4年越しの新作の前に立ちはだかる作詞の苦悩から
まさかのソングライティング術、歌詞なし生写真付き(笑)デモ音源集
『Think Your Cool Kick Yell Demo!』、大ヒット曲『愛は勝つ』
の現在までを語る、KANインタビュー
KANの15枚目のアルバム『カンチガイもハナハダしい私の人生』(‘10)がリリースされてから早4年…。今も首を長くして彼の新作を待っている。自身のオフィシャルサイトにて毎週更新されている“金曜コラム”(秀逸!)にて、“アルバムは来年=2013年に発表します。ということをここに軽率に宣言しておきます”と綴った2012年末、“アルバム、出ませんでした。いや、がんばったんですよ、マジでマジで”と吐露した2013年末を経て(笑)、現在は2年ぶりのバンドツアー中のKAN。心機一転、新たなメンバーと共に、溢れるエンタテインメント精神と、日本の音楽シーンに脈々と流れる素晴らしきポップミュージックを各地に届けてくれている彼に、4年越しのニューアルバムに向け彼を最も苦しめる歌詞との格闘、まさかのソングライティング術、かの大ヒット曲『愛は勝つ』の現在、そして、今回のツアーでコンサートグッズとして会場限定で販売されている歌詞なし生写真付きの(笑)デモ音源集『Think Your Cool Kick Yell Demo!』etc…と、リリースタイミングでないからこそ出来た(!?)レアなインタビューを敢行。「“こうなったらおもしろいな”って思っちゃったら、それをきちっとやりたい」。いつだってリスナーとオーディエンスに(時にアーティストにも!)刺激と幸福をくれる彼のDNAが、ユーモアの中に見え隠れしていたなら嬉しい。
去年の代表作はくまモンでしたから(笑)
――まずはKANさんにとって2013年はどんな1年でした?
「去年はアルバムを作るって宣言して、結局作れなかったんですよ。そのためもあって、まとまった休みも取ってないですし。だから、何だったんだろうなぁ?っていう感じ。去年の代表作はくまモンでしたから(笑)」
――リリースアイテムは、くまモン公式イメージソング『くまモンもん』と、スターダスト☆レビューと馬場俊英さんとのコラボレーション作品『靭のハミング』と。常に曲作り期間となると、かえってずっと気を張ったままの1年にはなりますもんね。
「そうですね。あとはライブイベントにもいろいろ呼んでもらったんですけど、僕は1つ1つちゃんと考えてやりたいんで、イベントって言っても準備が大変なんですよ。だからいろんなことに時間が掛かりましたね」
――KANさんは1本のライブも1つの作品というか、すごく作り込まれてますもんね。
「人と一緒にやる=自分1人では出来ないことがやれるわけですよ。せっかくなんで、いろいろ考えて作りたいですしね。それをおもしろいと思って一緒にやってくれる人も、めんどくせぇな…と思う人もいると思いますけど(笑)」
――(笑)。めちゃめちゃシナリオ書いてきたよこの人~みたいなのはあるんですかね。
「この前も塩谷哲くんのイベントに出たときに、ちょっとしたコントというかMCの流れを書いて持って行って。楽屋で佐藤竹善くんと塩谷くんとSkoop On Somebodyで打ち合わせしてたら、Skoop On SomebodyのTAKE(vo)くんが、“ライブで台本があるなんて初めてですよ”って。そしたら竹善が、“台本が1ページなんて少ないよ。この人普段5ページの台本5本書いて来るからね。1ページなんて覚えろよ!”って(笑)」
(一同笑)
「偶然のように見せかけてちゃんと組み立てて、きちっとボケて笑いを取った上で、しっかり演奏する。そういうことを1本1本やっていこうとするとですね、大変なんです(笑)」
――確かにすごいエネルギーがいりますよね。誘う方も“ちょっと1曲歌ってよ”にすごいエネルギーがいる(笑)。
「しまった…っていう風になるんじゃないですか、みんな(笑)」
――あと、先述の『靭のハミング』でも、馬場さんとスタレビの根本要さんにデモ段階できっちりイメージを提示したということですが、すごくKANさんらしいプレゼンだなと。
「僕はもう、デモの段階で全部組み立てるんで。この3組で作ることになったとき、要さんがすぐに“まぁ曲はKANちゃんが作るからいいとして”って言い出して。“いやいや、俺ですか?”、“そりゃそうだろう?”みたいな(笑)。ちゃんとそれぞれをイメージしながら」
――例えば『くまモンもん』も『靭のハミング』にしても、サイドプロジェクトと呼ばれるようなものって自身の作品よりやりやすいもんですか?
