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日本人にしか出来ないソウル、アナにしか出来ないポップミュージック
ドラマーの脱退を経て、2人体制初のアルバムとなる
『イメージと出来事』と喪失の美学を解説する
大久保潤也(vo&g)と大内篤(g)インタビュー&動画コメント

 アナのニューアルバム『イメージと出来事』は、何て良質なポップスだろう。’11年末にドラムのNOMAが脱退したことで大久保潤也(vo&g)と大内篤(g)の2人体制となって初となるこのアルバムは「メロディと歌詞が最も活きるようなアレンジにしていこう」(大久保)という思いのもと、シンガーソングライターのYeYeやTurntable Filmsの谷健人(b)など、多彩なゲストミュージシャンを迎えて制作された。シティポップやブルーアイドソウル、チェンバーポップといった要素や今の時代感を“取り入れた”とか“昇華した”じゃなく、それらを血肉としている2人が真っすぐに鳴らす、軽やかで強度のあるポップミュージック。聴き込むほどに、随所に散りばめられたこだわりや新しさ、意図や意味を発見していけるような…。ドラムの脱退からアルバムが完成するまで、そしてリリースツアー“2014年の出来事”について、2人に話してもらった。


“バンド”っていう感覚じゃなくなった


――’11年末にドラマーが脱退以降、2人体制になって初のアルバムです。どういった変化がありましたか?


大内(g)「ドラムが脱退した直後に、“この後どうしていくのか?”っていう話があって。これまで以上に打ち込みとかを使って2人でサクサク動けるようなものにしていくか、ゲストミュージシャンに頼りながらバンドとしてやっていくか。となったときに、せっかく大久保のいい歌があるんだから、より“歌モノ”としてやっていきたいよねっていう話になったんです。アレンジにしても、今までだったら“3人で出来るもの”っていう枠があって、そこから組み立てていくスタイルだったんですけど、今回はそれを一旦なくして。まず大久保の歌があって、それに合うような僕のギターだったり、それすら関係なく極端な話、僕より合うギタリストがいるならその人を使ってもいいし、という。“バンド”っていう感覚じゃなくなったというか」

大久保(vo&g)「それも、レコーディングしながら見えていった感じですね。アコギの弾き語りでデモを作ってるんですけど、その時点で、メロディと歌詞で、“これはアナだな”って感じられたんで。だったら無理に打ち込みの曲を入れたりせずに、それが最も活きるようにアレンジしていこうって。曲自体はほとんど’12年に書いて、’13年に1年かけてレコーディングしていきました」

――プロデューサーには、前作『HOLE』(‘11)に続いて上田修平(RUFUS)を迎えて、主に京都でレコーディングしたとのことですが。

大内「毎月のように京都にある上田くんの自宅スタジオに通って。さっきの“バンドじゃなくなった”っていうのにも繋がるんですけど、前作だと3人がバンドとして上げたデモに、上田くんが“もう少しこうしたらどうだろう”っていう形だったんですけど、今回は大久保がデモを上げた時点で、僕と上田くんに一緒に送って、その3人でアレンジの方向性を考えた。プロデューサーが最初の段階から入ってきたところが前作との違いですね」

――資料によると、今作を制作するにあたって頭にあった音楽として、メイヤー・ホーソーン、ベニー・シングス、坂本慎太郎といった名前を挙げています。

大久保「シンガーソングライターの作品って昔から好きで聴いていたけど、自分たちがバンドで体現出来る音楽ではない、と思っていた。けど、今回はそういった人たちのような(歌が最も活かされるアレンジにしていく)アプローチにしようって。ホーン隊だったり鍵盤だったり、いろんな人に参加してもらって、今までのアナより上のレベルに持っていこうって

――トランペット、サックス、テナー・サックス、トロンボーンという4人のブラスセクションが印象的な『妙な季節』(M-3)をはじめ、アルバム前半はソウルな曲が並びます。そのあたりの音楽は元々、よく聴いていたんですか?

