あらゆる分析をロックンロールで完膚なきまでに破壊する
MO’SOME TONEBENDERの強烈フルスイング!
荒ぶる最新アルバム『Baseball Bat Tenderness』と
モーサムの今を語る、百々和宏(vo&g)インタビュー
数年ぶりにMO’SOME TONEBENDERのライブに足を運んだら、ドラマーだった藤田勇はステージ右手にギターとキーボードを構えて雄叫びを上げ、武井靖典(b)はステージ中央で寡黙でも迫力のあるビジュアルをフルに活かし、時折ジョークをかましながらフロアを煽る。そして、百々和宏(vo&g)はステージ向かって左手で、長い前髪が汗で顔に張り付き視界を遮るのも構わずギターを爆音で歌わせ、自らもがなり立てる。ありえないほどのハイテンション。ステージの上で暴れまくる野獣に魅了されたフロアは、音を浴びて、飛び、歌い、踊り、吠える。なんと美しく爽快な光景。インディーズとメジャーを行き来し、メンバーのパートチェンジや事務所の移籍があった中で今回のインタビューに応じてくれた百々の、「アルバムを出してツアーをするっていう当たり前のことが続けられてよかった」と語ったひと言は、何気ないようで、重みがある。約1年半ぶりに届いたニューアルバム『Baseball Bat Tenderness』、モーサムの超ド級、渾身のストレートを思い切り振りかぶって全力で打ち返せ!!
“ライブで盛り上がる”ことだけを考えて作りました
――前作『Strange Utopia Crazy Kitchen』(‘12)は曲が出来たらその都度レコーディングをしていったそうですが、今作はどうでしたか?
「前作は出来たものからちょこちょこと録り溜めていく感じだったから制作期間も長かったんですけど、今回は2週間ぐらいですね」
――たった2週間ですか!?
「ハイ。僕の曲にいたっては、レコーディング中に1時間ぐらいで曲を作って歌詞も書いて、その場で録るぐらいの勢い(笑)。スケジュール的なものもありましたけど、敢えてそういうやり方を選んだというか、ごちゃごちゃ考える暇なんかないぐらいの勢いで録ってしまいたいなぁって。ライブ感みたいなものを作品の中でも出そうと思ったら、そういう短期間の瞬発力で作りたいなと」
――確かに勢いも伝わってきますし、アルバム全体に熱いものがたぎっているというか、まるでライブの場にいるような空気が詰まっています。
「まさに、“ライブで盛り上がる”ことだけを考えて作りましたね。まず自分らがライブで盛り上がる、自分らのテンションが上がる曲を作ろうと。そんな話はメンバーで改めてしませんし、バンド自体もう16年か17年か忘れるぐらい長くやってるので(笑)、その辺は言わずとも…って感じですね。持ち寄った曲を演ってみて、その場で作って書いて録って“これでOK!”っていう」
モーサムでドン!と音を出すと
自分の中の荒ぶるものとか 、邪悪さとかが全部出る(笑)
――百々さんは昨年2ndソロアルバム『ゆめとうつつとまぼろしと』(‘13)を出し、さらにL’Arc~en~Cielのyukihiroさん、凛として時雨の345さんと組んだgeek sleep sheepもあり。他にもSuperflyとセッションしたり、地元福岡のアイドルLinQから派生したユニットSRAMの作品にもギターで参加したりと、多方面から引く手あまたですね
「もうどんどん寿命が縮まってる感じがありますね(笑)。一昨年あたりからCM音楽を作る仕事もあったりすごく充実していたので、“あぁ、俺ミュージシャンだな”と思う瞬間があったり(笑)。SRAMはアイドルがめんたいロックをやるっていうコンセプトでシーナ&ロケッツとルースターズをカバーしていて、2曲だけギターを弾いてきたんですけど、そういうのも楽しいですよ」
――そういうモーサム以外の活動の反動みたいなものも、今作を作る上ではありましたか?
