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She Her Her Hers、ここに極まれり!
深遠なるビートと美しきノイズに飲み込まれる
静寂と轟音の2ndアルバム『stereochrome』ツアー開幕を告げる
新体制シーハーズ全員インタビュー&動画コメント

 She Her Her Hers(通称シーハーズ)が誕生して約3年。それ以前にも様々なバンドでキャリアを積んできたメンバーではあったが、前作『Rollercoaster』から10ヵ月のインターバルで届いた新作『stereochrome』の完成度は素晴らしく、バンド初期の名盤と呼ぶにふさわしい出来栄え。歪んだノイズを吐き出すギターが厚い雲のように広がる中を、鈍い光を放ちながら轟音で飛び立つ『Point of No Return』からラストの『stereochrome』まで、様々な音景色を経由。『Everything Reminds You』のフォークロック的なアプローチも新鮮だ。タカハシヒロヤス(vo&g)がインタビュー中で影響を口にしている“シューゲイザー”とは、80年代のイギリスで広がった、ライブ中にうつむき足元を見ながら演奏するスタイルをとっていたバンドたちを称する。ひっかき傷を残すような歪んだギターや白日夢を見るような浮遊感のあるメロディを得意としていた先人達の精神は、タカハシの血肉となり現在のシーハーズの音楽に宿っている。一聴すると閉じた印象のあるノイジーなサウンドが次第に、重厚で美しい臨場感と解放感で聴き手を満たしていく。このアルバムを携えたツアーも間もなくスタート。昨年暮れに、サポートドラマーだった松浦大樹(ds)が正式加入し、無敵の4人組となった彼らの快進撃が、静かに始まろうとしている。

 
 
“シューゲイザー”とか“オルタナティブ”
どの曲からも“そういう音楽が好きなバンドなんだな”
っていうのが伝わるといいなと
 
 
――改めてこれまでのアルバムを聴き返してみたんですが、作品を重ねるごとに一段一段階段を上がるようにステップアップしてきたのが、新作『stereochrome』で一気に飛躍しているようで。楽曲の幅も広がり、1つ1つの音も磨かれてきているのを感じました。
 
タカハシ(vo&g)「ありがとうございます!」
 
坂本(g)「僕らの中では何となく“次のアルバムは夏ぐらいに出せたらいいなぁ”と思っていたのが、制作期間も短くなって合宿でレコーディングをすることになったりして。初めてのこともありましたけど、バンドにとって良い方向に作用したように思います」
 
――特にアルバムの入口となる『Point of No Return』(M-1)とラストの『stereochrome』(M-10)の2曲で完全にシーハーズの音世界が作り上げられていて、他にどんなタイプの曲が入っていたとしても揺るぎないものになっているなぁと。アルバムを作る上で“こういう作品にしよう”みたいに4人で話したりするんですか?
 
タカハシ「作った曲を持っていくときに、例えば“このアーティストのこういうノリでやりたい”とか、そういう話はしましたね。自分のモードもその時々で変わっていって、3ヵ月とか半年前ぐらいに作った曲を改めて聴いたら妙に古く感じることもあったりして。締切のギリギリぐらいに急いで曲を作った方が、よりそのときの自分のモードに近いものが作れていいのかなとも思ったり(笑)」
 
――今回の制作時のモードはどんな感じでしたか?
 
タカハシ「“シューゲイザー”とか“オルタナティブ”ですかね。今回は特に、どの曲からも“そういう音楽が好きなバンドなんだな”っていうのが伝わるといいなと思いました。他には最近のUSインディー・ロックを聴いたりしていたので、曲を作る上でもその辺りのモードが軸になっていますね。ライブに来てくれたお客さんにも“シューゲイザーや90年代のオルタナティブ・サウンドが好きなんですか?”って聞かれることが多くて、確かに僕自身好きだし、CDでもその色を出したかったし、1曲目とか最後の曲は特にその色合いが強い曲だと思います」
 
――それは、“自分が鳴らす音楽はこれだ”という意思表明でもある?
 
タカハシ「そうですね。だからってマニアックな方向に行き過ぎないように。ライブの本数を重ねていくうちに、“もっとテンポが速い曲がいいな”とか、逆に“遅くてもノレる曲が欲しい”とか、そのときそのときに湧いてくるアイディアを活かしていきました」
 
――新たに(松浦)大樹(ds)さんがメンバーとして加わったことで、変化はありましたか?
 
