妄想を科学する、我らが空想委員会
ダメ人間恐怖症を背負った委員長・三浦隆一(vo&g)が
バンドの成り立ちから恋愛敗者の美学までを語る
メジャーデビューアルバム『種の起源』インタビュー&動画コメント
ゲスの極み乙女。、KEYTALKら、今をときめくロックバンドがうごめくシーンにまた1組、風変わりなバンドがメジャーデビューを果たした。その名は空想委員会。名前とその風貌からして間違いなくヲタ、いや不穏な空気が漂うバンドだが(笑)、“究極の低恋愛偏差値が奏でる、草食系文学ギターロック!”とはよく言ったもので、灰色の学生時代を過ごしたと自負する空想委員会・委員長、三浦隆一(vo&g)の詞世界は、たったひと言の何気ない褒め言葉にしつこいぐらいに執着する『残響ダンス』、メガネを取ったら実はカワイイ的めっけもん女子を発見したときの荒ぶる衝動を記した『ラブトレーダー』(笑)、優しきラブソングかと思いきや最後に身の毛もよだつオチが待ち構える『エリクサー中毒患者』など、一粒の種を妄想で巨大化させる着想が秀逸。それを、緩急自在のフックと練り上げられたアンサンブルを礎に恐るべきクオリティで聴かせる、ひときわ異彩で何だか身近という、不思議な魅力を持つバンドだ。だが彼らとて、度重なるメンバーの脱退により三浦1人が取り残されること過去2回、サポートドラムのテディが事務所の社長でありマネージャーという特異なスタンスといい、多くの挫折と実験を繰り返しここにたどり着いたバンドでもある。デビューアルバムの『種の起源』は、ダーウィンの著書であり、彼の唱える“進化とは、変わるものと変わらないものが、常に混在している”という進化論に由来する。2014年のダークホースと成り得るか!? 静かなる暴走=妄想を徹底的にポップに鳴らす、空想委員会・委員長、三浦隆一に訊いた。
音楽だけが唯一の居場所という感じで、必死でしたね
――空想委員会は成り立ちも独特で、メジャーでやるにしてもDIYな姿勢は失われていないですね。
「ドラムを叩いている人が(事務所の)社長なので(笑)。そこはずっとやってきた形がありまして、そこにレコード会社さんに力を貸していただく感じですね」
――社長でマネージャーでサポートドラムって、めっちゃコストパフォーマンス高い(笑)。この形態はいつから?
「自主でやっていたときにドラムが抜けちゃうタイミングがあって。そのとき社長はイベンターをやっていたんですけど、そのイベントに僕らが出て、“本気でやるんだったら手伝うよ”っていう話になって。社長がいなかったらこうなっていなかったと思いますよ」
――ただ、メジャーデビューしたことを自分の高校時代の友達が知ったら、絶対にビックリするはずだっていうくらい灰色の学生時代を過ごしたみたいですね(笑)。
「多分全員ビックリしますよ(笑)。いてもいなくてもどっちでもいいみたいな存在で、部活にも入ってなかったし、勉強もそんなにでもなかったですし。ただ文化祭でギターを弾いてたりはして、そこだけ唯一“あいつギター弾くんだ”みたいな」
――そんな人でも学祭でギター弾いて歌うっていうのは不思議ですね。
「進学校でみんなそれどころじゃないんですよね。“文化祭の準備するんだったら勉強するわ”、みたいな学校だったので。そこで僕だけ唯一本気というか、1人燃えていた感じ」
――そうやって聞いていたら、灰色感はないですけどね。
「いや~音楽だけが唯一の居場所という感じで、必死でしたね。友達は彼女と下校したりとかしてましたけど、それをただ眺めているだけで」
――それだけ音楽にのめりこんだのは何なんでしょう? 進学校にいるなら勉強して良い大学に入る方向もあったと思うし、そうするヤツが大半の中で、なぜ音楽に肩入れしたんでしょう?
「小学校中学校では結構勉強もスポーツも出来て人気者だったんですよ。でも、高校で一気に落ちこぼれて…。バスケ部もケガして辞めちゃって。文武両道の学校で、そうなりたくて入ったんですけど全然どっちもダメで、困ったなと。頑張って上を抜く気もなくてモヤモヤしているところに音楽で吐き出す方法を見付つけて、学校が終わったらすぐに帰ってギターを弾くっていう生活になったんですよね。その頃は普通にテレビとかで流れている音楽を聴いてたんですけど、ゆずが出てきたときに、こんな感じでやっていいんだって結構ビックリしたんですよ。しかもお客さんを路上ライブで1000人集めたって聞いて」
――ただ、普通のストーリーだったら、ギターを持って学祭でライブしたらモテ始めるじゃないですか? そうはならなかったんですか?