「例えば僕が曲を作るにしても、3組の名前で出たりするじゃないですか。だから責任が分散するというか。歌詞も“馬場くんはこんなイメージだよね”っていう風に作れる。“違う”って言われても、“いやいやそうだよ”って(笑)。要さんにはフェイクまで指定して(笑)」
――やりそうなフェイクを(笑)。でも、それだけ明確な絵が見えてるんですね。
「もちろんちゃんと知っていて、聴いているアーティストだからですけどね。『くまモンもん』も歌うのは森高(千里)だし、主役はくまモンですから。だから森高が歌ったらどうなるかを考えて、あとはいわゆる子どもっぽくならないようにするぐらいで。で、少しでも多くの人に聴いてもらうために秦(基博)くんを巻き込んで。“秦 基博”ってクレジットしたら相当売り上げが伸びるだろうって(笑)」
(一同笑)
――そう考えると、作詞・作曲・編曲もするけれど、楽曲全体のコンセプトまで面倒を見るというか。
「そういう性質なんだと思いますね。それは何でもそうみたいです。単純にただ詞と曲を作ってってことはないですね。いろいろ考えて考えて作品以外のところまでを組み立てて、最後に“あ、俺が歌うのか!”って慌てるのはよくありますね(笑)」
――それは子どもの頃からそうなのか、音楽活動をしていく中でそうなったのか。
「昔からそうだと思います。凝り性というか、“こうなったらおもしろいな”って思っちゃったら、それをきちっとやりたい。だから、歌詞も1つのモチーフでは書けないんですよ。じゃあそれがどう終わるのかっていうところまで完全に見えないと」
――この1行が言いたい、とかではない。
「そう。例えば前に出したアルバム『カンチガイもハナハダしい私の人生』(‘10)の『REGIKOSTAR~レジ子スターの刺激~』なんかは、僕の中で完成度は特別に高い。レジの子がかわいいっていう実際の話ですけど(笑)、それだけじゃ書けないんですよね。いろいろ考えて最後に“君はレジ子スター ぼくはノリ越シター”っていうくだりが出てきて、“これで出来た!”って。まぁ、(電車を)乗り越したのは嘘ですけど(笑)」
飲んで、待つ(笑)
――今まで話してきたような外での活動で受ける刺激は、曲を書く原動力になりますか?
「う~ん…何て言うんですかね…まぁ原動力とか気持ちとかじゃないですからね、歌詞を書くって」
――きっかけになるのは、案外別のものなのか?
「うーん、それが分かりゃもっと書けるんですけどねぇ」
(一同笑)
――普段はどうやって歌詞を書いてるんですか?