とまそん(b)「ドラムが変わったことでかなり雰囲気が変わりましたね。大樹くんのドラムは、日本の若いドラマーっぽくないというか、前にガシガシいくタイプではなくて、演奏が盛り上がってくるにつれてグッと後ろに引いていきながら“気持ちいいね~”って叩いてる感じ。それが新鮮で面白かったですね。その中でどういう風にノリを作っていくかは結構研究しました。それと、リズムの組み上げ方とかノリとか、今まで詰め切れていなかったところがどんどん分かるようになってきましたね。(タカハシ)ヒロヤスは特に細かくて、例えば、ドラムに対してベースがどの位置で鳴っていると一番気持ちがいいかを体感で捉えるだけじゃなくて、緻密に考えてやっていたところがあって。それを一回理解した上で、みんなで“せーの”で作ったのは前作までとは違ったところかな」
 
タカハシ「ドラムは今までサポートでいろんな人に入ってもらっていて、当たり前ですけど全員のノリが違うんですよね。その中で何が重要かと言ったら“音楽を楽しむ”ことだと思っていて。大樹くんは音楽全体を楽しみながら、その中で自分のパートを全うするスタンスの人。“このアーティストの、この感じのノリが出したい”っていうリクエストにもバッチリ応えてくれましたね」
 
 
歌詞を書くことで、曲の理解度も増す
それぞれのパートしかやっていないと
演奏することだけに主張を込めようとする傾向がある
 
 
――『brain-train』(M-3)『vital』(M-8)は、これまでにない解放感がありますね。
 
タカハシ「『vital』は僕らも好きな曲調ですね。今回はこういうタイプの曲も聴いてもらいたくて」
 
とまそん「この曲はナッキー(=坂本)の詞も本当にいいんですよね。聴く度にそう思うわ」
 
坂本「(照笑)。褒めてくれるのはすごく嬉しいんですけど、めちゃめちゃ恥ずかしいんですよ。そんな人前で…」
 
――坂本さん、『tiny』(M-7)の詞もめちゃめちゃいいですよ(笑)。
 
坂本「だから恥ずかしいんですって!(笑) ギターのことを褒められるのは平気なんですけど、歌詞に関してはすっごく恥ずかしい。そういえば皆さんに聞きたいんですけど、歌詞ってどうやって書きます?」
 
――聞いてみたいですね。
 
とまそん「俺はね、わざわざ電車に乗りに行って書く。周りに人がいるところの方が集中出来るのと、周りに音楽が鳴っている場所だと集中出来ないから。カフェとかは絶対に音が鳴ってるでしょ? だから絶対にダメ。曲を聴いてブツブツ言いながら電車にずっと1時間ぐらい乗ってて、気付いたら千葉まで行ってたりとか(笑)」
 
タカハシ「山手線だったらぐるぐる回ってるからいいんじゃない?(笑) 僕はメロディを先に作るから、いろんなシチュエーションでそれを聴いて、思い付いた言葉を書き留めておいて、家でまとめる」
 
坂本「僕はとまそんさんに近いんですけど、散歩しながら書くタイプなんですよ。2~3時間散歩する中で詞を考えますね。僕も家とかカフェとかでは絶対書けないですね」
 
――大樹さんは?
 
大樹(ds)「僕は歌詞を書くこと自体、今回が初めてだったんですけど、ドラムのフレージングを考えるのに似てました。僕の場合は、サビは聴かないでイントロだけをとにかくループして聴きまくるんですよ。その中でどんなイメージが広がるか、どういう世界がいいのかを考えるやり方ですね。僕は3人のように作詞のノウハウがないから時間もかかったし、ヒロヤスさんにアドバイスをもらいながら何とか書くことが出来ました」
 
タカハシ「歌詞を書くことで、曲の理解度も増すと思うんですね。それぞれのパートしかやっていないと、演奏することだけに主張を込めようとする傾向があるような気がして、そこに音楽的なカッコよさをあまり感じないんですよ。大樹くんは加入して間もない中での作業でしたけど、歌詞を書くことで楽曲を客観的に見る目も持ってもらえたらという気持ちもありました」
 
大樹「(頷きながら)新鮮な出来事でしたね」
 
 
新しい体制で動き出す今このときに、自分たちはどうなっていきたいのか?
 
