より開かれたポップを目指して。
4thアルバム『サイダーの庭』を発売した
スカート・澤部渡 インタビュー。
澤部渡、26歳。自身のユニットであるポップ・バンド“スカート”のヴォーカル&ギター。バンドは、佐久間裕太(昆虫キッズ/ドラムス)・清水瑶志郎(マンタ・レイ・バレエ/ベース)・佐藤優介(カメラ=万年筆/キーボード)の固定メンバーを有するが、澤部自身あらゆる楽器を演奏し、ひとりでも活動するマルチ・ミュージシャンだ。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文にも絶賛された、弾けるようなポップ・ソングに隠された複雑な楽曲構成、巨体を揺るがせ汗を飛び散らし熱唱するエモーション、それと相反するどこか鬱屈として内省的な世界。そんな魅力をさらに深めながら、より開かれた傑作4thアルバム『サイダーの庭』を6月4日にリリースした彼に話を聞いた。不安と自信が交錯する、ポップ・マスター創造の源とはーー
――冒頭から激しい変拍子なのに、抜けのいい音でスっと耳に入ってきて驚きました。前作を経て今回はどんなアルバムにしたいと考えていましたか。
「前作の3rd『ひみつ』は、今でもとてもいいアルバムだと思っているんですが、改めて考えるとどこか内省的で閉じた印象があったんです。それはまわりの評価や状況という点でも、音の印象という点でも。それで、今までとは違って、レコーディングを近藤祥昭さん(Gok Soundスタジオ・数多くのミュージシャンのミックス/PAを手掛ける日本屈指のエンジニア)にお願いしたんです。アナログテープで録音したミックス前の音を聴くだけで全然違いました。結果的に今までと違う手触りになったし、満足いく音になったと思ってます。なので、1曲目からそう聴こえていたらとても嬉しいですね」
――パッケージも初のデジパック仕様で、今まで以上の気合を感じました。毎回ジャケットには敬愛する漫画家のイラストを起用していますが、今回は満を持して盟友とも言える西村ツチカさん、しかも今までにない水彩っぽいタッチが新鮮で。
「パッケージに関してはこれまでずっと紙ジャケだったんですけど、某レコード店に行った時に、棚に並んだ自分のCDがぺしゃんこになっているのを見て、完全に心が折れまして…。次は紙ジャケは絶対にやめようと。その分お金はかかるんですけど、そこはもう、あんな気持ちにはなりたくないなって。音だけでなくパッケージでも新しいアプローチをしたいとは考えていました。あと、これも先ほどの話につながるんですが、自分のバイオグラフィーを書いてて気づいたんですけど、共演したり一緒に仕事した人たちが、スパークスやカーネーション、ムーンライダーズなど、自分の年相応じゃないベテランの人たちが多くて。前作のジャケも森雅之さん(1957年生まれの漫画家・代表作に「夜と薔薇」「ペッパーミント物語」など)だったし。今度はもうちょっと若い世代にも広くアピールしていかねば…という気持ちもあり(笑)次のジャケはツチカさんだ!と決めていました」
――その、「もっと広くアピールしたい」とか「閉じている」っていう部分をもう少し具体的に聞きたいです。
「えっと、例えばネットで“スカート 澤部”とかでエゴサーチしても、ほとんど悪口を書かれてないんですよ。褒めてもらえるのはもちろん嬉しいことなんですけど、もしかしてある層から外側にはまだまだ届いていないのかなって思っちゃうんです。自分より売れてないバンドでも2ちゃんでスレ立ってるのにオレのはないのかよ!!って(笑)。いやもちろん別に叩いて欲しいわけじゃないんですけど、もっと自分の思惑の範疇を超えないとダメだなと思って。そのへんが、今回のアルバムは開かれた作品にしたいという思いにも繋がってます」
――これまでは過去の楽曲を再録して収録するものもありましたが、今回は比較的新たに書いた曲が多いようですね。
「そうですね。昨年からCDR作品で発表したものなど、最近の楽曲だけでコンパクトにまとめました。幸い、毎年1曲くらいは核となる曲が出来るんですけど、今回はタイトル曲の「サイダーの庭」が軸になってアルバムが出来た感じですね。これは自分の中でも頭ひとつ抜けた感じがあったし、この曲をもとに全体に開かれた空気感が出ているかなと思います」
――とはいえ、明るく爽やかな印象と同時に、複雑な曲展開や思慮深く屈折した歌詞などが隠れているのも、スカートのポップの魅力だと思います。