「反動…というか、例えばソロでは単純にモーサムで出せないフォーキーな曲やサイケデリックな曲が多くて。昔は自分のパーソナルな部分を見せたくなかったんですけど、今は“ま、いいか”って昔話をするような感じで曲を作ったりもしていて。geek sleep sheepは12月に1stアルバムが出たばかりですけど、レコーディングはそれはそれは緻密な作業で、曲もみんなで練りに練って進めていくやり方で、モーサムとは現場の雰囲気も全然違って(笑)」
――真逆ですね(笑)。
「真逆に振り切りたかったのもありますね。モーサムはそれこそ“どんがらがっしゃーん!”っていうノリ一発というか。バンドの外に出てみて改めて分かったことなんですけど、メンバー以外の人たちと曲を作ったりしていると、他のバンドでは絶対に出せない音がモーサムにはあると気付くんですよ。例えば、他の制作現場でどれだけハードにやろうとしても、何か整頓されてしまったり、こじんまりしたりする。でもモーサムでドン!と音を出すと、自分の中の荒ぶるものとか 、邪悪さとかが全部出る(笑)。今回は特にそういうものだけでいいやと思って作りましたね」
――なるほど。『パラダイス』(M-2)で繰り返し“楽しいな”と歌われてますがちっとも楽しそうじゃなくて(笑)、むしろ皮肉めいたアンチイズムがプンプン感じられて、モーサムならではだなと思いました。
「…あまりにもバーッと詞を書き過ぎたから、曲のタイトルを聴いてもどんな歌詞だったか思い出せない(笑)。その曲も30分ぐらいで書いたんで、サッパリ何も考えてないですね。ちょっとヘンな言い方ですけど、“幼稚な歌詞”を書こうと思ったんですね。いろいろ考えて歌詞を作っていくと、ちょっとカッコいいことを言ってみたくなったり、上手い表現を使いたくなったりもするんですけど、モーサムにはもうそんなものはいらんなと思って。最近のモーサムのライブって、ライブ中ずっとお客さんがバカ笑いしてるというか、ちょっとお祭りみたいな感じなんですよね。その空気感だけでアルバムを1枚作りたいなと思ったんで、バカになり切るというか、難しいことは必要ないなと」
――『FEEVEER』(M-3)のミュージックビデオは東京でのシークレットライブの模様を収めたものですが、メンバーもお客さんも盛り上がるどころじゃない狂喜乱舞の世界ですね。汗と熱気でカメラが曇る場面もあったり、4人が頭にカメラを装着して演奏している姿は笑ってしまいました(笑)。
「ヒドいですよね。もう悪ノリの極致です(笑)」
――武井さんがラップでフィーチャーされ誰より目立っていますが、『Happy Blue Bird』(M-11)でも怪しいというかちょっとインチキくさいボーカルも披露されていて(笑)。武井さんはいつからこういうキャラになったんですか?
「ねぇ?(笑) 『Happy Blue Bird』だけかなり昔に打ち込みで作っていたもので、今回改めて聴いてみたらカッコいいねって話になって、“じゃあ武井が歌えよ”と(笑)。元々デジタルハードコア・ロカビリーみたいな曲だったんで、“エルヴィス・プレスリーみたいに歌って”とか適当に言ったら、ああいうめちゃめちゃな歌詞を書いてきて、“バカだなぁ~”って思いましたね(笑)。リリース前に新作披露会みたいなライブを東京でやったんですけど、そのときも彼はずっと頭に被り物をしてましたね」
――アルバムのジャケットでは般若のお面を付けてますしね。
「武井は俳優になった方がいいと思うんですよね。ベーシストよりも性格俳優になれるんじゃないかな(笑)」
モーサムがどういうバンドなのか、メンバー自身もようやく分かってきた
――ちょっと話は逸れるんですが、10年ぐらい前に百々さんにインタビューをしたときに、「モーサムは長く続けられるバンドじゃない」と言われていて(笑)。
「アハハハハ! 10年ぐらい前? その頃はねぇ、バンドを辞めたかったんですよね。3人の仲も悪かったし、取材も大っ嫌いでしたね(笑)。まぁ今になって笑って話せるのはいいことなんですけど。カッコつけた言い方をすると、あの頃は自分たちの音楽に対するストイックさと、いろんなものに対する反抗心みたいなものがあって、バンド内部でも自分らの作る音楽に対して、視野をぎゅーっと狭めてやっている感じでしたね。それはそれでよかったと思うんですけどね。昔はいわゆるジャンルとかシーンとか、そういうものと一切関わり合いたくないと思っていましたから。誰も後についてこないし友達もいないっていう感じでしたけど(笑)」
――自分たちを追い込んで、突き詰めて音楽を作っていた?
「そうですね。メジャーからリリースされる作品で、一番邪悪な音を出してやろうと思ってたんで(笑)。たまにiPodのシャッフルでその頃の曲が流れてくると、心臓がドキッとしますよね。イントロとか“ヒドい音だな~”って(笑)。まぁでもチャレンジ精神みたいなものはあったし、当時はアンダーグラウンドな音楽ばっかり聴いてたし、福岡から上京した直後ぐらいの頃だったんで、“周りのバンドはみんな敵だ!”みたいな感じで音楽をやってましたね(笑)」
――その後、藤田さんがドラムからギターにパートチェンジするときは、バンド内で反対意見はなかったんですか?