 
――音が磨かれていっている傍ら、歌詞の言葉はどんどんシンプルに、言葉数も少なくなってきていますね。ヒロヤスさんが今回唯一詞を書いている『slowtown』(M-5)に至っては、4行しかない(笑)。
 
タカハシ「そうですね(笑)。前作までは曲を作るときもAメロ、Bメロ、サビまである曲や、もっと長い歌詞を書いたりしていたんですけど、今回はバンドの演奏で聴かせる部分をもっと増やしたいという気持ちもあって。言葉数もどんどん減らしていきましたね」
 
とまそん「詞は4行しかないけど、この曲が一番時間がかかったよね?」
 
タカハシ「かかったね」
 
――核になる言葉や必要なフレーズだけがあればいい、というような潔さも感じます。それと今回、とまそんさんが書かれた詞が特に印象深くて、『Point of No Return』の“悠然と滑走して”とか、『stereochrome』の“行く宛が欲しいのさ/居場所なんて求めない”の辺りに、バンドが明確に前に進んでいこうとしている姿勢が重なって見えて。あと、『INITIALIZE』(M-4)の“世間に向かって叫んで踊りたい”は、振り切るような曲調とも相まって、何かに抗っているようにも感じられたり。
 
とまそん「僕が歌詞を書くときは、かなりたくさんのワードを考えて作っていて、ボツになったものもいっぱいあるんですね。デモの段階でヒロヤスが英語か何語か分からない言葉で鼻歌みたいに歌っているのを聴いてると、“か行”と“さ行”の子音がよく登場することに気が付いて、そういう音でこの部分を歌いたいんだろうなって分かるようになってきて。『Point of No Return』だったら、さっき言われた“滑走して”はか行とさ行で出来たワードで、意味と共に響きも重視して言葉を見付けてきているところもあるかな。実際にヒロヤスが歌ってるのを聴いてもすごく自然だったから、よかったのかなぁと」
 
タカハシ「なるほど!(笑)」
 
とまそん「『Point of No Return』は、ヒロヤスが最初に曲を持ってきたとき、まだパズルのピースが揃っていない段階ですでに“これは1曲目にしたい”と言っていて。その1曲目=アルバムのスタートをどういう言葉で始めるか? 大樹くんがメンバーになって新しい体制で動き出す今このときに、自分たちはどうなっていきたいのか? みたいなことをイメージして作っていきました。この曲の詞は、今まで応援してくれたお客さんに対して、“みんなの応援を受けて自分たちは飛び立ちたい”っていう気持ちを書いたんですね。“Point of No Return”は航空用語なんですけど、そこまで行ったらもう引き返せない位置のことを指していて、“喝采は管制塔”っていうのも、みんながくれる喝采を信じて飛んで行けば、そこに道はあるっていう気持ちも込めて。言葉の響きとか、音として気持ちのいい言葉という点は重視しつつ、1つ1つのワードがポンと耳に入って、曲自体を邪魔しないもの。なおかつ、詞としてちゃんと意味のあるもの。それが全部うまくハマッた気がして、“出来た!”っていう手応えがありましたね」
 
――なるほど。
 
とまそん「『stereochrome』は逆に、旅の終わりのイメージ。終わるんだけど、自分たちの中ではここからまた先へ道は続いていくんだろうなっていう想い。映画のエンドロールが流れていく中で、未来に続く道がバーッと開けていて、この曲が聴こえたらいいなぁと思い浮かべながら作りました。1曲目との統一感が出せたかなぁと思います」
 
――ここから先の未来、シューゲイザーの先にある光を見せてもらえたような曲だと思います。
 
 
毎回何が起きるか分からない空気を放っていてワクワクします
 
 
――シーハーズのライブは、4人それぞれの熱さや温度が違っているのも面白いですよね。ヒロヤスさんはどんなに激しくギターを弾いていても、とてもクールに見えるし。
 
タカハシ「僕は、熱がどんどん内側に入っていくんです(笑)」
 
――とまそんさんは、今こうして話している感じとほぼ変わらない。坂本さんは、ノッてくると気付いたらギターをお客さんに預けてドラムを叩いたりしていて(笑)。大樹さんから見てフロントの3人はいかがですか?
 
