渡辺シュンスケによる未来系ポストジャズ・プロジェクト
Schroeder-Headz(シュローダーヘッズ)の4年ぶりのアルバム
『Synesthesia』ツアーがいよいよ開幕へ! 数々の現場を支える
イマジネーション溢れる旋律の謎に迫るインタビュー&動画コメント
佐野元春、小泉今日子、PUFFY、柴咲コウ、藤原ヒロシ、後藤まりこ、DE DE MOUSE、スコット&リバース(From アリスター&ウィーザー)、YO-KING、遊佐未森など、数々の著名ミュージシャンのサポート・キーボーディストとしても活躍する渡辺シュンスケによるポスト・ジャズ・プロジェクトSchroeder-Headz(シュローダーヘッズ)。約3年ぶりとなる2ndアルバム『Synesthesia』は、シナスタジア=共感覚(音に色を感じたり、味に形を感じたりする特殊な知覚現象)というタイトルにもあるように、受け取る人によって印象が異なるような、イマジネーションに溢れたポップミュージックが封じ込められている。肌触りのいいピアノの音色に誘われるように、躍動感に満ちた鮮やかな色彩、きらきらとまばゆく輝くさま、ときには静けさに浸るモノトーンな時間、といったものが浮かんでは消えていく。「歌がないから、自由に聴いて欲しい。映画音楽のように、ストーリーを感じてもらえたら」と話すように、音楽の豊かさに今一度、気付かせてくれる1枚だ。ピアノトリオというシンプルな編成だからこその自由度の高いアンサンブルと、琴線に触れるメロディ。そこに込められた想いや狙いを話すにつれ、自身のルーツや日本人としての音楽的アイデンティティといった部分にまで話題は及んだ。
部屋に花を飾ってキレイだなと思ったりするように
誰かにとってのそういうものに自分の音楽がなれたら
――『Synesthesia』はメジャーレーベル移籍第1弾ということで、制作の際に意識したことはありましたか?
「今までやってきたことをもっとたくさんの人に聴いてもらう、いいチャンスをもらったなと。音楽好きな人にも、普段あまりCDを買わないような人にも、両方から好きになって欲しいなっていう気持ちがすごくあったので、そこは意識して作りましたね。とっつきやすくて、だけどちゃんと深みのあるアルバムになったらいいなって」
――昨年は、土岐麻子 meets Schroeder-Headzとしての活動や、12月にはリミックスアルバム『Sleepin' Bird』(リミキサーにSerph、NUMB、L.E.D.、フィーチャリングゲストにShing02)をリリースして。そこから今回はシンプルなピアノトリオに戻ってきました。
「元々はピアノトリオにこだわってSchroeder-Headzを始めたんですけど、リミックスアルバムを出した頃はもうちょっと自由にやろうと思っていた時期で、ピアノだけ生でほとんどは打ち込みで作って、それを好きなアーティストに投げてリミックスしてもらったアルバムだったんで。今回はもう一度ピアノトリオにこだわって、その中で新しい表現が出来ないか突き詰めたアルバムにしようと思ったんです」
――ピアノトリオということで、ベースに須藤優、ドラムに鈴木浩之というU&DESIGNのお馴染みの2人に加えて、曲によっては新たに千住宗臣がドラマーとして参加しています。個人的には彼のドラムが生々しくて印象的でした。
「U&DESIGNの2人は、1枚目のアルバムからライブもレコーディングもやってくれてるので、お互い気持ちもよく分かるしやりやすい。千住くんは後藤まりこのバックバンドで一緒にやらせてもらったときが最初だったけど、ひと目惚れっていうかひと聴き惚れして。素晴らしいドラマーですね。考えてることも深くておもしろい」
――アルバムは『Memento Mori』(M-1)という警句をタイトルにした、短くも美しい曲でスタートしますね。
「やっぱり3.11がショッキングだった。無力感というか…それまで仕事として音楽で生活させてもらってたけど、どういう気持ちでこれから音楽と向き合っていけばいいのかを考えさせられて。その1つの答えとして、“楽しむこと”って生きる上ではやっぱり必要だなと思った。メメント・モリは“人はいつか必ず死ぬことを忘れるな”っていう警句ですけど、“だから生きる”というか。部屋に花を飾ってキレイだなと思ったりするように、誰かにとってのそういうものに自分の音楽がなれたら…自分が音楽をやる意味はそれだなって。そういう想いを集約して、例えば夕日みたいに圧倒的に美しい曲を作りたいっていう発想で作りました。“人生って素晴らしい”という気持ちになるのはなかなか難しいけど、そういう気持ちになれるようなね」
――続く『Blue Bird』(M-2)はストリングスも入っていて、ドラマチックな曲ですよね。3分を過ぎた辺りで一旦静まって、再びスタートしていく流れが“再生”を連想させる展開だなと。ずっと裏で打たれているBPM160くらいのキックの使い方も新鮮で。このキックの使い方は『Petal』(M-7)でもありますよね。