「作ったデモを何度も聴きながら、酔っぱらって書く(笑)。で、また次の日にそれを見る。まぁ酔っぱらうと適当にパラパラっと言葉が出てくるんですよね。そこで10の内8使えなくても2つぐらいいいのがあればっていう感じで繋ぎ合わせていく内に、何となく見えてきたり。基本は音のゴロだけでいろいろ書くんですけど、それをやってる内に全体の構成が出来てくる」
――じゃあ言葉が降ってきたら、また飲んで、また書き留めるというか。
「いや。飲んで、待つ(笑)」
(一同爆笑)
――でも、それで言葉が降りてこなかったら、ただ飲んでるってことになりますよね?(笑)
(一同爆笑)
「しょうがない(笑)。思い浮かぶこともそうじゃないときもありますけど、実際に書くときはやっぱそうですね」
やっぱり“あんな曲を作りたい”とかいう気持ちで
元々始まってますから。それはもう、今でもずっとそう
――あと、昨年の『第46回 日本有線大賞』では、日本を元気付けるメッセージソングとして20年以上の長きにわたり、リクエストされ続けている実績に対して『愛は勝つ』(‘90)に特別賞が送られましたが、この受賞ライブの模様は、久々にKANさんをテレビで見た人からしたら、すごいインパクトだったでしょうね(笑)。※リオのカーニバル的なド派手な衣装をまとい熱唱。
「ただ、いろいろとコンサートを観てくださってるお客様は」
――やりかねないな、と(笑)。
「“おぉ~今回はやってやったねぇ!”ぐらいの感じで喜んでもらったと思う。だって、“KANって今頃どうしてんだろう?”ぐらいの人に“うわ~KAN懐かし~老けたね~”とか言われるぐらいなら、“うわぁ~KAN気が狂ったのかな?”って言われる方がよっぽど楽しいしね(笑)」
(一同爆笑)
「あれより派手な衣装もなかなかないですけどね。司会がトリンドル玲奈ちゃんだったし、僕、彼女が大好きなんですよ。だから彼女に覚えてもらうために、アレを着ようと思って。きゃりー(ぱみゅぱみゅ)ちゃんも出るし、何か着るタイミングだなぁって」
――今めっちゃシリアスなトーンで話してくれてますけど、やってることはすごいです(笑)。
「あれは、ちゃんと本場のサンバの人に専門店で作ってもらったんですよ。マリアちゃんっていうブラジル人が、日本人と結婚して東京でお店をやってて。ホントにカーニバルで踊ってた人なんです。本物はやっぱ迫力が違いますね、全部手作りですから」
――どこでそんな店を見付けてくるんですか?(笑) これ、クローゼットも大変ですね。
「いや、これは事務所に…(笑)」
(一同笑)
――それにしても、20年以上前の曲を今でもこうやって評価してもらえるのは嬉しいですよね。『愛は勝つ』はビリー・ジョエルの『アップタウン・ガール』(‘83)からインスパイアされたということですが、僕は当時学生でしたけど、それを知ってから改めて聴いたとき、また違う曲の骨格が見えてきてめちゃくちゃ新鮮でした。
「やっぱり“あんな曲を作りたい”とかいう気持ちで元々始まってますから。それはもう、今でもずっとそう。FM COCOLOで根本要さんとやってる『KANと要のWabi-Sabiナイト』(土曜18:00~19:00)で自分の曲を解説するコーナーがあるんですけど、“これは誰々のあの感じをやりたくて作った曲です”っていうエピソードは結構あるし。でも、ときどき“何だっけこの曲?”っていうのがあって、“俺、何をしようとしたんだろう? 何でしょうね?”って要さんに聞いたら、“俺が知るかよ”って(笑)」
(一同爆笑)
――まぁこれだけ活動してきて惰性にならないというのは、ある種大変なことであり、幸福なことであり(笑)。
「やっぱりどんどん作りにくくなるでしょうからね。前と同じような曲はやる気がしないですし。でも、聴く人も過去の曲を全部知ってるわけでもないとすると、別に10何年前と似た曲を出してもいいのにね(笑)。何かまぁ作りにくくなりますよね。それでもみんなやってるもんな。何でやれてるんだろう? みんな」
(一同笑)
「だから続くんでしょうけどね。コンサートもすごいもんな、いろいろ観るけど。“みんなすげーな”って思いつつ」
――KANさんも同じように思われてますよ、絶対。
「うーん、まぁアルバム出さないとねぇ…」
――そうですよね(笑)。ニューアルバムをそろそろ聴きたいなっていう話ですよね。
「この間、山崎まさよしくんに会ったときに“新しいアルバム聴きました?”って言われて。“いやぁ~この期に及んで出すってだけで尊敬するよ”って返して(笑)」
――2014年はKANさんのアルバムも出ますよね?
「…うん」
――怪しい(笑)。
音楽的におもしろくないといけないですから
もう、一時期逆転してた時代があったんでね(笑)
――そして、現在は2年ぶりのバンドツアー中ですが、コンサートグッズのデモ音源集『Think Your Cool KickYell Demo!』もすごいですよね。KANさんのお蔵入り“必至”楽曲。もうこの時点で“必至”って謳ってる(笑)。
(一同笑)
「曲は気に入ってるんですけど、歌詞がもう全くどうしていいか分かんないので、出ないかもな?っていう(笑)」
――その予感が結構あるわけですね(笑)。
「そう。だからラララで歌ってるんですけど、いい曲ですよ、十分(笑)」
――結構以前の曲もあるんですか?