「これがならなかったんですよね~(笑)。アコギ弾き語りがダメだったんですかね? 友達はバンドを組んで、キャーキャー言われてたんですけど。やっぱエレキギターの魅力には負けましたね」
――そこからどうやってバンドになっていったんですか?
「大学で音楽サークルに入ったんですけど、最初は弾き語りがしたかったんで、バンドには全然興味がなくて。友達のバンドがベースが抜けて困ってたので、とりあえずやってみようってベースを始めたんですけど、それで“バンドって面白い!”となりまして。ただ、そのバンドにはボーカルがいて、オアシスとか洋楽のカバーをやってたんですよ。いつかボーカルのポジションを奪ってやろうと思ってたんですけど、その人が歌が上手くて(笑)。だからベースを弾きながらコーラスしてたんですけど、自分で曲を作れば“俺が歌うわ”って言えるかなと思って、そっちを頑張り始めて。最終的には奪いましたよ」
いまだに小学校のときに失敗して
怒られたこととか笑われたこととか全然覚えてますよ(笑)
――空想委員会のキャッチフレーズ的にも“究極の低恋愛偏差値”とか、“恋愛敗者の美学”と出てきますが、楽曲から感じるメッセージとか、ブログに書いていることって、ダメ人間ではなくてむしろすごくしっかりしていて。
「多分そうしないともっとダメというか、結構気を付けています。おっちょこちょいで普段はすごくダメなので、委員長という立場もあるのですごく気を使って、日々緊張感の中で生きています(笑)」
――そうしないと自分が一気に転落していく予感があるんですかね?(笑) 取材にあたっていろいろと空想委員会を調べていく内に、“これ、モテないことはないんじゃないか?”って思いましたけどね。
「何なんですかね?」
――実際モテてないんですね、じゃあ。
「そうですね(笑)」
――いつでもダメ人間に転げ落ちる自分をどこかで感じているから、ちゃんとする。
「そうですね。特に大学を出るときに就活をして、そこで改めて“あ、ダメだわ”と思って。そこからずっとですね。本当にみんなちゃんと就活してて、そこまでやってんのかって、ヘコんだんですよ。そういう人たちと比べて、何にも気を付けてないと本当に救いようがないので。周りの友達は結構ちゃんとしている人が多くて、公務員とか学校の先生とか医者とか弁護士とか、そんなのばっかりなんですよ。なので余計に、バンドにいっちゃったので、みんなビックリするんですよね。“お前歌ってんの!?”みたいな」
――今回のアルバムを作るにあたっても、100曲くらいデモ作ったらしいじゃないですか。すごい!
「メジャーの1作目なので、レコード会社の方にも気合いを見せておかないとなって(笑)。メンバー全員そうなんですけど、今までの最高傑作を出そうというのはあったので。3人で協力して曲をいっぱい出したんですけど」
――空想委員会の世界観の軸にあるのは不遇な学生時代だったりしますけど、僕自身は学生時代のことってもう全然覚えてないんですよ。100曲も書けるほど覚えてない。でも、空想委員会はそこが強烈な原動力になっている。
「友達と話していてもそうなんですけど、みんなあんまり覚えてないんですよね。逆に僕は、結構鮮明に覚えているタイプで、無理やりひねり出してるわけじゃなくて。いまだに小学校のときに失敗して、怒られたこととか笑われたこととか全然覚えてますよ(笑)。映像で覚えていますね。そのとき見てた情景も含めて」
――マジで(笑)。だから教室の中の風景が、ちゃんと今でも同じテンションで歌えるのか。
「昔のことだと思っていたら、逆に歌うのが恥ずかしいと思うんですけど。いまだに続いているのかもしれないです、そのときの意識が」
――後から思い出がどんどん乗っかってくるじゃないですか。でも、上書きされないんですね、そのエリアは。
「そういう点では、容量が大きいってことですかね? ただ、最近のことの方が覚えてないかもしれないです(笑)」
――ただ、ここにたどり着くまでに度重なるメンバーの脱退があって、バンドが自分1人になった時期が2回もあるってすごいですね。“今が第3期”とかよく言ってますけど、ディープ・パープルみたいな(笑)。
「アハハハ(笑)。僕だけ唯一オリジナルメンバーで、あとはみんな変わっているので。今思えば、バンドのリーダーとして頼りなかったというか。よくバンドのボーカルって、メンバーに対して“俺はこういうイメージだからこういう風にやってくれ”みたいに言うらしいんですけど、僕は今まで言ったことがなくて。“とりあえずデモは作るから好きにやってみてください”みたいな。多分それが頼りない風に映ったんじゃないかな。“バンド向いてないんじゃないですか?”って言われて辞められたりとか(笑)。でも、そのときは言い返せなかったですね。そうだよね~みたいな。辞めた3人が違うボーカルを探して新しくバンドを組んだり(笑)」
恋愛に関するモヤモヤしたところは残したい、というよりは“残った”(笑)
――今回のアルバム『種の起源』はそれこそ最高傑作にしようということでしたけど、制作において空想委員会として守っていくべきだと思ったところはありますか?