大久保「むしろ一番好きなくらいで。でも、日本人がヘンにブラック・ミュージックをやっちゃうのはカッコ悪いんで、バンド3人の頃は出来るだけ避けてきたんです。やっぱり黒人にはなれないし。でも、歌詞とかリズムとか、日本人にしか出来ないソウルみたいなものはあると思っていて。ある意味、“J Soul Brothersだ”って言ってるんですけど(笑)。しっかりしたプレイヤーと、それをやれるんであればやりたかった。いろんな人に参加してもらうにあたって、同世代の人と一緒にやりたいというのはあったんですけど」

――それはどういった意図で?

大久保「30歳を越えたのが、2人の中でデカくて。歌詞でも“大人じゃないから”とかずっと言ってたんですけど、30越えてそれはヤバいなって(笑)

――最後の曲の『ハイライト』(M-11)でも“もう子供じゃない”って歌ってますもんね。

大久保「“ああ、もうそういう歳なんだな”って。で、周りをぱっと見渡したら、同世代のアーティストの作品に心からいいなと思うものが多くて。この世代を盛り上げるというか、自信を持ってやっていけるなって」


今までは、明らかに“こいつフラれたな”って分かるくらい(笑)
実体験だけだったけど


――今作のゲストミュージシャンには、アニス&ラカンカ、タノシオリ(vo&g・saltlee)、谷健人(b・Turntable Films)、嶋岡良介(b・I HATE MONDAYS)、植木晴彦(key)、アナのライブのサポートメンバーでもある有田恭子(ds)、高垣空斗(b)の2人と様々ですよね。

大久保「今回はベーシストがたくさん参加してくれてて。こういう音楽ってベースとドラムが重要だから、ソウルっぽいものだと谷健人くん、疾走感あるものは嶋岡良介くん、っていう風に、曲によって合う人にそれぞれアレンジをお願いしました。ドラムは打ち込んだものを叩いてもらったんですけど、有田恭子はすごく器用なので何でも対応してくれて」

――『かなしみのこちら側』(M-4)では京都の女性シンガーソングライターであるYeYeをフィーチャリングして。全編2人で歌う、という不思議な形です。

大久保「ちょっとおもしろいものにはしたくて。 プロデューサーと話したときに、“この曲は女性ボーカルがハマると思う”って言われて。今までだったら、(参加してもらうにしても)コーラスくらいだったんですよ。でも今回は歌詞とメロディが一番いい形に落ち着くようなアレンジにしようっていうのがあったから、その方が曲が良くなるならそうしようって。YeYeとはずっとやりたいと思ってたし。最終的に僕のパートをカットした方が良いんじゃないかって悩むくらいYeYeがばっちりハマってくれて。」

――勝手な解釈としては、“悲しみの斜向いに立って/通りの向こう側に手を振る”という歌詞にあるように、“斜向い”感なのかなって。アナの2人がいて、向こうにYeYeがいて。

大久保「いや、“斜向い”に特に意味はないですね(笑)

大内「でも素敵な解釈ですね、それ」

――前半はソウルっぽい華やかなアレンジの曲が並んでいて、『サヨナラの位置』(M-5)を挟んで後半は、より歌モノになっていく流れですよね。

大久保「そうですね、後半はじっくり聴いてもらった方が伝わる。でも歌詞に関してはずっと同じテンションで書いていて。特に今回は『イメージと出来事』のアルバムタイトルの由来でもあるんですけど、実体験と想像とか映画を見てインスパイアされて書いたものとが、半々くらいなんですよ。今までは、明らかに“こいつフラれたな”って分かるくらい(笑)、実体験だけだったけど。今回は想像も実体験の出来事も、1つ1つのシーンを冷静に俯瞰した歌詞で」

――でもその“出来事”をラストの『ハイライト』では否定するというか。“奇跡はきっと出来事じゃなくて/あの光や色だと”“奇跡はきっと出来事じゃなくて/あの匂いや音”と。