大樹「僕も最初はシーハーズのお客さんだったから、お客さんがライブ中にニヤニヤしながら聴いてる気持ちがすごく分かるんですよ(笑)。今はメンバーとして3人の兄さんたちを後ろから見ているんですけど、毎回何が起きるか分からない空気を放っていてワクワクします。それは会場にいないと分からないものなんですよね。(坂本が)ドラムを叩いたりするのも予定調和じゃなくて、目が合う瞬間が1秒でもズレてたら流れは変わるでしょうし、毎回生々しいんですよ。去年どこでライブやったときだったか俺、気付いたらステージのド真ん中でギターを弾いていたことがあって! 何でそんな事態になったのか分かんないんですけど(笑)」
 
とまそん「ギター弾けないのにね(笑)」
 
大樹「本当ですよ! あれから、いつ何が起こるか分からないから、最近めっちゃギター練習してるんですよ(笑)」
 
坂本「ええ心がけやね(笑)」
 
とまそん「僕は自然にというか、ステージでもいつも通りにありたいなと思っていて。何かのスイッチを入れなきゃステージに上がれないのも不自然な気もするし、そのまま出て行って演奏してるのを“いいね”って言ってもらえたら、それが一番カッコいいと思うんですよね」
 
タカハシ「1月にフェニックスの来日公演を観に行ったんですけど、彼らみたいなナチュラルでカッコいい感じってどうやったら出せるんだろう? ヘンに意識し過ぎると、“ナチュラルに弾くことを演じてる”ようにも見えちゃう気がするし、ライブ=エンタテインメントとしてガンガンに盛り上げるのもショーとしてはいいんでしょうけど、自分たちのありのままにナチュラルに、カッコいいものが出来たらいいなと思いますね」
 
――最後に読者の皆さんにメッセージをお願いします!
 
タカハシ「新作には今まで以上にバンドの勢いを詰め込むことが出来たし、音楽的にも質の高い作品になったと思います。前から僕らを知ってくれてる人たちはその辺りの変化も味わえると思うし、初めて聴く人にももちろん楽しんでもらえる自信はあります。ライブはバンドの一番いい瞬間を見せられる機会だから、ぜひたくさんの人に観に来て欲しいですね」
 
とまそん「大阪は6月25日(水)梅田Shangri-Laでワンマンをやりますので、待っていてください!」
 
 
 
Text by 梶原有紀子



(2014年6月16日更新)


Check

Movie Comment

前回同様じわじわくる…(笑)
シーハーズからの秀逸動画コメント!

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Release

前作から10ヵ月のインターバルで
届いた新体制初となる2ndアルバム!

Album
『stereochrome』
発売中 2400円(税別)
SPACE SHOWER MUSIC
DDCB-14022

<収録曲>
01. Point Of No Return
02. EXCUSE
03. brain-train
04. INITIALIZE
05. slowtown
06. foehn
07. tiny
08. vital
09. Everything Reminds You
10. stereochrome

Profile

シー・ハー・ハー・ハーズ…写真左より、元オトナモードのとまそん(b)、元プリングミンのタカハシヒロヤス(vo,g,syn)、松浦大樹(ds)、チリヌルヲワカの坂本夏樹(g)。タカハシ、とまそん、坂本の3人により’11年8月結成。同年11月、関口孝夫(ds)が加入。’12年3月に1stミニアルバム『scene』をリリースし、東名阪ライブツアーを行う。同年7月、関口が脱退。’13年 5月10日に、1stフルアルバム『Rollercoaster』をリリース。同年末にサポートを務めていた松浦が正式加入。3月19日に2ndアルバム『stereochrome』を発表。現在はライブハウスを中心に活動中。通称シーハーズ。

She Her Her Hers オフィシャルサイト
http://sheherherhers.com/


Live

東名阪リリースツアーが間もなく開催
メロウな轟音渦巻く大阪ワンマンへ!

 
『She Her Her Hers presents
“stereochrome” tour 2014』
 
【東京公演】
チケット発売中
▼6月23日(月)19:00
LIVE HOUSE FEVER
前売2800円
新代田FEVER■03(6304)7899
 

Pick Up!!

【大阪公演】

チケット発売中 Pコード227‒883
▼6月25日(水)19:00
梅田Shangri-La
自由2800円
Shangri-La■06(6343)8601

チケットの購入はコチラ!
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【名古屋公演】
チケット発売中 Pコード228-171
▼6月26日(木)19:00
池下CLUB UPSET
前売2800円
ジェイルハウス■052(936)6041

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Column

チャットモンチー福岡晃子も参加
違和感に手を伸ばす美しき轟音
1stアルバム『Rollercoaster』!
前回インタビューはコチラ