坂本龍一らも称賛の声を贈る、極上のミニマル音楽アンサンブル
ペンギン・カフェが新作『ザ・レッド・ブック』を携え
2度目の来日ツアーを9月に開催へ!
貴重なインタビュー&動画コメントが到着
無国籍なミニマル音楽アンサンブルで、80年代にはポスト・パンクやニュー・ウェイヴの聴き手からも幅広く支持され、日本でもジャンルを超えて高い人気を誇ったペンギン・カフェ・オーケストラ。そのリーダーだった父の遺志を継いで、息子のアーサー・ジェフスが再始動させたペンギン・カフェが待望の新作『ザ・レッド・ブック』を完成させるとともに、2度目となる来日ツアーを行うことが決定した。よりスケール感を増した新作とペンギン・カフェという不思議な楽団の魅力、そして次回のツアーについて来日したアーサーに語ってもらった。
もしかしたら宇宙人も聴いていたかもしれないけれど
彼らも気に入ってくれたことを祈っているね(笑)
――前作『ア・マター・オブ・ライフ…』(‘11)と比べると音のスケール感が増し、より現在のメンバーならではの躍動感のあるサウンドを確立した作品になりましたね。
「前作は3ヵ月でスナップ・ショットを撮るようにレコーディングしていった作品で、“ペンギン・カフェ”という古いカフェをもう一度オープンさせるような感覚で作っていったものだったけれど、今回は1年半も時間をかけて作っていったんだ。一度作曲して録音したものを、もう一度聴き直して細かい部分を変えたりして、締め切りを考えずに作り込んでいけたのがよかったね」
――今回のアルバム制作は、NASAから依頼されて、’12年夏に宇宙科学者で構成されたオーケストラのために曲を書いたところから始まっているそうですが(『オーロラ』(M-1)『1420』(M-7))、それはどういうものだったのですか?
「NASAにいる知り合いから電話をもらって参加することになったんだけど、宇宙飛行士やNASAの職員で構成された、インターナショナル・スペース・オーケストラのために曲を提供するというプロジェクトで、僕の他にも日本の明和電機やデーモン・アルバーンなどのいろんな人が参加していた。その曲をジョージ・ルーカスのスタジオで録音して、国際宇宙ステーションに向けて発信するという奇妙な試みで、もしかしたら宇宙人もそれを聴いていたかもしれないけれど、彼らも気に入ってくれたことを祈っているね(笑)」
――なかなか壮大なプロジェクトですね(笑)。でも、ペンギン・カフェと宇宙というか、NASAとの組み合わせも意外なイメージでした。
「そうだね。宇宙船のようなものすごくハイテクなものと、ルイジアナのスワンピーな音楽の要素も入っている僕らの音楽のような、牧歌的で人間臭いものの融合は、バランスの取り方は難しかったけど面白い経験だった。ペンギン・カフェのアルバムで宇宙という発想も今までになかったけれど、世界中のトラディショナルな音楽の要素を独自に組み合わせて、“想像上のフォーク音楽”を作ってきたこととは通じるところがあったよ」
――NASAとのコラボ以外では、新作の制作過程で何か大きな変化などはありましたか?
「ちょうど今回のアルバムの制作を始めた頃に新しい家を購入したんだけど、そのピアノを置いてメンバー全員が集まれる広さのある部屋で、通常のレコーディング・スタジオでは出来ないような録音の仕方をいろいろと試せたのが大きかったね。独特の音の響き方をする屋根にマイクを吊るしてトライアングルを録音してみたり(『(ザ・ローリング・オブ・ア・)サイレント・サン』(M-11))、演奏のバックで部屋の暖炉の火がパチパチと弾ける音が入ってくるのをあえて残してみたり(『カターニア』(M-6))。僕は元々エンジニアとしての勉強もしていたので、作曲/レコーディング/ミキシングは一体のものと考えていたけれど、それが時間をかけて理想的な環境で出来たと思うよ。作業が終わった後は、その部屋でみんなでパーティーもしたし(笑)」
ペンギン・カフェでは何らかの結果や個性を出さなければいけないという
プレッシャーがないから、自然体で優しい気持ちで演奏出来る
――ペンギン・カフェの現在のメンバーは、スウェードのニール・コドリング(p&ウクレレ)、英国スカの代表格のトロージャンズに在籍するダレン・ベリー(vl)、ゴリラズのドラマーを務めるキャス・ブラウン(打楽器)など。他のメンバーもクラシック、映画音楽、ジャズなどの第一線で活躍するプレイヤーばかりです。そんなメンバーたちにとってペンギン・カフェはどういった場なのでしょう?
「みんなペンギン・カフェだけをフルタイムでやっているメンバーではないけれど、ペンギン・カフェでは何らかの結果や個性を出さなければいけないというプレッシャーがないから、自然体で優しい気持ちで演奏出来る場所になっているんじゃないかな」
――確かに。ペンギン・カフェの音楽は、メンバーそれぞれがエゴをぶつけ合うようなものとは対極ですよね。
「以前ロンドンのラジオショーで取材を受けたときのキャスの発言がとても面白かったのだけど、“ペンギン・カフェの一番の魅力は何ですか?”と訊かれたのに対して、“リード・ボーカリストがいないことですね”と答えたんだ(笑)。そのボーカリストは友人でもあるしとてもいいヤツだとココでは断っておくけど、ペンギン・カフェでは、ライブでも誰かがセンターに立つわけではなくて、全員が円を囲むように並んで、曲が進んでいくごとにいろんな場所でいろんなことが起こる。そして、僕たちの曲は同じフレーズを繰り返すことが多いけれど、一度目と二度目では何かが少し変わっている。そこを楽しんでもらえると嬉しいね」
――9月には、一昨年以来の2度目の来日ツアーが行われます(関西は9月23日(火・祝)大阪・サンケイホールブリーゼ、24日(水)京都コンサートホール アンサンブルホール ムラタ)。今回はどのような感じに?
「もちろん新しいアルバムに収録された曲を中心に、東京公演では日本のコンテンポラリー・ダンサーとの初共演も予定しているので、とても楽しみにしているよ」
Text by 吉本秀純
(2014年5月23日更新)
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