「“前に出てくんな”とは思いましたね(笑)。まぁ、モーサムでドラム叩くのに飽きたんじゃないですかね?(笑) 彼は一番の自由人だし、元々ギターを弾いていたので、“ギターを弾く方が自分のやりたいことが出来る”と。おかげでバンドの演奏力はガタッと落ちましたけど(笑)。最初は“ギター弾きたい”とか言いながら居心地悪そうに弾いてたから怒ってたんですけど、最近はちゃんと弾いてるんで以前と比べたら恥ずかしくないステージになってんのかな? 自分らでは分かんないけど」
――初期のモーサムは独特の緊張感があって、それがバンドの迫力や孤高の存在感にも繋がっていた分、一触即発の危うさも感じました。でも、“このメンバーで鳴らせばモーサムになる”っていう不動の強みがあって、絶妙にバランスが取れているんですね。
「不思議ですね。勇のパートが変わったり、武井がベースを持たなくても(笑)成立するモーサムってすごいなって、自分でも思ったりしますね。ライブでも、昔より客がニコニコしながらライブ観とるなぁっていうのも感じますね」
――初めてライブに来た若いリスナーが、気軽に飛び込める空気がありますよね。
「それは今回のアルバムを作るときも考えてましたね。モーサムを全く知らない人たちが初めて聴いても、イントロが始まった瞬間から盛り上がるような曲を作ろうと」
――以前に比べて、音楽への考え方や意識はオーバーグラウンド化してきました?
「今はもっと気楽になってきましたね。自分らの音楽を楽しんでやろうっていう気持ちが強いのかな。とは言え、いまだにハードなサウンドをガッと鳴らすと気持ちいいなぁっていうところはあるし、根本は変わってないんですけどね。多分モーサムがどういうバンドなのか、メンバー自身もようやく分かってきたんじゃないですかね。バンドを続けていくのってやっぱり大変なことで、そこで無理のないように、しかも停滞せずに続けようと思ったら、モーサム以外の音楽活動をやることがプラスになったんだなと思います。そうすることで、“モーサムはこれだ”っていう感覚が出来て、モーサムでやろうとすることにフォーカスが合いやすくなる。今回は特にそういう感覚が強いアルバムになったんじゃないですかね」
モーサムは、ひと言で言うと“スカッとしたい”んですね
――さっき“幼稚な歌詞”と言われてましたが、喜怒哀楽をあるがままに表現しながら、ただ吐き出すだけじゃなくロックンロール・ミュージックとして成立し、エンタテインメントになっているところがすごいと思います。
「そう感じてもらえるとありがたいですけどね。モーサムは、ひと言で言うと“スカッとしたい”んです。バーンって演奏してドシャーンッとやって、スカッとしたい(笑)。なんか頭の悪そうな言い方ですけど(笑)。まぁでも、3人で集まって音を出すと、何かしらにじみ出るのは意識せずともあるので、それがロックなのかなとも思いますけどね。“邪悪”とか言ってるけど、“人を傷つけたい”とか“死んじまえ”とか本気で思ってやっているわけじゃないし、全部吐き出したいって気持ちが強いだけなんでね。ただ、モーサムはスカッとするけど、とにかく疲れるんですよ(笑)。ライブを1回やると3日間ぐらい筋肉痛やらダメージが残るんで、気楽に飲みながらダラダラやれる感じのソロもやり、どれか1つだけっていうんじゃなく、いろいろ並行してやれたらなって感じですね」
――モーサムは長く続きそうですか?(笑)
「どうでしょう?(笑) バンドは狙って続けるものでもないなと思いますけど、去年は事務所が変わったりいろいろあった分フレッシュな感じもあり、まだまだやりたいこともあるので、変わらずに続いていく感じはありますね」
――1月からアルバムを携えたツアーが始まり、関西は2月7日(金)京都磔磔、2月15日(土)大阪Shangri-Laですね。関西のお客さんはいかがですか?
「関西はにぎやかですよね。イメージ通りというか、よく野次っぽい言葉が飛んでくるし、“百々―!”って呼び捨てかよっていう(笑)。それが嬉しいんですけどね。今回のツアーはアルバムのノリそのままでやれると思うんで、結構ハードなツアーになると思いますが…体を壊さんように廻れたらいいなと(笑)。でも、ライブが終わった後に余力が残るようだと後悔するんで、今のまま変わらずにやれる間は、このスタイルで続けたいですね」
――ツアー前に体を鍛えたりするんですか?
「全然。体を動かすことが大嫌いなんで(笑)。さすがに去年は春から夏にかけてレコーディング続きだったんで、ライブ前にちょっと体を動かしてみようと家の近所の公園で走ってみたんですけど…その後一切走ってない(笑)。まぁでも、モーサムでライブやっとけば結構なハードワークなんでね。それで鍛えられるかなと」
Text by 梶原有紀子
(2014年2月 4日更新)
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