「自分のルーツは坂本龍一さんや久石譲さんだけど、今それと似たようなことをやってもイージーリスニングみたいになっちゃう恐れがある。だから、今の時代に合って、グッとくるやり方を探してる。ジャズって、生の楽器で、トラディショナルなもので、マナーもしっかりある音楽で。それはそれでスゴく好きなんですけど、同時にテクノだったりクラブミュージックも好きで聴いてきて、それが自分の中では平行線上に並んでるので、上手くミックスしておもしろいものに出来ないかなって。それがそのキックだったりするし。その躍動感の中にピアノのアルペジオが入った感じが気持ちいいんですよね」
“ジャズ+初音ミク”を、やっていいのは日本人だけ
――『Tokyo Tribal Sacrifice』(M-5)では初音ミクを使用しています。“東京”で“サクリファイス=生け贄”というタイトル、それをボーカロイドの初音ミクに歌わせる、という重なりが意味深ですね。
「いいですね、そういうの。これは深読みして欲しい曲だと思っていて。この前、インドネシアのジャズフェスに出演したんですけど、そうやって海外のシーンやアーティストを観る機会があると、日本人としてのアイデンティティとなる音楽的ルーツや武器っていったい何だろうなって考えるんです。でも、戦後の経済成長期の中でどんどん欧米化していく日本が現実としてあるだけで、そういうものって結構ないなって。ただ、その中で唯一“テクノロジー”は誇れるものとしてあった。じゃあ今、日本の音楽としてのそれって何だろうって言ったら、初音ミクとかがそうなのかなって。村上隆さんが“スーパーフラット”という概念で、オタクという日本独自のカルチャーをアートに上手く取り込んで昇華したように、そういう発想で楽曲が出来ないかなって。“ジャズ+初音ミク”を、やっていいのは日本人だけというか」
――確かに! 実際、彼女を使ってみてどうでしたか?
「人間には出来ないような乱暴な使い方するのもおもしろいかもって試したり。元々はもっといっぱい使ってたんですけど、エンジニアやスタッフが“大丈夫か?”っていう顔になってたから、我に返ってちょっと減らしました(笑)」
――『Far Eastern Tale』(M-6)は“日本”を連想させるメロディです。
「僕自身は80年代の音楽がルーツとしてあって。さっきの話にもつながるんですが、すでに欧米化された日本で育ってきて、その中から生まれた細野(晴臣)さんの『はらいそ』(‘78)みたいなオリエンタルな感覚が好きだったけど、でも今、あからさまにそういったことをやるのは健康的じゃない気がしたんです。じゃあどうするか、という中で形にしたいと思って作った曲。そういう風にテーマを考えてから作るのも好きなんですよね」
――『Petal』や『Midnight Sun』(M-8)は、電子音楽の感触も強いですよね。
「『Petal』は構造がジャズとは全然違っていて、ミニマルミュージックっぽいんですよね。レイヤーになっていく作りで、景色が移ろっていく感じを表現したくて。エレクトロニカを生でやってるというか。『Midnight Sun』は、打ち込みか生か分からないくらいにしたいなって。1回レコーディングしたものをパソコンに取り込んで、お正月にずーっと家でエディットしてました(笑)。ドラマーの叩くグルーヴだけを抽出して、打ち込みに差し替えたりとか。新しい、おもしろいこと出来ないかなって」
今一番やりたいことは何だろう?って改めて考えたとき、ピアノだったんです
――ピアニストでありながら、プログラミングやエディットも自分で行い、活動の幅も自身のバンドであるCafelon、Schroeder-Headz、サポートと様々です。そういったアプローチの中で、Schroeder-Headzのポジションってどういうものなんですか?
「原点回帰というか。歌も好きでCafelonでは歌ってたんですけど、今一番やりたいことは何だろう?って改めて考えたとき、ピアノだったんですね。やっぱり、『戦場のメリークリスマス』(‘83)みたいな曲を作りたいっていう気持ちがある。学校の音楽室で、思わず弾きたくなっちゃうような曲を作りたい」
――『Synesthesia』のリリースツアーが5月4日(日)梅田Zeelaから始まります。大阪では初のワンマンとなりますが、どういったライブにしたいですか?
「ゴキゲンなライブにしたいですね。ピアノトリオとしてバンドっぽく盛り上がるところもあれば、(その音色にゆったりと浸って)気持ちよくなる瞬間もある。それこそアルバムタイトルのように、曲によっての色を感じられるライブになったらいいなって。生演奏なので、同じ曲でもこんなに違ってきちゃうんだっていう部分も、楽しんでもらえたら嬉しいですね。インプロヴィゼーション(=即興演奏)してる内に全然思わぬ方向に行っちゃったりするときもあるし(笑)。ライブのおもしろさってそういうところでもあるんで。楽しみ方は自由だけど、提示していくのはこっち。そこも含めて、自分のやってかなきゃいけないことかなと思っています」
Text by 中谷琢弥
(2014年5月 1日更新)
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