大久保「今回の根底にあるのが、山田太一さんの『冬の蜃気楼』っていう青春小説で。若い男女と中年の男の3人で進んでいくんですけど、20年くらい経って3人が再会するんですよ。でも、3人とも記憶が全然違ってて、1人は青春時代の重要な思い出として捉えていたことが、他の2人には全く関係ないような“そんなことあったっけ?”みたいな出来事だった、っていうような話なんですけど。それこそ誰かと出会って別れてってアルバム1枚作れちゃうくらい重要な出来事なんですけど、あれだけ重要だと思っていたことも、意外とどんどん忘れていっちゃってるもので。それって逆に言うと、普通に暮らして起こってる出来事も、俯瞰して見れば映画のワンシーンみたいに奇跡的なことだったりする可能性もあるっていうことで。いろんな想像だったり、身近であったことだったり、どこを切り取っても今回はよかったような」



バンド界隈にいると、“ポップ”って軽く見られるんですよ


――『長いお別れ』(M-9)にある“きっといつか誰もが君を失う時が来て/ながす涙を僕は今ながしてるから”という歌詞にもグッときました。

大久保「歌詞に関しては最近、全部“死”の匂いがするんですよね」

――“死”が身近にあって、それも俯瞰出来るようになった、ということですか? 『渚にて』(M-10)も、幸せなワンシーンのはずなのに、すでに終わりを見ている、という寂しさや諦めがあって。

大久保「前からそういう部分はありますね。失うのが美しいというか、そういうのこそJ Soulだと思う(笑)。よく例えで“夕暮れ”を出すんですけど、“SUNSET”って言ったらサンセットビーチとかカクテルの名前とかになるじゃないですか。ハワイとかだと、日が沈んだらワーッて歓声上がるらしいんですよ。その感じって日本にないじゃないですか。“暮れる”だったり“黄昏”だったり、ネガディブな“失う”っていうものを楽しむ美学。それが日本のいいところだと思っていて」

――あと、“夏”を連想させる歌詞も多かったですよね。

大久保「何ですかね。“夏”っていう言葉は出てくるんですけど、夏感はないというか。『ハイライト』とかは、夏の忘れられないシーンを思い出してる感じだし。夏というより季節、ですよね。季節って日本にしかない感覚なので。例えばそれを英語詞にしたとしても、感動出来るのって日本人だけだと思うんです」

――“ポップであることに引け目を感じなくなった”とも話されていました。

大久保「中学生くらいから音楽を始めて、ずっとポップなものが好きで。その当時に聴いてたスチャダラパーだったり小沢健二さんだったり、そういった人たちみたいに、おもしろい形で出したくて試行錯誤してたんですけど。でもバンド界隈にいると、“ポップ”って軽く見られるんですよ

大内「見た目もね、こんなだし(笑)

大久保「それで、ナメられちゃいけん、っていうので、奇抜なパフォーマンスをやったりしてたんですけど。普通にいい歌を歌ってるんですけど、横でこいつはドリルでギターを鳴らしたり、頭からレーザー出したり(笑)

大内「電気グルーヴからの影響もあって、ピエール瀧さんみたいなことをやったり(笑)

大久保「ライブの前になると、なぜかみんな東急ハンズに行くっていう(笑)。“何か使えるものはないか!”って。音楽的にも、このままやるとちょっとポップ過ぎるからマイナーにしようとかしてたんですけど、前のアルバムを出したくらいから、周りのバンドも英語詞だったのを日本語でやり出したり、“シティポップ再評価”みたいなものもあったりして。そこに関しては、アナはずっとやってる自負があるから、今回はそこを出し切ろうって。ポップスでも、歌詞やアレンジで説得力あるものに出来るんじゃないかっていう自信もあったので」

――ここ最近のシティポップ再評価、どう見えてますか?