「ストレートな表現に対する抵抗があるんです。元々、中高生のころに流行っていた青春パンクなんかがもうほんと受け付けなくて…。そんなころにyes,mama ok?というバンドに出会いまして、『Q&A 65000』というアルバムの冒頭(メンバー高橋氏を酔わせてドラム叩き語りさせたというブっ壊れた矢野顕子のカバー)から衝撃を受けました。これがポップだ!これからはポップなんだ!って思ったんですよね。ロック的なものへの反発というか。分かりにくいことを分かりやすく見せたり、相反するイメージが同居しているってのは、ポップにおける大切な要素だと思います。あと、僕は漫画が好きなのですが、昔からバトルものだったり、友情・努力・勝利…的な様式美を受け付けられないんです。障害を乗り越えて成長するみたいな物語に美しさを見出だせなくて。これってもしかしたら僕の重大な欠陥なんじゃないかとさえ…。そこから逸脱するものだったり、もっと日常にある些細な心理描写とか、そういったもののほうに、どうしても惹かれるんです」
――そういえばよく「若いのに幅広い音楽の知識がある」って言われてますけど、むしろ興味のあるものだけを異常なまでに掘り下げていくタイプですよね。
「まさにそうです。最近気がついたんですけど、僕は音楽そのものが好きというよりピンポイントで“自分が好きな音楽が好き”なだけなのかなって。現在進行形の音楽もそんなに網羅して聴いてないですし、買ってるレコードもふと気づいたら1984年以前のものばかりだったり…。ホント生まれる時代を間違えたなと思いますよ(笑)。あとね、実はあんまりディスクガイド的なものも読まなくて。そこにズラっと並んでいるものを見ると聴いたような気になってしまうんです。それよりも信頼する誰かが勧めてくれるものを聴きたいんです。だから80年代のUSインディーとか全然知らないのに、yes,mama ok?の金剛地さんに教えてもらったゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツは大好きになったり。逆に興味ないものはホントに頭に入ってこないんですよね」
――ところで、澤部くんはインディーズといってもどこかのレーベルに所属するわけでなく、ずっと自らCDを製作しては梱包し、配送から集金までひとりで行う完全な自主制作スタイルですよね。そこにこだわりはありますか?
「よく“DIY精神にのっとってる”とか言われますけど、実はそこにこだわっているわけではないんです。そうするしかなかったので始めたことが続いているだけで。実際は、レーベルからのお話もないわけじゃないんですけど、本当にすべて自分のやりたいようにできるのかとか、他のバンドを見ていたり、トータルで考えてみるとあんまり変わらないんじゃないかなって気もして…。まあ雑務が多いですし、ホントそこは大変なんでどうにかしたいですけど。毎回アルバムのリリース前にはどこか身体壊してますし。もちろんDIY精神は大切にしたいと思っていますけど、少し考え方も変わりつつありますね」
――前作リリースのころ、長年勤めた書店でのアルバイトもやめましたよね。あれはこれから音楽だけでやっていくという宣言だったのでは?
「いや、正直言うとあれは引越しするタイミングで、もう通勤が難しくなるなと(笑)。ただ、その後もバイトはせずになんとかやってはいます。音楽だけで食っていくぞ!ってほどの気持ちではないですが、子供のころからぼんやりと“音楽が好きでい続けられれば、きっとどうにかなるだろう”とは思ってましたね。その気持ちは今も持っています」
彼はよく、自分の趣味や音楽が「若者らしくない」ことを嘆く。しかしその音楽は決してノスタルジックなものでもないし、過去の音楽を現代的に表現するタイプのミュージシャンでもない。ただいいメロディと歌と演奏を追求し、伝わらない言葉を抗ってまた捜す。そんな誠実さが音楽に表れているのだと感じる。スカートの“ポップ”は、いまのシーンにおいて斬新な存在でありスタンダードたり得るものだ。その魅力をさらに押し拡げるニュー・アルバム『サイダーの庭』を、ぜひ手にとって聴いて欲しいと願う。
(2014年6月23日更新)
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