくて。あと、分かってない(笑)。“Charisma.comのジャンルは何ですか?”って聞かれても、分からない。どこにも属せない気がしてます。ただ、4つ打ちでラップがしたかっただけで」
何とも出来ない現状をちょっとでも打破するきっかけになれば
――『DIStopping リリースツアー2014 -OL JOKER-』のOL JOKERとは?
いつか「OLとして会社にすごい馴染んでるかと言ったら、そうでもない。ヘンな目で見られているのはヒシヒシ感じていて。でも、私たちが言ってることはみんな思ってることだから。それを態度で示すかどうかなだけで。(自分は)子供なので、“違うだろ!”ってね(笑)。私がリリックで言ってることって、わざわざ口に出さないし、“そんなこと当たり前だよ、言ってもしょうがない”って思われることが多いと思う。でも、やっぱり言わないと、その問題自体解決しないと思うし、これを聴いて実は私もそうは思ってたという方がいて、その何とも出来ない現状をちょっとでも打破するきっかけになれば、すごく嬉しい」
――7月11日(金)には大阪BIGCATでライブがあります。
いつか「去年の11月に渋谷WWWで初めてワンマンをさせてもらったんですけど、そのときはプロジェクションマッピングを使ったり、DJタイムを挟んだりもしたんですけど、今回は正直、どうしようかなと思っていて」
ゴンチ「でも、関西の方に来る機会がなかなかなかったので、ぜひ皆さんと一緒に楽しみたい。そう出来るよう、頑張りたいです」
いつか「はい。何か、いや、頑張ります(笑)」
Text by 中谷琢弥
(2014年7月10日更新)
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