大久保「ずっと好きだったんですけど、それをそのまま自分たちで今やろうとはあんまり思ってなくて。あれって時代性のあるものなので。今回は作るときにシティポップっていうテーマも上がったりはしたんですけど、それを大々的にするのは嫌だった。山下達郎さんにしても、結局はソウルじゃないですか。それがたまたまシティポップだと言われてただけで」

――でも、チェンバーポップの要素だったり“テン年代のシティポップ感”はありますよね。それを取り入れたり昇華したりじゃなく、そういった今の匂いを分かってる人たちがポップミュージックをやってる、という音楽だなと。

大久保「まさにそう思われたかったから、嬉しいですね」

――そして2月22日の新代田FEVERを皮切りに、リリースツアーがスタートして。4月26日(土)には梅田Shangri-Laでワンマンもあります。

大久保「大阪はワンマンなんで、なるべくフルメンバーで臨みたい。レコーディングが京都だったのもあって参加してくれたミュージシャンも関西の人が多いので、ツアー中一番豪華なのが大阪になると思いますね」

大内「僕らのテンションも大阪が一番高い。お客さんとの相性が異様によくて。ドリルで弾いたりとかの演出も好きなんですけど、今回はそうじゃない見せ方というか、今までにないアナを見せられるんじゃないかなって」

大久保「ちょっと大人になったアナになると思う。もちろん根底にショーマンシップがあるから、楽しませたい。見逃さないようにして欲しいですね」

大内「でも多分…保険として、ドリルは持っていくと思います(笑)

 

Text by 中谷琢弥




(2014年4月 4日更新)


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Movie Comment

大阪ライブの見所と裏話アンドモア
をたっぷり語った動画コメント!

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Release

瑞々しいセンスを抽出した
2014年型ポップアルバム!

Album
『イメージと出来事』
発売中 2500円(税抜)
SECOND ROYAL
SRCD-040

<収録曲>
01. 永遠だったかもしれない
02. 下弦の月
03. 妙な季節
04. かなしみのこちら側 feat.YeYe
05. サヨナラの位置
06. コピーのように
07. モーニングベル
08. 荒野でコーヒーを -follow you-
09. 長いお別れ
10. 渚にて
11. ハイライト

Profile

アナ…写真左より、大内篤(g)、大久保潤也(vo&g)。福岡で結成され活動を続けてきたが、現在は東京に拠点を移し活動中。バンド名は’97年に雑誌コーナー『CORNELIUSとバンドやろうぜ!!』への掲載を期に命名(大久保、大内は当時中学生!)、その後某航空会社からのバンド名使用差し止めというレアな経験を経て現在の表記に落ち着く。異例の速さでのメジャーリリース、映画への楽曲提供、映像作品の主演、他アーティストのプロデュース、ドリルメーカーmakita社とのタイアップ、福岡の名物フェス『Sunset Live』への連続出演、過去にスチャダラパー、口口口、group_inouなどを召喚した自主イベント『PATROL』主催など精力的かつマルチに活躍。’10年、京都発インディーズレーベルSECOND ROYAL RECORDSに電撃移籍。移籍第1弾のアルバム『HOLE』を’11年にリリース、全国“HOLE”ツアーも大成功を収めた。同年末にNOMA(ds)が脱退。’14年1月29日には、プロデューサーに前作から引き続き上田修平、ゲストに数々の同世代ミュージシャンを向かえ2人体制になっての初の作品『イメージと出来事』をリリース。

アナ オフィシャルサイト
http://www.a-naweb.net/


Live

アルバムリリースツアーも終盤
大阪公演が間もなく開催へ!

Pick Up!!

【大阪公演】

『アナ「イメージと出来事」
リリースツアー“2014年の出来事”』
チケット発売中 Pコード224-403
▼4月26日(土)18:30
Shangri-La
オールスタンディング3000円
サウンドクリエーター■06(6357)4400
※小学生以上は有料、未就学児童は無料(大人1名につき、子供1名まで同時入場可)。

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【福岡公演】
チケット発売中 Pコード222-839
▼4月28日(月)18:00
Fukuoka BEAT STATION
オールスタンディング3000円
BEA■092(712)4221

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【東京公演】
チケット発売中 Pコード226-800
▼5月10日(土)18:30
TSUTAYA O-Crest
オールスタンディング3000円
TSUTAYA O-Crest■03(3770)1095

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