「歌詞ですね。恋愛に関するモヤモヤしたところは残したい、というよりは“残った”(笑)」
――過去に強烈な失恋の思い出とかがあったりするんですか?
「これまた、あまりイヤな思い出もないんですよね。他の人から見たらどうか分からないんですけど、僕の物差しで言うと“納得しちゃう”というか、相手の気持ちになったら“しょうがねぇな”って、自分が悪かったって思っちゃうので。だから恨み節とかも歌ったことがないんですよ。もう恋なんてしない、フラれた! クソが! みたいなことはないですね(笑)」
――そんな学生時代をモチーフにした曲もあれば、それに留まらない世界がある曲もあって。リードトラックの『八方塞がり美人』(M-2)に出てくる、こういう知的な女性が好み?
「大人な女性が好きですね~。大人の頑張っている女性が美しいなという」
――この曲は空想委員会の独自の目線と、まさに“今”感があるビートというか。
「よく“このサウンドにこの歌詞なの?”って言われるんですけど、歌いたいことがそれなのでしょうがない(笑)。音的には佐々木(g)と岡田(b)の影響が大きくて。僕が全部作ろうとすると歌詞に寄った感じになるんですけど、デモの段階で2人に投げちゃうので、2人がいるからこういうバランスになるっていう」
――ジェットコースターみたいなサウンドの中で、自分好みの女の話をする(笑)。知らねぇよ、みたいな(笑)。
「アハハハハ(笑)」
――『残響ダンス』(M-3)のたったひと言の褒め言葉にしつこいくらいに執着する姿も面白いですけど(笑)、『エリクサー中毒患者』(M-4)も、最後にホラーのような、すごいオチが。
「まさかの。グラビアの画像とかを夜な夜な見て癒されて、明日も頑張ろうかっていう(笑)。周りの人に言うと引かれるかもしれないですけど、言わない分には全然(笑)。毎日ちゃんと仕事なり勉強なりをしてるんだったら、誰も文句言わないんじゃないかなって思うので」
――面白いですね。隣の人とは繋がっていないけど、空想委員会とは繋がっているみたいな、不思議な感覚。
「あ~、そう思っていただけたら本当に嬉しいです」
僕は居場所がないと思って音楽が始まっているので
――空想委員会は楽曲のクオリティがすごく高いですよね。『ドッペルゲンガーだらけ』(M-8)のリフとかもめっちゃカッコいいし、楽曲も怒涛の展開というか、うねりの中を突き進んでいくイメージ。
「フレーズは各々結構こだわっていますね。僕のギターは簡単なんですけど、他のメンバーは結構難しいことをやりたがるので。ただ、みんな歌を一番に聴かせようとしてくれているので。そこは歌っていてありがたいところです」
――曲作りをする上で、自分が大事にしている部分ってありますか?