「『H&O_2013_B』(M-3)のH&Oっていうのはまぁホール&オーツですけど(笑)、作り始めたのは10年以上前。あと『BozBalla』(M-4)も’05年ぐらいの曲で。歌詞は全部ギリギリですけどね。歌詞が書けたヤツから世に出る(笑)」
――でも、そんなレアトラックが聴けるなんて、ある意味ファンは嬉しいですよね。しかも撮り下ろし5種生写真付きと(笑)。全部集める人いるのかな? でもこれ、AKB現象みたいに100枚買って、写真だけ抜いてCD捨てられてたら嫌ですよね(笑)。
「いや、それはそれで全然いいんじゃない?」
(一同爆笑)
――あと、体制的にもメンバーチェンジがあって、ちょっと新鮮ですね。
「新鮮ですよ。だって佐藤大剛(g)くんも菅原龍平(cho)くんも僕の15下ですからね。他のメンバーは僕より年上なんですけど。佐藤くんはイベントで一緒になっていいなぁと思って誘って。ベースの西嶋さんも“いやぁ~頼りがいがありますね”って言うから、“18も下の人を頼っちゃダメじゃない”って(笑)」
(一同笑)
――菅原さんは、ジョン・B、ヨースケ@HOMEと結成したバンド、Cabrellsで一緒にやった仲ですね。
「やっぱりコーラスが1人いると、いろんな意味で全然変わってくるなぁって。これまではリズム隊が頑張ってコーラスをしてくれてたんですけど、それも演奏に集中出来るし、選曲の幅も変わるし。当然、彼は歌も上手いですし、ギターもきっちり弾けますし。菅原くんだったら大丈夫だと思ってましたけど、やっぱりソロアーティストとして真ん中に立つ人だから、サポートをさせることに僕自身がちょっと抵抗あったんですよ。でも、菅原くんといろいろ話して、“やってみたいです”と言ってくれたんで。まぁ本人は器用という意識はないんだろうけど、僕は菅原くんしか思いつかなかったですね」
――さらに、KANさんのライブの醍醐味の1つであるエンタテインメントな演出も含めて、楽しくなりそうですね。
「そうですね。まぁでも基本はやっぱり、音楽的におもしろくないといけないですからね。もう、一時期逆転してた時代があったんでね(笑)」
(一同爆笑)
――そっちのことばっかり考えて(笑)。
「ちょっと反省して。おもしろかったけど、そこまでは求められてないなっていう(笑)。ずっといてくれるメンバーからは(音楽的な)それがもうドンドン出ると思いますし、新しいメンバーがオドオドしてるのも、ちゃんと活かせばいいと思いますし(笑)」
――これを終えて2014年はアルバムが…。
「いや、まずは休んで」
(一同笑)
「この前、根本要さんがベトナムに行って、プライベートで外国に行ったのが10何年ぶりみたいな感じで、すごく興奮して帰ってきたんですよ。どんどん知らないところ行くべきだなぁって。だからもうとりあえずツアーが終わったら休もう! まずはそこから仕切り直し(笑)」
――間に合うかな? 2014年(笑)。
「いざレコーディングに入れば悩むことはないんですよ。ただ、歌詞が見えてないとスタジオには入れない。録ったはいいけど歌詞がないってことは、過去に何回もありました。まだ出てない曲もあるし、数年後に歌詞が書けて録り直した曲もあるから、結局、歌詞が見えてないとあんまり意味ないんですよね。だからレコーディングに入る=出来るってことなんです」
――そうか。じゃあもう、あとは休んで飲むしかないってことですね(笑)。
(一同爆笑)
「そうです、ホントそうです(笑)」
――もしアルバムが出来たら、またこうやってお話をする時間を(笑)。
「はい(笑)。よろしくお願いします」
――まずは残すツアーですね。本日はありがとうございました!
Text by 奥“ボウイ”昌史
(2014年3月27日更新)
Check