「メロディですかね。サウンドは信頼して任せちゃってるんですけど、メロディはバンド内審査を通るのが結構厳しい。“いや、このサビはパンチないわ”とか結構言われるので、そこをまず越えていくものを作るのと、アレンジをする人のテンションが上がるメロディを作らないとなっていうのは、すごく気を付けています」
――それこそさっきの『エリクサー中毒患者』とか、『「ユートピア」検索結果』(M-9)もそうですけど、幸せはごく身近にあるということを伝えてくれたりもありますね。
「それはずっと考えていたことですね。僕は居場所がないと思って音楽が始まっているので。でも、生活しなきゃダメじゃないですか。そこでどうやって前向きになるかと考えると、現状をちゃんと把握していないと目指す場所も分からない。そういう意味で今置かれている状況をしっかり知ることが大事だなとは思っています」
――あと、『カオス力学』(M-1)と『自然選択説』(M-11)がそうなんですけど、『カオス力学』は現状に対して不満や文句があったとしても、それを選んだのは自分で、例えばバイトだって数ある職業の中から自分が選んでやっているわけで。でも『自然選択説』では、そうやってあなたが選んだものは正解なんだよって背中を押してくれる。どっちの面もあるというか、この辺の感覚が達観してるなって。
「多分昔だったら書けなかったですね。インディーズ時代にやってきたことも含め、今だから分かるというか。いや~昔は分からなかったですね。一回開き直るのは大事ですよね(笑)」
――今を嘆くよりも、そうなった今が正解なんだって。達観してる。ちなみに今お幾つなんですか?
「設定上は未成年ってことで(笑)」
――アハハハハ!(笑)
僕らなりの音楽を貫き通したい
――実際にメジャーデビューして、ファンと自分の関係性とか、音楽ビジネスとは何かみたいなことを考える時間もあったと思います。
「ファンの方との関係性は、それこそ『自然選択説』で歌っていることがそれなんですけど、残っていくものは残っていくし、変わるものは変わるんだろうなって。ただ、残るものは“残るべくして残る”ので、より絆は深くなるんだろうなって感じてますね。あと、音楽ビジネスという点においては責任をすごく感じているし、僕らがエンジンなので、そこはガムシャラにやらないと、伝わるものも伝わらない。それはビジネスというよりは、意識としてしっかりやろうとは思っていますね」
――真面目やん、ホンマに(笑)。
「気を付けてますよ、めちゃくちゃ(笑)。気を抜いたらすぐダラけるので」
――その予感も十分ありつつなんですね(笑)。
「本当にもう気を抜いたら終わりだと思っています(笑)。『カオス力学』でも“気を抜くな”って言ってますからね。自分に歌っています、あれは(笑)」
――あと、ゲスの極み乙女。とかとも一緒にツアーを周ったりする仲ですが、そういうバンドたちがシーンを賑わせている今のシーンについてはどうですか?
「置いていかれないようにっていうのはありますね。羨ましいのは大いにありますよ(笑)。でも、やっていることが違うので、そう簡単に便乗して売れたりはしないだろうなと思ってるんです。それこそ真似とかをし出したら終わりだと思っているので。しっかりついて行って、僕らなりの音楽を貫き通したいと思っていますね」
――それこそライブも、地道にお客さんを増やして各地にツアーを周れる状況になって。昔、“研修ツアー”という名目で、呼んでもらえれば練習スタジオとかでもライブする企画をやっていましたよね。
「はい、大赤字でした(笑)。そのときは他に頑張る方法が分からなくて、せっかく聴きたいっていう人がいるんだったら行きたいっていう想いだけで動いてましたね。今思えば、やっておいて良かったなって思います。そのときのファンの方もいまだにいらっしゃるので。名古屋とか大阪とか福岡とかに行ってたんですけど、そこからもう歴史が始まっている。ワンマンに行くたびにそのときのことを思い出して、いろいろあったよね~って思いながら演奏出来るのは、やっていて良かったなと」
――あと、このコスチュームも含めての世界観って、最初からあったんですか?
「徐々にですね。最初は“委員会なのでシャツネクタイは義務”で始まって、学校にまつわるイベントをやったりとか…お客さんが楽しんでくれるように、ワイワイやるのも好きだったので、だんだんそういうアイディアが固まってきた感じですね。観てくれる方が面白がってくれるのが一番なので、これからも面白いことが出来たらなと」
――最後に、これからの空想委員会の目標を教えていただけますか。
「メンバーみんながずっと言ってるんですけど、代わりの利かないバンドになりたい。それが=空想委員会らしさだと思うんですけど、“こういう気分のときに聴くなら空想委員会しかない”っていう音楽が出来るように、自分たちの思っていることに正直に、嘘をつかないで出していく活動が出来たら良いなと思っています。あと、ギターの佐々木は武道館公演をやりたいと言っていて、そこを目指して頑張っています」
――武道館で空想委員会がやるときは、いろいろ作り込めそうですね~。
「何でも出来そうですよね。夢が膨らみますよ!」
――いつか実現することを楽しみに!
「ありがとうございました!」
Text by 奥“ボウイ”昌史
(2014年6月23日更新)
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